純一たちが本校に進学して、数日。
幾らかの出会いなどはあったものの、純一は未だ彼女を持たない身だった。
「勿体無いよな」
「そうだな。貴様は貴様の意志でハーレムを築くことも出来ると言うのに」
「黙れ阿呆が」
何の因果か・・・また杉並と同じクラスになった純一は、破廉恥極まりない発言をする杉並にツッコむ。
やりなれたせいか、手首の返しはプロそのものだ。
「大体だ。俺を好きなんて言う奇特なやつはいないだろうが・・・」
「・・・すげぇな朝倉。お前白河さんのファンに殺されるぞ?」
「・・・クク、やはり貴様はMy同志朝倉だ」
どこか哀れむような眼で見てくる工藤と、何か企んでるのであろう杉並の顔を見た瞬間。
「彼女なんて、かったりぃだけだしな」
純一は、そう呟いた。
「はい、あーんして下さい朝倉君♪」
「・・・いや視線が」
「何ですか?私が相手じゃ役不足っすか?」
ビシビシと殺気が飛んでくる。
眼を潤ませたことりを前に、純一は微かに嘆息をついた。
「何でことりは俺の弁当を作ってきたんだ?」
「愛する人に手料理を食べてもらうのは、女の幸せですから♪」
殺気がまとめて十数倍になる。
頼みの綱の悪友二人は傍観者に回っていた。
「愛するってな・・・冗談も程々に・・・」
「冗談じゃないっすよ?私朝倉君にゾッコンですから♪」
「・・・」
いっそお前を殺すと言う気配が純一にも解った。ここで初めて純一にもことりの苦労が解った気がした。
迫り来る箸。
はさんでいるのは、出汁巻き玉子。
ここに来て純一は、未だ何かの対抗策はないか思案していた。
この人生で、音夢の料理と言う名の終焉から逃げるためだけに働いていた脳をフル回転させて。
「覚悟してくださいね」「あ、俺学食で待ち合わせてたんだー。悪いなことりー(棒読み)」
脳が弾き出した答えは、嘘をついて逃げ出すことだった。
今ここで助かっても、また明日があるのだが、純一は取り合えず助かることを考えていた。
「仕方ないっすねー」
流石に待ち合わせてると聞いて、ことりは諦めたのだろうか。
出汁巻き玉子を口に放り込んだ。
それを見た純一は、また一つ嘆息する。
「じゃあ行ってくるわ」
そう言った純一を見つめることりの眼が、妖しく光っていた。
ほうほうの体で逃げ出した純一は、一応学食まで行った。
少しではあるが金もあるし、殺気にまみれて飯を食うよりはマシだと踏んだのだ。
「あ、朝倉じゃない」
「お久しぶりですー」
なんでこうトラップ続きなんだこの野郎。
純一は間違いなくそう思った。
目の前にいるのは、水越姉妹。
ことりとガチ張れるだけの美少女姉妹。
遺伝か何だか知らないが、揃って青髪な姉妹だ。
「やぁこんにちわ萌先輩では俺はこれで」
「待ちなさいよ。久しぶりに一緒にお昼にしましょ?」
「そうですよー。積もる話もありますしねぇ」
ギリギリと眞子の指が純一の肩に食い込んでくる。
痛いとかいう次元じゃなく、肩が破壊されそうなレベル・・・。
逆の肩には萌の柔らかい胸が押しつけられて・・・・・。
「ダメですよ眞子ちゃん。純一さんには優しく尽くしてあげなきゃ!」
「う・・・そうね純一さん。一緒に屋上に行きましょ?たっぷりご奉仕してあげるからね」
ギリギリと指が先ほど以上に食い込んでくる。
その痛みから逃れる為に、純一は何度も首を縦に振った。
「なぁ」
「・・・何ですか?」
「色々突っ込み所が多くてどこから突っ込むか決めかねるんですが」
「もう!あんたは黙って尽くされなさいよ!」
屋上にて−。
純一は、萌と眞子のタイで両手を縛られていた。しかも鉄柱に。
尽くされなさいと言われても甘受したくない純一の気持ちが解るだろうか?
「さてさて、純一さんには私と眞子ちゃんの身体を思いっきりたべてもらいますよー♪」
「萌先輩・・性格変わってるじゃねぇかよ・・」「気にしちゃダメです」
いつの間に変わったのか、ひいてはいつの間に朝倉君から純一さんに変わったのかも気になるが、今の純一に余裕はない。
脱ぎかけの制服から覗く眞子の美乳と萌の爆乳に息を飲む純一。
彼が水越姉妹に溺れることになるのは、そう遠い先の話ではなさそうだ。