「くふぅ……」  
あふれ出る涎が恥ずかしくて、歯を食い縛ろうと力をこめた。  
しかし、下腹部からおそってくる絶え間ない刺激が  
簡単にその努力を打ち消してしまう。  
「あ……ら、やめぇ……はぁっ」  
新たに零れた雫は口の傍から顎をつたい、項の方へ流れていった。  
クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、と速いリズムで濡れた音がする。  
「こんなに充血して……もうすぐ破裂しちゃいそうね?」  
マニキュアを塗った綺麗な指先が、ふくれたペニスを上下に擦っている。  
亀頭から漏れる透明な粘液がその動きを滑らかにし、  
指の腹と性器の粘膜が合わさった部分に細かく小さな泡がたった。  
「射精したいかな?高階くん」  
「はぅ、あ、あぅ……」  
涙のたまった瞳で見上げてみても、天井の強いライトが作り出す逆光が  
自分を犯している人間の顔を隠してしまっている。  
ただそれが女で、その声が笑っていることだけはわかる。  
空調の効いた見知らぬ広い部屋。大きなベッド。  
その桟に括り付けられている自分の細い両手首。  
恥ずかしい所が全開になるまで広げられ、  
拘束されている自分のまだ未発達な両足。  
生え揃ったばかりといった風情の柔らかな茂みに包まれ  
腹の方を指してはちきれそうになっている幼いペニスは  
その根元をひらたくて細い革紐できゅうと結ばれている。  
強いライトに煌々と照らされた小さな紅いアヌスには、  
柔らかくしなるシリコンの細いスティックが差し入れられ、  
ペニスを擦る動きに合わせて細かく出し入れされていた。  
「可愛い子……」  
笑いを湛えた声がして、うるんだ濃い桃色の亀頭に  
ねっとりと湿った舌がよせられた。  
「ひぃあっ、あぁ、うぁーーーっ」  
あまりの苦痛と激しい快感に、やがて視界がぶれはじめ、  
トーヤは激しく泣き声をあげた。  
 
 
「トーヤ!トーヤってばっ!」  
大きく揺すぶられて飛び起きると、目の前に  
心配そうな顔をした哀川の姿があった。  
「めちゃめちゃ魘されてたよ」  
「……あ?」  
見渡せばそこは、インハイで宿泊中のホテルの一室。  
カーテンの隙間からはまだ光は指し込んでいない……真夜中だ。  
あの夢を、見ていたのか。こんな時に。  
高階はぐったりと脱力して背をまるめると、大きく息を吐いた。  
「ダイジョウブ?」  
ベッドの端に腰掛けた哀川が、ポンポンと背中を叩いてくれる。  
「はーーー……スイマセン哀川さん、起しちゃって」  
「いいよー。怖い夢でも見たの?」  
「えぇまぁ。へへ……っと」  
いつもの軽口でごまかそうと体を動かして、気が付いた。  
下着の中がぬるついている。  
「あー。えーと、あ……」  
たいていのことは暴露して笑いに換える自信はあったが、  
これは知られたくないと心の奥でなにかが訴えた。  
 
あの夢で、夢精したなんて。  
 
と、  
「汗ビッショリじゃん。シャワーでも浴びたら?」  
気付いているのかいないのか、哀川はそういうと  
あっけないほど素っ気無く自分のベッドにもどった。  
「哀川、もう寝ちゃうからね」  
にこっと笑う。  
「あ、はい……すんませんしたぁ」  
高階はへどもどと頭を掻きながら、部屋についている浴室へと向かった。  
 
(布施センセに啖呵なんかきって、情緒不安定になったかね……)  
思いきり熱くした湯を頭から浴びながら、高階はため息をついた。  
(なさけねぇの……しばらく、見てなかったのにな)  
 
あの頃の夢。  
 
天才だなんて騒がれて、  
たくさんの、見知らぬ大人に周囲をかこまれていた頃。  
 
その名刺にはただ名前がぽつんと書かれてあった。  
彼女、いつも綺麗で、冗談が好き。  
周りの人間がみんな馬鹿に見えて  
取材なんてまともに答えたことがなかったけど  
どういうわけか、彼女にだけはいつも饒舌に話した。  
彼女の前でだけ感じる、あの微かな、居竦むような感覚を打ち消すように。  
 
あの日。  
 
いつもどおり彼女は楽しそうに笑っていたから  
自分も笑ってみせた。震えながら。  
 
強いライトに照らされたベッドの上  
なにもかも曝け出された、これ以上無いほど恥ずかしい状況で  
それでも必死でつくった笑い顔をのぞきこんで彼女は言った。  
 
『ねぇ高階くん』  
 
『なにをそんなに“怯えて”いるの?』  
 
途端焼けつくような羞恥と底知れぬ恐怖がフラッシュバックして  
高階は指が白くなるほど力を込めてシャワーヘッドを握り締めた。  
 
(明日は正念場だってのに、冗談じゃないってね)  
狭い湯船にためた湯にあごまで浸かりながら  
高階は湯気の向こうの見えない何かを睨みつけ  
自分に向かってしっかりと言い聞かせた。  
(俺はもうあの頃とは違う)  
湯の中でゆれる自分のペニスを目をやり、軽く握ってみる。  
いやらしく亀頭の露出した、握り応えのある大人の男の性器だ。  
手も足も出せぬよう拘束され、嬲られ弄ばれて  
射精を禁じられ、アヌスをこじあけられ  
泣き喚いても許されず、貞操を奪われるなんてことは。  
あんなにも徹底して自分の弱さと醜さ、  
隠していた恥ずかしい部分を暴かれるようなことは、  
もう二度とあってはならない。  
 
そう今なら、主導権を握るのは自分になるだろう。  
自ら欲しがって体を悶えさせ、泣いて懇願するのは  
今度は間違いなく向こうのほうだ。  
瞳を閉じて、高階は最近あったある出来事を思い返した。  
 
「トーヤ君、あぁもっと、突いて、突いて……ぇっ!」  
頬を紅潮させ、尻をつきだしてこちらに懇願する女。  
「そんなに捩ったらスーツぐしゃぐしゃになっちゃいますよー」  
後ろから余裕をもって腰を動かしていたのは自分。  
「ねぇ、榊原さん?」  
 

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