よく晴れた、日曜の昼下がり。  
 
ピ──ンポ────ン……  
白河邸に、チャイムの音が鳴り、  
『白河さーん、お届け物でぇーっす……』  
宅配便の男の声が、インターフォン越しに響く。  
「は、は、はいぃっ。た、只今」  
その声を聞いたことりは、まるで発条仕掛けの人形かなにかのような足取りで、玄関に向かっていった。  
 
「ハイ、こちら代金引換で、8,800円になります」  
「あ、は、はい。……きゅ、きゅう、9,000円で……いいです……か?」  
「……ああ、ハイ。では200円のお返しになります。どうも、ありがとうございましたーっ」  
仕事を終えた男はことりに小包を渡すと白河邸をさっさと出て行き、やがてドアの向こうから、トラックが走り去っていく音が聞こえた。  
 
「…………」  
ことりは一人、手に抱えた小包を凝視したまま、未だ玄関に佇んでいる。  
「買っちゃった…………」  
自分でも信じられないような動悸を抱え、ことりはそう呟く。  
「…………」  
ことりは、改めて今自宅に誰もいないことを確かめると、小包をしっかとその小脇に抱えたまま、一目散に自室へと飛び込んでいった。  
小包に貼られた伝票の『お届け先』の欄には、『白河 暦』と書かれている。  
しかし白河暦本人は、この小包のことは知らない。  
 
自室に舞い戻ったことりは、抱えていた小包の封を、何も考えまいとして一気に破き取っていく。  
そして現れた、小さな筺を開けると、  
「…………!!!!!?」  
 
そこには、一本の張型が。  
本物と遜色ない形と大きさの、一本のピンク色の張型が、丁寧に収められていた。  
「これが……………………っ!!?」  
 
ことりが“これ”の購入を決めたのには理由がある。  
話は数ヶ月前に遡る。ことりが推薦で合格した大学を、  
『よし、俺もそこに入るぞ!』  
と、ことりと恋仲である純一が志望したのである。  
『でもここ、偏差値高いんだな……よし、本腰入れて勉強しなきゃな』  
そうして純一は、猛勉強を開始した。その様子は、常より『かったるい』と、何事も億劫がるそれまでの純一からは想像も付かないほどに真摯で熱心であり、事実それが功を奏しているのか、本人の成績はメキメキと上がっている。  
しかしその所為で、二人の逢瀬の時間がめっきり減ってしまったことが、ことりにはどうしても不満であった。  
来年、二人同じキャンパスでいられるのは楽しいだろうなと思うし、今の純一の頑張りが二人の、ことりのためを想ってのことであり、それは恋人冥利に尽き非常に嬉しい ということは、ことりも十分に承知している。  
だがしかし、やっぱりその所為で、一時はほぼ毎日であった二人の逢瀬の時間がめっきり減ってしまったことが、ことりにはどうしても、どうしても不満であった。  
 
「……」  
だからといってこれを買うという行動に出る自分は、罵迦以外の何者でもないな と、ことりは自己嫌悪したが、かといってキャンセルの電話を入れる気にもなれないでいた。  
そうこうしているうちに、“これ”は届いたのである。  
「…………」  
先程よりも勢いを増した動悸を引きずりながら、ことりは恐る恐る、それに手を伸ばしていた。  
 
引っ付いていた説明書には『ここに単三電池を入れスイッチを入れて下さい』程度のことしか書かれていない。  
「これ、かな……」  
ことりはその説明書の指示通り、付属されていた単三電池を指定場所に入れ、スイッチを入れてみる。するとそれは、  
 
ヴォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛────……  
 
という、如何とも喩えがたい音で、激しく振動した。  
「うぉわ!!!???」  
その挙動にことりは肝を潰し、手にしていたそれを思わず放り投げていた。放り投げられたそれはカーペットの上で、相変わらず異様な振動音を響かせながら蠢いている。  
「…………ハァ、フゥ……」  
ことりは息を整え、辛うじて落ち着きを取り戻すと、目の前で未だ呻くそれに目を見やる。  
「……朝倉くんのは……あんな動き、してた、かなあ…………?」  
 
 
落ち着いて色々いじってみて、その振動はスイッチで、『大』と『小』に加減できることを知った。  
『小』にしてみるとそれは、  
 
ヴ────ン……  
 
と、先程よりはいくらか静かに、その身を震わせた。  
「……まあ、初めは、このくらいから…………」  
ことりはそう呟いて、静かに身揺らすそれを眺める。  
使い方は、言われずとも解る。解るからこそ、これを買ったのだ。こんな振動を伴うというのは少し意外だったが、元々そういうものなんだと思えば、大して問題はあるまい。  
 
「…………」  
ことりは意を決して、穿いていたスカートを少し捲って、手にした張型をその奥へ触れさせようとした────  
 
プルルルルルル────……  
 
「ひいぃっ!!!!??」  
────その刹那、ことりの携帯電話が、けたたましく鳴り響いた。  
 
 
「あ、な、なんだ、携帯かあ……」  
落ち着きを取り戻し、状況を理解したことりは、携帯を手に取る。そのサブディスプレーには、【朝倉くん】の四文字が並んでいた。  
「ん!? な、なんだろう……?」  
近頃はことりの方からメールを送るばっかりで、純一からコンタクトを取ってくるなんてことは皆無に等しかった。それも偏に、純一が勉強ばかりしているからである。  
それ故に、今こうして純一が電話をかけてくれたことがことりには非常に嬉しかったし、  
「こ、こんなの、か、隠さなきゃあ……!!」  
今のこの状況が、非常に恥ずかしかったりもした。  
 
張型を机の引き出しに仕舞いこみ、やっとことりは電話に出た。  
「も、もしもし?」  
『……あ、もしもし? 俺だよオレオレ、俺だけどさあ……』  
「う、うん、判ってるよ、朝倉くんでしょ?」  
『あっ……ああ、そうだけど……どうしたんだことり? なんか様子がおかしいぞ?』  
「う、うん……いやあのね、柱に小指ぶつけちゃって……」  
『うわぁ、痛そう……大丈夫なのか?』  
「う、うん、今は平気っす…………で、な、何?」  
久々の恋人同士の電話なのであるから、もっと堂々と、喜々として応じればいいのに、この状況下の所為か、どうしても落ち着いていることが出来ない。  
『あのさ、ちょっとことりに教えて欲しいことがあるんだけど……』  
「え?」  
『数学なんだけど、ちょっと、……あー、どう言やいいんだろ……』  
「あ、ちょっと待って。今、教科書出してくるね」  
そう言ってことりが数学の教科書を出そうと、立ち上がって本棚に手を伸ばそうとしたその時、  
『ねえ見て兄さん。“瞬間記憶”で飛行機級が出たよ……』  
「……!?」  
携帯の向こうからことりの耳に、よく聞き慣れた、しかし今この場で聞こえるはずのない声が聞こえてきた。  
 
『おー、すげえじゃん。俺数字が七つくらいになったら、もうワケわかんねえのに』  
『えへへ……でも兄さん、“人数数え”は得意じゃない。パーフェクト出せるんでしょう?』  
『あんなんコツ掴んだら楽勝だって……って、今電話してっから後でな……』  
『えー……』  
ゲームかなにかの話であろうか、向こうから聞こえてくるそのやりとりは、とても和気藹々としている。その一部始終を聞いていたことりは、携帯を掴む力を知らず知らずに強めていた。  
「朝倉くん」  
『……あ、ことり、ごめんごめん。それでさあ……』  
「音夢が、帰ってきてるの?」  
 
そう。島外の看護学校に通っているはずの音夢が、今この場にいるはずはないのだ。  
『兄さん、白河さんと電話してるの?』  
『……あ、おい、ちょっと黙ってろよ……あ、ああ。なんか暇が出来たみたいでさ……いや別に、変なことにはなってないぞ?』  
「わかってるよ……」  
純一の言うことは嘘ではないであろうことは、もう“能力”を無くした今のことりでも何となくではあるが解る。が、どうしても堪えきれないものが、ことりの内を支配していくのを抑えられない。  
『……こ、ことり?』  
「ね、朝倉くん。今から家に来ませんか? ちょうど今誰もいないし、お菓子もあるし…………」  
『え? え、でもさ、俺……』  
「直接の方が、多分詳しく教えてあげられると思うし……迷惑、かな?」  
『いや、そんなことはないけどさ……』  
「逢いたいよ」  
 
その一言で、先程まで不思議に治まっていたことりの胸の動悸が、また勢いを強めていった。  
 
────逢いたいよ。  
 
朝倉くんに今まで言いたくて言いたくて堪らなかったけど、その頑張る姿を見るたび言うのを躊躇われた言葉。  
『……』  
今恐らく本人は、当惑して固まっているのだろう。ただの女々しい我が侭に過ぎぬその言葉をついに言ってしまったことを、ことりは酷く悔いる。  
「ご、ごめんね。べ、勉強の邪魔っすよね。い、今のは忘れて────」  
『わかった。今から行くよ』  
「えっ!?」  
『兄さん、今から白河さんの家に行くの?』  
『だから黙ってろっておい……あぁごめんごめん。で、何時頃がいいかな?』  
「え……もう、何時でもいいよ。……出来るだけ早く来て」  
『OK。それじゃ、そっちで』  
 
通話が切れた。思いもしない、しかし待ち焦がれていた展開に、ことりは久しく忘れていた幸福感を覚える。  
「そだ、コーヒーでも淹れようっと……!!」  
そう言ってことりは机に向かい、先程張型を放り込んだ引き出しに鍵をかけ、開かなくなっているのを入念に確かめた後、軽い足取りで自室を出て行った。  
 
 
予想したより少し遅く、純一は白河邸にやってきた。  
「いらっしゃい、朝倉くん!」  
「あ、はい。お邪魔しまーっす……」  
「そんな、他人行儀にしないで下さいよ。前は毎日のように、お互いの家に泊まってたじゃないっすか」  
「ま、まあ、そうなんだけど……さ。一応、礼儀があるし」  
「フフフ……」  
ことりは快い気分だった。これくらいの会話なら、別に純一が猛勉強中であろうと無かろうと前から学校他で何度も、今でもしていることなのに、何故だか今は、とても心地いい。  
そんな会話を続けながら、ことりは純一を自室に通し、先程少し温め直したコーヒーを、かなり前から用意していた二人分のコーヒーカップに注ぐ。  
「あ、すげえいい香り。これ、結構いい奴じゃない?」  
「うん、よくわかんない。お姉ちゃんのをくすねてきたから……」  
「えーっ!? まあことりさん、あなたってばいつからそんな悪い子になってしまわれたのでしょう」  
「朝倉くんの所為かな。事実これを朝倉くんが一口でも飲んだら、私と朝倉くんは共犯っすからね」  
「えーっ!? そりゃ無いっすよォご隠居……ハハハ…………」  
「フフフ……」  
なんだかんだ言いながら淹れられたコーヒーを美味しそうに啜る純一に微笑みながら、ことりはこうして純一と共有しているこの時間を全身で愉しんでいた。  
「……(あんなもの、買う必要なかったんだ……)」  
「ん、ことり、何か言った?」  
「え、いえいえ何も?…………あ、そうだ、お菓子忘れてた」  
「いいよ、別にそこまでして貰わなくても」  
「私が駄目っす。第一お菓子がある って言って、朝倉くんを誘ったんですから」  
「そんな、それじゃあ、俺がお菓子で釣られたみてえじゃんか……ハハハ」  
「フフフ、違うんですかぁ? すぐ取ってきますから、ちょっと待ってて下さいね……」  
そう言ってことりは足早に台所へ向かうと、先程のコーヒー豆をもとあった場所に戻し、  
「あれ、ココナツサブレがない……じゃ、これでいいや」  
今度はそこから、暦が秘蔵しているクッキーの缶を手に取った。  
 
「お待たせ、朝倉くん!」  
ことりは屈託のない満面の笑顔で、自室に舞い戻ってきた。  
「……あ、ことり…………」  
しかし出迎える純一の表情は、一応、笑顔であったが、どことなく翳が見てとれる。  
「どうしたの……?」  
「なあ、ことり……これ、ナニ?」  
未だ状況が掴めず、半笑いのままで困惑することりに、純一は、先程まで手に持っていた紙切れを差し出した。  
 
「………………あ、そ、そそそれは…………………………!!」  
ことりは手にしていたクッキーの缶を落とす。中身は飛び散り、クッキーは無惨に割れていく。  
純一から差し出されたその紙切れは、少し読んで放置したままでいた、張型の説明書であった。  
 
 
「なんか、隅っこに落ちてたのを、なんだろ って拾ったんだけど……これ、あの…………バ、イブの……だよ、ね」  
「あ、あの、それ、それは……ね」  
「これ……持ってる、の?」  
「………………うん、…………で、でもまだ使ったことはないの……!」  
「……」  
「ああと一応、使われたこともないよ…………!?」  
「……え? ……まいいか。でさ、これ…………どうしたの?」  
「ど、どうした、って……?」  
「どこで、どうやって……」  
「買った、の…………通販で」  
「通販……」  
「8,000円……だった、で、送料が800円でね…………だから合計8,800円で、9,000円だして200円お釣りだったの……で、10,000円以上買うと送料無料らしいんだけど、これ以上買うものなんて無いから………………」  
「……え?」  
「ああ、あ、あ、何言ってんだろ私、あわわ、と、とにかくあのその…………」  
 
暫くの静寂の後、ことりは俯くと、床に零すように呟く。  
「寂しかった、の…………」  
「……」  
 
先程に引き続き、また、言うまいとしていた我が侭を漏らしてしまった。  
どうしてこうも、自分には自制心がないのであろう。頑張っている朝倉くんの足を引っ張るようなことを言ってしまうのであろう。  
ことりは、今すぐ消えて無くなりたい気分になった。  
 
「ごめんね、私、ただの罵迦ですよね」  
「……」  
「そもそも朝倉くんは真面目に頑張ってるんだから、私は多少寂しいのなんて、我慢しなくちゃいけないのに……」  
「……」  
「自分でも罵迦みたいとしか思えないの。いくら寂しいからこんなん買った なんて、朝倉くんからしたら、凄く気分が悪いっすよね……」  
「なあ、ことり」  
俯いたままのことりの呟きを、無言でじっと聞いていた純一が、唐突に言葉を返した。  
「……?」  
「俺、毎日勉強やって、脳のトレーニングの奴もやってんだけど……やっぱ俺まだまだ罵迦だな。今何が起こってんのか、さっぱりわかんねえ」  
「そ、そんな。罵迦なのは……」  
「ほんと、俺って罵迦、ッつうか間抜けだわ……」  
そう言うと純一は、力無く項垂れていたことりの肩を、その正面から優しく、確かに抱く。  
「え……?」  
「大好きなことりが、こんなに寂しがってんのに、今の今まで気づいてやれなかったんだからな……」  
「…………!!」  
「本当に謝んなきゃいけないのは、俺の方だ。ごめんな、ことり」  
 
ことりは堪らず、眼前に開かれた純一の胸にその身を預ける。その内は、かつて毎日のように逢瀬を重ねていたあの日の頃と、何ら変わらぬ温もりを擁していた。  
「ごめんね、ごめんね朝倉くん…………でもね、でもね……」  
「でも……?」  
「寂しかった……寂しかったよ…………」  
「ああ……ほんとごめんな、ことり…………」  
 
そうして暫くの間二人は、互いの身を寄せ合っていた。  
 
 
「でさ、ことり……」  
「…………はい?」  
「その、8,000円のそれ……どうすんの?」  
「うん……一人じゃ……使えそうにないっす…………なんか、怖くて」  
「で……」  
「……」  
「……使ってみよっか」  
「……ハイ…………」  
 
もしかしたら、無意識に自分はこういうのを望んでいたのかな と、ことりは己を訝しんだ。  
 
 
ことりは引き出しの鍵を開け、放り込んでいた張型を純一に見せる。  
「これが……初めて見た」  
「……あ、そこにスイッチあるから気を付けてね。スイッチ入っちゃうと、変な動きし出すから……」  
「ああ、それは知ってる」  
「……!?」  
「あ、ああ、知識だけだぞ? ホンマモンを見たのはホント、これが初めてだから」  
そして純一は引き出しからそれを手に取り、ことりの方に目を見やる。ことりはいつの間にやら、既にベッドの方で、俯き加減に腰掛けていた。  
「……あ、朝倉くん……」  
「……んじゃあ、脱いで」  
「う、うん」  
そう言われてことりは、──“あれ”を試す、というのに緊張しているのか──幾分かぎこちない動きで、ブラウスのボタンを外し始める。  
もう床を共にしたことなど数知れないというのに、服を脱ぐという行為にさえもこんなに初々しい仕草を垣間見られたことに、純一は愛おしさと、いくつか悪戯心を覚えた。  
「待った」  
既にブラジャーを外し、ショーツに手をかけていたことりを、純一は制止した。  
「…………えっ?」  
「そのままでいいよ」  
そう言って純一はことりをベッドに寝かせると、  
「じゃ、行くよ」  
「え……え? ど、どうやって??」  
当惑することりの疑問には答えぬまま、その穿かせたままのショーツの上から、微動するそれを這わせるように当てた。  
 
「ひゃっぁ…………!?」  
その、秘部を小刻みにこねくり回されるような感覚に、ことりは手を口に当てて喫驚した。  
「なあことり、これ、ローションとか、付いてなかったんだろ?」  
「ろ、ローション? 何、それ?」  
「やっぱりな……ほら、本物と同じで、いきなり突っ込んじゃったら痛くなっちゃうぜ、こういうのは」  
「ハァ……そう、っすね…………」  
「な。だから」  
その続きを言わぬまま、純一はそれで、ことりのあそこを薄衣越しに撫で転がし続けていく。  
「ひゃ、は、ふゎ…………や、やぁ」  
ことりはその感触に素直な吐息を諳んじ、吐息の熱を強めていく。そしてこれから起こりうるであろう出来事を思い、抑えきれない律動に打ち震えた。  
「どうことり、気持ちいい?」  
しかし当の、愛撫を続ける純一は、未だことりのショーツに手を伸ばす仕草すら見せず、未だ張型をその上から添わせるのみである。いつになく意地悪な純一に、ことりは言いようのない感情を覚え始めた。  
「や……止めてよ…………ぉ。く、くすぐったい……!」  
「ことりさん、俺は気持ちいいかどうか聞いてるんだけどな」  
そう言う純一の表情は、悪戯心に充ち満ちていて無垢さすら感じられる。ことりはそんな純一に観念すると、快楽と気恥ずかしさをぐっと堪え、  
「焦らさ、ないで、よぉ……!! 何でそんな、勿体ぶる真似、するんすかぁ……ッッ!」  
と、震わせた声で鳴いた。  
「言ったろ。いきなり入れたら痛いだろうから、こうやって擽って、ことりのあそこを湿らせよう……って思ったんだけど」  
「いいよ、痛くったって……ね、だから、もう焦らさないで…………!」  
「でことり、気持ちよかった?」  
「……………………うん……だから、もっと、欲しい……から、ね」  
「欲張りだな、ことりは。いつからそんな娘になったんだ?」  
「……朝倉くんの所為だよっ…………!!」  
 
「そんじゃ、リクエストにお応えして…………」  
そうして純一は、ことりのショーツに手をかけた。ことりは大人しく腰を持ち上げて、純一の為すがままになる。  
露わになったことりの秘裂は、先程の愛撫が功を奏したか、巣で餌を強請る雛鳥の嬌声の如く雌臭を放って、純一に息を飲ませた。  
「…………ぅ」  
途端にことりも気恥ずかしくなり、顔を両手で覆う。別に全裸そのものは幾度と純一に晒してしまっている以上特に恥ずかしくはないが、今これから眼前で、己が身に為されることを思うと、気が気ではいられないのである。  
「んじゃ、いくよ……痛かったら言ってな」  
こちらも緊張しているのか、純一の声も少し震え気味である。そして、その純一の言葉にことりが微かに頷くのを確認すると純一は、振動を止められた張型を、涎を零して闖入を心待ちにしているそこへ、少しずつ押し入れていった。  
「んぅ……!」  
ことりは、微かに声を漏らす。思っていたほどの衝撃はなかったものの、その感覚はやはり、全身や脳天に痙攣をもたらす類のものであった。  
「どう……ことり、大丈夫? 痛くない?」  
「うん、大丈夫、平気……気持ちいいよ」  
ことりのその一言に純一は安堵し、次の段階に移行することを決める。スイッチを切られていた張型の振動を再開させ、自らの陽物を挿入れた時のように、持った手でそれを動かしていく。  
「っああ……!!」  
その動きに、ことりは即座に息を荒げ、全身をうねらせる。その反応はまさしく、純一に男根を挿入れられた時のものに相違なかった。  
 
その反応に、純一の平常心は掻き消えた。この手の刺激に未だ慣れも飽きも見せないことりを、無性に愛おしく想い、また一種の加虐心、いや破壊衝動にも近い感情を覚えもする。  
「強めるぞ、いいな」  
「え、う、うん……」  
そして純一は、それの振動を『強』にし、持った手の出し挿入れする動きを、一心不乱と喩えていいほどに速める。そして空いた手でことりの胸を、揉んだり、捏ねたり、先端を抓ったりした。  
「っぁあ!? そ、そんな急に、止め……っあゃあ!!!」  
襲い来る刺激が急増したことに、堪らずことりは純一の頭を抑えて、抵抗しようとする。しかしその手に力など無く、また純一の方も容赦する気配はない。  
「とか何とか言って、感じてる……ことり、可愛いよ……」  
「えほんと……で、でも駄目、おかしくなる、変になるよぉ……!!」  
「気持ちいいからだろ? ならいいじゃんか、もっとおかしくなっていいよ……!」  
「うん、気持ちいいよ、すっごいよぉぅ……あぁあ、ぅはぁあん……!!!!」  
ことりの躰は、もたらされ続ける快楽を抱えきれず、当のことり本人も信じられないほどにその身を震わせ、蠢いた。  
純一は愛撫を続けながら、そのうねりを抑えようとするが、どうにもそれはままならない。  
「今度やる時には、ことりが身動ぎできないようにしとかなきゃなあ……」  
「っあ、ひゃぅあ……え、そ、それって…………そういうこと、したい、の……?」  
「そうじゃねえけど……いや、ことりがしたいって言うんなら、及ばずながらお手伝いしますけど?」  
「そんなこと、んもう…………ぅあん……」  
言葉も漫ろにせざるをえぬほどに、その身を蝕んで止まること無い快楽の潮流。羞恥心も背徳感も、全ては快楽を勢いづかせる発破となり、ことりの躰を苛み続けていく。  
「も、もう、駄目……ぃや、っふあ────────っっ!!」  
それはやがて、ことりを幸福と呼んで然るべき感覚で、屈服させた。  
 
純一は、ことりの状況の変化を即座に察する。張型を動かす手を止め、スイッチを切り、蜜に溢れたことりの下口から引き抜く。シーツには、大きな染みが出来ていた。  
「ことり……イッた?」  
「…………うん」  
純一が手を休めたことにことりは驚き、また微少に不満を覚えたが、口には出さない。  
「それはよかった。いい買い物したじゃんか、ことり」  
「へ、変なこと言わないで……」  
「でもショックだな」  
「えっ!? な、何で? 私、そんなにおかしくなってた!?」  
「そうじゃなくてさ」  
そう言って、純一は張型を、ことりの目に届く高さに掲げる。テラテラと部屋の灯りで輝くそれは、ことりに忘れていた羞恥を思い出させた。  
「別に俺じゃなくても、ことりはこれ一本あれば大満足なんかな と思うわけ」  
「そ、そんなこと、絶対無いよ……! そんなそこまで私、いやらしい女じゃ……」  
「どうかなあ。その割には凄い乱れようだったじゃありませんか」  
「い、意地悪……!!」  
ことりは、純一を睨む。純一が何を言いたいかは、心の奥を読めないことりでも十分理解できていた。  
「……!」  
要するに朝倉くんは、自分を差し置いて一人で大悦びしていた私が、許せないのだ。  
「意地悪は、Hの時だけにしてよ……」  
そう言って純一を見つめることりの瞳は、透いた光で覆われている。それは先程の余韻によるもののみではないことは、流石の純一も解せたし、何よりそんなことりが非常に愛おしく、欲しくて堪らなかった。  
「じゃ、お疲れのところ悪いけど……いい?」  
「うん……実はね、やっぱり偽物は少し違うな って思ってたの…………」  
純一は何も返さず、ズボンの前から、先からずっといきり立っていたものを引っ張り出す。無論その状態も、ことりはとうの前から知っていた。  
 
そしてそれは息つく間もなく、ことりの内に叩き込まれる。先ので十分すぎるほどに熱と涎を漏らしたそこは、純一のそれを拒むどころか寧ろ歓迎するかのように、それを膣中へ引き入れていった。  
「っい…………!」  
「ッあ、熱い……!」  
しかし純一は臆することなく、その膣中を駆け回り始める。しかし熱い。かつてことりと間を置かず複数回ことに至ったことは幾度かあったが、その時もここまでの焦熱に塗れていたことはなかった。  
「っす、凄いな……灼け切れそ……」  
「っはあ、そんな、朝倉……くんの、も……」  
「どうして、かな? 久しぶりだから……? それともさっきの、そんなによかった……?」  
「ま、また意地悪ぅ……! あんあ、はぁ…………んぶ、だよ……」  
「えっ……え?」  
「全部だよぅっ!!」  
そう言い放ちながら、ことりはまた、躰をうねらせる。しかし今度は、純一がその身を寄せてことりを押さえつけて、身動ぎが出来ないようにした。  
「あぅあ、朝倉くんっ……!!」  
堪らず、ことりは間近の純一の躰にしがみつく。  
「離さない、から、離さないで……ッッ!!」  
「あぁ、ことりがイヤ って言ったッて離さない……ことり、ことりィ…っ!」  
純一はそうことりを宥めつつ、純一の陽物は激しく滾らせて、休むことなくことりを穢していく。  
ことりの方も、純一の陽物を飽きることなく絞り上げ、一心不乱に貪り喰らい続けた。  
「ふぁ、朝倉くんぅ……だ、大好き、大好きいぃ、いい、いい…………!」  
「そんなに、いい? あれと俺、どっちがいい……?」  
「こ、こっちがいい、朝倉くんがいいょう……!」  
正味な話、今のことりに人の言葉を解する余裕など無い。全神経が、悦びに耽ることを望んでいるのだ。  
「っは、ぁ、ことり…………っ!!」  
そしてそれは、純一も同じであった。  
 
しかし限界は、二人の意志とは関係なく、唐突に訪れる。  
「こと、りぃ……俺、俺…………っかぁ」  
「だ、だめ、離しちゃだめ……!! いいから、だめぇっ!!!」  
だがお互い、その身を離そうとはしない。  
「ことり、膣中に……けど…………いい、な……?」  
「いいよ、いいよ……寧ろお願い…………だから、だからっ」  
「ああ、絶対離さない。ことりは俺のもんだしなっ…………!」  
「そ、そ……私のものなのぉ……あ、ふ、あああ────────ッ!!」  
「ことりぃィ────……ッはぁ!!」  
 
そうして果てた二人の唯一の不満が、続ける体力が、もうこの身に残ってないことであった。  
 
 
「ごめんね、朝倉くん」  
ようやく二人の息が整ってきた頃に、ことりが純一に話しかける。  
「ん?」  
「朝倉くんを『勉強しよう』って家に呼んだのに、こういうことにさせちゃって……」  
「いいよ……実際今日はいい勉強させて貰いましたっすわ」  
「え、それどういう意味っすか……フフフ…………」  
かつてと何ら変わりない、夜枷後の穏やかなやりとりに、ことりは安堵感を覚えた。  
「ハハハ……でも寂しがらせたのはマジごめんな。これからは……」  
「ううん、気にしなくていいよ。朝倉くんは勉強頑張って。私は応援してる」  
「えっ……」  
そう。二人の愛は如何に時を挟もうとも確かなものであることを、ことりは今日確信したのだ。  
「もう少ししたら、電話で言ってたとこしましょう……来年は私達、同じキャンパスにいるんでしょ?」  
「……ああ!」  
 
寂しがる必要なんか無い。  
確かな絆に護られた仲に、不安要素などあるはずはないのだから。  
 
了  
 
 
 
 
「でも、8,000円も使わせちゃったのは悪いな。俺がなんとか工面するよ……」  
「そんな、いいっすよ。私が勝手に買ったものだし」  
「でもさ……」  
「…………ね、それなら代わりに、おねだりしていいかな?」  
「ン、何?」  
「……朝倉くんの、名字が……欲しいな」  
「はは、そんなモン貰ってどうすんの……………………えっ!!??」  
「ね、いいでしょ? “純一”くん?」  
 

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