長編エロ尻小説  
「秘密特命捜査官 NAOMI 〜DEATH NOTE事件〜」  
(ファイル16)  
 
ホテルに戻ってきたのは、時計の針が10時を指す時刻である。  
部屋に入るなりナオミは、革ジャンも脱がずベッドに倒れこんだ。  
ベッドの脇にあった機材がガシャンと音を立てて倒れたが、  
ナオミは少しも気にすることなく眼を閉じ続ける。  
彼女はこの二日間、都内を駆けずり廻ってきた。  
ほとんど不眠不休のなか、調べ物と聞き込みに全力で取り組んで  
いたが、その労力に比べ実りは多くなかった。  
バスジャックが起きた「シャトル交通」の運転手の話では、  
事件のときに乗っていた乗客の顔を、覚えているかどうか  
自信がないという。  
(わたしの考えていることが正しければ、その乗客の中にキラが  
いたかもしれない・・・だとすればあのバスを利用できる沿線に  
キラが・・・)  
ナオミにはあの事件が、キラの自作自演だったように思えて  
ならないのだ。  
12月20日に起こった「バスジャック事件」。  
そのときレイは「偶然」、容疑者を尾行中だった。  
バスに「偶然」、指名手配犯が乗り込んできてハイジャックをする。  
レイはやむを得ず、「偶然」居合わせた誰かにIDを見せてしまう。  
犯人は「偶然」、通りがかったクルマに轢かれて即死。  
その後「偶然」、レイを含むFBI捜査官たちが全員死亡する。  
(・・・・・・)  
ひとつやふたつの「偶然」が重なることは、けっして不自然ではない。  
しかし三つ以上の「偶然」が重なると、人為的に引き起こされた  
可能性が高い。  
この法則は、捜査心理学の基本中の基本だ。  
 
ナオミは睡魔に襲われながらも、思考を組み立てていく。  
(あの日は土曜日・・・「スペースランド」行き南北バス・・・  
「スペースランド」・・・土曜日・・・休み・・・・・・学校・・・・・・)  
すぅ〜という軽い寝息を立てたと同時に、ガバッと起き上がった。  
ナオミは備え付けの冷蔵庫までふらふら歩いて行くと、中から  
「evian」を取り出し、一気に喉に流し込んだ。  
ふうっ、と息をつくと、こめかみを軽く揉む。  
夕方に警察庁へ連絡を入れており、明日の昼過ぎに捜査本部まで  
直接赴くアポを取ってある。  
それまでに話の筋道を立てておかなければならない。  
革ジャンやGパンを脱ぎ捨て、下着姿になる。  
やや汗臭い匂いが、ナオミのカラダを包み込んだ。  
シャワーでも浴びたい気分だが、体が弛緩しきって寝てしまう  
恐れがあり、かといって疲労困憊の域にまで達しているため  
椅子に座るのも苦痛だった。  
妥協案として、再びベッドに寝転ぶ。  
もっとも散らかった部屋の中では、そこしか空いていなかった  
という理由もあるわけだが。  
 
下着姿のまま、ベッドで思い切りカラダを伸ばしたり、  
転がったりするナオミは、可愛くもあり、セクシーでもあった。  
(キラは相手の顔を知らないと殺せない。  
もし相手の顔を知らなくても殺せる能力があるなら、キラへの  
宣戦布告放送のとき、Lの本体を直接殺せたはずだ。  
でも実際に死亡したのは、画面に映っていた偽者の死刑囚だった。  
あの死刑囚は、顔と本名を放送中に晒していた)  
ナオミはこっそり盗み見た、ICPOの捜査資料を思い出す。  
(キラに殺されなかった犯罪者たちに共通しているのは、顔写真が  
公表されていなかったり、名前の綴りが間違っていたりした人間  
ばかりだった・・・つまりキラの能力は、顔や名前という、相手の  
データがないと発動できない。そういうチカラなんだ・・・)  
 
「・・・・・・」  
ナオミは愛用のカバンから一枚の写真を出す。  
「シャトル交通」の聞き込みのため、デジタルカメラに入って  
いたデータをプリントアウトしたものだった。  
その写真には、レイとナオミが写っている。  
四ヶ月前、LAのビーチで撮ったお気に入りの写真だ。  
少し格好をつけたレイと屈託のない笑顔を浮かべるナオミ。  
こんな無邪気な表情を自分が持っているとは、レイと出逢うまで  
ナオミ自身知らなかった。  
水質が良くないので泳ぎはしなかったが、ぶらぶらとビーチを歩き  
たわいのない会話を楽しみ、スタンドで軽くものを食べ、明るい  
陽光のなかカモメが飛び交うのをぼうっと見て、風の暖かさを知る。  
お互いに忙しかったので、まとまった休暇は取れなかったが、  
穏やかな日常と無縁だった彼女には、週末のちょっとしたデートでも  
新鮮で楽しかった。  
これからはこんな幸せな日々が、ずっと続いていく。  
あの頃はそう思っていた。  
(・・・レイ)  
グシュッとナオミは泣きそうになったが、子供のように眼を乱暴に  
ゴシゴシと擦り、再び思考の渦に身を任せた。  
(・・・ぐすっ・・・盗見米吾郎の名前は・・・犯行当時のものではない・・・  
容疑者が改名した場合、警察はそのデータを更新する。  
殺害されたのが盗見米吾郎のみで、共犯者の黒木にはキラの魔の手が  
及ばなかったし、黒木が共犯者だったことは警察も知らない。  
以上のことから考えても、キラは犯罪者の情報を警察のデータから  
直接入手している可能性が高く、警察内部にキラもしくは共犯者や  
信奉者がいることも否定できない・・・)  
ナオミは、あのプライドの高いLがFBIに協力を求めた理由を  
正しく理解したようだった。  
 
(問題はどうやってFBIの存在を知り、そして殺すことが  
できたのか・・・日本の警察が、把握していないはずのFBI  
捜査チームをキラは察知できた。ひょっとするとキラに協力する  
ネットワークは、世界規模なのかもしれない・・・)  
ナオミは苦笑いして「evian」を一口飲む。  
ネットの非合法サイトで検索した結果、バスジャック事件以降、  
軽犯罪者や容疑者さらには前科者を含め、20名以上の人間たちが  
心臓発作で亡くなっていた。  
この現象はFBIが全滅したとたん、ピタリと止んでいる。  
(これがキラの仕業だとしたら、何をやっていたのか・・・  
死んだ人間に共通点はない。キラの今までの犯行と比較すると  
殺されるほどの罪を犯したと思われない人間が多数含まれている  
のが不自然だわ。・・・この違和感。  
・・・その理由は?・・・理由。  
キラは合理的に考える知能犯だから、なにかの理由があった?  
そう、そうしなければならない理由があったはずなのよ。  
時系列で考えるならば、FBIを全滅させるための予行演習と  
いうこと?でもキラが本当になんらかの実験をしていたのなら、  
死んだときの様子で、警察側にキラの意図を見破られてしまう。  
日本の科学捜査は、世界でもトップクラス。  
安易な実験行為はあまりにも危険性が高く、慎重なキラがそんな  
無謀な賭けをするはずがない。  
それを防ぐために・・・たくさんの人間を殺す必要があった・・・?  
木の葉を隠すのには、森の中が一番いい。  
・・・だから今回の被害者に、罪の軽い者が多かった・・・?)  
 
(・・・実験する必要があるということは、わたしたちが現在  
知っている能力以上のものを、キラは習得したのかもしれない。  
キラの能力は、顔と名前さえ知ることができれば、遠距離からの  
呪殺が可能、というものだ。そして狙った獲物を心臓麻痺で殺す。  
「顔」「名前」「心臓麻痺」。  
キラはそれ以外のキーワードでも、チカラを行使できる?  
そしてキラは、それを必死に隠そうとしている?)  
ナオミは膝を抱えたまま、ベッドの上をコロコロと転がった。  
人間はなにかを夢中で考えているときは、妙な格好をする  
ものなのかもしれない。  
(本来隠れていなければならない犯罪者が、堂々と出てきて  
自滅するとしか思えない稚拙な犯行を行い、そして死に至る。  
このような珍しい犯罪が同じ地域で、それも日時がわずか  
八時間差で発生するというのは、極めて稀な事例だ。  
「バスジャック事件」とその少し前に起こった「コンビニ  
強盗事件」。偶然が重なりすぎている。  
・・・確率的におかしい。  
この事件に共通しているのは、犯罪者が他人の手により死亡して  
いる点だ。「コンビニ強盗事件」は店員に刺殺され、「バスジャック  
事件」は交通事故死・・・  
この二件の犯罪がキラによって引き起こされたものならば、キラは  
心臓麻痺以外でも人間を殺すことができるということになる。  
そして他人の手によりターゲットを殺せるということは、他人を  
操れる能力も持っているということになる・・・  
そうか・・・そうなんだわ・・・そういうことなのね・・・)  
 
(2〜3日後に続く)  
 
 

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