とある夏の昼過ぎ。
ミンミンとうるさく鳴り響く蝉の声。
瑞穂高校男子バスケ部マネージャー杏崎沙斗未は今、
バスケ部員であり同じクラスでもある高階トーヤの自室にいる。
一つ下の後輩部員、近藤と共に。
当の本人はというと、ベットに転がりスヤスヤと気持ち良さげに眠っている。
―なんでわたし、ここにいるんだろ・・・―
事の発端はこうである。
8月初め、バスケ部3年生の熱い戦いが終わった。
まだ国体や選抜が残っているとはいえ、
インターハイが云わば高校バスケにとって最も重要とされる大会である。
バスケ部員にとって、この大会が終われば晴れて念願の夏休みの到来だ。
「明後日は体育館のメンテナンスがあるから、明日の練習は昼まで、明後日は休養日よ」
そう言ったのはバスケ部男女顧問の氷室である。
大会まで走り続けていた部員に歓喜の声が上がる。
「あっんざき〜!明日練習終わってから、オレん家に来ない?」
そう言ったのは高階であった。
なんで?と思いきり怪しげな顔をしてみせる杏崎。
「そんな警戒しないでよ〜。
ただちょっと夏休みの宿題を手伝って・・・いや、教えてもらおうかな〜って・・・
あ、もちろん2人でじゃなく、1年も呼んでるからさ」
そう言われ1年生のほうを振り向くと、かなり嫌そうな顔をしている1年軍団が見える。
杏崎の場合、1人で終わらせるほうが早いのだが、高階のことである。
放っておけば、宿題を終わらせずに夏休みを終えてしまうのだろう。
普段から、クラスの仲間とつるんでいない杏崎にとって、特にこれといった予定はない。
断る理由が無いのである。
全員来るはずの予定であった1年生は、ここにたった1人しかいない。
他の5人、水前寺は何で練習終わってまで榎本なんかと一緒にいなきゃなんないんですか、と言い、
榎本は行く理由なんか無いっす、そう言ってさっさと帰ってしまった。
桑田と南山は、宿題道具持って来るの忘れました、と明らかに故意であろうと思われる言い訳を作り、
紅林に関しては既にそこに姿はなかった。
結局、高階の言葉どおりに来たのは、生真面目な近藤ただ1人であった。
そして現在に至る。
―で、結局本人寝てるし・・・―
ハァっと大きくため息をつく。
その態度に近藤が反応する。
「杏崎先輩・・・あの・・・オレ達が来た意味ってあるんですかね?」
「・・・見ての通り、あるわけないよね・・・」
2人揃って、眠っている高階を見る。
お互いに、肩からガックリと落胆の表情を見せる。
と、近藤の携帯がふいに鳴り響いた。
鳴り響くと言っても真面目な近藤は、持ち歩くときは常にバイブにしているので、
震えたと言った方が正しいのだが。
―ピッ―
「もしも・・・」
最後の言葉を言わせないまま、電話の向こうの主がしゃべる。
「え!?ケンカ!?」
その言葉に杏崎は顔を上げる。
「うん・・・うん、分かった。すぐ行くから」
そう言って携帯を切り、急いで帰り支度を始めるのだった。
「すいません、先輩。
なんか水前寺と榎本がケンカしてるらしく・・・今、桑田が止めに入ってるらしいんですけど。
と、とりあえず、オレ行ってきます!」
そう言って、慌しく部屋を出て行ったのだった。
近藤が今更行ったところで、あの2人を止められるかどうかは別の話であるが・・・
杏崎は何も言えぬまま、ただ呆然とするしかないのであった。
―また、あの2人・・・まいったなぁ・・・―
大会が終わったといえど、不安の種は次から次へと湧いてくる。
そのときであった。
―ガンッ―
その音にビクっと肩を震わす。
振り返ると、高階が寝返りをうった際に手を壁に大きくぶつけていたのであった。
「ってぇ・・・」
それでもまだ眠り続けている。
―ホントに・・・まいったなぁ・・・―
再び落胆する杏崎だが、考えてみると、今この部屋には自分と高階の2人きり。
その思いが過ぎると同時に、ドクン、と胸が大きく高鳴る。
今まで高階を異性として特別意識することはなかったのだが、よくよく考えると彼もまた1人の男なのだ。
恋愛に関して奥手な杏崎は、こうして異性と2人きりで狭い空間にいたことがほとんどない。
―2人きり―
そう思えば思うほど、動悸が早まっていく。
ブーン、というエアコンの音だけが鳴り響く。
―ト、トーヤ君眠ってるし・・・わたしがいても仕方ないよね・・・―
そう思ったのが早いかどうか、杏崎もそそくさと帰り支度を始めるのであった。
「・・・さむい・・・」
ふいに高階が声を発した。
―寝言?―
寝言だといえど、人間の身体は正直である。
3年がまだ部活にいるとしても、今から瑞穂バスケ部を支えていくのはこの、
高階トーヤなのだ。
風邪をひかれても困る。
そう思い、杏崎はベッドに近づく。
近くに置いてあるタオルケットを手に取り、そっと身体にかける。
「トーヤ君?わたし、帰るね」
小さい声でそう呟く。
そして立ち上がろうとした瞬間、腕を掴まれ引き寄せられたのだった。
ドスン、と高階の上に覆いかぶさるように倒された。
思考回路が停止する。
「・・・タオルケットより、こっちのがいい」
背中に両手を回され、ギュッと苦しくない程度に強く抱きしめられる。
言葉が出てこない。
だが、自分の鼓動が高まっていくのはよく分かる。
「あったけぇ・・・」
目を瞑ったままそう言って、更に腕に力を込める。
「お、起きて、たの?」
動揺を隠そうとすればするほど、声が震える。
「ん・・・寝てた・・・けど、なんか物音で目が覚めた、かな?」
ポツリポツリと寝起きのちょっとしゃがれた声でしゃべる度に、
厚い胸板から直接耳に振動が流れ込んでくる。
男の人の声がこんなにも低く、胸板がこんなにもたくましいものだということを、
改めて感じさせられる。
身体の熱が上がり、心臓が破裂しそうになる。
「ハァ・・・なんか、すげー落ち着く・・・」
その言葉に、顔がカッと赤くなる。
「や、ちょ・・・は、離して!!」
そう言って力の限りもがくものの、男の力には敵うはずもない。
高階はそのままの体制で、子供のように冗談っぽくヤダと言い、力を緩めてはくれなかった。
杏崎はもがくことを諦め、高階の腕が緩まるのを待つ意外になかった。
鼓動がうるさいほどに鳴り響く。
実際には聞こえるはずもないのだが。
何分・・・いや、何秒そうしていたのだろうか。
高階がふっと力を緩めたかと思えば、くるりと身体を回転させ今度は立場を逆にされたのだった。
ベッドに仰向けにさせられ、顔の両端に手を置き、上から見下ろされている状態だ。
目と目が合う。
顔が赤くなっているのが自分でも分かるほど、熱い。
両者に会話はない。
見つめ合ったまま、しばらくの沈黙が訪れる。
「杏崎・・・男の身体に興味ない?」
唐突に高階が口を開いた。
言葉の意味が、理解できない。
―男の・・・身体?―
冷静に考えれば単純な意味である。
だが、先ほどから混乱しっぱなしの頭では冷静に判断することが出来ないのであった。
ただ相手をじっと見つめることしか出来ないでいた。
「んー、単刀直入にゆうと・・・オレとエッチしない?ってことなんだけど・・・」
反応の無い杏崎に困ったような笑いを見せながら、この男はそう言った。
その言葉に身体が自然と反応する。
興味がない、と言えば嘘になる。
今まで誰とも付き合ったことがない杏崎だが、身体が疼く夜はある。
その度に、幾度となく自らで慰めているのだった。
―でも、なんで・・・いきなり・・・―
「あ・・・」
やっとの思いで口を開こうとした時、高階はそれを遮るように続けた。
「興味はあるっしょ?」
覗き込むように顔を近づけ、否とは言わせないような真面目な顔つきをしている。
コクン、と息を呑む。
知らず知らず、首を縦に振っていた。
それを確認した男は、とても嬉しそうに無邪気な笑顔を見せるのだった。
根が真面目な杏崎にとって好きでもない男と初めて経験するなんてことは、
今まで考えたこともなかった。
が、その想いも今はすっかり消えていた。
男に抱かれるという感覚が、どんなものなのか知りたい。
先ほどまで高階の厚い胸板に顔を埋めていた感覚が、
その想いをより一層強くさせたのである。
夏の熱い日差しを遮るように、ベッドの側にあるカーテンを閉める高階を横目に、
身体を小さくさせている。
カーテンを閉めたとはいえ、今はまだ昼過ぎ。
光が全く遮断されることはない。
少しばかり薄暗くなっただけの話である。
―ギシッ―
高階が近づいてくる。
その音に、身体をビクっと震わせる。
スっと頬に手が伸びる。
「震えてんじゃん・・・怖いなら、止めとく?」
高階は人間の心理を読むのが上手い。
そう言われて揺れ動くのが、人の性である。
伏せていた睫毛を上げ、相手の顔を見る。
子犬のようなつぶらな瞳でこちらを見つめ、少し寂しげな顔をしている高階が映る。
母性本能をくすぐられる表情。
―ズルイ―
そう思ったが、顔を伏せ首を横に振るのが精一杯であった。
高階の口の端が上がるが、それを知る筈もなく。
顎の先端を指の先で持ち上げられ、ゆっくりと顔が近づいてくる。
熱い吐息がかかると同時に、静かに唇を塞がれた。
軽く、啄ばむようなキス。
緊張の余り身体が硬直し、唇も堅く閉ざされている。
それを楽しむかのように、高階は舌で翻弄してくる。
唇をぐるりとなぞられ、鳥肌が立つ。
「ふっ・・・」
吐息が漏れると同時に開かれた隙間に、すかさず舌を捻じ込ませてくる。
小さな場所で逃げ惑う舌を追いかけ、絡める。
頬を両手で押さえられ、より深く侵入させる。
息が出来ないと思うほど、深く、強く。
時折、互いの唾液が入り混じった音が、たまらなく身体を熱くさせる。
我慢できず、高階の肩を両手で強く押す。
ちゅくっという音と共に唇が離れ、一瞬銀色の糸が尾を引く。
肩で大きく息を整える。
「・・・っはぁ・・・」
これ以上もないぐらい、顔が紅潮しているだろう。
相手の顔を見れず、どんな顔をしているのだろうか想像もつかない。
「カワイ・・・」
高階は小さく呟き、次の行動に移す。
座っていた身体を軽く押され、ベッドに倒される。
覆いかぶさるように頬にキスを落とし、肌上を滑らせるように耳に首に、舌を這わせる。
右手は太腿の外側、内側をしきりに擦る。
まるで肌の質感を確かめるように。
ふいに手が、制服の上着の中に滑り込んでくる。
瞬時にして背中に手を回され、片手で下着のホックを外される。
下着ごと上着を捲り上げられ、
初めて他人の目に晒されることになる胸を本能的に両手で隠そうとする。
が、その行動お見通し、と言った風に両手をベッドに押し付けられ行動を制された。
今度こそ本当に、形の良いふっくらした胸が露わになる。
じっくりなぞるように、身体のラインを視覚で犯される。
鼓動が早まり、緊張の余り睫毛が震える。
少し乾いた上唇を舌で舐め上げ、高階はゆっくりと露わになった胸に口付ける。
固くなり、勃ちあがった突起には触れず、その周りを舐め回す。
割れ物に触れるように、優しく丁寧に。
鼻先が微かに突起に触れる度、身体が反応する。
時折肌を強く吸われ、毒牙のようなじわりとした痛みが全身を襲う。
自身の下腹部に熱が溜まるのが分かる。
じれったいまでの、優しい愛撫。
瞳に薄っすら涙を浮かべ、足をよじらせる。
「ん・・・ふぁっ・・・」
たまらなく声が漏れる。
その声を敏感に感じ取った高階は、やっと杏崎の腕を解放させたのだった。
ふっと顔を上げ、
「ちょっと、焦らし過ぎちゃったかな?」
嬉しそうにそう言うと、高階は自身のYシャツのボタンを器用に片手で外していく。
ボタンを外し終え、引き締まった筋肉が露わになると再び肌に顔を埋め、
執拗に愛撫を続けるのであった。
無論、手は杏崎の太腿に伸びている。
先ほどとはうって変わり、容赦なく激しく。
突起を吸われ、固く尖らせた舌で舐め上げる。
甘噛みされる度、身体がビクっと震える。
その反応を楽しむ片方で、腕をスルスルっとスカートの中に侵入させ、
下着の上からしっとり湿っている部分を指の腹で撫で上げた。
杏崎の身体が大きく跳ね上がる。
「やっ!!」
「結構、いい感じになってきてんじゃん」
そう言った矢先、湿っている下着を刷り降ろされ、直接指を割り挿れられた。
茂みの奥にある、愛液の溢れ出る源と充血した蕾。
他人の、男の厚く角ばった指で弄ばれ、脊髄から流れ出る電流のような、なんとも云えない痺れる感覚。
くちゅっくちゅといやらしく響く水音と、自ら発している甘く途切れる吐息に、
聴覚が鋭く研ぎ澄まされる。
高階は十分に愛液を指に絡めとり、蕾を執拗なまでに愛撫する。
指全体を使って、流れ出る蜜を溢さないように、ねっとり蕾に塗り上げ上下に、
時には円を描くように擦り上げる。
均一を保っていた呼吸が乱れる。
その動きがふいに止まったかと思うと、今まで味わったことのない感覚が全身を襲う。
「ぅんっぁ、はっ!!」
声が荒げる。
高階は、中指をそっと狭い入り口に押し当て、ゆっくり傷つけないように侵入させてきたのだ。
「こっちはまだ慣れてないみたいね。
でも・・・すぐによくなってくるから」
そう言い、少し膨らみのあるザラついたある場所を探り当てた高階は、
反復させるようにそこを刺激する。
蕾の愛撫も忘れずに、親指の腹で撫で上げている。
杏崎の全身の筋肉は縮み上がる。
「んん・・・っはぁ・・・んはっ、あっ・・・んぁ」
吐息が喘ぎに変わり、絶頂まではもうすぐだ。
高階にもそれが手に取るように感じ取られた。
手にはベッドのシーツが固く握り締められ、足先には力がこもる。
「我慢しないで、イきな」
鎖骨辺りに口付けを落とされ、指の動きが一段と激しく迫ってくる。
―ん・・・もう・・・ダメ・・・―
言葉が脳裏を過ぎり、声を張り上げ杏崎は果てた。
指を侵入させている肉壁が、何度かひくつく。
それを確認した後、ゆっくりと指を引き抜いた。
その手は、指はべっとりと愛液で濡れている。
目を瞑り、ハァハァと呼吸を整えようと肩で大きく息をする杏崎に、軽く口付けを交わす。
注意をこちらに向かせ瞳を開いたところで、自身の蜜で濡れている手をかざしてみせる。
「杏崎・・・こんだけ濡れてるの、知ってた?」
高階の指と指の間の、艶かしく光る糸を見せ付けるように。
これ見よがしに、杏崎を見つめながらゆっくりと、丁寧にそれを舌で舐め取っていく。
羞恥心が掻き立てられ、瞳を軽く伏せる。
今からが本番だから、と言うと同時にベルトを外し膝までズボンと下着をずり降ろす。
その声に反応し、伏せていた顔を上げる。
十分に膨張していると思われる初めて見るソレを前に、杏崎の緊張が高まる。
既に、男の自身は天を仰いで屹立している。
先走りに濡れそぼりながら。
ボタンを外したシャツの隙間から見える、厚い胸板、鍛え抜かれた腹筋、張り出した腰骨。
全ての無駄の無い筋肉に目が離せない。
そして、その下にある男の『モノ』
と同時に、身体の奥から沈着していた熱を再び感じられずにはいられなかった。
だが、大きく硬く張り詰めたソレを前に、恐怖の色は隠せない。
「こ、こんなの入らない・・・」
そう呟き、身体を起こそうと肘で立ち上がる。
が、瞬時に肩を強くベッドに押し付けられたのだ。
「もう、無理」
そう言った高階の顔は、欲望に忠実なまでの雄の顔つきであった。
恐怖の余り、顔が引き攣る。
先ほど絶頂を迎えた身体は、言うことを聞いてくれない。
元々力で勝ることはないのだが、少しばかりの抵抗すら出来ないのであった。
混乱と恐怖とで、涙が頬を伝う。
すると高階は押さえていた力を緩め、優しい笑顔で言葉を放つ。
「心配すんなって。優しくすっから・・・絶対、悪いようにはさせないから」
流れる涙を舌で拭う。
アメとムチを器用に使い分ける男である。
その言葉と、優しく触れられる肌に、先ほどまでの恐怖は和らいだ。
いいように手のひらで転がされてる感は否めないが・・・
緊張が解けた杏崎の、途中まで降ろされていた下着を剥ぎ取り、足を開かせる。
高階は昂ぶった自身を手に取り、ゆっくりと茂みに擦り寄ってくる。
モノで掻き分け、先走りの液体を蕾に塗り上げる。
指以上に太く、ねっとりとした感覚に身体がピクリと反応する。
そして、擦るようにモノ自身で蕾を弄ぶ。
ちゅ、くちゅと愛液の入り混じる音が、より一層感覚を昂ぶらせる。
「んっ・・・」
高階からも、吐息が漏れる。
男が放つ甘い声に、すでに快楽に溺れかけている杏崎を更に押しやる。
ふいにモノが蕾から外れ、そのすぐ下にある入口に押し当てられた。
反応を確認するように、ゆっくりと先端を侵入させる。
「ぃ・・・ったぃ・・・」
痛さの余り、身体に力が篭もる。
初めてする時は、入口が一番痛いのは仕方の無いことだ。
「ぅ・・・きっつ・・・杏崎・・・もっと力抜いて・・・」
そう言われても、痛さを拒むのは誰しもに備えられた生理的現象である。
額にじんわり汗が滲む。
ゆっくりと、だが着実にモノは沈んでゆく。
杏崎の顔が苦痛に歪み、高階の腕に添えられている手に力が入り爪が食い込んでくる。
「やっぱり・・・無理・・・かな・・・」
ボソリと、少しばかりの愁いを含んだ声が聞こえた。
ここまで来て、後戻りはもう出来ない。
「だ、いじょうぶ・・・だから・・・」
ハァハァと短く息を吐きながら、苦痛に耐え、潤んだ瞳で相手に目をやる。
その顔に、高階はまだかろうじて保っていた理性を吹き飛ばされたのだ。
「ごめん・・・まじ、限界・・・」
そう言って、まだほとんど挿れられていないモノを一気に沈め込んだ。
「っ!!!!」
瞳を堅く閉じ、唇を強く噛んで声を抑える。
下腹部から、じんじんと痛みが全身に広がってきた。
その痛さで不可抗力の涙が流れる。
普通ならば貫いたモノを動かすのだが、
高階はそのままじっと、少しばかり震える自身の身体を動かさずにいた。
静かに顔を近づける。
閉ざされている瞳に、唇にそっと口付けするのであった。
「慣れるまで、こうしてるから」
そして、深く口付けを交わす。
どれぐらいの間、そうしていたのだろうか。
痛みが大分治まってきたのが分かる。
口の端から甘く漏れる吐息を感じ取り、高階が唇を自由にする。
「まだ痛い?」
気遣うように問いかける。
「ん・・・だいぶ、治まってきた・・・」
濡れた睫毛を少し上げ、答える。
その返答が合図かのように、高階はゆっくりと腰を前後し始めた。
初めて、己の中で動き始めるモノの存在を明確に感じ取る。
「っふぁ・・・」
痛みが全くない、と言えば嘘になるのだが、それ以上に甘く痺れる感覚に身を委ねる。
ゆっくりとだが、モノが奥まで到達する度に、
今までに味わったこともない快楽に意識が集中する。
ぐちゅっと、互いのモノの交じり合ういやらしくも淫らな音が部屋に響く。
無意識に杏崎は、男の背中に手を回す。
シャツを掴み、緩やかにそれを握る。
時折、ギュっと強く握る仕草が、もっともっととねだるように思われた。
高階はそのままの体制で杏崎を抱き起こす。
自身のモノを挿れたまま、あぐらをかいたような自分の足に座らせる。
より深くモノが侵入する。
男は女の腰を抱き、女は男の首に手を回す。
今度は上下に身体を揺すり、先ほどよりも速く、深く、激しくモノが肉壁を擦ってくる。
蜜が止め処なく溢れ、滑らかな動きを援助する。
互いに、身体に熱が篭もっているのが伝わってくる。
じっとり汗ばみ、額からも流れ落ちる。
ギシギシとベッドのスプリングが軋む。
互いの息がリズムに合わさり、交じり合う愛液の音が、淫らなまでの空間を作り出す。
イイトコロに当たっているのか、しきりに鼻にかかった声を出す。
高階は薄目を開け、目の前に迫る女の顔をじっと見つめる。
頬に赤味を差し、己の作り出す快楽に身を委ねる、卑しい表情と声。
時折激しく身体を揺すると、泣きそうなまでの甘く切ない声を上げる。
腕の中で喘ぎ悶える、壊してしまいたいほどの愛しい、この女。
もっともっと淫らに喘ぎ、もっともっとその声を聞かせて・・・オレだけの前で。
杏崎の額にへばりついた髪を、指の甲で優しく掻き分け、高階は言う。
「っはぁ・・・杏崎・・・っん・・・オレの名前・・・呼んで・・・?」
途切れ途切れでそう言われ、濡れた瞳を静かに開く。
「ん、っあ・・・ト・・・ふっぁ・・・トーヤ・・・くん・・・っ」
気だるいまでの艶かしく潤んだ瞳。
苦しそうに吐き出す擦れた声。
鼓動が大きく脈打ち、水面下で暴れていた快楽の波が、一気に押し寄せてきた。
「っ・・・ぅあ・・・イ・・・く・・・」
言葉を発した瞬間目の前で、白い光が弾け飛ぶ。
その瞳に、声に、高階は欲望の全てを身体の中に吐き出した。
ドクンドクンと脈打つモノをそのままに、ゆっくりとベッドに横たわる。
互いの意識が途切れ、眠りの波に飲み込まれていった。
―バタン―
扉の閉まる音で目が覚める。
うっすらと瞳を開けると、トランクス姿で立っている後ろ姿の高階が映った。
濡れた髪をタオルでガシャガシャと拭いている。
「ん・・・」
まだ覚えきらない頭を手で押さえながら、上半身をゆっくり起こす。
その気配を感じ取ったのか、男が振り返る。
「お、やっとお目覚めですかー?」
いつもの調子で声をかけてきた。
「・・・身体が・・・ダルイ・・・」
かすれた声で、そう答える。
「寝起きの声してるねー。そんな時は・・・はい、これ」
そう言われ、机の上から何かを取り、差し出してくる。
目の前に持ってこられたのは・・・
「・・・トマトジュース?」
「正解」
ニカッと笑い、目が覚めるぞーと笑顔で言う。
グイグイと半ば強引に、受け取らせようとする。
呆れ顔で杏崎はそれを手に取った。
「・・・トーヤ君、トマトジュース好きだね・・・」
インターハイ直前の合宿前日に、相手高のウィークポイントを整理している部室で、
ぬるいトマトジュースを差し出してきた日のことを思い出しながら、杏崎は答えた。
「これはオレの力の・・・いや、魂の源ですからー」
ケタケタと冗談交じりで返事を返す。
釣られて杏崎も笑顔を見せる。
「まだ身体ダルイかもだけど、汗かいて気持ち悪いしょ?
まだオレの両親帰ってきてないから、シャワーでも浴びてきなよ」
その言葉にはっとする。
そう、先ほどまでこの男と抱き合っていたのを思い出したのだ。
顔が熱くなり、恥ずかしさの余りタオルケットに身を隠す。
「あ・ん・ざ・きぃ〜・・・なに?2回戦でもしたいわけ?」
冗談っぽく、高階が言う。
ゆっくり、タオルケットから半分顔を出し、口を開く。
「・・・バカ」
目の前にいる男が、無邪気に笑う。
杏崎は、浴室の鏡に自身の身体を映す。
所々赤い印があるのが見える。
普段、服を着てしまうと見えない箇所ばかりに。
印が消えるまで、当分今日の出来事を思い出してしまうのだろう。
そして思う。
―案外・・・終わってみれば痛くないんだなぁ・・・―
そう、初体験が終わった数日間は股が痛い、とはよく聞く話なのだが。
実際、痛みはそう長くは続かないものなのだ。
意外にあっさりしたものである。
シャワーを浴び終え、部屋に戻ると高階は服を着ていた。
カーテンも開かれ、普段と何も変わらない、明るい部屋に戻っている。
「お疲れ〜っす。スッキリしたっしょ?」
そう言いながら、当初の目的であった夏休みの宿題をやっている。
やっている、というより杏崎のものを書き写していると言った方が正しいが。
「・・・自分でやらないと意味ないよ」
呆れたといった表情で、髪をタオルで拭きながら側に腰を下ろす。
高階はその仕草を目で追い、口を開く。
「・・・風呂上りのい〜匂い・・・たまんないねぇ。また襲ってもい?」
その言葉に顔を上げる。
が、高階はいつものように笑っている。
「・・・ホントに・・・バカ」
ケタケタと楽しそうに笑いながら、書き写す作業を続ける高階だった。
ミンミンとうるさく鳴く蝉の声も今はもう落ち着いている、夏の夕暮れ。
杏崎は岐路に立つ。
その横には男が並んで歩いている。
「な〜・・・明日って休養日じゃん?何か予定あんの?」
「特にないけど・・・」
しばし、沈黙が続く。
「・・・んじゃさ、オレとデートしない?」
前を向きながら、高階がそう言う。
答えは返ってこない。
横目でチラリと目を配ると、下を向いて、頬を赤らめている彼女の横顔が映る。
顔が綻び、言葉を続ける。
「デートっつーか、バスケ。ストバスでもしよーよ。今日来なかった1年も誘ってさ。
バスケなら、あいつらもちゃんと来くるだろーし。
それに、杏崎も久しぶりにバスケしたいっしょ?お遊び程度なら、大丈夫だろうしさ」
少しの間を空け、それもいいかもね、と微笑みながら承諾するのであった。
その笑顔を優しく見つめ、高階は決心した。
「決ーまりっ!」
そう言いながら、彼女の小さな手を取り、長く続く道を歩いていくのであった。
うるさく鳴く蝉の声が消える前に、伝えたい言葉がある。
―好きだよ―
熱い夏は、まだまだ終わらない。
―余談―
時は遡る。
近藤は、電話の主から伝えられた場所へと急ぐ。
そして着いた場所に、水前寺と榎本の姿は、無い。
桑田と南山が浮かない表情をして立っているだけだった。
「っハァハァ・・・み、南山・・・あの・・・ふ、2人は?」
呼吸も落ち着かぬまま、電話の主であった南山に問う。
「・・・あいつらなら、居ないよ」
その言葉に、疑問の顔が浮かぶ。
「ケ、ケンカしてたんじゃ、なかったの?」
肩で呼吸をしながら、苦しそうにそう問いかける。
お互いに顔を見合わせ、困ったような表情を見せる南山と桑田。
「実は・・・」
そう、近藤を呼び出せと指示を出したのは、他でもない高階だったのだ。
水前寺、榎本、紅林は、はなから家に来るとは思っていない。
来るとすれば、誘いを断りきれない近藤だけだと。
かと言って、近藤に計画を暴露すれば、責任感の強いこの男のことだ。
そんなことを簡単に許すはずがない。
近藤にばれずに追い出し、杏崎と2人きりになる状況を計画的に作っていたのだ。
その追い出し役に抜擢されたのが、1年の中でも扱いやすいこの2人、南山と桑田だ。
凶悪とも取れる計画的犯行を聞かされ、
ガックリ膝を折り曲げ、地面に両手を着いて近藤は落胆する。
「ト、トーヤさん・・・」
悪魔のような高笑いをしている高階の顔が脳裏を過ぎる。
「ま、まぁまぁ、そんなに気を落とすなって・・・オレらはオレらで遊んで行こーぜ」
苦笑しながら、ご愁傷様と言わんばかりに近藤の背中をポンポンと叩く2人。
その2人の手にはしっかりと、トマトジュースが握られていたのであった。
この計画は、高階の完全勝利で終わりを遂げた。
本当に、人の心理を読むのが上手い男である・・・
終わり。