「……眞子…いいだろ?」
「あっ、ちょっと待っ──」
いきなり両腕を掴んで迫ってきた朝倉の勢いに、あたしは足を取られて壁へと体を押つけられた。
「眞子……」
もう逃がさないと目で訴えてくる朝倉。
誰もいない放課後の音楽室。夕陽が赤く教室中を染める中、あたしは朝倉に唇を奪われた。
始まりは“偽りの恋人”だった。
それがいつしか本物に変わっていって、今のあたしたちがある。
朝倉が好き。大好き。その想いは偽りない本物。
……ただ一つの不安を除いては。
「……っ……だめっ、やめて…」
あたしは朝倉の胸板を押して唇を離した。
「ここでするの嫌か?」
……そういうことじゃない。そういうことじゃないけど。
あたしには一つ納得がいかないことがある。
「……今日、お姉ちゃんと……したでしょ?」
それがあたしの“不安”。
朝倉は、あたしの姉も抱いている。
「したよ」
顔色一つ変えず、朝倉は拍子抜けするほどあっさりと肯定した。
「簡単に言わないで。二股かけてるってことわかってるの?」
「萌先輩のことも、眞子ことも好きだからセックスするんだ。おかしいか?」
「……おかしい。おかしいよ!
あたしかお姉ちゃんか、どっちかちゃんと選ん──」
視線を逸らしていたあたしの不意をついて、朝倉が唇を重ねてきた。
強引に舌が唇を割って入ってくる。反射的にあたしは舌を絡め返していた。
心では拒否しているのに、体が甘い刺激を欲している。
「んっ……はぁ……」
しばらくして唇が離れ、銀の糸が二人の舌を繋ぎ、宙に消えた。
そして朝倉が言った。
「萌先輩を選んでもいいのか?」
……汚い。そんなの頷けるはずがない。
お姉ちゃんと二股はかけて欲しくない。
だけど、あたしを選んで欲しい。
そんな二律背反な感情を逆手にとって、朝倉はあたしを追い込む。
「俺は眞子が好きだ」
宣言して朝倉はあたしの体を抱きしめる。
「眞子は違うのか? 俺のこと好きじゃないのか?」
「……好き。好き……だけど……」
朝倉の力強い言葉にあたしはとまどう。
「眞子…」
こんな関係だめなのに、あたしは魔法でもかけられたかのように三度唇を重ねた。
「んっ……んん……」
さっきとは違った、あたしの拒む心を溶かすような優しいキス。
あまりの心地好さに体から力が抜けてゆく。変わりにお腹の下がじんわりと疼くのを感じていた。
キスの合間に朝倉は私の右手を取り、自分の股間へ導く。
そこはすでに十分に膨らんでいて、ズボンの上からでも硬さが伝わってくる。
「なんでこうなってるのかわかるだろ?」
「……セックスしたいからでしょ」
「違う。ただセックスがしたいだけじゃない。
眞子とセックスしたいんだ。今すぐ眞子が欲しいんだ」
耳や首筋に舌を這わせながら、朝倉は自分の欲望を際限なくぶつけてくる。
…お姉ちゃんのことをはっきりさせないといけないのに、
好きな男に求められることの嬉しさが、私の抵抗する力を奪っていった。
「眞子が取り出して」
あたしは言われるまま操られるように、ズボンのチャックを開け、
インナーの中から生地に触れないように丁寧に朝倉のペニスを取り出した。
初めてペニスに触れたとき、何も知らなかったあたしはいきなり先端部に触れてしまい、朝倉を痛がらせたことがあった。
男性器も女性器と一緒で、とても敏感な存在なんだとその時初めて知った。
それからは腫れ物を扱うように触れるようにしている。
「……はぁ…」
朝倉のペニスに触れ、あたしは熱いため息を漏らした。
熱を帯び、天を向いてビクビクとそそり立つにそれに、言い知れぬ昂奮を覚えたからだ。
その間に朝倉もあたしの制服に手をかけていた。
お互いに肌をさらけ出し、朝倉もあたしも、その先の期待に昂奮していた。
──もう、この行為は止められそうになかった。
朝倉が私のふとももに手を這わせる。
くすぐったさにあたしは身を捩るけど、そのまま朝倉の手がスカートの中に進入して来て秘所に触れた。
「んっ…」
自分でもわかった。あたし濡らしてる……
「手…動かして」
指の側面で、ショーツに隠されたスリットを擦るように刺激しながら、朝倉が私の愛撫を促す。
じんわりを体を刺激する快感を受け止めながら、あたしは朝倉のペニスをゆっくり擦り始めた。
幾度も擦らない内に先端から雫が零れ始め、あたしの指とペニス自身を濡らしていく。
それはこちらも同じで、キスや胸へのペッティングを加えた朝倉の愛撫に、愛液を溢れさせているのを感じていた。
「気持ちいいよ眞子…扱いが上手くなったな」
「そんなこと……」
私は恥ずかしさに顔を伏せた。
男性のペニスの扱い方を誉められて悦べるほどあたしは大人の女じゃなかった。
ただ気恥ずかしいだけ……けど、朝倉が気持ちいいと言ってくれることは何よりも嬉しい。
自分は思ったより献身的だなと思う。
普段の勝気なあたしと違う、こういう時のあたしを朝倉はどう感じてるだろうか?
「恥ずかしがる眞子も可愛いな。普段とのギャップがそそるよ」
まるであたしの心を見透かしたような朝倉の言葉に、あたしはほっとする。
「もっと可愛い眞子見せてよ」
言って朝倉は片手で器用にショーツを降ろすと、しっとり濡れたあたしの膣内へ中指を入れた。
「んっ…あっ……!」
朝倉の指もペニスも、まだ両手で数えられるくらいしか受け入れてないあたしは、
自分の中に自分以外のものを受け付けることに体がついていかなかった。
最初に挿入されるときはまだちょっと不快感があって、体が強張ってしまう。
朝倉もそれをわかっていて、別の個所を優しく愛撫することで緊張を解きほぐしてくれる。
「熱いよ眞子の膣内…しっかり締め付けてきて、指だけでも気持ちよさわかるよ」
言いながら朝倉はあたしの膣内を刺激し始める。
すばやく抜き差ししたり、鉤状に指を曲げ愛液をかき出すように襞を擦りあげてくる。
「あっ、ああっ、あんっ…ああっ……朝倉…そんなにしたら……ああんっ…」
朝倉に翻弄されて声を抑えることもできない。
素直に気持ちよかった。朝倉に抱かれるまで、こんなに気持ちいいこととは知らなかった。
もっとして欲しい。でも、そんな恥ずかしくて、はしたないこと言えるはずがない。
あたしの中のモラルがぐるぐると葛藤を繰り返す。
「こっちも触って欲しいだろ?」
「ああっ、あんっ!!」
葛藤を吹き飛ばす強い刺激。クリトリスを摘まれて、あたしは軽く達した。
「あっ……はっ、はぁ……はぁ……」
「ほら、眞子の愛液…こんなに指に絡んだよ」
余韻に包まれたあたしに、朝倉は膣内から抜いた指を見せつける。
中指を中心に薄白い愛液がしっとりと指先を濡らしていた。
「今度はこっちで眞子を感じさせてくれよ」
その愛液を絡ませるように自分のペニスをしごく朝倉。
二人が零した雫が混ざり合い、にちゃにちゃとやらしい音を立てる。
あのペニスがあたしの膣内に挿ってくる……
期待と昂奮にあたしはまた自分の膣内が濡れるのを感じた。
「行くよ」
「あっ……来る……挿って来る………」
ピアノに手をついたあたしの後ろから、朝倉がスカートを腰に捲りあげてゆっくりと挿入してきた。
指より太く長いモノの挿入感にあたしは身震いする。
好きな人が自分の中にいるかと思うと、その愛しさだけで達しそうになる。
「……動くぞ」
ひとつ息をついて朝倉が腰を動かし始める。
「あっ……ああ……んっ……はぁ……はぁ……」
あたしの膣内の感触を確かめるようなゆっくりとした動き。
初体験の痛みはすでになく、それだけで心地好い刺激が伝わる。
「眞子の膣内、段々と俺のに馴染んできたな」
「……そうなの?…朝倉だけだから朝倉に合うのかな……」
少しだけ皮肉を込めた。忘れちゃいけないお姉ちゃんのこと。
「そうだな」
気付いているはずなのに、気付いていないかのように振舞う。
そこから段々と動きに変化が加わる。
「あん、あっ、あっ、あっ、ああっ…朝…倉ぁ……んっ、んあっ、ああっ……」
スピードを速め、角度を変えながら膣内を貫き続けてくる。
複雑な刺激にあたしは翻弄され、快感に絶えるように目を閉じ、俯く。
「あっ、ああっ、凄いよ…こんな…」
こんなに感じていいのか怖くなるくらいの快感。
体験前は簡単に気持ちよくなれるとは思ってなかった。
経験豊富な大人の男性に抱かれるならまだしも、朝倉は同い年で経験だって少ないはずなのに、
なんでこんなにスムーズにセックスができるのか不思議でならなかった。
確かにお姉ちゃんを抱いてる。そのことがアドバンテージになるのかもしれない。
それでもあたしとたいして変わりはないはずだ。
なんで? 相性がいいから?
「──眞子、余計なこと考えないで、俺を感じてよ」
「ああんっ!」
またクリトリスを摘まれて、あたしの意識は繋がった個所に引き戻された。
そして溢れる愛液を潤滑液に、一層強い突き込みを送り込んでくる。
「ああっ! だめっ、だめっ!、激しっ、ああっ!あっ、イクッ…イッちゃう!…ああっ──!!」
快感が弾けてあたしは背を反らして達した。
ビクビクと朝倉のペニスを締め付けているのが自分でもわかる。
彼は射精していないのに、一度ペニスを抜いた。
「ああっ……」
支えを失ったあたしは、朝倉に抱きしめられて床に崩れずにすんだ。
「今度はこっちで…」
愛液をぽたぽたと零しながら、あたしは生徒用の机に仰向けに寝かされる。
「もっとイカせてあげるよ」
「あっ、だめっ…少し休ませ──んっ! あんっ!」
今度は勢いよく膣内に入ってきて、そのまま力強く貫き続ける。
「あぅん! ああっ、ああっ、だめっ、強すぎるっ、ああっ、ああんっ!」
達して敏感になった粘膜を執拗に擦られ、気が狂いそうになるような快感が体中を駆け巡る。
ただただあたしは喘いで、朝倉の望むままに抱かれた。
「ああ、いいよ眞子…すげぇ気持ちいいよ……」
「んっ、ふあっ…気持ち、いいの?…んっ、ああっ!…あたしで…感じてるの?」
「気持ちいい…感じてるよ……眞子、いいよ…気持ちいいよ……」
切なそうな瞳で朝倉はあたしを見つめる。
…そんなにあたしで感じてくれてるの?
お姉ちゃんの時はどうなの? お姉ちゃんの時もそんな表情するの?
そうだ、お姉ちゃんのことはっきりさせなきゃいけないのに…
流されちゃだめ……流されちゃ……
「眞子もいいだろ? 眞子も感じてるだろ?」
「あっ、ああんっ…いい……あたしも凄く、感じてっ、ああっ、ああっ…!」
「眞子……眞子……眞子……!」
一突きする度に、あたしの名を呼ぶ朝倉。
行為の最中にどんなに夢中になっても、朝倉は決してあたしとお姉ちゃんを間違えたりすることはなかった。
「…あんっ、ああっ、ああっ、あっ、朝倉っ、あたし…また来ちゃうよっ!」
あたしはお姉ちゃんの代わりじゃないってことだよね?
あたしとセックスしてることを実感してくれてるんだよね?
あたしを求めてくれてるんだよね?
答えてよ朝倉……
それだけが……それだけが不安なの……どうしようもなく怖いの……!
「眞子…俺もイクから……このまま出すぞ!」
膣内は大丈夫だった? 確か大丈夫だった気がする。
そんなことを確認できるほど、絶頂間近のあたしには考えてる余裕はなかった。
「ああっ、あんっ、ああっ! ああっ、イクッ! 朝倉! 朝倉──!」
「眞子──!!」
「──あああっっ!!」
全身が弾け跳んでしまったかと思うくらいいの強い、強い、絶頂──
朝倉のペニスがビクビクと震え、あたしの最奥に性を放つ。
快感と共に、全てを忘れてしまうくらいの幸福感があたしを包み込む。
「眞子…よかったよ……」
汗で頬に張り付いたあたしの髪を整えながら、朝倉はゆっくりと唇を重ねてきた。
恋人同士の甘い甘いキスに、あたしはセックスの余韻と共に酔いしれる。
朝倉が好き。世界中の誰よりも好き。
この瞬間だけは朝倉はあたしのもの。
不安も迷いもない。幸せがただあるだけ──
それが、束の間のものと分かっていながらも。