長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル20)  
 
旧校舎は春にも取り壊しが決定されている。  
その古い建築物は、かつて旧帝國陸軍が所有していた。  
戦後、学校施設として転用されていたが、土地価格の抑制という  
名目で、老朽化が進んでからもずっと放置されてきた。  
バブルがはじけたこともあり、国と東京都がようやく売却を許可  
したため、すでに取り壊しの準備として、誰も入れないように頑丈な  
柵で周りを囲われている。  
しかし好奇心と冒険心あふれる少年たちには、なんの効果もなかった。  
学校側がいくら注意しても、柵を乗り越え侵入してしまう。  
人体実験された米兵の幽霊が出るという怪談の真偽を確かめるべく  
肝試しをしたり、大量のエロ本が眠っているという噂を聞きつけて  
宝探しをしたり、本当に秘密基地を作ってしまうバカもいた。  
女子生徒たちは服が汚れるからと近づかなかったが、自由奔放に  
遊びまわる男子生徒たちが妬ましかったようで、彼らの聖域が新学期  
には無くなってしまうことを密かに喜ぶ少女も少なからず存在した。  
もっとも本音では、あの旧校舎が潰される前に自分も一度くらい  
中に入ってみたいとも思っていたようだ。  
そのためなのか、南空ナオミの盗まれたカバンを取り戻すべく  
急遽結成された女子捜索隊の人数は多かった。  
他のクラスや校庭にいた女子をどんどん吸収し、旧校舎にたどり  
着く頃には総勢20名を超えていた。  
 
「ねぇ、どこから入るの?」  
高さ2メートルはある柵を前に、女子たちは呆然とする。  
「こっちよ」  
どうやら惣流は、何度か旧校舎に足を運んでいたらしい。  
学校の境界線にある垣根まで行くと、ふいに彼女はしゃがみ込んで  
垣根の向こう側に入っていく。  
外からは判らなかったが、ここの部分だけ垣根の密度が薄いようで  
下からくぐり抜けることができるようだった。  
垣根の向こう側に、コンクリートの壁が見える。  
壁の向こうの敷地は、どこかの大企業の社員寮だが、この時間帯は  
誰もいないようで、しんっと静まり返っていた。  
垣根とコンクリートの壁に挟まれた薄暗い通路を使って、再び来た道を  
引き返すと、垣根の外からは見えなかったが、梯子が隠されていた。  
狭い隠し通路だから壁に立てかけた梯子は、ほぼ垂直になる。  
垣根側に倒れる前に梯子を登りきるか、もしくは誰かが下で支えでも  
しないと、壁に上がるのは難しい。  
ここまでの道中でさえ服の汚れを気にしていた女子生徒たちは、  
それを見ると不安げな表情になり、なにやら小声で相談をし始めた。  
「これで登って、壁の上を歩いていけば、柵の裏側に出るわ。  
そこで壁から旧校舎の庭へ飛び降りるけど、男子だってやってるし、  
わたしたちにだってできるはずよ。ねっ、みんな!」  
惣流は持ち前のリーダーシップで女子たちを鼓舞した。  
だがそれを聞いて、ほとんどの女子たちはウンザリした様子だった。  
それを敏感に読み取った惣流は、ヒステリックに怒鳴った。  
「なによ!文句がある人は来なくていいわよ!!  
わたしと南空さんだけでも行くから、みんなは帰れば!?」  
いままで他人に対する気遣いに長けていた彼女とは思えないほど  
身勝手な言葉だった。  
 
「ちょっと、落ち着きなさいよ、明日香ってば!」  
ソバカスの女の子、洞木日香里はあわてて口を塞ごうとしたが、  
すでに手遅れだった。  
女子たちは傲慢な惣流の態度にカチンときたようで、みな口々に  
不満の声を上げる。  
惣流はそんな不穏な空気を無視して、器用に梯子を登り  
「さっ、行くわよ。南空さん」  
とナオミに壁に上がるように命じた。  
ナオミも無言で彼女の後についていく。  
「えっ?あっ?ちょっとぉ・・・!!」  
洞木はあわてて梯子を上ろうとしたが、うまくバランスがとれない。  
「ねぇ、誰か!この梯子、押さえていてくれない?」  
しかしそんな洞木に、女子たちは呆れ顔で言った。  
「もうほっときなさいよ。明日香ってさ、絶対ヤバいよねぇ?」  
「だよねぇ。実は尻デブちゃんと仲いいんじゃないの?」  
「あいつのハダカ、そんなに見たいのかよってw」  
一斉に笑いが起こった。  
惣流明日香が築いてきた人望が、あっという間に地に堕ちていく。  
「洞木もさぁ、行くのよしなよぉ。これってさぁ、犯罪じゃん?  
バレたらヤバイよ?あたしらせっかく高校、受かってんだしさぁ」  
「あとで男子から聞けばいいんじゃない?」  
「そうそう。マジでいく必要ないじゃん?」  
だが、不安定な心理状態に陥った惣流が心配な洞木は、残った  
女子たちの助けをあきらめ、ふらつく梯子と再び格闘し始めた。  
それを見て女子たちは、やれやれと肩をすくめ、みんなで協力して  
洞木を壁の上に送る手助けをする。  
 
なんとか壁の上に登ることに成功した洞木だったが、上から下を  
見ると思いのほか高く感じたためか、足がすくんでしまう。  
仕方なく壁を跨ぐような格好で、惣流たちの後を追った。  
先を行くナオミと惣流は、高い壁を平然と歩いている。  
「南空さん、あと少しだからがんばりましょう。ねっ?」  
「・・・・・・」  
旧校舎はまさに陸の孤島だ。  
いったん中に入れば、なにかあっても外に知られることはない。  
自分は罠にはめられているのではないか?  
そう最初から疑ってはいたが、惣流の笑顔のまぶしさに惹かれ、  
ここまでついてきてしまった。  
ナオミは、ちらっと社員寮の敷地を見る。  
このまま向こう側に飛び降りれば、ここから逃げることができる。  
そんなナオミの心を見透かしたように、惣流はつぶやいた。  
「ここでほっぽり出して逃げたら、わたしは二度とあなたを  
許さないわよ・・・」  
狂気と妄執を含んだ声色だった。  
ナオミはその迫力に気おされて、喉をごくりと鳴らした。  
「ちょっとぉ〜、待ってよぉ〜」  
泣きそうな声を出しながら、ふたりのあとを洞木が追う。  
 
旧校舎は歴史的な建物で、かなり老朽化が進んでいるものの  
いまなお威風堂々たる雰囲気を醸し出している。  
学校施設に転用してでも、この建造物を残したかったという  
当時の人々の執念は、如何ほどのものだったのだろうか。  
しかし長年使われていなかったため、建物の周辺には雑草が生い茂り、  
錆びにまみれた昔の鉄柵は崩れ落ち、草に埋もれている。  
分厚い樫の木でできた両開きの扉は鍵で塞がれ、一階の窓もすべて  
板を打ち付けられているため、土台の通気口から穴の開いた床に  
つながる抜け道を通り抜けるルートを使い、建物の中に入っていく。  
「うわぁ、埃臭いわねぇ・・・」  
無言で足を進めるふたりの空気に耐え切れず、洞木は少し明るい  
声を出して場を和ませようとしたが、それに対する反応はなかった。  
(・・・なによ、明日香ったら・・・)  
ソバカスが残るあどけない少女は、自分がのけ者にされているように  
感じ、寂しいような悲しいような気分に襲われて心細くなってくる。  
 
板にふさがれた窓から、外の明かりがこぼれてくるので、  
懐中電灯がなくてもかろうじて見える。  
大理石とコンクリートの壁から冷たい空気が染み出てくる。  
まるでホラー映画に出てくる舞台のようだった。  
カビと埃に覆われた廊下は、歩くとミシミシと音がした。  
階段を上がる途中で、ふいに声が聞こえた。  
「あっ、ホントに来た!」  
声の主は男子生徒のもので、あわてて奥の教室に入っていく。  
「・・・ねぇ、惣流さん・・・」  
小さな声を出すナオミの唇に、惣流は人差し指をくっつけた。  
なんとなく淫靡な仕草に、顔を赤らめるナオミ。  
惣流はナオミの華奢な肩を抱き寄せた。  
「あっ・・・」  
「南空さん、どうやらあの部屋に男子たちがいるようねぇ・・・  
カバン、早く見つかるといいわねぇ・・・  
そうすればあなた、わたしと一緒にマックに行けるのよ・・・」  
髪を撫でながらやさしく囁く。  
「さあ、行きましょうか・・・」  
「んっ・・・」  
「ふふふ・・・早く早くぅ!」  
踊るような足取りで惣流は、ナオミとともにドアを開ける。  
 
「おいっ、惣流の奴、本当に南空を連れてきやがったぜ!」  
「マジかよ!」  
「あいつ、信じらんねぇ!!」  
部屋の中にいる男子たちは、少し興奮気味に騒いだ。  
かつて教室として使われていた部屋は、机と椅子がすべて片付け  
られており、だだっ広い床には、コンビニで買ってきたマンガや  
お菓子、そしてジュースが散乱している。  
どこでちょろまかしてきたのか、マットも敷いてあった。  
それはあまり使われていなかったようで、埃まみれの床の上では  
新品状態の真っ白いマットはとても目立っていた。  
薄暗い部屋の中にいる少年たちの視線は、そのマットに集中した。  
「・・・・・・」  
傾いた黒板の前にある教卓の上に肩膝を立てて座っている少年も、  
ほかの男子生徒たち同様、それをじっと見つめている。  
ただちょっとちがうのは、みんな緊張と不安に包まれた表情なのだが、  
その少年だけは唇の端をきゅっと吊り上らせていた。  
そのときである。  
がちゃんっ・・・!  
金属質の冷たい音を響き渡らせ、分厚いドアが開いた。  
三人の少女がそこに立っていた。  
「待っていたよ」  
教卓の上の少年が口を開いた。  
「ようこそ、ボクの秘密基地へ」  
その少年、渚薫はそう言って、人懐っこい笑顔を浮かべた。  
 
 
(2〜3日後に続く)  
 
 

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