長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル30)  
 
山口にとって鬼塚は、まさにヒーローだった。  
とはいえ最初こそ、彼女たちは敵対関係にあった。  
破天荒な行動力で学校を牛耳り、やりたい放題の教師生活を送る  
鬼塚に、唯一抵抗したのが、ヤンクミと生徒たちから慕われていた  
山口だった。  
彼女も腕っ節が強く、相手が誰であろうと常に勝利を収めてきた。  
だが鬼塚は、彼女の想像を上回る、化け物じみた強さを持っていた。  
初対決に敗れた山口は、鬼塚に体育館倉庫で犯された。  
処女を失った彼女は、それでも再び彼に挑み、また負ける。  
今度は音楽室で犯された。  
それでも諦めない彼女は・・・  
しかしそんなことを繰り返しながら山口は、自由奔放に振舞う  
このオトコを、ついには愛するようになる。  
彼女は強いオンナだったがゆえに、恋をすることなく過ごしてきた。  
鬼塚は自分よりも強い、初めてのオトコだった。  
片意地を張って生きてきた彼女が、弱い自分を思い切り見せられる、  
初めてのオトコだった。  
ブザマな自分を、汚れた自分を、泣いている自分を、見せても  
恥ずかしくはない、この世でたったひとりのオトコ。  
彼に愛してもらいたいと、彼女はやがて願うようになる。  
 
黒川組がある抗争に巻き込まれたときのことだ。  
大島の制止も聞かず、山口はこの闘いの渦中に入り、絶体絶命の  
危機に陥った。  
そのときバイクで駆けつけたのが、鬼塚だった。  
ただの気まぐれだったのか、しかしそのチカラは絶大で、銃や青龍刀  
を使って襲い来るチャイニーズマフィアの戦闘集団を次々となぎ倒し、  
あっという間に形勢を逆転させた。  
まるでマンガのような話だった。  
山口の、鬼塚英吉を見る眼が、輝きに満ち溢れていく。  
この件以来、鬼塚は黒川組と縁深くなり、また若頭の大島が彼の  
ことをとても気に入り、ふたりでコンビを組んで数々の難問を  
解決していった。  
外国マフィアに奪われたシマを取り戻し、手負いの同業者を返り  
討ちにし、密輸品で大儲けをする。  
なにもかも、すべてがうまくいくようになった。  
世間に後ろ指を指されようと、山口はもう怖くはなかった。  
(このオトコこそ、アタシの運命のヒト・・・)  
ある日、鬼塚は言った。  
「おい、久美子!秘密基地、作ろうぜ?」  
子供のような笑顔を見せながら、彼は言ったのだ。  
 
馬鹿みたい、と山口は思った。  
(いい大人が秘密基地だなんて・・・)  
だが鬼塚は本気だったようで、取り壊しが決まっている旧校舎に  
真夜中に忍び込んでは、ゴソゴソとなにかをやり始めた。  
何日かして覗きにいくと、鬼塚は自慢げに彼女に言った。  
「ハハハ・・・どうよ?スゲェだろ?」  
たしかにその部屋は、すごかった。  
入り口には『鬼塚参上!』という看板が掲げられ、紫や赤の原色系の  
布で飾られた室内では、派手なミラーボールが回転している。  
まるで場末のキャバレーのようだった。  
ボロボロのラジカセと漫画雑誌の束が床に転がり、どういうわけ  
なのか、バイクのパーツまで運びこまれている。  
壁に立てかけられたタイヤを足で蹴りながら、  
「・・・うわっ、なにコレ?センス、悪すぎ!」  
と呆れ顔の山口に、鬼塚は憮然と答える。  
「じゃあ、おまえにできんのかよ?」  
「・・・アンタよりは、まともなものが、ね?」  
最初はつまらない意地のようなものだったが、いつのまにか彼女は  
鬼塚以上に秘密基地作りに熱中していく。  
 
知り合いの中古家具屋から、古いアンティークの調度品をひとつ、  
またひとつと集め、舎弟たちを使って、真夜中にこっそり運び入れた。  
傷んだ壁や窓を丁寧に修理し、家から持ってきたお気に入りの小物を  
綺麗に端から順に並べた。  
まるで子供時代に戻ったかのような開放感。  
それは息の詰まる現実世界を、少しだけ忘れさせてくれた。  
どこかしらけた感じの鬼塚を横目に、ひとりワクワクとする山口。  
「この部屋のことは、ふたりだけの秘密よ?ね?ね?」  
苦笑いしながら、鬼塚はタバコを咥える。  
週に二度ほど、ここに忍び込んでは抱き合った。  
ある冬の寒い夜、天窓から夜空を見上げながら、山口は言った。  
「・・・あなたと一緒になりたい・・・」  
「おいおい、女のほうからプロポーズするのかよ?」  
「・・・イッ、イヤなの?」  
「・・・べつにいいけどよ。ただオレは、女遊びとか激しいからよ?」  
「それでもあなたのこと、アタシは好きだよ・・・」  
春になったらここの取り壊し作業が始まり、山口が作り上げてきた  
小さな世界も、やがては瓦礫の山へと変わっていくだろう。  
そして彼女と鬼塚は、ともに夢見た教職を捨て去り、瓦礫を踏み越え、  
新しい世界に旅立っていく。  
それは少し寂しいことだったが、愛したオトコとこの先も一緒なら、  
そこにはたしかに、夢と希望があった。  
だから、この運命を受け入れてもいい、と山口は想い始めていた。  
いまから一ヶ月ほど前のことである。  
 
ふたりだけの秘密基地。  
そんな他愛もない、しかし大切な遊び場は、いまでは生徒たちの好奇の  
眼に晒されていた。  
根気よく直した天窓は、ギシギシと乱暴に扉を閉められ、掘り出し物の  
ソファは、すでにトランポリンのようなオモチャだった。  
お気に入りのアンティークは戸棚から取り出され、そして愛すべき男と  
過ごしたベッドの上には、自分の教え子が股を広げている。  
それでもいい、と山口は思う。  
(それでもいいから・・・ここにあるもの、みんなあげてもいいから・・・  
だから、私の大切なヒトだけは・・・そっとしておいて・・・)  
もともとふたりだけの甘い秘密などというものは、男にとってあまり  
大切な事柄ではないのだ、ということを山口は知っている。  
実家の秘密がバレかかっているのも、デリカシーのカケラもない  
鬼塚が、不注意に喋ったことが原因だった。  
ここにみんなを連れてきたのも、そういう鬼塚だから、と思いたい。  
だが、オンナの第六感がなにかを告げている。  
『あいつはおまえから、逃げたがっているぞ』  
 
(・・・ウソよ・・・そんなことウソよ・・・そんなことあるはずがない・・・  
・・・だって、アタシたちは愛し合っているんだから・・・)  
その自信が揺らいでしまうのは、ベッドの上にいる少女のせいだった。  
初めて会ったときから、その少女のことが好きになれなかった。  
(・・・南空・・・ナオミ・・・!!)  
鬼塚の興味がナオミに向かっていることを知ると、嫉妬の炎を  
抑えることができなかった。  
みんなの前で、何度か晒し者にしてやった。  
それはとても爽快な気分だった。  
だがそのあと、必ず激しい罪悪感に苛まされた。  
(・・・アタシは教師なのに・・・なんてことを・・・)  
自分が醜いオンナの業を持っているのだと、イヤでも思い知らされる。  
彼女はナオミが怖かった。  
いつか自分の大切なオトコを、奪ってしまうのではないかと  
心の奥底で震え、ずっと恐れていたのだ。  
下心がまるでない、純粋な精神の持ち主。  
それこそまさに、世界中のオンナの敵だった。  
(・・・南空・・・お願いよ・・・お願いだから・・・  
アタシから、あのヒトを盗らないで・・・  
あのヒトを失ったら・・・アタシは・・・アタシは・・・)  
狂気の渦に巻き込まれまいと、唇を噛み締める山口の姿に、  
ヤンクミと生徒たちから慕われていた頃の面影はすでにない。  
 

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