「伊藤のぞみ、かぁ……」  
 
翌日の授業中。英次はぼんやりと昨日の事を思い返していた。  
昨日、のぞみに手伝ってもらい、全てのボールを拭き終えた後  
2人はバス停までいっしょに帰った。  
 
その間の会話でわかったことは  
 
・ロッカーは、着替え中にズボンが足にからまって  
 ひっくり返ったときに、お尻があたって倒してしまったこと  
・普段からトロくさくてしょっちゅう何かしら壊していること  
・バスケ部には背の高さを買われて勧誘されて入ったこと  
・でも気弱なので今ひとつ活躍できないでいること  
 
それから……  
 
・大柄なことをとても気にしていること  
(“フトッチョ”と彼女は言った)  
・「見られたこと」より「みせちゃった」ことをすまなく思っていること  
(何故!)  
・2年生になったので、後輩には先輩らしくしなきゃと思っていること  
 
こんな感じだ。  
 
「あの顔で“練習、頑張るんだぞ!”なんて言われてもなぁ……」  
 
最初こそベソをかきながら謝っていたものの、  
やがて英次に気を許したのぞみは笑顔をとりもどし  
いくつか可愛い“姉貴風”を吹かせて見せた。  
英次は大人しく聞いているふりをしていたが、  
その実、短いスカートから悩ましくちらちら見える白い内股に  
(何せしゃがんでボールを拭いているので)  
目をやらないようするのに必死だった。  
 
(困った先輩だなぁ……)  
 
ため息をついて、机の上に頬杖をつく。  
脳裏に、去り際ののぞみの笑顔がうかんだ。  
「じゃ、気をつけて帰るんだぞ!」なんて。  
えへっと笑って、手を上げて。  
 
(……可愛いけど……)  
 
「何、にやけてる!近藤!!」  
いつのまにか傍に来ていた教師が、ぱこんと英次の頭をはたいた。  
 
 
それから暫くして  
インハイ予選が終わった頃のことだった。  
 
英次は、同じ1年の水前寺と榎本の仲がうまくいかないのを  
気にして、2人を話し合わせようとセッティングしてみた。  
それは思わぬことに、マネージャーの杏崎や自分の兄まで登場しての  
派手な修羅場となったが、2人の溝は埋まらなかった。  
あまつさえ兄に中学時代の悲惨な思い出を持ち出されて  
英次は落ち込んでしまった。  
 
『他人のことなんて心配して友達ごっこしてんじゃねえよ』  
『だから野球部の時もレギュラーとれなかったんだろーが』  
 
(友達ごっこって言われても……友達なんだから仕方ないし……)  
停留所でバスを待ちながら、英次はしょんぼりと肩を落とした。  
昔のことが思い出され、思考がどんどんマイナスになっていく。  
(どうしていつもこうなんだろ、俺……どんくさいっつか……)  
 
と。  
後ろから、呑気そうな明るい声がかかった。  
 
「あれあれ?なんだか元気がないですよぉ!」  
 
それこそどんくさそうな、にこにこ顔で立っていたのは  
伊藤のぞみだった。  
 
バス停の近くの公園で、英次はぽつぽつと先程あった事を話した。  
のぞみは真剣な顔で頷きながら、黙って聞いていた。  
「……そんな感じで……」  
話しながら、英次は予期せずふと胸がつまって  
言葉を途切らせてしまった。  
 
自分なりに頑張ったつもりだった。  
今回も、中学時代の、あの時だって。  
 
のぞみは黙り込んだ英次をしばらく見守っていたが、  
「私、ちょっとジュース買ってくるね!」  
と、立ち上がってどこかへ行ってしまった。  
英次はその隙に慌てて服の袖で涙をぬぐった。  
 
(うわ〜俺、かっこ悪い……)  
 
やがて、のぞみはジュースの缶をふたつ持って戻り、  
そのうちひとつのプルタブを開け……ようとして  
うまくいかず、見かねた英次が受け取って開けた。  
のぞみが選んできたのは、復刻堂のミルクセーキ。  
(なんかまた変わったモン買ってきたんだナァ……)  
そう思いながら口をつけると、優しく甘い味が舌に広がった。  
そして同時に、シャンプーの匂いがふわっとして  
英次の前頭部に何か、やわらかいものが、触れた。  
 
「こんどうくんは、やさしい、いいこ」  
 

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