「哀川さ〜ん!誕生日おめでとーっす!はい、これプレゼント」
6月9日、昼休み。
バスケ部の部室で会話をしている2人、哀川と藤原を前に、
高階がくしゃくしゃになった紙袋に入った物を差し出してきた。
「えーなになに?オレの誕生日知ってたの?」
「当たり前じゃないっすかぁ〜。超ーいいモノっすよー」
いつも以上に嬉しそうな顔をしながら言う。
「ありがとぉ〜。開けていい?」
「!?ちょ、ここじゃマズイっすよ!」
先ほどまでヘラヘラ笑っていた高階だが、顔が一瞬にして焦りに変わる。
止めようとしたが、遅かった。
既に中に入っていた物が現れていたのだった。
場の空気が凍る。
「…お前、バカか?」
最初に口を開いたのは藤原であった。
今、哀川が手に持っているのは、大人の玩具と呼ばれるであろうバイブと手錠。
「う…まさかここで開けられるとは…後で哀川さんの驚く顔を想像して楽しもうと思ってたのに…」
残念そうに、肩をガックリと落とす。
だが、哀川は笑顔で答える。
「あはは、ありがとうトーヤ。早速使ってみるねー」
冗談なのか本気なのか、いつもと変わらぬ応対に藤原の目が見開く。
うって変わって、高階は元気を取り戻したかのように嬉しそうに笑っていた。
「さっすが哀川さん!分かってらっしゃる〜」
「お前本気なのか?使うって…その…も、森高に…だよな?」
言葉に詰まりながらも質問する藤原に、ニッっと笑顔を浮かべた。
「折角のプレゼントだしね、おもしろそーじゃん。それとも拓が使いたい?」
「ばっ!おまっ…冗談じゃねーよ!!」
笑いながらからかう哀川に対し、顔を真っ赤にさせながら声を上げた。
藤原を除く2人が楽しそうに笑う。
「にしても、トーヤ?なんでこれなの?」
物を突きつけながら質問する哀川を前に、一瞬体が固まる。
「ねぇ、なんで?」
全てを見透かされそうな純な瞳で見つめられ、高階は覚悟を決めたように答える。
「実はっすね…オレ、前にある人に使おうとしたんっすけど、もの凄い勢いで拒否されちゃって…
使われないまま捨てられるコイツも可哀相かなーっつー感じで。
やっぱ男としては一度は使ってみたいじゃないっすかぁ?
で、哀川さんが誕生日だったから、いい機会と思いまして…」
―ガチャ―
その時、部室の扉が勢いよく開いた。
扉を開けたのは、マネージャーである杏崎であった。
男の話をしている3人は、頬に一筋の汗を滴り落としながらゆっくりと振り向く。
「あ、杏崎…」
声を出した高階に対し、何に驚いているのか分からないと云った不思議そうな顔をする。
が、目に飛び込んできたのは哀川が持っている玩具2つ。
瞬時にして杏崎の顔が真っ赤に染まり、下を向きながら肩はフルフルと震えていた。
「こ、これには訳が…」
―バン―
杏崎の持っていたノートと筆箱が高階の顔面に直撃した。
「トーヤ君のバカっ!!最低!!!」
もの凄い剣幕で言い放ちながら、走って外に出て行った。
「ってぇ〜…まさか杏崎が入ってくるとは…ちょっとオレ行って来るっす。
あ、ちなみにソレ、新品のままなんで大丈夫っすから」
ぶつけられた顔を擦るように押さえながら、杏崎を追いかける高階を呆然と見つめる2人であった。
「トーヤの奴、しょうがねぇなぁ…ったく…」
小さく溜息を尽きながら藤原が言う。
「あはは、トーヤらしいよ」
だな、と言う同意と共に2人笑うのであった。
本日の部活を終え、哀川は待っていた女子バスケ部の森高と帰り道を歩いていく。
特に約束をしていた訳ではないのだが、
お互い分かりきったかのように哀川の住むマンションへと向かっていく。
「今日は哀ちゃんの誕生日だし、スペシャル料理作ってあげるね」
「ホント!?超楽しみ〜」
そんな会話をしながら家路へと向かう道を進んでいった。
哀川の住む1人暮らしのマンション。
小さなテーブルに、零れ落ちんばかりの豪華な料理が次々と並べられた。
「これで最期。スペシャル料理の完成でーす」
「うっひゃ〜おいしそぉ〜。食べるのもったいないなー」
普段インスタント食品だけで終えてしまう哀川には、久しぶりのまともな晩御飯。
いただきます、と律儀に手を揃えガツガツと料理を頬張っていく。
森高は向かいに座り、美味しそうに食べる哀川を見つめる。
「麻衣ちゃんは食べないの?」
急に声を掛けられ、ハっとする。
「え、あたしは作ってる時に味見しながら食べたから…」
会話が途切れ、見つめ合う。
と、哀川の口の端に付いている料理を見つけた森高が手を伸ばし、スっと拭い取る。
「あは、哀ちゃん子供みたい」
無邪気に笑う森高を他所に、哀川は自身の食べ残りを拭った彼女の指を咥え込み、
全てを頬張るように、ねっとり舐め上げ口を離す。
森高の顔がカッっと紅くなった。
「折角作ってくれた料理なのに、残したらもったいないもんね」
口元には笑みが浮かんではいるが、目は森高を見つめたままであった。
その目に耐え切れなくなった森高は視線を逸らし、話題を変える。
「そ、そういえば洗濯物溜まってたね…あ、あたし洗っとくね」
そう言いながら、今日の練習着を入れてある哀川のバッグに手を付ける。
服を引っ張り出す際に落ちた紙袋。
ゴトっと云う音と共に顔を覗かしたものは、高階から貰ったプレゼントの玩具2つ。
身体が硬直すると同時に、心臓がドクンと大きく高鳴った。
「あーソレねぇ、トーヤから貰った誕生日プレゼント」
冗談を言うかのように笑いながら説明する哀川に、少しばかりホっとした。
そして、観察するかのようにそれを手に取り、問いかける。
「高階君、なんでこれを渡そうと思ったのかな?…あ、哀ちゃんが頼んだわけ…じゃない、よね?」
その質問にあははと笑いながら続ける。
「まっさかー。なんか使えなかったって言ってた。名前伏せてたけど、サトミちゃんにかな?」
「え!?あの子達って付き合ってるの?」
「どうなんだろうねー。けどまぁ、そう云った関係だったら付き合ってんじゃない?
あ、それで貰った時おもしろかったんだよ、あのねー…」
そう言いながら、昼休みに起こった出来事をおもしろおかしく話してゆく。
話に耳を傾け、森高も笑う。
「トーヤらしいってゆうかなんてゆうか…バカだよねー。
はー、腹いっぱい。ごちそうさまでしたー」
話をしながら料理を全て平らげていた哀川に、どういたしまして、と笑顔で返す。
そして自身のカバンの中から、手作りであると思われるクッキーを出してきた。
「ちょっと時間なかったからこんなのになっちゃったけど…お誕生日おめでとう、哀ちゃん。
もう食べれないかもしれないけど…」
クッキーを持って差し出そうとする手を、哀川はギュっと握った。
「まだ食べれるよ…麻衣ちゃん」
その言葉にドキリとする。
見つめ合う両者。
優しくその手を引き寄せ、静かに口付ける。
お互い部活にいそしんでいた為、キスをするのも久しぶり。
持っていたクッキーが床に落ちる。
緩やかに目を閉じ、その感覚に身を委ねる。
長いキスが終わりを遂げ、哀川が口を開く。
「麻衣ちゃんを食べたい・・・いい?」
顔を真っ赤に染めながらも、頷く。
ベッドの端に腰掛け、再びキスをしながら手は器用に森高の服を脱がせていく。
上着を脱がせ、スカートは穿いたまま上半身は下着だけの姿にさせる。
ゆっくりとベッドに横たわらせ、座りながら優しく髪を撫でる。
そのまま下まで降りていき、ホックを外し下着を奪い取る。
顔を染めながら両手で胸を隠す森高の頬に手を当て、口を開く。
「こうするのも、久しぶりだよね。オレ、ずっとしたかった。麻衣ちゃんは?」
「あ、あたしも…哀ちゃんと…したかったよ」
自身の言葉に、顔がさらに紅く染まっていく。
その様子を見ながら、言葉を続ける。
「もしかして、1人でヤったりした?」
森高の身体がビクリと反応を示す。
「ねぇ…オレのこと想像しながら、ヤってたの?」
マジマジと見つめ、頬を擦りながら言う。
言葉の返ってこない唇に親指を当て、少し開いている隙間から指を少しばかり差し込む。
「じゃあ答えなくていいから、してたならこの指舐めて」
森高は一瞬身体を硬くした後、目を閉じ静かに親指を舐めていく。
舌で転がし、唇で吸い付く。
そのいやらしい表情と仕草に、哀川の背中がゾクリとする感覚を覚えた。
「麻衣ちゃんのエッチィ。そんなやらしい子にはお仕置きだね」