ガタガタガタ、ガタンッ!
「いやあん〜っ!」
女子バスケット部室の扉の向こうから、派手な音と情けない悲鳴が聞こえた。
「なんだ?」
ちょうどその前を通りかかった、男バス1年・近藤英次は驚いて足を止めた。
「だ、誰か、だれかたすけてくださぁいっ」
「えぇ?……だ、大丈夫ですかー?」
コンコン、と扉をたたいてみる。
「大丈夫じゃないですぅ〜〜っ!助けて〜っ!」がしゃん!
「ええ〜っ!?は、入りますよ?!」
ただごとならぬ物音に、英次は思いきってドアを開けた。
目に入って来たのは、ドミノのように倒れかかるロッカー数台、
それをかろうじてふさぎとめている下着姿の大柄な女の子だった。
「うわあああっ!」
「あっ、た、助けて下さぁいっ!倒れちゃう!」
「えぇ!でっでも……」
「はやく!そっち持ってぇ」
目のやり場に困りつつも英次は、手前にあるロッカーを支えた。
「んしょ……っ!」
彼女はそれをたよりにひとつひとつ立て直していく。
一生懸命力をいれているのだろう、頬と首筋がピンクに染まっている。
チェック模様の可愛いブラジャーからこぼれてしまいそうな
白い豊かな胸が“ぽよよん”と揺れる。
パンティも同じデザインで、サイドにクマの刺繍入り。
(な、何を見てるんだ俺は……!)
英次はぎゅっと目をつぶり、ぶんぶんと頭をふった。
彼女が誰かはすぐわかった……女子バスケ部2年の伊藤だ。
大魔人こと3年の大神よりも背の高い彼女だが、
タヌキのような潤んだタレ目と、どこかおどおどしたトロくさい仕草に
年上ながらなんだかたよりない印象があった。
(こ、困ったな〜、こんなとこ兄ちゃんに見られたら殺されるよ)
どぎまぎしている英次をよそに、ようやくロッカーを元にもどした彼女は
ふわあ〜〜っと派手な吐息をついて、ベンチに座った。勿論下着姿のままで。
「あぁ良かったぁ〜、どうなるかと思っちゃった……」
「あ、あのう……」
「あっ、お手伝いありがとうです!あなたは、えっと……」
「いや、いいです、あのっ俺それじゃ……あの…」
真っ赤になってうつむきながらじりじりと後退していく英次を
伊藤は「?」という表情で見て、それからふと自分に目をやり……
「きゃ、きゃああ!きゃああああ〜〜〜〜っっ!!!!」
「うわあごめんなさいっ!しっ、失礼します、うわあっ!!!!」
慌てふためいて部室を飛び出した英次は廊下の壁面に激突。
だらだら流れる鼻血をふきつつ、よろよろと男バスの部室へと向かった。
その日の練習後……
うわの空で失敗を繰り返し、氷室コーチに厳しく叱られた英次は、
罰としてボールを綺麗に磨いておくように命じられた。
「はあ〜あ……」
じじっと蛍光灯が淋しく音をたてる倉庫で、英次はため息をつきつつ
雑巾を手にとった。
(あんなことがあったんじゃ、集中できないっつーの)
(伊藤先輩も、なんだって下着姿でロッカー倒してたんだ?)
(ぽーっとした人っぽいよな……背は高いけど……胸も大きかったけど)
あまり見ないようにしたつもりでも、彼女の様子は英次の脳に焼き付いた。
大きな瞳を見開いて、真剣そのものの表情で、可愛く眉をよせて。
ボリュームのある身体、真っ白な肌はまるで輝くようだった。
ぽよんと大きな胸、柔らそうなお腹、大きなお尻、弾けそうな太股。
(……女の人って、綺麗だなー)
姉妹のいない英次は、シンプルにそう思った。
「あのっ」
不意に後ろから声をかけられ、英次は飛び上がった。
「わあ?!」
「あっ、きゅ、急に声かけてごめんね……あの、私……」
「あ、伊藤せんぱ……!」
倉庫の入口に立っていたのは当の伊藤だった。
女バスの練習も終わったらしく、セーラー服に着替えている。
「あっ、おっ……お疲れ様っす!」
突然の登場にあせった英次は、とりあえず座ったままべこんと頭をさげた。
「お、お疲れ様ですぅ……あの、居残りさせられてるって聞いて……」
「あっ、はい、そうなんです。氷室先生の命令で……」
「そう、あ、大変だよねっ……あの……わたし、手伝う!」
英次が返事をする間もなく、伊藤は英次の向かいに座り、
雑巾を奪いとってボールを拭き始めた。
「伊藤先輩、いいっすよそんな!俺の仕事ですから!」
「ううん、あたしやる。今日、スゴク迷惑かけたから……」
2人共ぼっと顔を赤くする。
「め、迷惑なんて……俺こそ、その、失礼してしまって……」
「わたしが悪いの。あんな格好してるのに呼んだりして、手伝わせて。
びっくり、したよね。……ごめんね……」