いつもと同じ朝。  
いつもと同じように起きて、いつもと同じように学校へと向かう。  
そして、いつもと同じように二人の友人と待ち合わせ、  
いつもと同じように学園への道を並んで歩く・・・はずだった。  
 
季節は初夏。  
年がら年中咲き誇ることで有名な初音島の枯れない桜。  
淡い色合いの花びらと、少し強くなりはじめた日差しが木々の間から降り注ぎ、  
汗ばむ程の気温の高ささえなければ、まだ春ではないのかという錯覚さえ覚える。  
そんないつもとなんら変わることのない、朝の風景。  
みっくんとともちゃんは、いつもの待ち合わせ場所にいた。  
「おはよう!」  
元気良く、一度大きく手を振って近づいた。  
「!!!」  
心の声が、聞こえた。  
どうしようもなく辛くて、悲しくて、心と体に逃れられない烙印を押された者の叫びが。  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
それは今まで、ことりには見たこともなく  
ましてや想像すらもしたことがないようなものだった。  
ことりにとって、それは男女が愛を確かめるために肌を重ね合う行為であったはずのものが、  
今彼女が覗き見た行為には愛や恋なんてものは一切存在せず、ただただ男達の欲望を浴びせられ続ける地獄。  
泣き叫んでも許してもらえない。  
髪を捕まれ引きずり倒され、抵抗が過ぎれば頬を叩かれ腹を蹴られ。  
下着を剥ぎ取られてその後は・・・・  
見たくなくても、聞きたくなくても勝手に頭の中に流れ込んでくる。  
それがことりが読みとった、二人の身に起きた出来事。  
この振って湧いた災難を始めから要約するとこうだった。  
 
昨日の放課後、手紙で呼び出された二人は  
校舎最上階の使われていない部屋で、数人の男子に夜遅くまで暴行を受けた。  
その姿をデジカメに納められ、男子生徒の一人にこう言われた。  
「明日、白河ことりを島の工場区に連れてこい」と。  
ただこの後、おきまりの脅し文句と一緒に言われた言葉は  
ことりにとっても彼女らにとっても、最も辛いものだったかもしれない。  
「白河のやつ、勘がいいのか俺らの計画をことごとく避けやがる。  
 まあいいか、今日オマエらを拉致ったのは白河をおびき出すためなんだよ。  
 そのためだけにこんな目に遭っちまうなんて、ツイてねぇなお二人さん」  
男達は何が面白いのかヘラヘラと笑いだし、二人の親友に念を押した。  
 
過去に何度か手紙で呼び出されて指定された場所に近づくと、  
男達の下品な声が聞こえてきたときがあった。  
『早く白河とヤりてぇ』  
『俺のことフリやがってぇ・・・・メチャクチャにしてやる!』  
『ビデオはウラに流して、ウッハウハ〜』  
『あの白河ことりを自由にできる・・・・』  
『あの澄ましたツラがどんなふうに歪むか楽しみだぜ』  
『ことりたん、ハァハァ』  
そんな心の声が聞こえてきたときは、ことりは一目散に逃げ帰った。  
今までにこういうことは何度かあり、そのときは魔法の力のおかげで  
なんとか回避してきたのだが・・・  
 
左にみっくん、右にともちゃん。  
二人と並んで歩き出す。  
・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・  
会話がない。  
話しかける言葉が見つからないし、顔をまともに見ることすらはばかられた。  
チラリと様子を伺う。  
(ともちゃんは私のことを・・・・・・・・・・・・・・・恨んでる)  
心の声が聞こえることが辛かった。  
(私のせいだって・・・私がいるからこうなったんだって、そう思ってる。  
 だから今日、私を連れていこうとしてる・・・・・・・・自分たちが助かるために)  
反対側をチラリと見た。  
(みっくんは・・・・・・・・・・・・・・・・・私のこと、恨んでない。  
 でも、この事をお兄さんに知られたくないから、やっぱり私のこと連れていこうとしてる)  
 
いつもの通学路。  
たわいのない話をしていると、あっというまに着いてしまうほどの距離。  
だが今は、学園までの道のりがもの凄く長く感じられた。  
会話が無く重苦しい空気が、まるで永遠に続く拷問のように思える。  
「――――――――――ねえ、ことり」  
右側にいたともちゃんが口を開いた。  
重い沈黙を破り発せられた言葉は、今まで彼女の中で  
グルグルと幾度もシミュレートされものだったのだろう。  
普段ならばなんてことのない言葉のはずなのに、この一言を口から吐き出すためには  
かなりの時間と、親友を裏切る勇気が必要だった。  
(来た・・・・・私を売って、自分たちだけ助かるつもりだ・・・)  
言わなくてもわかった。  
ことりには、彼女らの心の叫びが聞こえるのだから。  
「今日の放課後、時間ある・・・?」  
こちらの出方を伺うような言い方。  
「あのね、昨日面白い場所っ・・み、見つけたんだ。 ことりにもっ、教えてあげるよ・・・  
 ね、行こうよ。 島の西側の工場地区なんだけどさ・・・」  
しどろもどろになりながら、一気にまくしたてた。  
みっくんは、俯いて沈黙を守っている。  
「――――――――――ごめん、今日は用事があるから」  
嘘だった。  
うつむき、カバンを握りしめる。  
私は・・・・悪くない。  
「・・・・・・・・・・・・そう」  
右側にいる少女からは、それ以上の言葉が返ってくることはなかった。  
・・・・・・・私は、悪くなんてない。  
悪いのは、酷いのはともちゃんとみっくんの方だ。  
親友だと、思ってたのにな・・・・・  
彼女らを包む重苦しい空気は、学園に着いても晴れることはなかった。  
 
次の日。  
いつもの待ち合わせ場所に向かう。  
でも今日からは「いつも」と違うのだ。  
襲われ、裏切られ、結局はことり自身も我が身可愛さに二人を突き放した。  
あるとき、何かの機械の中の1枚の歯車が狂い出す。  
すると隣りで噛み合う歯車まで狂いだし、そのうちに機械自体が全然別の方向へと進み出してしまう。  
もう二度と、3人の関係が元通りになることはない。  
たった一枚の狂ったの歯車が、3人の進む方向をバラバラにしてしまったのだ。  
(・・・・・・行くの、イヤだな)  
気が重い。  
どんな顔をして会えばいいのかわからない。  
今朝、鏡の前で久しぶりに作り笑いの練習をしてみたが、どうにも上手くいかなかった。  
そうこうするうちに、待ち合わせ場所が見えてきた。  
そこには二人の親友だった人たちが待っていた。  
みっくんのスカートは新しかった。  
近づくに連れ、心の声が聞こえ始める・・・・  
 
まず、ことりを連れてこなかったといって、ともちゃんがいきなり殴り倒された。  
倒れたともちゃんにみっくんが駆け寄ろうとするが、彼女もまた腹部に膝蹴りをくらい、  
廃工場の地面に転がった。  
倒れた二人に次々と蹴りが飛び、グッタリしたところを髪を掴んで引きずり起こされ  
明日こそ必ず連れて来いと言われ、昨日と同じく性の暴力が振るわれる。  
スカートめくり上げ、下着をはぎ取られて四つん這いにさせられる。  
この日はフェラチオを強要された。  
臭くて独特の臭いがして、吐き気のするモノを口の中に押し込まれ、吐き出すことも許されない。  
二人が受けた行為がリアルに伝わってきて、ことり自身も吐きそうになった。  
 
熱を帯び、血管のブヨブヨ浮き出た肉の塊。  
柔らかくも芯の硬い感触。  
それが唇を割り開き、頬のうちら側を擦り、喉の奥まで押し込まれる。  
エラの張った部分が食道の入り口をつつき、  
鼻の奥まで直接ペニスの臭いが立ちこめてきてむせそうになる。  
そこに後ろから男がのし掛かってきて、昨日穴を開けられたばかりの秘部をもう一度こじ開けられた。  
邪魔だと言って、スカートは腰の所まで裂かれる。  
痛みと苦しさと悲しさとで涙が溢れ、喉を圧迫するモノに胃液が逆流してきて・・  
 
「・・・・どう、したの・・・?」  
声を掛けられ、二人の心の叫びに飲まれていたことりが我に返った。  
いきなり吐き気を催して口元を押さえたことりに、みっくんが心配そうに声をかけた。  
「・・・・な、なんでもないの。 大丈夫だから」  
せり上がりかけた胃液を飲み込んで、笑顔を取り繕った。  
どちらかというと、大丈夫じゃないのは彼女たちの方だ。  
一昨日に引き続き、ことりを連れて行かなかったせいで昨日も性的な暴行を受けたのだから。  
身も心もズタズタに違いなかった。  
そして彼女らは、身も心もズタズタになるようなことを、ことりにも味合わせようとしていた。  
「ね、ことり―――――」  
努めて明るく、平常を装って。  
(また・・・・)  
どんなに表面を取り繕っても彼女には筒抜けで、心の中の必死さも醜さも  
全てお見通しなのだった。  
「今日、時間ある?」  
まるで、腹の内を探るように聞こえる。  
 
今日連れて行かなければ、またどんな目に遭わされるかわからない。  
早く逃れたい。  
悪いのは全部ことりだ。  
お兄ちゃんに知られるのは嫌。  
ことりのせいで私たちは・・・  
だからことりも同じ目に遭えばいいんだ!!  
 
心の一番醜い部分が、親友だと思っていた二人から聞こえてくる。  
耳を塞いだとしても、彼女らの本音は伝わってきて。  
自分が恨まれていることが悲しくて、自分のことを陥れようとしているのが信じられなくて  
いたたまれなくて、今すぐここから逃げ出したくて。  
だから、返す言葉は決まっていた。  
「―――――ごめん、今日も忙しくて・・・・・・  
 それに、今からちょっと寄るところがあるから。  
 コメン、先に行くねっ」  
言うが早いか駆け出した。  
いや、逃げ出したというべきだろうか。  
(昨日破かれたから・・・・・だからスカート新しかったんだ)  
訳のわからない理由に納得して、ひたすら走る。  
またウソをついた。  
でもこれはしかたのないことなのだ。  
自分は悪くないし、酷いのは二人の方だ。  
友達だと、親友だと信じてたのに・・・・  
悲しさと、悔しさと、やるせなさと。  
気が付くと桜の大木の根本にいて、その太い幹に顔を埋め  
ことりは声を殺して泣いた。  
 
この日から、ことりは二人を避け始めた。  
 
「ことりっ!」  
ともちゃんがまた誘いに来た。  
聞こえなかったふりをして、急ぎ足で立ち去る。  
 
「あ、あのっ・・・・・ことりぃ・・・」  
泣きそうな顔と声でみっくんが声を掛けてくる。  
心がチクリと痛んだけれど、無視を決め込んだ。  
 
二人はしつこかった。  
休み時間の度に、そして放課後にもやってきて、しきりに連れて行こうとする。  
だけどそうはいかない。  
こちらには相手の心の内が手に取るようにわかっているのだ、  
のこのこ付いていってやることはない。  
私は何も悪くないのだから・・・  
 
その後も執拗に誘ってきたが、何日か無視を続けると何も言ってこなくなった。  
もう、諦めてくれたのだろうか・・・・?  
今でも彼女らは、酷い目に遭わされ続けているのだろうか。  
私は・・・・・・・・・・悪くない・・・・・・  
ことりは自身の心にそう言い聞かせた。  
 
そんなある日のこと、突然ことりは人の心が読めなくなってしまう。  
初音島の枯れないはずの桜が、一日にして枯れてしまったのだ。  
寿命なのか病気なのか、あるいは幼い姿の魔法使いがそう願ったのか。  
とにかくことりは、心を読む魔法が使えなくなってしまった。  
それは今まで能力に頼って生きてきた彼女にとっては突然目隠しをされたようなもので  
人とのコミュニケーションの仕方がまったくわからなくなってしまった。  
みっくん、ともちゃんという二人の親友を失ってしまった今、  
周りの全ての人のことがわからなくて、話すきっかけも掴めずに孤立してしまう。  
徐々に学園へも行き辛くなり、その日も朝から自室で自主休校を決め込んでいた。  
『ピンポーン』  
チャイムが鳴る。  
今家にはことり以外誰もいない。  
『ピンポーン』  
ふたたび鳴る。  
しかたなく部屋から出て階段を降り、玄関口へと向かう。  
以前の彼女ならば、この時点で扉の向こう側の人物の心の声を聞き  
危険を察知していただろう。  
しかし今は何も見えないし聞こえない。  
玄関のサンダルを突っかけ、無防備に鍵を外してノブを回す。  
するといきなり男たちがなだれ込んで来た。  
「キャッ・・・・・な、なんなんですか、いきなり!?」  
突然の乱入者に軽いパニックに陥る。  
4、5・・・6人。  
中には大きな荷物を抱えている者もいた。  
 
パタムッ  
扉が締まった。  
外の世界と遮断される。  
今この家には、ことりと6人の男たちだけ。  
玄関口で尻餅を付いた状態で囲まれている。  
逃げ場はなかった。  
そんな彼女に伸びる男たちの手。  
「ひっ!・・・・・きゃああぁぁぁぁ――――――――――っ!!!」  
他には誰もいない家の中で、布を引き裂くような悲鳴が響き渡った。  
 
つづく  
 

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