暗く狭い部屋の中に、蝋燭の明かりだけが灯る。音夢はその炎の揺らめきを一心に、恍惚とした表情で眺めている。
その傍らでは純一が、苦悶の表情を浮かべていた。
思えば音夢にこの姿勢を取らされてから幾分か立つ。その所為で純一は耐え難い苦痛に苛まれていた。その苦痛は始めは局部的なものであったが、今では全身にも及ぶ勢いで、純一の体内を駆けめぐる。
「く……」
しかしこの姿勢を崩すことを、今の音夢は許さないだろう。音夢が満足するまでは、体勢を崩すことは出来ない。純一は、苦悶の色を強めた。
「うふふ……」
音夢はそんな純一の無言の哭声など、知るよしもない といった感じで、未だ、その蝋燭の灯火に見とれている。
音夢がそうしている所為か、その身を長く焦がし続けた蝋燭からその焦熱を充分に含んだ蝋が、その身を辿って垂れ落ちた。
「あ゛!?」
その衝撃に、純一は堪らず声をあげた。忽ち蝋は落下先周辺を溶かし、辺りに焦げ臭い匂いを漂わせる。
「しっ!変な声出さないでよ!!」
音夢は奇声をあげる純一を叱責した。自分が置かれている状況を、この人はわかっていないようだ。そんな学習能力の欠片もない純一に、音夢は憤怒する。
「だって、だって……あ、あ゛あ゛あ゛……!!」
止めどなく垂れ落ちる蝋に、純一の奇声はとどまるところを知らない。音夢は苦虫を噛み潰したようにその眉間に皺を寄せ、仕方がない、と
「ふ──っ……」
と、蝋燭の火を吹き消した。
間髪入れずに純一は立ち上がると、部屋の明かりをともし、どっかと足を投げ出すようにしてその場に腰を降ろす。
「んもう、せっかくクリスマスのムードに浸ってたのに……」
「それで何で正座してなきゃいけねえんだ」
「だって、聖なる夜ですよ、兄さん」
「俺は無神論者なの。第一何でクリスマスケーキに蝋燭立てにゃならんのさ。お誕生日じゃあるまいし」
「だって、そっちの方が綺麗じゃない」
「知るかよ…あーあー、ケーキに蝋がこんなに……」
ぼやきながら純一は、その蝋をフォークで取り除きはじめる。音夢はそんな純一を眺めながら
『せっかく、二人っきりなのにな……』
と、ムードを解さない純一に苛立ちを覚えた。