幾千のゾンビに占拠され、腐臭と呻きに満ちたショッピングモール内−−唯一、ゾンビの侵入を免れているトイレの手洗い場。  
 顔面蒼白になって、蛇口を全開にした水道に手首を打たせている女の姿があった。  
 女は既に一時間以上も前からそうやって手首の傷を−−ゾンビに噛まれた傷を、洗い続けている。  
 ゾンビに噛まれた者はゾンビになる、それは今や誰もが知っていることであり、実際、誰もがそうやってゾンビになっていった。  
 アウトブレイクが起きてから既に24時間、逃げ回る中で何度もその光景を、誕生の瞬間を見てきた。それを見る度、絶対に逃げ切るという決意を新たにしてきたはずだった。  
 しかし−−  
 顔を上げ、目の前の大鏡を見る。  
 もう、始まっていた。  
 もとは血色の良い肌色だった皮ふから血の気が失せ、代わりに目玉の充血がひどくなっている。  
 どんなに頑張っても、うすく開いたままになった唇を閉じることができない。口の端から、うっすらと朱の混じった涎が一筋こぼれていく。  
 そうしている内にも肌の色はますます白くなり、色白と呼ぶにはあまりに不健康な色合いを帯びたものに変わっていくのがハッキリと見てとれた。  
 (私、ゾンビになって、いく……)  
 思わず、悲鳴と絶叫が喉から飛び出しそうになる−−が、突如として聞こえ始めた銃声に、それは不発に終わった。  
 マシンガンの音が、いくつもの硬質な足音がモール内を駆けて、どんどん近付いてきている。  
 呻き声が、肉の弾ける音が、肉が床に叩きつけられ、踏み潰される音が、迫ってきている。  
 逃げなくては、隠れなくては−−頭ではわかっているのだが、身体が動かない。  
 下に目を向けると、脚が震え、ブーツのヒールが左右に揺れて床をカツカツと慣らしている。  
 ミニスカートから半分以上露出している太もももまた、むちむちとしたハリを残したままに不健康な色白肌に変わっていた。  
 銃声が止んだ。  
 モールからこのトイレへと続く廊下を、硬質な足音が一気に、何人分も、駆け抜けてくる。  
 そして、彼ら−−ゾンビ殲滅のためにやってきた特殊部隊隊員たちは、すぐに女の前に現れた。と同時に、四つの銃口が女を捉えた。  
 (まっ、待って、私は……)  
「あ、ぅ、ぅ゛……」  
 もはや声すらも出なくなっていた。  
「うぅ、ぅ゛ぅ゛……」  
 懸命に喋ろうとしてみるものの、頑張って力むほどにその声は不気味に、低い呻きになっていく。  
 
 もう駄目だ、殺される−−そう覚悟を決めたのと、隊員らが銃を下ろしたのとはほぼ同時だった。  
 先頭に立つ隊員がミリタリーベストのポケットに手を入れて中身をまさぐりつつ女に歩み寄り、取りだしたボールギャグを半開きのその口に素早くかける。  
「むっぅ゛…??」  
 さらには女の腕を背中に回させ、慣れた手つきでその手首に手錠をかけてしまうと、その場で乱暴に仰向けに押し倒した。  
「口さえ封じちまえばただの肉便器だぜ」  
 女は床に後頭部を強打するが痛みはなく、目玉が少し飛び出しそうな感覚に見舞われただけだった。  
「ふっぐ、ぅ゛ぅ゛……」  
 また別の二人の隊員が女の両脚の内側、ブーツのかかと付近にそれぞれ片足を入れて、脚を大股に拡げたままにさせる。  
 これが典型的な強姦の現場であることは誰が見ても明らかであり、同時に、あり得ないことでもあった。  
 (この人たち、いったい何を……?)  
 胸の脇にしゃがんだ隊員がノースリーブの裾に手をかけ、まくり上げ、へそが露出するに至っても、女にはまだ理解できない。  
 ゾンビをレイプするなどということがあるはずがない−−しかし服はあっさりと首元までたくし上げられ、今や胸元が完全に露わになっている。  
 もともと大きめだった乳房はなぜか微妙に膨らんでいて、白いブラと共にはち切れんばかりになっていた。  
 女が思わず首を左右に振ると、隊員たちは一斉に声を上げて笑った。  
「この女、ゾンビのくせにいっちょまえにイヤがってやがる」  
「面白ぇじゃねぇか、早く始めようぜ」  
 隊員はアーミーナイフを女の胸元に近づけ、その先端でブラのフロントを破壊した。やはり、慣れた手つきで。  
 パンパンになっていたブラのカップは手で除ける必要もなく左右にずれ落ちていき、むちむちに張った白い乳房が一度ぷるんと波打った。  
「大当たりだ」  
「ヤった後で殺しちまうのが惜しいぐらいだな」  
 隊員はグローブを外し、乳房を下から寄せ上げるように揉み始める。  
「ゾンビはいくらでもいるんだ、惜しいこたぁねぇさ」  
 指を肉に沈め、やや硬くさえも感じられるハリを楽しみつつ、指先を乳首へと近づけていく−−蒼白だった女の頬にわずかな朱が戻ると共に、全身がぷるぷると震えた。  
「むぅ、ふぐぅ゛ん゛っぅ……!」  
「おいおい、こいつ、感じてやがんのかよ!」  
「こいつはすげぇ、早く俺にもやらせろよ−−」  
 別の隊員が手を伸ばして一方の乳房を奪い、こちらは真剣に愛撫をするように丁寧に責め始めた。  
 血の気を失った乳房の上、薄い桃色の乳首が勃起を始めていき、またしても嘲笑を誘う。  
 白目を剥き始めた両の目で天井の一点をただ見つめながら、女はその目尻に赤混じりの透明な涙を浮かべていた。  
 
(おわり  
 
 

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