夏休みも間近に迫ろうかという、とある土曜の昼下がり。  
 暇だし特にすることもなかったので、昼寝をしていたら家のインターホンの音に起こされた。  
 居留守を決め込もうとしてまた眠りにつこうとするのだが、  
 「居るのはわかってるんだから出て来い」と言わんばかりに約10秒間隔にインターホンを鳴らしてくる訪問者。  
「かったりぃ……」  
 と無意識に呟きながら玄関に向かいドアを開けた。  
「ただいま、兄さん」  
 ( ゚д゚)  
 見間違い、聞き間違いでなければ、目の前に音夢がいる。  
「出てくるの遅いよ兄さん。私だからいいようなものの、お客さんを待たせたらだめですからね」  
 (つд⊂)ゴシゴシ  
 (;゚д゚)  
 おかしい、何故か音夢がいる。  
 おかしいぞ、よく考えろ純一。  
 確か音夢は4月から島の外の看護学校に入学して、そっちの寮に入った。ん、間違いない。  
 黄金週間とか夏休みとか長期休暇にならないと島には帰ってこれないはずだ。ん、間違いない。  
 で、前者はとっくに終わって、後者にはまだ少し早い。ん、間違いない。  
 結論:ここに音夢がいることはありえないと思われる。  
    まだ、昼寝の途中の夢と思われる。  
「ちょっと、兄さん! 聞いてますか?」  
 
 (つд⊂)ゴシゴシ  
  _, ._  
(;゚ Д゚) …?!  
 
「音夢……?」  
「もう、しっかりして下さい兄さん。あなたの義妹の音夢です。  
 昼寝でもしてたんでしょ? そ・れ・と・も、私の居ない生活が当たり前になっちゃたんですか?」  
 ちょっと本気で怒ってる風の音夢。  
「そ、そんなわけないだろ」  
「ならいいですけど」  
 ふてくされたように横をすり抜けて、音夢は家にあがっていく。  
「ちょっ、音夢、学校は!?」  
「土日の休みだけじゃ帰ってきちゃいけませんか?」  
「いけないなんて言ってないだろ」  
「そういう意味にも聞こえます」  
 とことんけんか腰の音夢。よほどさっきの反応が気に入らなかったのだろう。  
「兄さん喜んでくれると思ってたのに……あんなお化けでも見たような顔して」  
「そりゃ、ここにいるはずのない人がいたらあーなるさ。  
 それが好きな人だったら尚更、嬉しさや、驚きよりも、思考が停止するっての」  
 本心を言うだけ言って音夢の顔を見たら、表情一転顔を紅くして、  
「兄さんはまっすぐすぎます!」  
 照れ隠しをするようにリビングに行ってしまった。  
 別に狙ってるわけじゃないんだけど、どうもクサい台詞が口をついてしまう。  
 ま、音夢の機嫌もこれでなおってくれただろうし、一件落着。  
「…………………………ん?」  
 で、音夢のやつ何でこんな時期に帰ってきたんだ?  
 
 
──あっ! という間に夜になってしまった。  
 あれから二人で夕飯の買出しに行って、二人でなんとか形なった夕飯を作り、近況報告を含んだたわいない話をしながら食事した。  
 二人で、二人で、二人で。  
 なんでか知らないが音夢はずっと俺に引っ付いていた。  
 移動で疲れてるだろうから、音夢を置いて買出しに行こうとしたら、  
「私も一緒に行きます」  
 せっかくだから夕飯は、一人暮らしの間にひとつ身につけた料理を披露してやろうと思ったら、  
「私も一緒に夕飯作ります」  
 こんな感じだ。  
 そりゃ二ヶ月ぶりの再会だし、俺たちは恋人同士なのだから何一つ不思議なことはない。  
 好きな人と一緒にいたい。当然の想いだ。俺だってそうだし。  
 だけど、今日の音夢にはそういうんじゃない何か違う感じがした。  
 いつかの迷子の時のような、心もとない感じが。  
 
「あー今日のエ●タの神様つまんねー」  
 風呂上りの俺はリビングで、エンターテインメントを謳いながら若手芸人のネタ披露番組と化した、  
しょーもないテレビを見ていた。  
「あ、パ●ットマ●ット出てる〜♪」  
 後から風呂に入った音夢がすでにパジャマに着替えてリビングに入ってきた。  
 パ●ット〜は、牛と蛙の人形を操りながらその人形に漫才させるっていう異色なネタが受けて、  
人形の可愛さも相まって、今かなり人気のコンビ(?)だ。  
「兄さん、隣いいですよね?」  
「あ、あぁ」  
 俺が返答するよりも早く、音夢は隣に座ってそれとなく身を寄せてくる。  
 瞬間、ふわっとシャンプーのいい香りと、石鹸の匂い。……音夢の匂い。  
 普段寄り添えないがゆえに、余計に精神が溶かされそうになる。  
「この人形欲しいなぁ。ね、兄さんも可愛いと思いますよね?」  
   
 お前の方が可愛いよ。  
 
 ──そんなこと言ったら朝倉純一は朝倉純一じゃなくなると、どこかの神が告げているので、  
   俺の心の最奥の洞窟に封印しておきます。by.純一 ──  
 
「これだけ人気なんだからどっかで売ってるんじゃないか? 見かけたら買ってやるよ」  
 とりあえず、無難な返答を選んでみました。  
 ところがこれが音夢には効果的だったようで、  
「ほんとですか兄さん? 約束ですよ?」  
 嬉しそうに上目使いで覗き込んで、右手の小指を差し出す。  
「いちいち指切りしなくても約束守るって」  
「ダメ。するんです」  
 音夢は俺の右手を取って小指に自分の小指を絡めると、  
「嘘ついたら針千本の〜ますっと」  
 (おそらく)全国共通のお決まりの歌を歌って、嬉しそうにえへへと笑う。  
「約束ですからね〜」  
「わかったって……」  
 会話が切れてなんとなく見つめ合う。  
 お互い照れくさくなって一度視線を外した後、また見つめあう。  
「兄さん……」  
 どちらともなく体を近づけ、挨拶のような軽く触れ合うキスをした。  
 兄妹から、恋人に変わる儀式。  
 唇を離してまた、音夢が嬉しそうに笑みを浮かべる。  
 それが可愛くて、可愛くて、どうしようもない衝動に駆られて俺は音夢を抱きしめた。  
「兄さん……♪」  
 音夢もしっかり抱き返してくれるのがたまらなく嬉しかった。  
 
「今このテレビを見ながら、えっちなことをしようとしているカップルがいるんだ! 間違いない」  
 
「……………………」  
「……………………」  
 いつの間にかパ●ットマ●ットは消えて、「間違いない」で流行語大賞を狙ってる長●秀●がお得意のネタを披露していた。  
 ……今、お前がムードぶち壊したのは、間違いない。  
 
「今このテレビを見ながら、えっちなことをしようとしているカップルは、  
 近いうちに女の方が俺に惚れて二人は別れる! 間違いな──」  
 
 プツンという音を立てて、長●秀●をこの空間から消し去った。  
「パ●ットマ●ット可愛かったよな」  
「そうだね、兄さん」  
 とりあえず、なかったことに成功した。  
 しかし、  
「……………………」  
「……………………」  
 気まずいことこの上ない。  
「…………部屋、行くか?」  
 絶えがたい沈黙は音夢も一緒なんだろう。恥ずかしそうに頷いてくれた。  
 
 手をつないで部屋を出て階段をのぼる。  
 これからの行為に対する少しの緊張と多大な期待、掌から伝わる音夢の体温が全身を駆け巡って、  
俺の欲ボウが少しずつ反応してきてしまう。  
 こういうとき音夢はどんな想いでいるんだろうか?  
 そんなことを考えているうちに階段を上りきる。ここで、二択出現。  
 俺の部屋か、音夢の部屋か?   
 俺が無言で音夢の部屋の方へ向かおうとすると、繋いでいた手を強く握り返し音夢は拒否の意思表示をした。  
「……兄さんの部屋がいい……」  
「……音夢の部屋のがいい…」  
「…兄さんの部屋」  
「…音夢の部屋」  
「兄さんの部屋」  
「音夢の部屋」  
「兄さん……」  
「音夢……」  
 互いの名前を呼び合うだけの趣旨違いの方向へ向かっていくのを音夢が軌道修正する。  
「なんで私の部屋の方がいいの?」  
 かなり散らかってるから、音夢が怒り出してこの展開が無かったことになるのがいやだから──  
 ──とは言えずに、  
「音夢こそなんでだよ?」  
 苦し紛れに逆に聞き返してやる。  
 すると音夢は恥ずかしそうに俯いて、やっと聞こえるような声でこう言った。  
「兄さんのベッドの方が、兄さんの匂いが感じられて……  
 より兄さんに包まれてるような感じがするから……じゃ、ダメ……?」  
「…………………まいりました…」  
 一発KO負けを食らった感じ。そんなこと言われてKOされない男はいない。  
 ましてや音夢のような美少女に言われたらたまったもんじゃない。  
「……お前のほうがまっすぐすぎるっての……」  
「……何か言いました?」  
「何も……」  
 負け惜しみを呟いてから自室のドア開けて、音夢の入室を促してやった。  
 
 部屋には、カーテンで遮られた、月の淡い光だけが差し込んでいた。  
 薄暗いのは確かだが、これはこれでこれからのことを考えればいい感じの演出だと思う。  
 しかし、読みっぱなしの雑誌や漫画、脱ぎっぱなしになったままの私服なんかも確認できてしまうのは、  
かなりマイナスだった。  
「うわぁ……兄さん、私がいないからって…だらしがないですよ」  
 予想通りの反応にがくっと肩を落とす。  
「いやぁ、明日片付けようと思ってたんだって、ほんと」  
「言い訳は聞きたくありません。…………はぁ……」  
 呆れたようなため息。まずいな……ほんとにこのムードが台無しになりそう。  
 そう、思っていたのだが。  
「……やっぱり……私が帰ってきちゃえばいいのかな……」  
「え?」  
 誰に呟くでもなく、音夢はぼんやりと立ち尽くしていた。  
 後から部屋に入った俺からは、先に入った音夢の表情が見えない。  
 ただ、明らかに様子がおかしいのだけはわかった。  
「兄さん……」  
「どうした?」  
 振り返らずに、音夢は言った。  
「……私、ここに帰ってきちゃダメですか?」  
 
 どういう意味でそういっているのか、すぐに理解することができなかった。  
「音夢?」  
「……ダメ…ですか?」  
 振り返らない。きっと音夢は泣きそうな顔をしている。  
 そこまできて何を言いたいのかがわかった。  
「……看護学校を辞めるっていうのか?」  
 音夢はゆっくりと頷いた。  
 ひとつため息を吐く俺。もしタバコを吸えていたら一服していたに違いない。  
 正直、かったるかった。  
「納得がいかない。看護士になるの本気じゃなかったのか?」  
「………………………………」  
 何も答えない音夢。いや、答えられないのかも知れない。  
 あの音夢が一人で島を出てまで目指した夢なんだから、本気じゃないなんてことはない。  
 他に何か言いにくい理由があるから答えられないのだろう。  
 だが、その理由を聞かずに「帰ってきたかったら、帰ってくればいい」なんて言えない。  
 家族だから。兄妹だから。恋人だからこそ、簡単に逃げ出すようなことはしないで欲しい。  
「理由を言わないといつまでも納得しないし、認めないからな」  
 少し突き放すように言ってやる。これは俺も引けない。  
 沈黙が続いた。世界中から音を無くしたかのように静かだった。  
 いつか音夢がくれたサッカーボールの形をした目覚し時計はデジタル表示だったから、  
アナログ時計の様に秒針が時を刻む音すら響かない。  
 どれくらい時間がたっただろう。  
 闇の中にいると距離感がつかめないように、身動きしないと時の感覚もわかりにくい。  
 ただひたすらに音夢を待った。沈黙が音夢を追い詰める。  
 そして、告白と共に時が動き出す。  
 
「……私は……兄さんのことが好き。……大好きなの。  
 ……兄さんは私のこと、どう…想ってるの?」  
「音夢、今聞きたいことはそんなことじゃなくて──」  
「──答えてください。兄さんは私のこと、どう想ってますか?」  
「…………言わなくてもわかるだろう?」  
 いらいらした。  
 恋人同士なんだからどう想ってるかなんてお互い百も承知のはずだ。  
 音夢がこんな質問を投げかけてくることも理解できない。  
 こっちが求めてるのは看護学校を辞めたい理由なのだ。  
「………………………………」  
 また音夢が沈黙する。  
「音夢、聞いてんのはこっちだ。ちゃんと答えろ」  
「………………………………」  
 いい加減頭にきた。  
「──勝手にしろ!」  
 この問答を放棄することに決めた。  
 だからと言って学校を辞めることを許すつもりがないが、今問いただすことは無駄に思えた。  
 とりあえずこの場にはいられない。  
 ここが音夢の部屋なら、自室に戻ることで済んだのにつくづく間が悪い。  
 リビングに行こう。季節的に、ソファで寝たって寒さは心配いらないだろう。  
 そんなことを考えながら、ドアノブに手をかけた瞬間だった。  
「………………キス…されたの……」  
 音夢が抑揚ない声で言った。  
 唐突すぎて、何と言ったのか理解できなかった。  
「……え?………………」  
「私、学校で同級生の男の子にキスされたの」  
 
 音夢は変わらず俺に背を向けて、床に視線を落としながら、淡々と話し始めた。  
「私の看護学校……介護福祉科っていうのもあって、そこには男の子も結構いるの。(←適当な設定)  
 週に何回か一緒に授業を受けるときがあって、  
 お互いの学科数人ずつまとまってグループ作業したときに、福祉科の人たちとも仲良くなって……  
 私……その中の一人の男の子に告白されたの。  
 『好きなんだ。付き合って欲しいって』」  
「………………………………」  
「当然断ったよ。私には兄さんがいるんだから。  
 『ちゃんと好きな人がいて、付き合ってるから、ごめんなさい』って。  
 その人『そっか、じゃあダメだな』って言ってそれで、その時は終わったの。  
 だけど、『やっぱり、諦めきれない』って、それから何度もアプローチしてきた。  
 『好きなんだ』って、何度も、何度も…………  
 それで、ついこの前、グループ作業の課題が終わらなくて放課後に残ってた時に、  
 その人……私のふいをついてキスしてきたの」  
 
「──………………」  
 さすがにショックを受けた。  
 他の男と話してるのでもいい気はしないのに、音夢の意思に反してるとはいえ唇を奪われた事実……  
 心臓を鷲づかみにされたように気持ち悪い。  
「私、ショックでその人のこと思い切り突き飛ばして逃げた。  
 もういろんなことがわからなくなっちゃて、ずっと部屋のベッドの中で泣いてた。  
 兄さんを裏切った。  
 どうやって謝ればいいんだろう? 許してもらえるかなって……  
 おかしくなりそうなくらい兄さんのことばかり考えてた。  
 そのとき思ったの。兄さんは今どうしてるのかな?って。  
 誰か新しい女の子と知り合ったのかな?  
 ことりや眞子たちと、もっと親しくなってないかな?  
 私みたいに言い寄られてないかな?  
   
 ……私のこと、好きでいてくれてるのかな?……  
 
 そう考えたら怖くなった。  
 兄さんに今すぐ会いたくなった。  
 会いたくて、会いたくて、仕方なかったの……!  
 会って、話して、キスして、好きだって言って抱きしめて欲しかったの……!」  
 
 音夢は、いつの間にか泣いていた。  
 泣いて、振るえて、いつかのように、今度は心が迷子になっていた……  
「……でも、さっき兄さんは言ってくれなかったね……」  
「………………………………」  
 何も言えずに立ち尽くす。ものすごく苦しい。  
「電話をかけるのも私の方からだし、手紙だって返事くれない。  
 本当に好きなのかなって不安になっちゃうよ……  
 買い物に出かけるって言ったときは、本当は誰かと待ち合わせしてるんじゃないかって思ったし、  
 ご飯作るときは、他の子に教わって仕草が変わってないかとか、そんなことばかり確かめて……  
 自分でも嫌なことしてるなって思うけど、すごく不安なの……!  
 不安で、不安で…………ひっく……っ……」  
 そこからはもう言葉にならなかった。  
 音夢は溢れる涙をパジャマの袖で何度も拭う。  
 自分で自分を殴りたい気分だった。  
 俺は音夢を疑いなく信じていたし、音夢もずっと同じなんだと信じ込みすぎていた。  
 ただ、音夢には信じれるだけの根拠が欠けていた。  
 一緒にいられない。自分の方から連絡を取ってくれない。好きだと言ってくれない。  
 そういった小さな不安の欠片が、音夢の中の信じる想いを蝕んでいたんだ。  
 そこへ、止めを刺すように、第三者に唇を奪われてしまった。  
 崩壊寸前の想い──  
 
「……ごめん」  
 ただ一言、やっと言葉を吐き出して、背を向ける音夢を後ろから抱きしめた。  
「…………兄……さん……」  
 涙は止まらない。いっそ、不安と共に流して欲しいと思う。  
「音夢に甘えすぎてた。音夢なら何があっても好きでいてくれるって思い込みすぎてた。  
 音夢と気持ちが通じ合えただけで満足してた。恋人になれただけで満足してた。  
 ……だけど、それで終わりじゃないもんな」  
 想いは成就されて終わりじゃない。  
 俺たちには結ばれるまでよりも、もっと長い未来が残されている。  
「俺は音夢が好きだし、音夢以外のやつなんて考えられない。  
 ──好きだ。音夢が好きなんだ」  
「……うん……兄さん……」  
「俺はこんなだから、音夢のことうまく察してやれないけど、  
 音夢のことだけ想ってるのは確かだから……それだけは信じて欲しい」  
 このまま心が音夢に伝わって欲しくて、抱きしめる力が強くなってしまう。  
 それでも音夢は何も言わずに、抱きしめる俺の腕をつかんでくれた。  
「……うん…ごめんなさい……兄さん……私が弱いから……  
 大丈夫……もう大丈夫……兄さんの気持ちわかったから……」  
 涙をためた瞳で、部屋に入って初めて視線を合わせる。  
 愛しくて、愛しくて、俺たちは初めて気持ちが伝わったときのような想いでキスをした。  
 
 長い長いキスだった。  
 柔らかい音夢の唇や舌を堪能する。不思議な昂揚感と浮遊感に包まれ、時を忘れてキスを続けた。  
 少し苦しくなったのか音夢が一度離れて吐息を漏らす。その夢見心地な表情に俺の官能が一層刺激された。  
「……このまま音夢が欲しいんだけど……いい?」  
 野暮ったい質問だとも思ったが聞かずにいられなかった。  
「……うん」  
 顔を真っ赤にして微笑む音夢。  
 答えを聞いて俺は、いわゆる“お姫様抱っこ”をして音夢を抱えあげた。  
「ちょっ、兄さん……!」  
 慌てて音夢は両腕を俺の首に回してしがみつく。  
「こういうの嫌い?」  
「嫌いとかじゃなくて……恥ずかしいし、私重いでしょ……?」  
 それはない。そんなに体力がない俺でも音夢を持ち上げるのは十分なほど軽い。  
「全然。ま、そこまでだから」  
 言ってベッドまでの短い階段を上って、音夢を抱えたままプールに飛び込むように軽くダイブした。  
「わっ! 兄さん危ないよ〜」  
「さすがにこんなんで怪我とかしないから大丈夫」  
「もぉ〜」  
 お互い笑って、またキスをした。  
 
「……ん………っ……んん…………」  
 さっきと同じようにキスしながら、俺は左手でパジャマ──って言っても俺のシャツだが──の上から  
音夢の胸に触れた。  
 ピクりと音夢は反応したが、そのままにキスを続ける。  
 服の上からでも十分に柔らかさを確認できる。下着はつけてないようだ。  
 すぐに直接触れたくなって、シャツのボタンに手をかける。  
「……あっ………兄さん……」  
 キスを止めて、あっさりと露わになった音夢の裸に見入る。  
 薄暗い部屋の中でも、雪のように澄んだ白い肌がはっきりと浮かび上がっている。  
 シャツを開けただけの姿が、なんともいえず欲情を駆り立てる。  
「……兄さん……そんなに見られたら恥ずかしいよぉ……」  
 泣きそうな瞳で視線をそらす。こういうところも可愛いなぁなんて思って心でにやけてしまう。  
 何があっても音夢だけは誰にも譲れない。  
 そんな独占欲も抱きながら、唇や首筋にキスをしながら、今度は両手で胸を揉む。  
「……ん……兄さん……あっ…………はぁ……」  
 音夢の熱い吐息を耳元で感じると、ますます俺のモノが主張し始めて、  
無意識に音夢の腰元にすり寄せてしまっていた。  
「あっ…………やぁ…兄さん…………」  
 音夢も俺のモノがあってるのを感じるのだろう。  
 恥ずかしいのか、ごそごそと身をよじらせる。  
 そこへ、俺は右手をショーツへと這わせ、下着の上から音夢の秘所に触れた。  
「あんっ……あっ……」  
 まだ少ししか愛撫してないのに、そこはしっとり濡れてショーツに愛液が染みていた。  
 
「音夢…もう凄い濡れてる」  
「やだっ……兄さん、そんなこと言わなくてもぉ……」  
 涙目で抗議する音夢。少し加虐心をそそられ、一気に攻め立てる。  
「あっ!? に、兄さっ、んっ、あっ……ゆ、指がっ……」  
 ショーツの中に手を入れ、何度か秘裂をこすり、指に愛液を馴染ませてから、  
微かに存在を主張し始めているクリトリスを親指で刺激してやる。  
 それだけで、音夢はいつもより過敏に反応した。  
「やっ!…あんっ…んっ!…やぁ……兄さん…それ、ダメっ!…っ!」  
「なんか、今日凄い敏感だな……」  
「…んっ!…だって…あんっ……兄さんとするの…っ!…ひさしっ、ぶりだし…!…ああっ!?」  
 軽くクリトリスを摘んでやると、音夢がビクりと身を震わせる。  
 調子に乗って、膣に中指を入れて軽く出し入れもしてやると、声のトーンがどんどん上がっていく。  
「ダメっ…兄さっ、あんっ…指も入れたらぁ……あっ、ああっ…私っ…もぉ……」  
「イキそう?」  
 快感に耐えるように目をつぶりながら音夢は頷く。  
 早いな、と思いながらも、それだけ音夢が感じてくれているのだから嬉しい。  
「イッちゃっていいから……」  
 耳元で囁いてやって、さらには左手で胸を揉んで乳首を摘んでやる。  
「あっ、ああっ……兄さん、私っ……あっ…ダメっ……!……っっ!…んんっ!!……」  
 瞬間、進入していた指をきゅっ、と締め付けて音夢は軽く達した。  
 
「……兄さん……今度は私がしてあげる……」  
 もぞもぞと起き上がり、自分の体を俺の下半身の方へ持って行く。  
「……口でしてくれんの?」  
「だって兄さん、さっきからせがんでるみたいに私に押し付けてくるんだもん」  
「いや、そういうつもりじゃねぇけどさ」  
「……して、欲しくない?」  
「そんなことあるか」  
「じゃぁ、腰浮かせて」  
 音夢は俺のズボンに手をかけると、トランクスと一緒に脱がせていく。  
「わぁ…すっごく元気……♪」  
 脱がせ終えると、壁に寄りかかって座った俺に対して、  
音夢は横になって、天井を向いて屹立する俺のモノと対面する。  
「じゃぁ……するね……?」  
 そういってモノに触れる音夢の右手。その柔らかさと冷たさにピクリと反応してしまう。  
 数回優しく擦りあげたあと、モノの先端に小鳥が啄ばむようなキスを繰り返す。  
 それからアイスを舐めるように舌を這わせて、音夢の唾液で濡れてきた頃、そうやく口内に迎え入れられる。  
 フェラチオは何度かされてるから、音夢の動きもスムーズだ。  
 
「んっ……ん…………っ……んっ……んんっ……っ…………はぁ……兄さん…気持ちいい?」  
「すげーいいよ…」  
 微笑んで音夢は口技を再開する。その様子を見下ろしながら、俺は音夢の髪を梳くように指を通す。  
 耳にも触れてやるとくすぐったそうに身をよじる。この辺も音夢は感じてくれる。  
「んっ……んっ……っ………んっ、んっ、んっ……んんっ……」  
 俺の官能を呼び起こすかのように熱心に奉仕を続ける音夢。  
 行為に対する気持ちよさもさることながら、純真な音夢の唇に俺のモノが出し入れされてることに興奮する。  
 久しぶりだからという音夢の言葉が身にしみる。  
 俺もしばらく溜まっていたから、簡単に限界が訪れようとして、背筋がざわざわする。  
「音夢……もう……」  
「……うん……いいよ、このまま」  
 俺が限界を告げると、音夢は一層激しく舌を蠢かし、唇で扱き、吸い付き、射精を促してくる。  
 それでいて、楽しそうな、嬉しそうな表情。  
 そんな淫靡な光景に、我慢などできるはずも無かった。  
「──っ、音夢っ」  
 名を呼んで顔を押さえると、一気に暴発させた。  
「──っ、んっ──!……んっ、んんっ!……んっ、んっ……んっ……」  
 自分でもかなりの量が出てるとわかるそれを、音夢は健気に口内に受け止めてくれた。  
 射精が終わると、音夢は口を離し、少し苦しそうにしながらもそれをゆっくりと嚥下していく。  
「んっ……っ………はぁ……ごほっ、ごほっ!……」  
「大丈夫か? 無理して飲まなくてもいいんだぞ」  
「ん……大丈夫……ちょっと量が多かったから…………こんなに出したのに兄さんの全然……」  
 二人して俺のモノを見やる。確かにあれだけ放ったのに、一時的にも衰えそうにない。  
 それよかますます屹立した気がする……あと2、3発くらいいくかもなこれ……  
 
「えっと……どうしようか……?」  
 衰えないままのモノを照れくさそうに眺めながら音夢が問いてくる。  
「じゃあ、このまま……いいか?」  
「……うん」  
 言わんとすることそれだけで察してくれるのが嬉しい。そのまま音夢は仰向けに横になる。  
 俺がゴムをつけようと、閉まってある近くの棚の中に手を伸ばすと、  
「兄さん、今日はその……付けなくていいよ……」  
「いいのか?」  
「うん。大丈夫だから……そのままの兄さんを感じさせて……」  
 雄の芯を疼かせる言葉に堪らなくなり、音夢の唾液で濡れたモノを膣口に宛がう。  
 官能の痺れが走ったようにお互いがピクリと反応したあと、  
俺はゆっくりと音夢の膣内(なか)に挿っていく。  
「──んっ……あっ……はぁ……兄さんの来てる……」  
 目をつぶって、繋がった場所を意識しながら嬉しそうに音夢は呟く。  
 久しぶりの音夢の中は狭くきつい位なのに、十分に愛液を湛えているからすんなりと奥へ導かれる。  
 全てが収まると、音夢の膣が俺のモノを確かめるようにきゅっと軽く締め付けてきた。  
「……兄さんの全部入った?」  
「あぁ」  
 答えて音夢にキスをした。  
 
「んっ……んんっ……ちゅっ……んっ……」  
 舌を絡ませ、唾液を交換しながら、俺は音夢の了承を待たずに腰を動かし始めた。  
 音夢との快楽が待ちきれなくて、腰が勝手に動いたって言い方のが正しいかもしれない。  
「んっ…あっ……んっ!…んんっ……兄さっ、んっ……んん……」  
 キスの合間に時折漏れる喘ぎ声。触れ合う体から伝わる甘い体温。繋がった場所から生まれる気持ちよさ。  
 音夢から伝わる全ての感覚が昂ぶった感情をより一層加速させる。  
 やっぱり音夢の膣は何物にも代えがたく気持ちいい。  
 一人じゃ得られなかった快感。音夢がもたらしてくれた快感。  
 そう思えば思うほど音夢が愛しくて、行為に夢中になっていく。   
「んっ!…んんっ……兄さんっ、ちょっと待ってっ……激しいよっ…っ!…あっ!……」  
 音夢がやっとあげた抗議の声で我に帰る。だが、その時にはもう遅かった。  
「──!? 音夢っ、悪いっ、俺──」  
「えっ? 兄さ──あっ!?……」  
 必死に塞き止めようとした努力も空しく、俺は音夢の膣にしたたかに放出してしまった。  
「……あぁ……んっ……兄さんの…出てる……」  
 一気に自己嫌悪が襲ってきた。  
 何やってんだ俺は……久しぶりの感覚に溺れて勝手に快楽むさぼって……  
 これじゃ、音夢使ってオナニーしてるだけじゃねぇかよ……  
 そんな俺の気持ちに気付いたのか、音夢は優しく抱きしめてくれた。  
 
「気持ち…よかった?」  
「よかったけど……悪い、俺勝手に動いて…勝手に……」  
「ううん、いいの。兄さんが気持ちよかったら私嬉しいから」  
 あやすように気持ちを伝えてくれる音夢。  
 少しだけ気が楽になったら、下半身が「今度は誠意をみせろ」とチャンスをくれた。  
「あっ……兄さん……?」  
「このまま……もう一回……今度は音夢と気持ちよくなりたい」  
 素じゃ絶対言えないような台詞を囁いてやる。  
「うん……♪ 今度は一緒に気持ちよくなろ?」  
 今度こそ快楽に溺れないように、ゆっくりと音夢の膣を泳ぎだす。  
 動きが単調にならないように、少しずつ角度を変えながら突いてやったり、  
奥に挿したままかき回してやったりすると、音夢は悦びの声をあげてくれた。  
「んっ、兄さんっ、…あっ、あっ!…あんっ!……私…気持ちいいよ……」  
 音夢の感じてる表情を目に焼き付けながら、だんだんにペースをあげていく。  
「あっ…あんっ!…んんっ!……兄さんっ! 兄さんっ!……」  
 キスをせがんでるのが表情でわかると、俺は音夢を抱き起こして深く繋がったまま唇を重ねる。  
「んっ、んんっ!…んっ、あっ! あんっ! 兄さんっ、私っ、もう──」  
 音夢が絶頂を訴えてくる。  
 俺はまだもちそうだったから、体を倒して騎乗位で好きに動けるようにしてやった。  
「あっ! あっ、ああっ!…ダメっ……もう、イッ──あっ! ああっっ!!──」  
 俺の胸に両手をついたまま音夢は体を強張らせて絶頂に達した。  
 
「あっ、…あっ……はぁっ…はぁっ………兄さ……私……」  
 体を支えられないのか音夢はそのまま崩れて俺に覆い被さってくる。  
 優しく抱きとめてやった後、俺は音夢と位置を変えてまた正常位に戻すと、  
まだ絶頂の余韻に浸ってるところを激しく突いて一層の快楽を与えてやる。  
「──やっ、ダメだよ兄さんっ!……ああっ! ダメっ、私、イッたばかり──あんっ!…」  
 一緒にイケないことのもどかしさがあったのは確か。  
 でも、それよりも乱れる音夢をもっと見ていたい欲望に駆られた。  
「ああっ、あっ、あんっ、やっ、激しいっ、よ!…そんなにされたらぁ…また…ああっ!」  
「……今度は俺もイクから」  
「あっ、うん、ああっ! うんっ、一緒に…ああっ!…一緒にぃ…あっ、ああっ…!」  
 同じタイミングにお互いキスを求め、唇を重ねあう。  
「んっ、んんっ!…兄さんっ!……兄さんっ!……」  
「……音夢っ……」  
 どこかにふっ飛んで行きそうな意識を必死に押し止め、お互いがお互いを求め合う。  
 音夢さえいれば他には何もいらないとさえ思わせてくれる。  
 愛しすぎて、思考回路がぶっ壊れそうだった。  
「ああっ!…私……イクっ!…ああっ!…兄さんっ、兄さんっ!…ああっ、あああっっ!!──」  
「音夢っ──!…」  
 やっと訪れた二人一緒の絶頂。   
 激しく収縮する膣内に促されるように、俺は音夢の奥の奥へと挿し込み射精した。  
「ああっ……あっ……はぁ……はぁ……ああっ……んっ……兄さん……」  
 甘えるように抱擁を求める音夢に答えるように、俺は重くならないように覆い被さりキスを交わす。  
「ん……んっ………はぁ……兄さん……大好き……♪」  
 その笑顔はかけがえのない愛しさに満ちていた。  
 
 
 翌日。目を覚ますと音夢の姿はなかった。  
 リビングに向かうと、ダイニングのテーブルに、ラップに包まれたおにぎりが3つと手紙があった。  
 
『兄さんへ──  
 私はこのまま帰ります。  
 だって起きるまで待ってたらいつになっちゃうかわからないからね♪  
 ……なんて、ほんとは離れるのが惜しくなっちゃうからなんだけど。  
 
 兄さん、昨日はごめんなさい。  
 学校辞めるなんて…そんなの兄さん怒るに決まってるよね。  
 でも、もう私は大丈夫です。  
 愛しい、愛しい兄さんの、大切な気持ちをたくさん受け取りましたから♪  
 これからは何があっても、この気持ちを忘れないで頑張って向こうでの生活送ります。  
 でも、もしまた、くじけそうな時があったら、また甘えてもいいですか?  
 私はいつでも兄さんを想っています。                   ──朝倉音夢より』  
 
 
 俺はおにぎりを一つ手に取ってラップを剥がすと、口に運んだ。  
「…………まともに作ってら」  
 少しは料理が上達してるかもしれない音夢が側にいないのは、いくら強がってもやはり寂しい。  
 これから、もっとすれ違ってしまうことがあるかもしれない。  
 また言い知れぬ不安につぶされそうになるときが来るかもしれない。  
 だから、そうならないようきちんと想いを伝えていこう。  
 手紙が来たら返事を書こう。電話だってかけてやろう。  
 なんだったら今度はこっちから逢いに行ってやったっていい。  
 例の人形でも買って行ったら喜んでくれるだろうか?  
 ああ、あとは──  
 
「音夢にキスしたやつ……一発ぶん殴ってやるのもいいかもしれないなぁ」  
 
 冗談にもそう思ってしまうのだった。  
 
 
 《音夢SS『想い、強く 想い、ずっと』終幕》  
 

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