長編エロ尻小説
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」
(ファイル17)
(キラはなんらかの方法で、FBIの存在を知った。
それがLの差し金だと直感したキラは、見逃すことができない。
しかしFBIを壊滅させるためには、データがどうしても必要。
・・・レイを「バスジャック」という用意周到な罠にはめ、顔と
氏名が載っているFBIのIDカードを見せるように仕向けた。
そしてキラはレイを操って、他の捜査員のデータを引き出す・・・)
ナオミの眼は、ふいに涙で潤み始めた。
(・・・あのとき・・・レイとの最後の夜には・・・もう、あの人は
キラの呪いに犯されていたのね・・・
レイはきっと自分が明日には死んでしまうことを、無意識に
だけど予感していた・・・
だからあの言葉は・・・わたしへの感謝の言葉は・・・
・・・あの人の・・・遺言だった・・・)
ナオミはあふれる涙が止まらず、枕に顔を埋めた。
(・・・ひどい!キラ、あなたはなんてことを・・・!!
わたしが・・・わたしがやっと・・・手にした幸せだったのに・・・!!
あなたにとっては取るに足らない存在でも・・・命でも・・・
わたしには・・・わたしには・・・たったひとつの希望だったのよ!
それをまるで・・・ゴミのように・・・平然と・・・)
そのときナオミの脳裏に、かつての自分の姿が思い浮かぶ。
銃で凶悪犯の脳天を、無表情で撃ち抜くナオミ。
ナイフでテロリストの喉を、ためらいもなく切り裂くナオミ。
震えながら命乞いをする殺人鬼の姿に、口の端が歪む冷酷なナオミ。
(・・・キラは・・・わたし・・・?)
呆然としながら、暗闇のなかで眼を見開くナオミ・・・
ナオミは闇を直視しながら、さらに深い思索に入る。
今の彼女は、「キラ」という人間と同化していた。
(・・・私はキラ。・・・キラと呼ばれている。・・・私はキラ。
私は犯罪者を殺すことを厭わない、神の精神を持っている。
この世は腐っている。社会を変えなければいけない。
この世はクズばかりだ。世界を変えなければいけない。
クズは死ね!クズは死ね!クズは死ね!クズは死ね!
私には高い知能と恐れを知らぬ行動力がある。
私は人の上に立つ能力がある人間。そう、エリートだ。
そんな私が何故、世間に埋もれていなくてはならないのだ。
理不尽だ!私には資格がある!そうするだけの能力がある!
私を見ろ、愚民ども!見ろ!見るんだ!!
チカラが欲しい・・・チカラが欲しい・・・チカラが欲しい・・・
ハハハ・・・チカラを手に入れたぞ・・・
私は、このチカラを正確に把握せねばならない。
研究するときに使うのは、クズのような人間たちの命だ。
彼らは殺されて当然だ。なぜなら私の行いは正義だからだ。
私を批判するものは悪だ。私を理解できない奴はクズだ。
殺す!私を侮辱したLを殺す!恥をかかせたな!仕返しだ!!
困らせてやる!孤立しろ!おまえは私より目立ってはいけないんだ!
外からの助けも無駄だ!みんな消してやる!ザマアミロ!
ハハハ・・・私に逆らう奴はみんな悪だ!
いいかげん認めろ!私を認めるのだ、L!私はスゴイだろ!!
私は世間の注目を浴びたい。私の存在を神と重ねてもらいたい。
私は純粋な人間だ。私の言うとおりにしていれば、なにもしない。
この世界の未来は、真面目で心優しい人間ばかりのユートピアだ。
私が選んだ人間だけが暮らせる、清く正しく美しい世界。
・・・美しい・・・私は美しい・・・私こそ神にふさわしい・・・
・・・だからこの世界は、私のものだ・・・)
「・・・・・・くっ」
ナオミは体を丸めて呻いた。
犯罪者の精神と同化するということは、すなわち自分の精神を
邪悪な別の情報に書き換えていく作業なので、心の核が揺らぐ
ような不安定感や極度の精神的磨耗に襲われてしまう。
実際にこうしたプロファイリングやカウンセリングを生業にする
人間は、精神を病んでしまうケースが非常に多い。
ナオミは精神に異物を残すまいと、よろよろと起き上がり
部屋の空気を入れ替えるため窓を開け、禅による精神統一を
するべく座禅を組んだ。
「・・・・・・」
脳内のアルファ波を活性化させ、精神をリフレッシュする。
正規のものであれ、自己流であれ、とにかく何かしらの
浄化方法を知らないと、確実に自分を見失ってしまうだろう。
人間の脳細胞は、なにかを記憶するとその情報が一生残ってしまう。
そのため不都合な記憶を思い出さないように蓋をしていく。
精神の浄化とは、このような行為を言う。
幼い頃から禅を学び、精神をコントロールする術を自然と身に
つけていたナオミは、完璧な忘却技術で犯罪者のプロファイリング
を難なくこなしていた。
だが今の彼女は、以前の彼女ではない。
幸せを知り、心の弱さを持ってしまった。
レイを失うと同時に、今まで忘却の彼方に封印してきた忌まわしい
記憶が、どっと噴出してくる。
これではキラを追い詰めるどころか、自我崩壊の危機だ。
しかしナオミはこの不安定さを利用し、精神的ダメージがマックス
状態になったのと同時に負の精神をスライドさせ、キラの精神との
同一化を図ったのだった。
(・・・・・・)
30分ちかくじっと身動きもせず、座禅を組んでいたナオミは、
ふいに口を開いた。
「・・・キラは・・・高い知能を持っている・・・」
ナオミは眼を閉じたまま言葉をつなげた。
「・・・裕福な家庭に育ち、高等教育を受けている。
しかしなんらかの事情で、社会には出られなくなった人間。
会社が倒産したのか、重い病気を患っているのか・・・
Lに対して強い感情を抱いているのは、似たもの同士ゆえの近親憎悪。
世間の枠組みに関係なく、自らの信念に趣く行為を平然と実行できる
強い精神力の持ち主で、世間に対する鬱屈を抱えている。
思い込みが激しく、善悪に囚われない情熱と冷酷さを併せ持っている。
幼い子供のような精神構造。
幼年期の通過儀礼が不十分だった人間。
周囲には善良な市民としての自分を装い、社会に上手く溶け込んで
いるが、自己完結している人間によく見られるような、社会や他者に
対する関心が非常に薄い傾向にある。
一定の水準に達しないものを軽視する。
不快なものや醜いものを蔑視する。
狭い社会で生きてきた、挫折を知らない傲慢なナルシスト。
他人を信用しない性格から、おそらく単独犯と思われる。
警察内部になんらかの情報網を持っている。
不思議なチカラは、ごく最近手に入れた。
キラは慎重かつ大胆に、その能力を使いこなそうとしている。
しかし近い将来、暴走する可能性が高い。
なぜならキラは、助言を聞こうとしないタイプだからだ。
物事をすべて自分で抱え、自滅する確率が高い人物・・・
世界の不条理を理解する能力が低い人間に、世界を左右する
運命を背負うことはできない。
だがプライドが高いがゆえに、それを認める度量もない。
・・・この人物は、人類にとって非常に危険な存在・・・」
「・・・・・・」
長い沈黙の末、ようやく眼を開けたナオミは、残っている
「evian」をすべて飲み干した。
小さなペットボトルを部屋の隅に放ると、ベッドにドサッと
身を横たえる。
徹夜続きで、さすがのナオミも疲労が頂点に達しているようだった。
下着姿のままうつぶせになっている彼女の眼はうつらうつらとし、
まもなく夢の世界に入ろうとしていた。
だが体の欲求に反し、なかなか寝ようとしないのは、なにか重大な
ことを見落としているような不安があったからだ。
(・・・なにか大切なことを見落としてしているような・・・
すごく簡単なことなのに・・・なんだろう・・・?)
本能なのだろうか、それが体の自然な流れをストップしている。
(・・・あとひとつ・・・なにかひとつ・・・それがあれば・・・
このパズルが・・・完成する・・・の・・・に・・・・・・・)
ナオミの抵抗もここまでだった。
甘い夢の世界が、無防備なナオミの肢体を染めていく。
(・・・ダ・・・メ・・・まだ・・・あ・・・ぁ・・・・・・)
夢の世界に拉致されていく彼女は、遠くから聞こえる除夜の鐘の
音をぼんやりと聴いた。
(・・・学校・・・「スペースランド」・・・土曜日・・・土曜日・・・
・・・「スペースランド」・・・休み・・・・・・学校が休み・・・)
「・・・キラは・・・子供・・・」
ナオミのつぶやきは、すでに寝言と化していた。
もしこの言葉がきちんと認識できていたならば、その後の
ナオミの運命は変わっていたはずである。
オトコたちに陵辱されるであろう美しいナオミの肉体に
嘲り笑う亡者たちの声がねっとりと絡みつくが、安らかな
寝息を立てている彼女には知る由もなかった。
(3〜4日後に続く)