弟君の様子がおかしいと思い始めたのはいつからだっただろうか?
最近の弟君は由夢ちゃんに凄く甘い。
由夢ちゃんに放課後クレープを奢ったり、どう見ても不味そうな由夢ちゃんの手料理を口では嫌そうに言いながらも嬉しそうに食べたり、白河さん達のスキー旅行のお誘いより由夢ちゃんの誕生日を優先したり。
こんなのはまだいい。問題なのは洋服を由夢ちゃんにせがまれて最初はしぶっていた弟君も由夢ちゃんの「好感度が上がる」の一言であっさり財布の紐を緩めたり、由夢ちゃんにパジャマを贈ったりしたこと。
そして何より私と由夢ちゃんの2人がさくらさんの家にお泊まりに行ったとき、弟君の関心が由夢ちゃんにしかなかったこと。私がどんなにアピールしても弟君の関心は由夢ちゃんにしか向かない。
これではまるで弟君が由夢ちゃんに気があるみたいだ。そんな最低最悪の考えがつい浮かんでしまうほどに。
『弟君が私以外の女を愛している』そんな愚かしい考えが脳裏に浮かぶたびに私の全身の血が沸騰し、気が狂いそうになる。
由夢ちゃんの誕生日。弟君と由夢ちゃんの約束を聞いた私は由夢ちゃんの誕生日プレゼントの購入を建前に弟君を連れ回すことにした。
約束の時間が迫ってくると弟君は由夢ちゃんとの約束を果たそうとしきりに帰ろうとする。最近の弟君の様子ではこれ以上引き止められそうにない。
『何としても引き止めなければ。何でもいいから弟君を引き止める材料が欲しい!』そんなことを考えていた私は、いつの間にか倒れていた。
弟君が由夢ちゃんとの約束より私の看病を優先してくれた。そのときまで私は確かに幸せだった。看病の理由に由夢ちゃんの名前が出てくるまでは。
体温が急激に熱くなったように感じられた。私は感情を表に出さないようにしながら良き姉を演じた。
まだ姉を演じられたのは弟君に由夢ちゃんとの約束を破らせるという目的を達せられたから。
自分との約束より姉を優先したことに嫉妬し、由夢ちゃんと弟君は修復困難な喧嘩をするはずだった。
翌日、病み上がりの私が見たのは喧嘩をしている2人ではなくまるで新婚かのように寄り添う2人の姿だった。
そして、あの女が私に気づき、全身に弟君の匂いをまとわせながら私を嘲笑ったとき、今度こそ私の意識は黒く塗りつぶされた。