DearSは宇宙人だ。
俺は地球人だ。
DearSは奴隷だ。
俺は凡人だ。
レンは奴隷だ。
俺はご主人様だ。
ミゥは、
−宇宙人な彼女との宇宙的な付き合い方−
『DearSは奴隷です。ですから、ご主人様に言われればなんでもしますわ。
私はご主人様の命令ならなんでもパーフェクトにこなしてみせますわ。
……私は、レンさんよりも優秀なはずですわ。
レンさんが嫌いなわけではありませんの。
でもレンさんが武哉様の奴隷であることが憎いですわ…。』
武哉は昨日、ミゥが言った言葉を思い出していた。
レンが寝た後、コンビニまで散歩しにいった時。
公園でひとりブランコに座るミゥを見つけて、ただ気になって、近づいた。
泣いていた。
理由をたずねると、『判らない』と言った。
今思ってることを全部言って見たらどうだ、そう言うと
ミゥは言った。
『それは、武哉様の命令ですか?』
武哉は学校に行けずにいた。
寧々子にレンを頼んで、具合が悪いといって家で寝ていた。
心にはもやがかかったままだった。
どうしてレンが憎いなんて言ったのか。
想像はついていた。
DearSになくて、自分達にあるもの。
考えれば考えるほど胸が締め付けられるような気持ちになり、武哉は布団を深く被った。
どれくらい寝たか判らない。
気づいたときは、玄関からノックの音が聞こえていた。
外の空気が、夕焼けと夜空の間でただよって部屋に流れ込んでいた。
「はいはい…誰ですか…」
寝ぼけたままで玄関を開けると、そこにはミゥが居た。
「ミ、ミゥ…」
「あっあの、武哉様が今日は具合が悪いと聞いたのでわたくし、お見舞いにきましたの!
ネギは首にまくといいといいますししょうがも…
あ!レンさんは委員会活動をしていてまだ学校ですわ、プリントなどはレンさんが持っているはずで…」
ミゥの言葉がとぎれた。
「ど、どうしたんだ…?」
さっきまで笑顔で振舞っていたミゥだが、突然大粒の涙を流しだした。
「ごっごめんなさい武哉様…っ!
わ、わたくしが昨日…っあんなことを言ってしまったから…!
武哉様を困らせてしまって…っ
わたくし、違いますの…っ本当に、レンさんは大好きです…っ
だけど、だけどだけど……っ!」
武哉の手が、ミゥを包んでいた。
「た、武哉さ…ま…?」
「俺…今日ずっと考えてたんだよ。DearSのこととか、昨日のこととか…。
でも全然わかんねぇしさ…しかもお前のこと泣かせちまったし…」
「もっ申し訳ありません…っ!私のせいで…っ
と、止めたいのですが…と、止まんな…っ」
腕の中で泣き続けるミゥを慰めるように、武哉はミゥの髪をなでた。
そのままで、武哉はしばらく考えていた。そして口を開いた。
「…ひとつ、訊いていいか?」
「は、はい…なんでしょう…?」
「”ミゥ”は何がしたいんだ?」
「…え………」
ミゥは完全に戸惑っていた。
奴隷であるDearSに何がしたいなんて訊くのは残酷だと判っていた。
「……判らなかったら言わなくていい。
これは命令じゃない。お前が言いたくなったら言えばいいし…ずっと言わなくたっていい。
…俺、こういうときなんていえばいいか判らないんだけど…
お前のこと…待つことくらいは出来るから…」
言葉を途切れ途切れだが、確かにつむいで、ミゥに伝えた。
「とりあえず…今日は帰ったほうがいいんじゃないか?」
気づけば外は真っ暗だった。
そのとき、ミゥが武哉を見上げた。
「わ、わたくし…今日は…武哉様と一緒にいたい…ですわ…」
武哉は、一瞬驚いたが、すぐに笑顔でミゥの頭をなでた。
「……わかった。ちゃんと家に連絡入れろ、な。」
「は、はい…!」
DearSは宇宙人だ。
DearSは奴隷だ。
レンはDearSだ。
ミゥもDearSだ。
だけど、大切な家族だ。