長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル19)  
 
「・・・南空さん?」  
「ひっ・・・!?」  
不意に背後から声をかけられ、ナオミは飛び上がった。  
振り返ると現実の惣流が、心配そうにナオミを見ている。  
「・・・・・・」  
現実なのか妄想なのか判断が付かないナオミは、じっと惣流を  
凝視している。  
「・・・ブツブツ独り言言ってたけど、大丈夫?」  
「・・・えっ、うっ、うん」  
夕焼けに染まる廊下で、ナオミは惣流と向かい合った。  
「教室に戻るんでしょ?」  
「・・・うっ、うん」  
「教室まで一緒に行きましょうか」  
ボンヤリするナオミをよそに、惣流は先を歩いていく。  
「・・・・・・」  
ナオミと惣流は中学時代の三年間、クラスがずっと一緒だった。  
初めて出逢ったときから、ナオミはこの少女に惹かれていた。  
惣流明日香は活発で利発で明るく、そのうえ頼りがいもあった。  
男女の区別なく誰とでも気さくに付き合い、そばに彼女がいるだけで  
周りが華やかになり、楽しげな笑い声も絶えず、いつも友達に  
囲まれているクラスの人気者だった。  
自分にはないものをたくさん持っている彼女は、ナオミにとっての  
憧れの存在だったのだ。  
だからナオミは休み時間中、友達とお喋りしている彼女をこっそり  
横目でちらちらと眺め、熱い視線を送ったりしていたものだ。  
しかし、なぜいまになって惣流が急に親愛の情を見せるのか・・・  
それがナオミには不思議だった。  
 
「・・・ねぇ、わたしたち、この三年間ずっと一緒だったね」  
廊下を歩きながら惣流は言った。  
「ずっと同じ組だったのに、お互いちゃんと喋ることもないまま  
もうすぐ卒業になっちゃったね」  
「・・・・・・」  
「わたし、あなたのことイジメてばかりだったけど、やっぱり  
恨んでるよね・・・一生、わたしのこと許さないよね・・・」  
「・・・そっ、そんなことないよ!」  
「・・・そう」  
心なしか惣流の歩みが、少し速くなったような気がする。  
 
誰もいないと思っていた教室に、まだ女子生徒たちが何人か  
居残っていた。  
「あら、南空さんと一緒にいるなんて珍しいわね」  
ソバカスの女の子が、教室に戻ってきたふたりに気が付き、やっかみの  
ような言葉を投げてくる。  
「ちょっとそこで会っただけよ」  
「ふうーん・・・」  
「南空さん、一緒に帰る?」  
「ちょっと、なんで南空さんなんかを誘うの!?」  
「・・・そういうのやめようよ。わたしたち、もう卒業じゃない」  
「だって・・・」  
「ねっ、一緒に帰らない?帰りにみんなでマックに行こうよ?」  
笑顔を見せる惣流に逆らうことは、ナオミにはできなかった。  
学校帰りにファーストフードに寄るというのも悪くはない。  
安い挽き肉とクズのようなパンでできたジャンクフードなど  
食べたくはないが、普通の学校生活を送ることが許されなかった  
ナオミには、ずっと夢見ていた憧れのシチュエーションだったのだ。  
(信じられない・・・今日はどうしたのかな、みんな・・・  
まるで夢みたい・・・でも、なにを喋ったらいいのか・・・)  
頬を赤らめながら自分の机に行くナオミの表情が急に曇った。  
「あら、どうかしたの?南空さん?」  
「・・・カバンが・・・ない」  
 
「ヒカリ!あんた・・・!?」  
「・・・・・・」  
ソバカスの親友を詰問するが、彼女は口を尖らせたきり  
黙りこんでいる。それはまるで惣流とナオミの関係に嫉妬して  
意地を張っているかのようでもあった。  
「あの・・・さっき男子たちが・・・」  
ほかの女子生徒が遠慮がちに話す。  
「ほんっと、バカよねぇ、男子って!!  
で、どこに隠すとかなんとか言ってなかった?」  
女子生徒たちは首をかしげて黙り込んだ。  
「・・・旧校舎よ」  
ソバカスの女の子が口を開いた。  
「あいつらあそこに秘密基地とか作っているみたいだから、  
たぶんそこに集まっていると思う・・・」  
ナオミは意外そうな顔をした。  
「・・・べっ、別にあなたに同情したからじゃないのよ!」  
「よしっ!じゃあみんなで、男子のバカどもをとっちめてやろう!」  
盛り上がるクラスメイトたちのノリに反し、ナオミの心臓は  
不安で高鳴っている。  
「さっ、行きましょう、南空さん!」  
笑顔で手を差し伸べる惣流。  
この手を握れば、数十分後にはみんなと憧れのマックで  
楽しい時間を過ごせるかもしれない。  
それはナオミのささやかな夢だ。  
両親の理想の子供、学校や塾の優等生、習い事もそつなくこなす。  
だが周囲から彼女は嫉妬され、疎まれ続けてきた。  
ナオミは幸せがどういうものなのかを知らない。  
あえてそれらしいものがあるとすれば、それは自分を大事に  
扱ってくれる父親との絆であろう。  
とはいえナオミも、少女から成熟した女性への脱皮が近い。  
いつまでも子供のままではいられないのだ。  
 
父親の呪縛から無意識に抵抗する彼女にとって、友人を作り  
ともに時間を過ごすことは、何よりも大切な儀式だった。  
この時期にそれを逃せば、ナオミは永久に父親の影響から逃れる  
ことが不可能となってしまう。  
精神的に自立した大人になるか、それとも誰かに依存する心を  
持ち続ける大人になるのかの瀬戸際である。  
だが長年の夢が叶う寸前なのに、ナオミの表情は曇ったままだ。  
「どうしたの、南空さん?さあ、一緒に行きましょう?」  
惣流が笑っている。  
クラスメイトたちも笑ってナオミを見ている。  
教室の中が夕日で紅く染まる。  
行ってはいけないような気がする。  
しかし惣流たちと楽しく会話をしながらマックで過ごしている  
自分の姿を思い浮かべてしまう。  
その甘い誘惑に逆らうことができない。  
 
(わたしには今まで、ずっとトモダチがいなかった・・・)  
(そしてなにもないまま、中学時代も終わってしまう・・・)  
(空っぽの時間・・・意味のない人生・・・)  
(わたしにだってひとつくらい、いい想い出があっても・・・)  
(生まれてきて良かったという証があっても・・・)  
「さあ、行きましょうよ」  
惣流はなおも笑顔でナオミを見つめる。  
血のように紅い日差しが、ナオミを包み込む。  
「・・・・・・」  
震えるような手つきで、惣流の手を恐る恐る握った。  
(わたしにだって・・・一度くらい・・・)  
楽しげに級友たちとお喋りする自分の姿が見える。  
それは、もう夢ではないのだ。  
憧れの少女の手に触れているこの瞬間が、ナオミの妄想で  
ないことを確かめるかのように、ぎゅっと強く握り締める。  
冷たい肉の感触が、そこにはあった。  
 
 
(4〜5日後に続く)  
 
 

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