「もし、そこのあなた」  
「な、何だよあんた。占い師か?俺に何の用だよ?」  
「占っていきませんか?」  
「別に興味ねえよ…」  
「次にあなたは『かったりい』と言う」  
「かったりい…はっ!?」  
「私には筒抜けですよ。朝倉純一さん…ですね」  
「何故、俺の名を?」  
「いやなに。私も占い師稼業は長くて、もう幾人も見てきたんですがね。別にこちらから占おうとせずとも、名前とか、記憶とかが色々見える人っていうのが、たまにいらっしゃるんですよ」  
「へー」  
「でね、そうなるともう、その人の未来を占ってみずにはいられなくなるんです…どうです?不躾なのは承知してますから、お代の方は結構ですよ」  
「へー…面白そうだな。んじゃちょっとお願いしようか…であんた、何でそんな鼻をつまんだ時みたいな声なんだ?」  
「…べ、別にいいじゃありませんか。では、お手を拝借…」  
 
「どうなんだ?」  
「んんん…あの、少しお伺いしますけど、あなた今お付き合いされている方はいますか?」  
「別に」  
「……で、欲しい?」  
「あー…まあ欲しいっちゃあ欲しいけど、別にすげー欲しー!ってワケじゃねえなあ。かったりいのは御免だし」  
「いけませんッ!!」  
「えっ!?」  
「おっと失礼。あなたにとても相応しい、一緒になれば貴方の人生がもう順風満帆百花繚乱家内安全満員御礼となれる才色兼備八面玲瓏な伴侶の存在が今し方見えましたもので」  
「なんだかよく分からんが、えらく推すんだな…で、それは誰なんだ?」  
「それが、名前が出てこないんです…でも、貴方のよく知る人であることは明白なんです」  
「……」  
「あ、でも断片的にその人を指すキーワードとなるものが見えてきました…。今からそれらをあげていきますから、思い浮かんだ方の名を仰ってみてください。そうすれば、全てがはっきりしそうです……いえ、はっきりさせてもらいます」  
「えー、そんなん面倒臭えの別にいいよ、かったりいなあ」  
「いけませんッ!!」  
 
「……で、キーワードって?」  
「んー、その方は、いつも貴方の近くにいるみたいです…どうですか?」  
「そいや、ちょっと前の席替えで、眞子の隣になったなあ」  
「…ちょ、ちょっと違うみたいですね…。  
 あ、その方の髪に、リボンが結わえられているのが見えます…どうですか?」  
「萌先輩って、でかいリボンしてるよなあ。…胸もでかいけど」  
「くっ…そ、その方でもないようですねー…。  
 こうも出ました…その方は、詩歌にも結構興味があるようですよ…どう?」  
「あー、美春が、自分が考えたコピペのガイドラインスレが立ってたって喜んでたなあ」  
「全然違いますっ!!…失礼。無論それでもありません。  
 そんじゃあ、その方、料理はあまり心得てないみたいですが…」  
「昨日ことりが家庭科で作ったっていうケーキをくれたんだけど、ちょっと失敗してたなあ。お詫びと汚名返上のために今度手料理食わしてくれるっつうけど、どうなんだろう」  
「いつの間にそんなことが!?…ま、それはやめておいた方がいいとして、違いますね。  
 …じゃあ、これならどうだ…その方は、貴方を兄と慕っているようです…」  
「さくらがさ、『来年からボクが行く大学へお兄ちゃんもおいでよ』って言うんだけど、あいつが飛び級で行ける大学、俺なんかに務まるんかねえ」  
「!?」  
「『ボクがその時までに教授になって、お兄ちゃんを推薦してあげる』って言うんだが…」  
「だ、ダメ────っ!!絶っっ対、ダメ────っ!!」  
 
「何だよ、さっきから違う違うって、おまけに最後の方じゃ何か反応が生々しいし」  
「あー、ま、それはさておき、今あげたキーワード全てが当てはまる人です。簡単でしょう」  
「えー、俺の近くにいて俺を兄と呼んで何か髪にくくっててスイカが好きで…」  
「詩歌(しいか)です。詩とかその類」  
「分かってるっての。それでいて、料理がど下手、一個大隊をその手料理で殺せる…」  
「く…!!」  
「ん────」  
「早く!!」  
「誰かなあ?」  
「……ッ!」  
「……音夢、か?」  
「そう、それ!!…あ、ああやっと、全てのイメージがその名で一つにまとまりましたよー」  
「ふーん…って、あいつ俺の妹じゃん。厳密に言うと違うけど」  
「違う以上問題ないんです。その方です。間違いありません。家に帰ったら…そうですねー、  
 『愛してるよ』とか『俺にはお前だけだよ』とか言ってあげると、いいんじゃない、かなあ〜…」  
「………」  
「…ど、どうしました?」  
「実は、あいつに指輪を買ってやろうと思ってたんだが、どうだろう?」  
「ええっ!?」  
「何か、上に綺麗な多面体のモンがついたやつなんだが」  
「ホント!?本当に!?」  
「……何故あんたがそんな反応をするんだ?」  
「い、いえ。そんなことより、それはいい!!非常に、いい!!」  
「でもなあ。安もんしか買えねえしなあ」  
「ううん、安物でも、すっごく嬉しいよ…いやいや、その方は非常に喜ばれると思います!!!!」  
「んじゃそうしようか…って、あんた、もう店じまいか?商売はいいのか?」  
「こうしちゃいられないんです…い、いえ、ちょっと急用を思い出しましてね。そういう貴方こそ、早く買いに行かれた方がいいと思いますよ、さあ、さあ!!」  
「………」  
 
「ただいまー」  
「お帰りなさい、兄さん!」  
「おや、玄関までお出迎えなんて、珍しいじゃないか」  
「いえいえ。当然の努めですから」  
「何か機嫌が良さそうだな」  
「そういう兄さんは、ポーカーフェイスだなあ〜」  
「ハァ?」  
「さ、兄さん、今日も疲れたでしょう。お風呂入れてありますよ。入ってきたらどうですか?あ、それとも、肩をおもみしましょうか?それとも…」  
「な、何だよ、えらくサービスがいいな」  
「え〜、私は至っていつも通りのつもりですけど?」  
「そいや、今日街で変な占い師に会ってさ」  
「…あー、その人の占い、すっごく当たるって、大評判なんですよ!」  
「そうなのか?何か胡散臭い感じしかしなかったけどな」  
「…で、占ってもらったんでしょう?何て言われたんですか?ねえ、何て?」  
「さあね」  
「隠さなくったっていいのに〜」  
「あ、そうだ、お前にお土産があるんだ」  
「待ってました!!」  
「ん?」  
「…いやいや、何、何?」  
「ちょっと待ってな…」  
「び、ビニール袋?……な、何かなー…」  
 
「デパートで『懐かしの駄菓子フェア』ってのをやってたんだ」  
「……っだ、駄菓子…?」  
「お前には…ほら!」  
「これって…」  
「ほら『指輪キャンディー』ってやつ。すげーでけー宝石つけてるみたいで、面白いだろ?何かミワアキヒロとかホソキカズコとかがしてる指輪みたいでさ」  
「……ほ、ホントだね…アハハ」  
「ほら、食ってみろよ」  
「い、いいよ、後にしとく」  
「いいじゃねえか、もう開封しちゃったしな。ほら、あーん」  
「えっ!?……あ、あーん………んぐっ」  
「……」  
「ん、ん?」  
「……ッアッハハハハハハハハハ!!何か今のお前、赤ん坊がおしゃぶりくわえてるみたいだな!! アッハハハハハハハハ…」  
「んんー……っ!」  
「アハ、アハハハハ、は、腹いてえ、アハ、アハハハハハハ…」  
 
「……兄さんなんて、大ッ嫌い!!」  
「痛てえっ!」  
「兄さんのバカ!!ふんっ!!」  
 
「くそ、いきなりひっぱたくこたないだろ…っ痛えー…。  
 ……それに、馬鹿はお前だろ…」  
 
 
 
「……あ、っああ──っ!!! 寝過ごしたあぁっ!!  
 くそ、音夢のやつ、起こしてくれてもいいだろうに……まだ怒ってるのかあ!?」  
 
「おはよー、音夢。あれ、朝倉は?」  
「あ、眞子。おはよう。兄さんは、後からくると思う」  
「ふーん…ん?音夢、何読んでるの?」  
「ああ、これ?」  
「『こだわりの手作りビーズアクセサリー』おー、さすが手芸部」  
「ははは…」  
「すごーい、付箋つけてるこれ、本物の宝石みたいじゃない!これ作るの?」  
「うん、ちょっとね……」  
 
了  
 

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