* * *
「さて、兄さん。まずは何からしますか?」
ニコニコと純一を見上げる音夢の可愛らしさに、返事に困ってしまう純一。
「『お姫様ごっこ』? 『プロレスごっこ』? それとも『お医者さんごっこ』?」
「なんでいきなりシチュエーションを限定するんだ?」
「だって……昨日一生懸命コスチュームを用意したんだもん」
「……お姫様のか?」
「うん♪ 悪の魔王の衣装もあるよ。プロレスラーは水着を改造して……」
「……じゃあ、他のにしよう」
「ど〜してですか!」
「……なんとなくだ」
ここまで用意周到なシチュエーションはかなり怪しい。取りあえず、回避しておくに
越した事はない。
「じゃあ、いきなり電気アンマを要求しますよ?」
「ま、まった……!」
「今度は何ですか?」
「そういうのはやっぱりその……雰囲気作りとか、お互いの気持ちの高まりとかを
考えて……」
「兄さん、いつも妹がそういうのを望んだ時に省略するじゃないですか?
『かったりぃ〜』とか言って」
「嫌な真似の仕方をするな……と、取りあえず……そうだな、第1条から順にやって
いかないか?」
「第1条……お話から?」
「う……。そう言われると……。俺って話題づくりがあんまり巧くないんだけど…」
純一が困惑する。
「せめて杉並ぐらい、話術が巧みだったらなぁ……」
「……いいんですよ」
「うん?」
「お洒落な話題とか面白い話じゃなくてもいいんです。兄さんと私がお話するん
ですから」
音夢が純一を見つめる。その瞳に純一の心臓は高鳴っていく。
「昨日のテレビはどうだった、とか。今日のご機嫌はどうか、とか……そんなあり
ふれた話が楽しいんです……。だって、家の中で起こったことは、全てが私たちに
とって共通の話題で、楽しい出来事なんですから」
「音夢……」
純一は急激に音夢が愛おしくなってきた。ソファで肩を寄せる音夢を更に引き寄せ、
自分の両手で抱きしめる。
「兄さん……」
音夢は驚きもせず、身を任せるように力を抜いた。二人はどちらからとも無く、
目を閉じて互いの唇を求めた。
* * *
熱い抱擁と口づけを交わした二人。音夢はごろりと横になり、純一の太股を
枕代わりにする。
「いきなりいい雰囲気になっちゃったね……」
クスクスと音夢が見上げるように微笑むと純一も笑顔を返す。
「そう言えば、兄さん、第2条はどうします?」
「第2条……?」
「私の衣装ですよ。この格好でいいんですか?」
言いながらスカートの端を摘みあげる音夢。若草色のワンピースはミニスカートで
少し摘み上げただけでピンクのショーツがチラリと見えた。
純一が音夢を見ると音夢は悪戯っぽく純一を見ている。おそらく、わざと見せたの
だろう……。兄をからかう様な真似をする妹には……。
「お仕置きが必要だよな……」
「え?」
「いや、なんでも……。フム……その服もいいけど……」
「兄さんの好きなスカートなし状態にします? これ、見かけはワンピースだけど、
実はここのホックを外せば更にスカートが短くなって……」
「待て……。誰がスカート無しが好きだって?」
「だって、兄さん、いつも朝私がスカートを穿きかえるタイミングを狙って部屋に
来るじゃないですか?」
「誰が狙ってだ!? た、たまたま偶然、その状況に出くわしただけだろ?
せ、せいぜい2回じゃないか……!」
「そのうち1回はいきなり電気アンマされて学校に遅刻しそうになりましたけど…」
「あ、あれは……その……なんだ……」
汗をかきかき、言い訳を懸命に探す純一。その様子を見て音夢は噴出してしまう。
「クスクス……その前の日に随分盛り上がっちゃいましたからね〜」
「あ……。うん……」
照れるようにそっぽを向く純一。音夢は純一の膝枕から体を起こし、立ち上がる。
「ねぇ、兄さん。やっぱり、さっき言ったシチュエーションプレイ、やりましょうよ。
折角用意したんだし、今度いつ出来るかわからないし……」
『えっち曜日』の該当日は意外と少ない。統計確率だけなら次週の日曜日に条件を
満たす確率は10%前後だろう。
「その方がいきなり電気アンマよりは兄さんも入りやすいでしょ? ……ね?」
そういう所で可愛らしく小首を傾げるな、と純一は言いたくなる。反対する事なんか
出来なくなるじゃないか……。
「シチュエーションはどれにします? 私としてはお姫様はもうちょっと後にしたいん
ですけど……」
「どうして?」
「だって、いきなりあんな事は……ねぇ?」
何を想像したのか、顔を真っ赤にする音夢。こいつはどんな『罠』を用意したんだ……?
甘く魅惑的な罠。音夢の用意したこの『えっち曜日』自体がそうだ言ってもいいだろう、
と純一は心の中で思う。
「じゃあ、プロレスごっこで……」
残るシチュエーションは2つ。定番のごっこ遊びだ。どちらを選んでも大差はあるまい。
「わかりました。準備するから待っててくださいね……私が呼んだら、奥のお客さん用の
和室に来てください」
「あ、ああ……」
「兄さんが悪のヒール役ですからね? 覚悟してきてね」
そういう時覚悟するのは正義役だと思うのだが。
純一は唐突に女郎蜘蛛に捕まった虫のビデオを思い出した。真綿で首を絞めるように、
徐々に獲物を絡めてられていく……。
「兄さん……」
部屋を出る直前、音夢が振り向いた。
「さっき、エッチな妹にはお仕置きが必要だって言いましたよね?……楽しみにしてますね」
妹は兄にニコッと微笑み、振り向いて部屋を出て行った。
* * *
「兄さ〜ん、準備できたよ〜!」
音夢が呼ぶ声が聞こえる。随分と快活な声だ。言われた和室の客間に入ると、そこら中に
布団が敷かれ、中央に音夢が立っていた。シーツを体に巻いて。
「フフフ、即席のリングです♪ ロープはありませんけど、壁にもマットをクッション
代わりに立てかけてますから、ちょっとぐらい暴れても大丈夫ですよ」
音夢が楽しそうに説明する。
「どうしてシーツに包まってるんだ?」
「だって……。恥ずかしいんだもん」
クスクスと忍び笑いする音夢。シーツの下を想像させるように、肩口をちらりと見せたり
している。水着は着ているようだ。
「兄さんはあれに着替えて来てくれた?」
「ん…? まあ……」
純一はさっき音夢に指定された海パンを穿いていた。上はTシャツ姿だ。足は裸足である。
「それじゃあ、私も用意しなきゃ……」
するり……と思わせぶりにシーツを落とす音夢。下には白のビキニの水着を着ていた。
それだけでなく、足には紺のニーソックス、腕には同じ素材のサポーターらしきものを
つけている。
「古くなったソックスを改造したんです。なんか、格闘家っぽいでしょ?」
くるり、と純一の前で一回りする音夢。まあ、言われて見ればそう見れなくもない。
ビキニ姿の格闘家がいれば、の話だが。
「じゃあ、早速始めましょ。兄さんがヒールで、私が正義の…び……美少女レスラー、
音夢です。実はこのヒールと音夢には秘密があって……」
自分で『美少女レスラー』って言うか? しかも照れながら…と半ば苦笑するが、異議は
全く無かった。世界中の誰にも異議はないだろう。見ているのは自分だけだが。
「……うん? なんだ、その秘密って?」
「取りあえず覆面被ってくれませんか?」
「な、なに? ……ムググ!?」
音夢が被せてきたのは悪役レスラーが被りそうな、目と鼻と口が開いている黒の
プロレス用マスクだった。
「わざわざ買ってきたのか…?」
「ええ、通販で。月曜日に申し込んで土曜日に届きました。間に合ってよかったです」
こいつは月曜からこのシチュエーションを計画していたのか?
「これで兄さんは悪の化身、ブラック仮面です。妹には正体がわかりませんね」
「あ、悪の化身…? つーか、もっとマシなネーミングは……うん? 正体……?」
「それでは始めま〜す! かーん!」
純一の問いかけにも構わず、ゴングの真似をすると音夢はブラック仮面の純一を
警戒するように間合いを取る。
「くっ……! ブラック仮面! またエッチな攻撃ばかりしてくる気ね!?」
音夢は純一を睨みつけると、両手で胸を守り、内股になって股間を守る仕草をする。
「へっ…? な…、なんだぁ!?」
「きょ、今日はこの前みたいに急所攻撃で責められても負けませんから! 電気アンマ
ばっかり掛けて、それで私を倒せると思ったら、大間違いです!」
『しかし、悲しい事にそこは男と女……音夢がどんなに力を振り絞ろうとも、
歴然とした力の差を覆す事は叶わず、今日もブラック仮面の邪悪な欲望の餌食と
されるのであった……』
「……自分でナレーションを付け加えるのはやめろ」
「いいじゃないですか。雰囲気を盛り上げるためですよ」
「と、取りあえず、いくぞ!?」
「き…、来なさい! あ…!? きゃああ!?」
純一は音夢の両肩を掴むと、そのまま足を掛け、ころん、と音夢を布団の上に寝かせた。
そして、その足を掴む。
「い…、いきなり電気アンマね!? や、やられてたまるものですか!」
言いながら両手でしっかりと股間を守る音夢。純一は両足首を掴んで音夢の足をVの字
状態で持っていたが、いきなり、足を持っていた手を離すと、音夢をうつ伏せに転がせた。
「あ…、あれ? 電気アンマしないんですか? ……はにゃあ!?」
あっさり体勢を崩した純一に不審な目を向けたとき、音夢の乳首に電撃が走った。
「い、いきなり『カニさん』なんてずるいです!」
どうやらうつ伏せの音夢の背後から胸に手を回し、両方の乳首をチョキの指で挟んだ
らしい。
「だって、悪戯OKなんだろ?」
「くっ……! 意表をつくなんて……。今度は上半身を脱がせて『カニさん』する
つもりね!?」
「おい……」
音夢の演技に辟易しながらも純一の悪戯攻撃は続く。理由は無論、楽しくてやめられない
からだ。
「ひゃん! お、お尻なんて!」
「まだまだ……逃がさないからな。うり♪」
「ああん! 追っかけて突っつくなんて、ずるい〜〜!!」
音夢はうつ伏せのままお尻を押さえて懸命に逃げるが、純一の指は執拗に音夢のアヌスを
刺激し続ける。
「か、カンチョーの時間、長すぎです! 兄さん……あああっ!!」
「兄さんじゃない。ブラック仮面だ」
「そ、そうでした…。ぶ、ブラック仮面! あなたはどうしてエッチな技ばかり
するの!? ああん〜!」
音夢の体がうつ伏せでゾクゾク震えている。どうやらここも弱いらしい。
「頃合いはいいようだな」
「な…なにを? きゃあ!?」
純一はうつ伏せ状態のまま両足首を掴かみ、少し考えてから音夢の体を仰向けに
ひっくり返して右足を太股の間にゆっくりと差し入れた。そして、踵を音夢のビキニの
股間にセットする。
「くっ…! とうとう……。や、やらせませんから!!」
懸命に純一、いや、ブラック仮面の足を掴んで股間から退けようとするが、動かない。
「だ、だめ……。力が抜けて……はぅん……」
股間にセットされているだけで力が抜ける音夢。
「これでそんな事じゃ、こうされたらどうなってしまうんだ?」
ブラック仮面は踵をグリッ……と捻った。ゆっくりと動かしたが、音夢の体は
まな板の上の魚の様に跳ね上がった。
「はぅう…!! ひ、卑怯よ、ブラック仮面! 女の子が絶対に耐える事の出来ない所を
責めるなんて……」
「フン……。いやだったら逃げればいいじゃないか」
「だって、そこをそんなことされたら……はうん!!」
ブラック仮面は徐々に電気アンマを加速していく。クリトリス近辺に足の裏を宛がい
プルプル震わせたり、踵のポイントを少し下にずらし、会陰部をグリグリと刺激して
音夢に快感の悲鳴を上げさせる。
「だ……、だめ……! もう……。ん……!」
音夢はひたすら悶えるだけだ、内股になり、両手は布団のシーツを掴んで懸命に
耐えている。それも時間の問題だろう。そして……。
「はぁ……。ん……。あああああ〜〜〜!!!」
白いおとがいを仰け反らせ、ついに昇りつめてしまった。
がっくりと、体の力が抜け、荒い呼吸で柔らかな胸を上下させる音夢。
ブラック仮面は音夢の汗を拭いてやろうとタオルを手に近づく。
額を拭いてやろうと手を伸ばした時、音夢の手が伸びて純一のマスクを掴んだ。
「あっ…」
「に…兄さん?」
ブラック仮面の下から現れた素顔、それは紛う事なき、音夢の兄純一であった。
……当たり前だが。何故か音夢は驚き、動揺している。
「ゆ、行方不明の兄さんがブラック仮面だったなんて!」
「おい。誰が行方不明だ?」
「兄さん、今まで何を…。そ、それより……妹が相手と知ってて、どうしてこんな
エッチなファイトを?」
「どうしてって、それはお前が……」
「私が、どうかしましたか?」
音夢がじっと見つめる。
「本当に私のせいですか?」
「え? いや……だってそれは……」
「兄さんは誰かに操られて嫌々ながらこんなエッチな事ばかりしたんですか?
それとも、兄さんの意志で楽しみながらしたんですか?」
「う……」
思わず答えにつまる純一。音夢の瞳はじっと返事を待っている。
「嫌々なわけ、ないだろ……」
ボソリと呟く純一。音夢の顔が明るくなる。
「じゃあ、妹にエッチな事をしたくてこんな手の込んだ罠を仕掛けたんですね?」
「お前だ、お前!!」
「違うと言うんですか……? やっぱり兄さんは嫌々させられていたんですね?」
音夢の瞳がウルウルする。
「……俺がやった」
無実の罪状を認知する純一。音夢の顔が再び輝いた。
「酷い兄さんですね〜♪ わ、私…! こんな邪悪な欲望に屈しませんから!
兄さんの電気アンマなんてちっとも効いてませんよ〜だ! 悔しかったら、何度でも
してみればどうですか?」
「おい、こら……」
ブラック仮面こと純一と音夢の戦いは続く…ようだ。
* * *
「ふぅ〜、運動の後のお風呂って、気持ちいいね」
浴槽の中で気持ち良さそうに両手で湯を弄ぶ音夢。なにか、すごく満足そうだ。
「それにしても、兄さんって、本当にエッチですね。レスラー音夢がグロッキーなのに
5回も電気アンマするなんて」
純一を見てニコニコしている。二人同時に入るには狭い浴槽だ。純一と音夢の距離は
ゼロに等しい。
「それは…音夢が…」
「また私のせいにする」
「お前のせいだろ〜が!」
「まあ、5回も電気アンマのチャンスがありながら、全部普通の仰向け電気アンマ
だったところが兄さんの課題ですけどね」
フフン、と純一を挑発する視線を送る。が……純一は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「だって、今日一日、楽しむんだろ? だから……」
「あ……」
どうやら純一は後々のためにヴァリエーションは取っておいたらしい。音夢はそれを
聞いて純一の首に両手を回して抱きついた。
「兄さんって、本当にエッチ♪」
嬉しそうに頬にキスをする。
「そうですよ、これからもっとエッチなシチュエーションになっていきますからね。
妹を満足させてくださいね」
「もっとかよ……」
「だって、さっきの悪役レスラーだって80点ぐらいだよ。電気アンマの合間に
本物の急所攻撃を混ぜたりしていたら100点だったけど」
「あ、あのなぁ……」
「エヘヘ……。私って、いじめられるのが好きみたい」
「うん?」
「だって、兄さんとエッチな事してる時って、どうしても酷くされる事ばかり考え
ちゃうの。……やっぱり、これって変かなぁ?」
「う〜〜ん……」
聞かれても純一には答えにくい質問だったが、一つだけわかっていることがある。
一見、無理難題に見える音夢の要求の数々だが、純一にとってはそのどれをとっても
嫌なものは一つもないということだ。
(むしろ…。俺のリミッターが外れた時、どうなってしまうのだろう?)
純一はその事を畏れてしまう。音夢の可愛い笑顔を見ると、その時はそう遠くない
気がした。
* * *
「あっつ〜〜い……。長湯しすぎたね」
音夢と純一は風呂上りで音夢の部屋にいた。二人ともまだ裸にバスタオルを巻いた
格好のままだ。
「お風呂でお話しすぎちゃったね、兄さん」
「ああ」
確かに少し湯あたりして頭がぼ〜っとしているかもしれない。
「兄さんも飲まない? 冷たい紅茶ですよ〜」
「ああ」
「さっきから『ああ』ばっかりじゃないですか。変な兄さん」
バスタオル一枚の姿で音夢がコロコロと笑う。無防備で可愛い天使の様な表情――。
頭がぼ〜っとしているのは湯あたりのせいだけじゃないかも、と純一は思う。
音夢は黄色のバスタオルを胸で軽く止めただけの状態でベッドに寝そべった。
その脇に腰掛けている純一には目の毒かも知れない。バスタオルは音夢の体を完全には
一周せず、辛うじて胸元で止めているが、お腹から太股にかけてが完全に露出している。
裾もそれほど長くなく股下5cmぐらいで、肝心なところは前から見れば隠れているが、
もう少し下から見れば見えてしまうかもしれない。
(この下って、やっぱり……)
今は音夢は仰向けにじっとしていてギリギリ大丈夫だが、少し身動きするたびに裾が動き、
タオルの下の様子を思わず想像してしまう。
純一から見ればまるで挑発しているように見えるだろう。実際そう判断されてもしかた
がない格好だ。
純一は思わず、音夢のバスタオルの裾を持ち上げて、その中を見た。
5秒か、10秒か。じっ……と、タオルをめくり上げた部分を見つめると、何もせずに
タオルを元に戻した。
そして……、はっと気がつく。
(俺は……今、何をした?)
湯あたりで頭が惚けていたのだろうか、半ば無意識でとんでもない事をやった気がする。
思わず音夢の方を見ると音夢も上半身を起こしていた。バスタオルの胸元と裾を握り締め、
驚いた表情で純一を見つめている。
「に……兄さん、今……何を……」
真っ赤になりながら思わずベッドに座った格好で純一と間合いを取ってしまう。
「あ、いや……その……」
あたふたと言い訳を考えるが、勿論そんな都合のいいものが浮かんでくるはずがない。
音夢は兄を宇宙人か何かを見るような目で見ている。
そう――。どんなに無害そうに見えても、兄は男の人で一皮剥けばいつでも
狼に変身する。獲物を狩る側の立場なのだ。
そして妹は女の子で狩られる側の立場なのだ。守るべき防具がこの薄いバスタオル一枚の
状態で兄といると言うのは……他人から見れば好きにされても文句が言えない状況だろう……。
「わ、私……。着替えてくるね……!」
そそくさと音夢が立ち上がろうとした時――
「……。着替えならここにある」
兄に声をかけられ、ギクッ!と動きが止まる。兄が自分を見ていた。
「ここはお前の部屋じゃないか。着替えだってここにあるだろう?」
兄は俯いたままややぶっきらぼうに答える。
「あ……そ、そうですね。じゃあ、そろそろ着替えようかな。あ、あんまり裸でいたら
風邪引いちゃうし……だから兄さん、後ろを向いて……」
音夢が誤魔化すような笑顔でそう言った時、”ピッ!”と言う電子音が聞こえた。
「にい……さん?」
純一はエアコンのスイッチを入れると立ち上がり、机においてある音夢がいつもつけている
アクセサリー(チョーカーとリボン)を手にして音夢に差し出した。
「着替えろよ、音夢。これはお前のトレードマークなんだから……。それ以外は
そのタオル以外は必要ない。エアコンをつけたからな」
いつに無く真顔の兄――。何事にも無気力でダラダラした兄とは思えない、しっかりした
口調。そして……音夢を見つめる、欲望の煌きを秘めた眼差し――。
音夢は兄がさっきまでと別人の様になっている事を感じていた。
* * *
「こ……これでいいの?」
音夢はドキドキと胸を高鳴らせながら髪を乾かしてリボンを結び、チョーカーを首に
つけた姿を純一に見せた。それ以外に身に着けているのはさっきのバスタオル一枚
だけだ。
トレードマークをつけると言うのは、本来ならば裸になる状況ではない事を意味する。
それなのに……お風呂に入るわけでもないのに、裸のままの姿を続けさせられている。
そのやや倒錯したシチュエーションに、我あらず音夢の気持ちが昂ぶっていく……。
「ああ。そのままこっちに来い」
兄の声は落ち着いている。今のところは、なのかもしれないが。
「う……うん……」
兄の差し出した手を取ると、兄は妹をベッドに導いた。兄もタオルを腰に巻いた
だけの半裸のままだ。
「そこに寝るんだ」
純一が音夢をさっきの様に仰向けに寝かせる。音夢はバスタオルの裾から見えない
ように気をつけて寝転んだ。さっきの様に見えても構わなそうな態度とは一変している。
「この格好で電気アンマしてやる」
「え……? で、でも……? この格好でされたら……」
大胆な事を言う純一に赤くなって戸惑う音夢。その格好でされたら、勿論、直接
生の状態で電気アンマされてしまう……。前にもあった状況ではあるが、その時の
何倍も恥ずかしい。
(あの時は、見られないようにしていたから……)
しかし、今度はばっちりと見られていた。しかも、純一が自分の意志で音夢の
女の子の大事な所をじっくりと見つめたのだ。その時から、何故か音夢は純一に
対して、何事も恥ずかしい気持ちになる。
「第5条はどうした?」
「は……はい……」
命令口調の兄と従順な妹……。そのせいもあるのかも……。と音夢は思った。
今までは兄に迫るエッチな妹、の役割だったからこそ、何でも大胆に出来た。
だが、今は立場は逆転している。しかも、それだけではない。
(私が兄さんに迫っても兄さんがなだめればそれ以上のことは出来なかったけど……)
今は兄が妹に迫ってきているのだ。妹には兄の要求に対する拒否権は全くない。
兄を愛し、兄に奉仕し、兄に見返りを求めない――。
例えどんなに恥ずかしい事であっても、兄が望む事を受け入れるのが妹の役目なのだ。
「恥ずかしいよ……兄さん」
思わず顔を隠した。そのままでは下が見えてしまうのだが、顔を見られるほうが
恥ずかしい。
「顔を隠すな」
純一が音夢の両足を掴んで右足を股間にセットしながら命令する。
「音夢の悶える姿を見たいんだ。だから……隠しちゃだめだ」
「は……はい……。きゃっ!?」
音夢が顔を覆っている手を外すと、純一の股間が正面に見えた。タオルは巻いては
いるが、お互いに座り状態での電気アンマなので、お互いの股間は見えている。
兄の股間はその欲望の度合いを示す雄の器官がタオルを突き破らんばかりに屹立
している。
(兄さん……私を見てそうなってるの?)
そう思うと音夢の胸はドキドキと高鳴り、心臓が破れそうになる。
だが、不意に気がついた。自分が兄のを見てるということは、兄も……。
(兄さんからも見えてるんだ……私の…………あっ!?)
音夢がそう思ったとき、兄の足の裏がぶるぶるぶる……と震えた。
電気アンマが開始されたのだ。たちまち音夢の体に縦に電流が走りぬける。
「はうっ……! うっ……、あっ……!!」
音夢が体を震わせ、純一の足を掴んで内股になって悶える。純一の与える振動は
秘裂を中心に太股の内側をも震わせ、内股全体が心地よい振動に支配される。
(今までより……感じちゃうよ……)
何故だろう、と音夢は思う。躊躇いがちだった今までの電気アンマと違い、
これは純一の欲望が直接伝わってくるからだろうか?
下半身が熱くなり、秘裂がきゅん♪と自分で締め付けて中に染み出た恥ずかしい
蜜を溢れさせる。
「音夢……?」
音夢の様子がさっきと全然違う、と純一も思っていた。足元の蜜にぬめる感触。
さっきのでも無くはなかったが、これだけ熱く、溢れてくるような事は無かった。
音夢だけではない。自分もだ。自分の雄の器官が痛いほど屹立し、一向に収まろう
としない。
この時――。
二人の電気アンマは無邪気な性的悪戯ではなかった。
その範疇を逸脱した、男と女では当たり前に行われていながらも、兄と妹では
決してありえないはずの行為――。愛の営みと同義であった。
「音夢……」
純一は突然、電気アンマを中断した。荒く熱い吐息をつきながら悶えていた
音夢が怪訝な顔をする。その瞳は虚ろだったが、はっきりと語っていた。
どうしてやめるの?――と。何の理由があろうと兄との愛の営みを止められるのは
嫌だった。
「音夢と……一つになりたい」
今までに無く真剣な表情で純一が音夢を見つめた。自分と音夢を覆っていた2枚の
タオルを取り去る。
音夢はその言葉を聞き、黙ってコクリと頷いた。
私は無駄な条項を付け足していたみたい、と妹は思った。
兄から一線越えの要求があった場合、妹には拒否権が無い――。
そんなルールを最後に追加したが、こうして現実に一線越えの拒否権があったとしても
使う事はありえなかった。兄は妹の一番愛する人なのだから。
二人の影は一つになり、激しい雨が二人の愛を外の世界から包み隠した――。