「兄さん、起きてください。朝ですよ〜〜」  
音夢の声が聞こえる。朝? 朝って言っても今日は休みの日だぞ?  
かったりぃ……もう少し寝かせてくれよ……。純一は布団を被りなおす。  
「もう……お・き・な・さ・い!」  
「うわっ! な、なんだぁ〜〜? ふぎゅ!?」  
どっす〜〜ん! いきなり布団をはがれてバランスを崩した純一はベッドから  
転げ落ちた。  
 
「な、何だよ音夢! 今日は日曜日だぞ!?」  
平日より過激な起こし方の音夢に抗議する純一。  
「何って、約束を忘れたんですか?」  
音夢は腰に手を当てて不満そうな表情。  
「や、約束……?」  
「そう。今日は日曜日。7時の天気予報では降水確率90%。一日中雨です。  
つまり……『えっち曜日』の日でしょ……」  
少し頬を染めながら、音夢が妙な言葉を口にする。……『えっち曜日』??  
 
「え……あっ!」  
一瞬、ポカンとしていた純一も漸く言葉の意味が飲み込めた。  
そう……『あの日』以来、二人には秘密の取り決めが出来たのだ。  
『えっち曜日』。この恥ずかしくて、到底他人には話せないフレーズには  
どんな意味があるのか? 音夢の表情に恥ずかしさで一杯ながら、隠し切れない  
期待がほんの少し浮き出ているのが純一にも見て取れた。  
 
 
純一が朝食を摂っている間、音夢は楽しそうに、ポスター大の紙を居間の壁に  
貼り付けていた。既に自室と純一の部屋にも同じものが貼られている。  
そこには音夢のイラスト入りの文章が色取りどりの文字で書き記されていた。  
タイトルには大きく『〜 えっち曜日・6か条の掟♪ 〜』と。  
 
「それ、お前が書いたの?」  
呆れながら純一が聞く。音夢は楽しそうに頷いた。「朝ごはん食べたら二人で  
内容をチェックしますよ」とニコニコと笑っている。機嫌がよさそうな音夢を  
見るのは純一も悪い気はしないのだが……。  
 
 
「食後のコーヒー、入ったよ。一緒にチェックしようね」  
音夢の笑顔に惹き付けられるように居間のソファに腰を降ろす純一。音夢は  
すぐに自分の横に位置取りした。若草色のミニのワンピース姿。トレードマークの  
ニーソックスはやはり紺で、いつもどおりチョーカーとリボンは欠かしていない。  
 
「じゃ、内容チェック、始めようか? 兄さん、不満なところや問題がある  
ところは、どんどん指摘してね」  
音夢がニコニコと言う。指摘したら怒るくせに……と心の中だけで純一は思った。  
無論、口が裂けても声には出せない。  
 
 
〜 えっち曜日・6か条の掟♪ 〜  
 
◆第0条:『えっち曜日』の定義◆  
 
・『えっち曜日』とは、朝倉家における兄妹間で定められたルールである。  
・土曜日曜祝日及び長期休暇期間内において、兄妹に所用が無い日であり、  
 尚且つ該当日の午前7時の天気予報において降水確率が80%を越え、  
 その時間に雨が降ってた場合、その日は『えっち曜日』と認定される。  
 期限は翌日の午前7時までである。  
・『えっち曜日』には兄妹に対し、さまざまなルールが適用される(詳細は第1条以降)。  
・ルールを破った場合、該当者には指定の罰が下される。  
・罰が無い場合は【罰則なし】と記されるが、これは実際にルールを破った時に  
 不問に処されるのではなく、最初から拒否権が無い事を意味する。  
 
☆特別補足:  
 
・『えっち曜日』確定後は翌日午前7時まで電話は留守番電話になる。その間、  
 朝倉兄妹は親戚の家にお泊りで出かけている事になっている。  
・当然、芳乃さくらが兄を訪ねてくるはずなど無い。……見つけたらつまみ出すんですよ、兄さん!  
 
 
 
「いきなり0条かよ……」  
「いいじゃない、前文みたいなものですよ」  
その前文からして『拒否権なし』のコメントが。厳しい法律の様だ。  
 
「さくらの事は名指しか…」  
「当たり前です」  
音夢の顔つきが強張るのを見て、そそくさと純一は次を促す。  
 
 
 
◆第1条:妹から兄へ◆  
 
・妹は兄に対し、いつでもお話して欲しいと要求する事が出来る。【罰則なし】  
・妹は兄に対し、いつでも抱き抱きして欲しいと要求する事が出来る。【罰則なし】  
・妹は兄に対し、いつでもキスを要求する事が出来る。【罰則なし】  
・妹は兄に対し、キスを要求する時、その場所を指定できる。  
 また、『おまかせ』にする事もできる。【罰則なし】  
・妹が兄に『おまかせ』でキスを要求した場合に、兄のキスした場所が妹の気持ちを  
 満たさなかった場合、妹が満足するまで要求しなおす事が出来る。なお、その回数に制限はない。  
 【罰則なし】  
・妹は兄に対し、お風呂を一緒に入る事を要求できる。また、その回数に制限は無い。【罰則なし】  
・妹は兄に対し、一緒に寝ることを要求できる。また、その時は妹が寝付くまで兄は妹を優しく  
 寝かせつけなければならない。【罰則なし】  
 
☆特別コメント  
 
 兄の義務として、妹が以上の内容を求める前に、可能な限り妹の心情を酌んで  
 自ら積極的に行動に移さなければならない。……がんばってね、兄さん♪  
 
 
 
「気のせいか、第1条だけ、やたら項目が多いんだけど……」  
「いいじゃない。たまにしかない事なんだから妹の願いを沢山叶えてくれても  
バチは当たりませんよ」  
「しかも全部拒否権なし…?」  
「だって、必要ないでしょ?」  
いたずらっぽく嘯く音夢。  
 
 
 
◆第2条:兄から妹へ◆  
 
・兄は妹が着る服装の指定が出来る。【罰則なし】  
・兄が指定できるのは妹の着る洋服・アクセサリー・そして下着に至るまで事細かく  
 指定することが出来る。また、その着用の有無も指定できる。【罰則なし】  
・兄は妹の体を何時でも触れる事が出来る【罰則なし】  
・兄は妹に対し、家事を命じる事が出来る。料理については……が、頑張りますから!  
 
 
 
「とりあえず、最後の項目が一番気になる……」  
「そ、それ以外の項目に注目してください。意味……わかりますよね?」  
「ま、まあ……な」  
頬を染める音夢と汗がにじみ出る純一。誤魔化すように次に行こうとしたが、  
そのタイトルを見て目を丸くする。  
 
「でんき……あんま……?」  
コクン、と音夢が俯きながら頷いた。  
「だって……これが私達を解き放ってくれたんだもん……」  
音夢は純一の二の腕を両手で抱きながら、恥ずかしそうに微笑む。  
 
 
 
◆第3条:でんきあんま◆  
 
・兄は妹に対し、いつでも電気アンマをすることが出来る。【拒否による罰則あり】  
・妹も兄に対し、いつでも電気アンマをしてもらうことが出来る。【拒否による罰則あり】  
・睡眠時間以外で2時間以上電気アンマが無い時、自動的に電気アンマタイムに入る。  
 【拒否による罰則あり】  
・電気アンマは3分に1回中断する。続ける時は妹がOKしてから続ける事が出来る。  
 ……ごめんね、長い時間は結構辛くて……。出来る限り頑張るから。  
 
☆拒否による罰則:  
 
・兄は妹に対し、罰則として、電気アンマよりえっちな事(或いはヒドい事)を  
 しなければならない。  
・その罰則が電気アンマよりえっちな事(或いはヒドい事)かどうかは兄と妹の  
 双方が認める必要がある。  
・罰則が電気アンマよりえっちな事(或いはヒドい事)では無い場合、電気アンマから  
 全部やり直しになる。  
 
 
 
「なんか……急に生々しくなってきたんですけど……?」  
「…………」  
(電気アンマよりエッチな事ってなんだろう……?)  
音夢に問いかけたい誘惑を何とか抑える。  
 
「2時間に1回は必須、か……」  
「少ないかな?」  
「多いんだよ!」  
 
 
 
◆第4条:その他のいたずら◆  
 
・兄は妹に対し、電気アンマ以外にも以下のようないたずらをすることが出来る。  
 
 くすぐり・スカートめくり・カンチョー(強くやっちゃだめですよ)・  
 オッパイ揉み(小さくてゴメンね…)・カニさんetc…。  
 
・兄は妹に対し、以下のシチュエーションで遊ぶ事を要求できる。  
 
 お医者さんごっこ・プロレスごっこ・囚われのお姫様ごっこetc…。  
 
・それ以外にも兄は思いついたいたずらや遊びを妹と相談の上ですることが出来る。  
 く、くれぐれも、いきなりやらないでくださいね? ドキドキ……。  
 
 
 
「………」  
「……呆れてないで、なんか言ってください」  
「……『カニさん』ってなんだ?」  
「こ、この前、兄さんがやったじゃないですか。 後ろから手を回してオッパイを揉む  
振りをして……両手を『チョキ』の形にして、その……」  
「わ、わかった……。あれは冗談のつもりだったんだが……」  
「電気が走ったみたいにビックリしたんですからね。責任とってください」  
「なんの責任だよ……」  
 
「シチュエーションプレイ……ね。まあ、考えようによっては可愛いもんだけど」  
「何がですか?」  
「だって、囚われの姫様が音夢で、俺が白馬の騎士なんだろ? 可愛いじゃないか」  
「……? 兄さんは姫を捕らえた魔王役ですよ?」  
「へっ? じゃあ、白馬の騎士は?」  
「そんなもの来ませんよ」  
「………。姫の運命はどうなるんだ?」  
「悪い魔王にずっと捕まったままです。日夜いやらしい事や酷い事をされながら……  
 例えば、姫の上半身に鉄枷をつけて、執拗に電気アンマとか、ですね」  
「………」  
 
「もしかして……この『プロレスごっこ』というのも……?」  
「ええ。私が正義のアイドル女子レスラーで、兄さんが反則魔のヒール役です。  
 ロープなどの凶器攻撃をされたり、急所攻撃をされたり。でも決して悪には屈しないの」  
「きゅ、急所攻撃!?」  
「だって、電気アンマって、プロレスでは急所攻撃でしょ?」  
「………」  
 
「『お医者さんごっこ』の医者も悪の医者だったりするのか?」  
「いいえ、心正しいお医者さんです。でも、その人の患者に、ある事をしないと  
死んでしまう不治の病の少女がいて……」  
「ある事というのは、電気アンマなんだな?」  
「すごい、よくわかりましたね〜」  
「………」  
「でも、その患者さんは電気アンマが苦手で、お医者さんは仕方なく患者さんを  
ベッドに拘束して下半身を……」  
「と、とりあえず、お前の趣味はわかった……」  
 
放って置くと取り返しのつかないことになりそうだ、と純一は妹を大事にする事を  
心に誓った。  
 
 
 
◆第5条:兄と妹の立場◆  
 
・兄と妹の意見が対立した時、必ず兄の意見が採用される。【罰則なし】  
・兄と妹の立場は同じではない。主従関係にある。兄が『主』で妹は『従』である。  
 
◆第6条:一線越え…◆  
 
・妹は兄に対し、『一線越え』を要求する事は出来ない。  
・兄は妹に対し、『一線越え』を要求する事が出来る。【罰則なし】  
 
 
 
「ま、この辺は読めばわかるので、サラリと流して……と」  
「待たんかい!! なんだ、この第5条と第6条は!?」  
「なんだって……書いてあるとおりですよ?」  
済ました表情で純一を見つめる音夢。「当然のことですが、何か?」と書かれた顔を  
見て自分が間違ってる錯覚にとらわれそうになるが……。  
 
「フフフ……これで全部チェックOKですね。じゃあ、今から『えっち曜日』の  
始まりですよ。楽しみましょうね、兄さん」  
ニコニコと音夢は純一に密着してきた。天使のような可愛い笑顔だが、その時の  
純一には小悪魔の微笑が重なり合わさって見えていた。  
 

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