白河ことりのビデオ  
 
「ハーイこっち向いて、笑って〜」  
笑えるわけがなかった。  
この日、白河ことりは『Hなことしか考えられなくなってしまった女子高生が男をとっかえひっかえズコバコ』という  
いかにも頭の悪そうなタイトルの元で、11回目の撮影をされていた。  
つい先日、記念すべき10本目の『実録 24時間耐久セックス』の録りを終えたばかりで  
親にはその時「みっくんの家でお泊まり会」だと言い  
今回はどんな言い訳にしようかと考えあぐねているうちに収録が開始されてしまった。  
 
まずはオナニーから。  
男の一人から指示が飛ぶ。  
撮影現場として選ばれたいつものホテルの一室の、これまたお馴染みのベッドの上で  
フリル付きのスケスケなネグリジェに身を包み、四つん這いで尻をカメラにの方に突きだした。  
ビデオを見る側によくわかるように足を大きく広げて、履いてても履いてなくても変わらないような  
面積の少ない下着の上から、右手の人差し指と中指を二本揃えて秘部に這わせる。  
クニ、クニ、クニ、クニ、クニ・・・・  
気持ちよくなんてなかった。  
それでもチラリとカメラの横を見ると、どこかの聾唖者のようにスケッチブックに大きな文字で  
『声を出せ』と書かれていた。  
しかたなく、その指示に従うことにした。  
「・・・・・・・・んん・・・く・・・・ぁっ!」  
羞恥心を振り切って声を出す。  
すると集音係りの男が、いいよ〜感じてるんだね、と三流アダルトビデオの進行役兼男優のような声で言った。  
スケッチブックを持っている男が指示を出し、2番目のカメラが自らの指で慰めることりの秘所をズームアップする。  
薄い布地を擦る音。  
突き出されたお尻。  
開かれた股の間の部分からは、細くて綺麗な二本の指が見え隠れ。  
 
しばらく下着の上からの自慰行為をさせられた後、今度は下着ごしではなく  
直に触るようにとの指示がくる。  
いつのまにか、ネグリジェの右側の肩紐がずり下がっていた。  
三角座りになり、正面からカメラに見えるように脱ぐ。  
両側の細い紐に親指をかけて、ゆっくりと。  
焦らすように時間をかけて脱いだそれは、膝の辺りまでくるとクルクルと可愛らしく丸まっていた。  
小さくくるまったそれを右の足首から抜き取る。  
ついで左の足首からも。  
アソコは片手で隠していた。  
『手をどけろ』という指示がきたので、しかたなくカメラの前に秘部を曝した。  
ズームが動き、立てた膝の間の中心部へとピントが合わされるのがわかった。  
何度撮られても、恥ずかしくて死にたくなる。  
 
仰向けに寝転がり、そのままオナニーを続けさせられた。  
濡れていないところを直に触ると痛いので、指をペロリと舐めて湿らせた。  
だけど、そんな自分の身体への心遣いは無意味だった。  
そこはすでに、濡れていた。  
トロトロという程ではないが、うっすらと。  
自らを慰める行為を助けるかのように、透明で粘りけの少ない液体が秘穴から滲み出ていた。  
チュク・・・  
指が潤いに触れると、自分が自分で嫌になった。  
無理矢理させられているのに。  
ビデオに撮られているのに。  
こんな状況下でも、濡れてしまう。  
どんな状況下でも、自分のオンナの部分は本能に忠実で。  
これから起こるであろう男との性行為に向けて、自分でもどうしようもないメスの部分が  
セックスへの期待に準備を始めてしまうのだ。  
 
ニチ、ニチ・・・ニチョ・・・・  
トロみのついた液体を溢れさせるスリットを擦りながら、カメラの横の指示表を見た。  
指の動きが止まる。  
大きめの指示板には『このセリフを言え』という言葉と、その言うべき台詞が書かれていた。  
それを一読すると、今まで赤かったことりの顔がさらに赤くなった。  
震えが来た。  
恥ずかしくて、悔しくて。  
泣きだしたくて。  
目をギュッと瞑り、奥歯を噛みしめる。  
それでも、ことりは彼らの言うことには従わなければならない。  
どんなプレイでも答えなければならないし、いかなる言葉であろうとも  
『言え』と言われれば、その言葉を口にするしたないのだ。  
そしてことりは泣きそうになりながらも、その屈辱的な台詞を言った。  
「・・・・っ・・・わたし・・・白河ことりは、常に・・・ぉ、オチン○ンをくわえ込んでいないと  
 我慢のできない淫乱女です。 ・・・・・どうか、オマ○コ汁を垂れ流すぐちょぐちょの肉穴に  
 オチン○ンを突っ込んで、精液をビュッ、ビュウッって吐き出して下さい・・・っ  
 ほら、見えますか? 私の中がオ○ンチンを欲しがって、ヒクヒクしてるの・・・・・  
 私を・・・みなさんの精子で・・・・・・・・妊娠させてくださいっ」  
長い台詞のわりに、意外にスラリと言えた。  
そしてことりは、そんな自分に嫌気が差した。  
 
ベッドが軋んだ音を立てる。  
ことりの立てた音ではなく、カメラの枠の外から一人の男がベッドの上に上がってきた音だった。  
いよいよ、本日の男優の登場。  
生本番の始まりだ。  
男はベッドに上がるなり、いきなり仰向けに寝転がった。  
撮影中を示す赤いランプの灯るカメラの横の指示板には、  
『跨って腰を振れ』と書いてあった。  
つまりは騎乗位。  
仕方なく、おずおずと男の上へと跨った。  
そそり勃つ男のシンボルをそっと握り、残った方の手の指で陰唇を開いて入り口をさらけ出す。  
チュク・・・  
宛うと、生暖かい肉の感触と水音がした。  
距離はあるはずなのに、宛った肉筒の精臭がここまで漂ってきそうな気がした。  
指示板をチラリと見る。  
そこには『Go!』とだけ書かれていた。  
それが何を意味するのか。  
言わずもがな。  
白河ことりによるロデオ大会が幕を開けた。  
 
意を決して、一気に腰を下ろした。  
プチュ、ヌムリ・・・・・!  
肉が肉を押しのけて、割り込んでくる感触。  
お腹の奥の行き止まりに押し当てられる、自分以外の人の体温。  
最悪だった。  
こればかりは、何度されても、何度受け入れさせられても  
慣れることはなかった。  
慣れたくなかった。  
 
男の腹に両の手を付き、腰を浮かせる。  
奥まで到達していた肉柱が入り口から血管ブヨブヨの竿部を見せ  
ズルズルと姿を現したそれは括れた部分までを外気に曝すと、再び肉壺の中へと飲み込まれる。  
その動きを繰り返す。  
ゆっくりと、ゆっくりと。  
今まで教えこまれてきたように時々腰に変則的なひねりを加え、相手の男へと性器で奉仕をする。  
「・・・・んっ・・はぁ、ん・・・・」  
つい声が出てしまう。  
男に大事な部分を貫かれ、奉仕させられて感じてしまう自分が情けなかった。  
それでもある程度上下運動を繰り返していると、腰は自分の意志に反して勝手に動きだす。  
男とのセックスの味を覚えた若い身体は自らの欲求に忠実で  
気持ちの良い場所を胎内に埋まっている肉の棒で探り、押し当て、擦りつける。  
まるで性の快楽を求め耽り、男のモノを使ってオナニーをしているかのようだった。  
 
『Hなことしか考えられなくなってしまった女子高生が男をとっかえひっかえズコバコ』  
今回のビデオのタイトルが思い出される。  
これではまったくもってその通りだ。  
馬鹿なタイトルだと笑えない。  
悔しさが込み上げてきたが、腰は言うことを聞いてくれなかった。  
 
 
男の手が、ことりの白くて細い腿を撫でさする。  
スベスベとなめらかなその感触を愉しみながら、徐々に上へ。  
細い腰、ヘソのゴマすらない綺麗なお腹。  
そして快感を求めての躍動に翻弄され、プルンプルンと弾む乳房へと。  
揺れるそれを手の平で下から掬い上げるように持ち上げ、親指と人差し指で頂きをキュッと摘む。  
「ぁはぅっ!? ン・・・ゃぁ・・ッ!」  
当然というかなんというか、乳首は既に硬く張り詰めていた。  
フニフニ、タプタプの乳房のただ中にあって、そこだけ異なる手触りを返してくる。  
コリコリと勃起する乳首を摘み上げ、すり潰し、中へと押し込む。  
「ふぅん! はぁ、はぁ・・・あッ!! ゃ・・・だめ、それダメぇ・・っ」  
身を捩り、刺激から逃れようとしたが、それでも男は執拗に弄くりまわし  
やや強めにギュウゥ〜〜〜〜〜っと引っ張った。  
「ぃきゃあぁ!?  ぅぅ・・・痛・・・っ!」  
乳頭を強く捻ると、膣がギュウゥゥっと締まった。  
もう一度強目に、キュッ、キュッ、キュッと抓ってみる。  
「あぅ・・ッ くぅん・・・・ひふ、ふぅぅっ!」  
指を噛んで声を堪えるが、ことりの膣はきゅっ、きゅっ、きゅうぅっと締め返してくる。  
カラダは正直だった。  
 
我慢出来なくなった男は腰をガンガン突き上げ、ことりもまた  
優しさの欠片さえもない律動で登り詰めて行く。  
絶頂へと向けて一直線。  
最初はバラバラだった二人の腰の動きが、段々と噛み合いだした。  
そして、最後の時も同時だった。  
愛してもいない男と一緒に、頂きを迎えた。  
「ぁんっ、は・・ぁあぅっ・・・・・・アッ!!  ンン〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」  
唇を噛みしめ、声が漏れてしまわないように。  
それでも端から見て、気をやったことが丸わかりなぐらい派手にイッた。  
下敷きにしている相手の射精と同時にピクンッ!! と仰け反り  
二度、三度と大きく震え、目に見えて脱力した。  
「〜〜〜〜ッ・・・・・・・・・・・ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・ハァ・・」  
垂れ下がった長い髪に隠れてカメラからは見えなかったが  
今、彼女がどのような恍惚とした表情を浮かべているのか、容易に想像できた。  
 
射精しきった男の上で、ことりが汗にまみれた小柄な身体をゆらりと起こし  
胎内深くに埋まっていた、堅さを失いつつあるペニスから腰を上げた。  
ヌムムムム・・・プチュリ  
亀頭と膣口。  
男女を繋いでいた粘糸が途切れ、寝転がったままの男の腹とことりの腿をベットリと汚した。  
だけど、これで終わりではなかった。  
終わりなはずがなかった。  
荒い息を吐くことりの眼前に、いつの間にかベッドに登ってきた二人の男からペニスが突き出された。  
今回のビデオの副題を思い出してみる。  
いつのまにかベッドの側には、1ダースを越える男優が待機していた。  
『次はダブルフェラから』  
新しい指示がくる。  
息を落ち着け、快楽に濡れた瞳で二本のペニスを見つめ  
のろのろと、どこか気怠げに左右の手で一本ずつを握り、舌を突き出す。  
撮影は、まだまだ始まったばかりだった。  
 
 
――――――――ピッ  
震える手が、居間に設置されたビデオのリモコンのスイッチを押した。  
『停止』を押されたテレビ画面は、元のチャンネルの番組を映し出し  
その中では顔は知っているが名前は知らないお笑い系タレントが  
観客や他の出演者たちから顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで、こんなものが」  
指と同じく震える唇から、ようやくその一言だけが紡ぎ出された。  
ここは初音島の住宅街の一角にある、朝倉家の居間。  
朝倉音夢はリモコンを握りしめたまま固まっていた。  
季節はもう、冬だった。  
音夢の通っている看護学校も冬休みに入り、短い期間ではあるものの  
義兄に会いたくなって、休みの初日にいそいそと戻ってきていたのだ。  
そして彼女は、戻ってきた矢先に朝倉家の郵便ポストに突っ込まれた  
やや大きめの茶封筒を見つけた。  
宛名は朝倉順一。  
差出人はどこにも書かれていない。  
ピンときた。  
これはラブレターの類ではないか、と。  
自分がいない間に兄に近づこうとする不貞の輩。  
―――――許すまじ!!  
これまで兄に送られてきたラブレターは全て始末してきた音夢だ。  
頭に血が登った勢いで中身を開けるぐらいは、辞典のカドで兄を殴りつけるよりも簡単だった。  
バリバリと封筒を破り、その中身を取り出す。  
 
ビデオだった。  
他には何もなし。  
今時ビデオメール・・・? と訝しげに思いながらも、一応中身ぐらいは見ておこうと  
居間のビデオデッキに突っ込んだのだが・・・  
結果はご覧の通り。  
あまりの内容に、音夢は固まったまま動けなくなっていた。  
 
本土の看護学校に行っていたので詳しい事は知らないが、白河ことりが今年の秋に  
屋上から飛び降り自殺をしたという話は、風の便りで聞き及んでいた。  
そんなに仲が良かったわけではないものの、知人の訃報を聞いて少なからず沈んだ気分になったものだ。  
だが実はというと、絶対にこれは誰にも言えない、忠実なる下僕である美春にも言えないことなのだが  
白河ことりの死に対し、音夢は僅かな喜びを覚えていた。  
なにせ音夢にとって白河ことりとは、芳乃さくらと並ぶ恋敵の一人。  
ルックス良し、性格良し、スタイル良しの三拍子。  
気配り上手な風見学園のプリンセス。  
ただでさえ側にいられない自分は不利だというのに、そんな女が近くにいたら  
さしもの兄といえども、フラフラ〜っと吸い寄せられてしまうかもしれない。  
そんな彼女がいなくなったのだ。  
内心、少しばかりホッとしていたのだが・・・・  
今自分は、彼女の死の真相を知ってしまったかもしれない。  
ひょっとすると、いやおそらくは、このビデオが原因ではないかと思う。  
何故兄宛に、しかも今頃送られてきたのかはわからないが。  
音夢は考える。  
このビデオを、兄に見せた方がいいのだろうか・・・?  
電話でも話していたが、白河ことりが死んで以来、兄は少々落ち込みぎみだった。  
自殺した原因はわからない。  
何か悩みがあったのなら、相談してほしかった。  
そう言っていた。  
だけど彼女の死の真相がこのビデオが原因だとするならば  
たとえ誰であっても、話せるはずはなかった。  
話せるはずがないのだ。  
特に・・・・好意を寄せる異性には。  
音夢はさらに考える。  
兄は自殺の原因を知りたがっていた。  
だけどそれを知らせるためには、このビデオを見せるしかない。  
白河ことりが犯されているビデオ。  
犯されながらもオトコを欲しがり、卑猥な言葉を口にしながら腰を振っているビデオ。  
すると兄はこれを見て、白河ことりに対してどういう感情を抱くだろう・・・・?  
・・・・・・・・幻滅する、だろうか・・・?  
音夢の腹の底で飼っている黒い蛇が、モゾリ・・と鎌首をもたげた。  
白河ことりは、兄の中では綺麗なイメージのまま死んだに違いない。  
だけど、本当のことを知れば・・・?  
犯され汚され、精液便所のように貶められたことを知れば・・・・?  
腹の中の黒い蛇が、シュルシュルと先の割れた舌をチラつかせながら、笑みの形に口元を裂いた。  
 
腹の中の黒いものとは逆に、音夢自身は無表情だった。  
洗面台の鏡の前に立ち、ちょっぴり困惑の表情をしてみる。  
中身は見ていない。  
ただ、不審な物を見つけただけ。  
そんな顔。  
・・・・・・うまく作れた。  
もう言うセリフも決まってる。  
『兄さん、郵便受けの中にこんなものが入っていたんだけど・・・』  
そう言って、さりげなく渡せばいい。  
勿論、テープを巻き戻しておくことも忘れない。  
白河ことりの死の真相。  
兄はきっと知りたがるに違いない。  
だから、見せるのだ。  
やましいことなど、何ひとつありはしない。  
 
 
「ただいまー」  
やがて玄関の方から、聞き慣れた男性の帰宅を告げる声が聞こえてきた。  
手には巻き戻したビデオテープ。  
「お帰りなさい、兄さん」  
居間のソファーから立ち上がり、大切な人を出迎える。  
つい、口元が綻んでしまわないよう気を付けながら。  
「兄さん、実は郵便受けの中にこんなものが・・・」  
玄関口で脱げない靴と格闘する兄に、音夢は何喰わぬ顔で  
白河ことりが主演女優を勤めるビデオテープを差し出すのだった。  
 
END  
 

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