長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル26)  
 
旧校舎の二階の窓は塞がれていないものの、すでに夕日が沈み、  
闇が部屋を侵食し始めている。  
鈴原冬二は、ただそのときをじっと待っていた。  
(もう少しや。もう少しやで、ナオミちゃん・・・)  
鈴原は南空ナオミに心の中で語りかけた。  
彼には生まれつき病弱で、ずっと病院に縛り付けられている妹がいた。  
入院している自分が家計を圧迫しているのではないかと、そんな  
歳に似合わない心配事ばかりしている少女だった。  
病気でやせ衰え、頬もこけているが、病気でなければもっとふっくらと  
していたはずで、美人とはいかなくても十分に可愛い女の子だったろう。  
性格も明るく、他人に対する気遣いも立派なものだ。  
よく難しい本を読んでいるから、もし学校に行ければ、きっと成績も  
優秀だったにちがいあるまい。  
健康であれば、人並み以上の幸福を味わえたかもしれないのに・・・  
そう思えば思うほど、鈴原は運命の理不尽さに苛立ちを覚えた。  
 
南空ナオミを初めて見たのは、入学式のときだ。  
長い黒髪を眉の辺りで切りそろえ、切れ長の瞳が美しく、白い肌と  
赤い唇がとても印象的な少女。  
無表情で不気味な雰囲気を醸し出していたが、男子生徒たちには  
概ね好評だった。  
鈴原も同じ小学校から入学してきた親友の相田とともに、この  
美しい人形のようなナオミを密かにチェックしていたものだ。  
だが半年もすると、彼女に対する誹謗中傷が多くなってきた。  
いわく―−  
「性格ブス」  
「自慢話が好き」  
「人をすぐに見下す」  
「冷たい」  
「オトコに媚びる」  
等々。  
主に女子経由で流れてきた噂だったが、鈴原はそんなものかと思った。  
クラスがちがうのでくわしい真偽のほどは判らないが、外見よりも  
中身を重視する彼は、ナオミに対する興味を急激に失っていく。  
 
中学2年のときに同じクラスになった。  
初めて見たときに比べ、ビクビクと他人の眼を気にするナオミの  
しぐさが、妙に鬱陶しかったのを覚えている。  
彼女は外見の美しさも秀逸だったが、勉強や運動でも優秀だった。  
それは周囲のクラスメイトたちを、大いに白けさせた。  
(どうせ心の中では、ワシらを馬鹿にしとるんちゃうか?)  
そう思えば思うほど、自分の妹が可哀想になってくる。  
(人生は不公平や!なんでワイの妹があんな目におうて、  
あのオンナだけが、なんでも一番なんや!)  
どうしようもない運命への怒りが、南空ナオミという少女への  
嫌悪感となっていく。  
それがやがて、ナオミへの苛めとして形を表すのに、そう時間は  
かからなかった。  
妹の敵をとる。  
そう理論武装して、自分の行為を正当化した。  
しかし本当にそうであったのか。  
そこには欲情する、獣のような自分の姿はなかったのか・・・  
 
苛めても苛めても、成績は下がらず、美しさもそのままだった。  
無抵抗で苛めを受け入れる彼女を見るたびに、腹立たしくなってくる。  
完璧なものを壊したくなる衝動と、美しいものを汚したくなる欲望。  
鈴原を始めとする、少年たちの行動原理は、まさにそこにあった。  
愛情の反対は無関心であり、憎悪は愛情の別の一面ともいえる。  
だから彼らのナオミに対する行為は、歪んだ愛情に他ならない。  
それゆえに、少女たちはナオミという存在に本能的な危機感を  
抱いていたのだ。  
自らの穢れた欲望を主張することもない、従順で美しき機械人形。  
それこそが男が求める理想の女性像であり、か弱い自分のすべてを  
認め、受け入れてくれる母胎回帰願望の究極の具象化でもあった。  
鈴原はナオミを苛めることで、自らのどうしようもない哀しみと  
行き場のない怒りを癒していたのだ。  
それが理解できたのは、渚薫に立ち向かっていったナオミの姿を  
見たときである。  
あれほどの能力がありながら、苛めていた自分たちに逆らうことなく、  
ただじっと耐え、受け流してくれた。  
そして渚の罰に怯える少年を、そっと庇う優しさ。  
(ワイが悪かった・・・堪忍や、ナオミちゃん・・・)  
いまは亡き母親に懺悔するかのように、鈴原は泣いたのだ。  
 
南空ナオミは性的な責め苦に屈服したようで、カラダの力が抜け、  
それとともに押さえつけていた男子たちの力も弱くなっていた。  
緩んだ圧迫感が、腰を浮かせガクガクと下半身を突き出し振るわせる  
奇妙なダンスを生む。  
見物している男子たちは、失笑したり、ビックリしたり、唖然と  
したりと様々な反応を示しながら、ただじっと見つめていた。  
鈴原だけは、見るのが辛いのか、涙を拭きながら視線を逸らした。  
その先には、渚薫がいる。  
彼はお気に入りの大人しい少年、碇真嗣となにやら談笑していた。  
(自分で犯っておきながら、ナオミちゃんは無視かい!  
・・・おのれはホンマ、性根が歪みきっとるで!)  
ふたりでなにを喋っているのか、というより渚が一方的に話しかけ  
ているような感じだった。  
(・・・真嗣も難儀なやっちゃで・・・ホンマ)  
いままで碇真嗣は、南空ナオミの苛めに加担することはなかった。  
中学2年生のときに転校してきたため、クラスメイトたちの輪の中に  
入れなかったという理由もあるのだろうが、基本的にそういう陰湿な  
ことに、神経が耐えられないようだった。  
むしろ彼自身が苛める側というより、苛められる側に含まれる  
キャラクターのせいかもしれない。  
もちろん碇を苛めるような者は、この学校にはひとりもいない。  
渚薫が影のように張り付いているからだ。  
 
なにがいいのか、渚は碇真嗣のことをとても気に入っていた。  
鈴原は碇のことが嫌いではなかったが、どこか病的なまでに  
感受性が豊かで、か細い神経の持ち主といった印象を持っている。  
だから碇が渚を説得して、この陰惨なゲームを終わらせることには、  
最初から期待などしていない。  
どちらかというと我関せずを貫き、面倒くさそうなことから  
逃げるほうが、よほど彼らしかった。  
(アカン、やっぱワイしかおらへんがな・・・)  
いままで鈴原は三度、渚とタイマンをはり、三度とも負けている。  
三度目の敗北のとき、手下たちを使って気絶している自分を全裸にし、  
パンツをかぶせた写真を撮り、学校中の男子生徒たちにばら撒かれた  
ことがあった。  
それを見た男子は、鈴原を笑うことはしなかった。  
あのケンカが強い鈴原ですら、こんな目に合わされる。  
思春期の少年たちには、それがとてつもなく怖かった。  
実際、渚が恐れられているのはケンカの強さだけでなく、冷酷無比な  
性格と残酷な仕打ちを好むからなのだ。  
南空ナオミに対する暴行も、その延長線に過ぎなかった。  
もっとも女子生徒たちからのウケは良く、気さくな性格を装って  
いるのか、多重人格者なのか定かではないが、学校の人気者でも  
あるので、よりタチが悪いといえる。  
 
(勝てるんかなぁ、ワイ・・・あの渚薫に、勝てるんかなぁ・・・)  
勝算は限りなくゼロに近い。  
しかしこの暗闇が増していく部屋に、すべてを賭けようと思った。  
逢う魔が時。  
光と闇が交差する時間帯。  
夕方の薄暗い時間というのは、目が慣れないためか交通事故が多い。  
明るさに慣れた目が闇に被われる瞬間、距離感がつかみ辛くなるのだ。  
(それを利用して、あいつの体を捕まえれば・・・)  
急所を狙って飛んでくる蹴りも、この暗い室内なら命中精度も落ちよう。  
一撃必殺の蹴り技の威力が低ければ、気絶することはないはずだ。  
多少の痛みを堪え、ひたすら突進して体ごとぶつかり、渚を押さえ込む。  
体重はこちらのほうがあるので、押さえ込んでしまえばどうとでもなる。  
だが−−  
それでもやはり、あの渚に勝てる気が、どうしてもしない。  
(・・・クソッ!・・・なにビビッとるんや!  
勝つか、負けるかやない!やるか、やらんかや!)  
ここで渚の非道を見過ごせば、男としてなにか大切なものを永久に  
失ってしまう気がした。  
それにナオミのことも心配だった。  
(・・・こんなことされたら、ロクな大人にならへんちゃうか?  
ナオミちゃんには、ワイの妹の分まで、幸せになってもらいたいんや)  
いまならまだ間に合う、と鈴原はそのとき思った。  
 
ふいにとなりの男子が、鈴原の肩を叩く。  
「ほらっ、鈴原、これお前の分な」  
懐中電灯を渡された。  
暗くなってきたので、これを電灯替わりにしようというわけだ。  
何人かの男子たちが、面白がってナオミの顔に明かりを当てている。  
鈴原はいざとなったら、この懐中電灯を渚の顔面に投げつけようか、  
とも考えていた。  
やがて−−  
『ふぐぁぁああ・・・・・・あああぁぁぁ・・・・・・んんんんっ・・・・・・?』  
というなにか媚びるような、そして妙に色っぽいような声が聞こえ、  
ナオミのカラダが海老反っていった。  
周囲の男子たちは、息を呑んで見守っている。  
ナオミがなにか言っているような気がしたが、口をガムテープで  
塞がれているのでよく聞こえない。  
(・・・なんや?・・・苦しいんか、ナオミちゃん?  
・・・安心せぇや。ワイが助けてやるさかいな・・・)  
そのときナオミの秘所を弄くっていた、相田剣介が叫んだ。  
「・・・うわっ!?・・・酷いや、南空さん!」  
その声とほぼ同時に、下半身を押さえていた男子たちも  
いっせいに飛び退いた。  
 
「・・・どうしたの、キミたち?」  
渚がポケットに手を突っ込んだままやって来る。  
「南空さんに引っかけられちゃった・・・」  
相田はハンカチで顔を拭きながら言った。  
「あ〜ひゃひゃひゃ・・・」  
惣流明日香の狂ったような笑い声が部屋に響き渡る。  
どれどれ、と渚が覗き込むと、ナオミは震えながら解き放たれた  
下半身をモジモジとさせている。スカートからこぼれた白い素足と、  
下に敷いてあるマットは濡れていた。  
彼女は泣き笑いしているような表情を浮かべ、鼻水を垂れ流した  
まま、恍惚としているようだった。  
そこには人形のように無臭だったころの面影はなく、また渚に立ち  
向かっていったときの凛々しさのカケラもない。  
壊れたおもちゃのような無残な姿を、みんなの前に晒していた。  
「南空さん、お漏らし癖がついちゃったのかな?」  
嫌なものを見たとでもいうように眉をひそめると、渚は言った。  
「まあ、いいや。で、だれが犯るの?」  
「・・・?」  
「だれが彼女の、最初の相手になるの?」  
男子たちはその言葉に唖然とし、そして瞬時に萎えていった。  
 
ここから先は、さすがに犯罪になるのではないかという不安が  
少年たちの間に、じわじわと広がっていく。  
もちろん今までの行為も、それに含まれているわけだが。  
彼らにとって、セックスというものは大人がやることで、自分たちが、  
それもこんな状況下で童貞を捨てるのには、さすがに抵抗感あるのだ。  
この場にいる何人かは、すでに経験済みの者もいる。  
だがこうした者ほど、自分の彼女にバレたら大変なことになると思い、  
真っ先に顔を下に向けて、無難にやり過ごそうとした。  
いまさらながらだが、南空ナオミごときが原因で警察に逮捕され、  
将来を棒に振るのは馬鹿げている、と誰しもが感じ始めていた。  
「・・・誰もいないの?・・・しょうがないなぁ、じゃあ・・・」  
床に落ちている割り箸を拾い上げる。  
「これを入れてみようかな?」  
空気が固まる古い教室で、渚はクククッと笑った。  
「世界初じゃない?落ちていた割り箸が初めての相手だなんてさ」  
そのとき黒い影が渚に向かっていく。  
鈴原冬二である。  
だがその瞬間、渚は前にいた男子の肩を蹴り上げ空中でバクテンし、  
2mほど離れた場所に着地する。  
彼に蹴られた男子はそのまま壁に激突し、また突っ込んだはずの  
鈴原は、視界から急に消えた敵の姿に戸惑い、足を止めて周囲を  
きょろきょろとする。  
 
「・・・なに?・・・キミ?」  
背後から声がした。  
ギクッとしながら振り返ると、首を傾げながら佇んでいる渚がいた。  
(・・・アカンがな・・・相手の知覚が低下するちゅーことは、ワイも  
同じってことやんか!・・・ていうか、渚のやつ、全然いつもと  
変わっとらへんがな!!・・・ワイひとりだけが、ピンチやがな!!)  
こうなったら、もうやけくそだった。  
「おいっ!渚!おまえ、ええ加減にせぇや!!」  
鈴原の怒鳴り声に何人かが反応した。  
「とっ、冬二!!」  
「・・・冬二!?」  
「鈴原!!」  
碇真嗣と相田剣介と洞木日香里だった。  
彼らは普段から仲が良いのか、鈴原の無謀な行動に驚き、あわてて  
止めにはいる。  
「ばっ、ばか!おまえ、三度も渚にのされているくせに、  
いまさらなに考えてるんだよ?」  
「・・・ふっ、剣介。昔からよう言うやないか?  
・・・『四度目の正直』ってな!」  
「・・・言わないよ?『三度目の正直』の間違いじゃないの?」  
「じゃかましい!ボケェ!」  
逆ギレしたように鈴原は叫んだ。  
「・・・渚!おまえのせいで学校、メチャクチャやないか!!  
おまえさえおらへんかったら、みんな平和やったんや!!  
この疫病神!とっととワイらの前から消え失せろや!!」  
それを聞いて、渚薫は一瞬、動揺したように見えた。  
(・・・薫クン・・・?)  
もっともそれに気がついたのは、碇だけである。  
 
碇真嗣は、普段から周囲の顔色を気にする性格だったので、  
渚の微妙な表情の変化を読み取ることができたのかもしれない。  
「・・・言われなくても消えてやるさ。  
もっともボクたち、もうすぐ卒業だけどね」  
片足を高く上げて、渚は薄ら笑いを浮かべて言った。  
「負けたらキミが、南空さんの初体験の相手だからね?」  
「おうっ!望むところや!!かかって来んかい!!」  
(エエエエ〜〜〜!?望んでるんかい、あんた!?)  
鈴原のバカさ加減に、みんなは絶望的な気分になっていく。  
そのときであった。  
バッギャアアアンッ・・・!!  
という音が響き渡り、分厚い扉が埃を被った床に飛び散った。  
し〜〜〜んっと部屋の中は静まり返る。  
「なぁぁ〜〜ぎぃぃ〜〜さぁぁ〜〜・・・!!!!」  
埃が煙のように舞い上がるその奥に、眼を爛々と輝かせている  
凶暴な獣がいた。  
体育教師の鬼塚英吉である。  
「でっでっ・・・出たぁ〜〜〜!!」  
その恐ろしさに、全員パニック状態に陥った。  
ただひとり、渚だけは  
「ふふふ・・・なんだか、面白いことになってきたね」  
と楽しそうに、碇に笑いかけるのだった。  
 
 
(4〜5日後に続く)  
 

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