そうっと、そうっと。  
壊さないように、崩さないように。  
大切な大切な宝物を。  
そうっとそうっと抱きしめる。  
 
 
それが、泡沫の夢だと知っているのにー・・・。  
 
「どうしたの朝倉?」  
「ん、あ、いやな」  
 
自分の隣にいる恋人の訝しげな顔に苦笑し、純一は夢想から還ってくる。まさかデート中に別の少女のことを想っていたなんて、言えるはずない。  
 
「ちぃっと眠みぃなってな・・・・」  
「また徹夜?最近多いわよね?」  
「悩み事でな」  
 
 
はぁ、とわざとらしくため息をつく純一。  
眞子は呆れたかのように顔を歪め・・笑った。  
 
 
「やっぱり私には相談してくれないんだね?」  
 
 
分かっている。  
分かっているんだ。  
これは所詮「ごっこ」。本気とは程遠い、虚実。リアルになりきらない、フェイクだと。  
だけど、だけど。  
 
 
貴方を想う気持ちは、世界の誰より大きく、醜いってことも分かってる。  
 
かけがえのないこと刹那(とき)を、そうっとそうっと、壊さないように抱きしめて・・・・ー。  
 
「じゃあな、また明日」「そうね、今日はここまで。また明日から宜しくね?」  
 
 
十字路で眞子と別れる瞬間、純一は酷く安心した。  
今日も眞子を騙し続けることが出来たと。  
そして酷く後悔した。  
 
 
ーまた、まただ。真実を告げることなく、イタズラに時を過ごしてしまったー  
 
 
その後悔は、回数にして十を越える回数。  
しかし、純一には真実を言い出すことが躊躇われた。  
その、優しさ故に。  
 

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