このところ委員長の様子がおかしい。  
真面目な委員長が学校を休んだのだ。  
それだけでおかしいと言ってもよかろう。  
その委員長の彼氏の桜内も、最近は落ち着きがない。  
これは…ミステリーだ。  
 
「…委員長?」  
商店街で歩いていると、私服でとぼとぼと歩く委員長の姿を見つけた。  
「おい、委員長」  
俺は委員長にかけ寄り、話しかけた。  
「…あ、あら…杉並じゃない…」  
私服で一人、商店街にいた委員長。  
その顔は、困惑の色を含んでいる。  
いや、落ち込んでいるのか。それとも、俺から話しかけられたことが嫌だったのか。  
よく分からない面持ちで、俺に返事をする。  
「…杉並も、お買い物?」  
おずおずといった感じに話を続けていく委員長。  
その姿を見て、俺は思わず怒鳴った。  
 
「委員長!何に戸惑っているんだ!そんな顔は貴様には似合わんぞ!」  
一瞬委員長はびくっとし、両眉を寄せたと思えば、前触れもなく、涙を流した。  
そして不意に口を開いた。  
「…あんたには…あんたには分かんないのよ!…分かるはず無いのよ!こんな気持ち…!だから、ほっといてよ…!私になんか、話しかけないでよ…!一人でいたくないって思った時に、目の前に現れないでよ…っ!」  
委員長は両手に握りこぶしを作りながら、必死に訴えた。  
その姿が何とも痛々しく、俺は――…  
―思わず、委員長を抱き締めていた。  
委員長は抵抗もせず、固まったまま  
「…えっ?」  
とだけ、言った。  
恐らく、驚愕で頭がいっぱいだったのだろう。  
「委員長。貴様に何があったのかは知らん。だが、頼むから…頼むから、そんな顔をしないでくれ」  
一大決心をする前のような、迷いのある顔。  
でも、そんなことをしても良いのかと自分に問いかけているような顔。  
そんな顔は、委員長には似合わない。  
「すぎ…なみ…」  
震える唇。涙で濡れた頬。揺れる瞳。  
どれも、俺の好きなものだった。  
それを親友が奪っていった。…いや、違う。  
それを親友が勝ち取った。負けたのは俺だ。元々勝っていた訳でもない。  
だが、こうやって抱き締めてしまった。委員長は、俺のことなんて何とも思っていないというのに。  
「…杉並。私、ちゃんと話すわ。…あのね、天枷さんが…」  
にも関わらず、委員長はこうやって、俺に素直に打ち明けてくれる。  
「天枷さんが、眠るのよ」  
「…なんだと?どういう事だ?」  
何故、委員長が天枷に対して「眠る」という単語を使うのか?  
それはどう考えても日常的な行為のことを指している訳では無いだろう。  
天枷はロボット。その天枷が『眠る』ということは…?  
すなわち、ずっと前に桜内と二人で行った洞穴で、機能を停止させられると言うことか。  
考え込んでいるうちに、委員長は俺の胸から離れていた。  
「杉並…あんたは、天枷さんの正体を知ってるんでしょ?なんで、こんな中途半端な時期に転校して来たかってことも…」  
「あ、ああ…」  
叱るような瞳で、じっと俺を見つめる委員長。  
「…そういえば、なぜ委員長は…天枷の正体を知っているのだ?」  
 
その瞳から逃れるため、少しだけ話題をそらす。  
「…保健室」  
「保健室?」  
「…保健室で…義之と天枷さんと水越先生が…話してて…」  
『義之』────  
どんなことよりも、耳が自然にそちらの音を拾った。  
呼び捨て────か。  
愛し合っていて、気持ちも伝えあっている男女なら当たり前の事なのだろう。  
…そうか。  
「……?どうしたのよ、杉並?」  
「…ん、あぁ…」  
ひとつだけ委員長に聞きたい。  
どうしても、聞きたいことがあるのだ。  
だが…これだけは…ダメ、だろうか…  
「委員長…もう、桜内とはSEXをしたのか…?」  
言ってから、ハッとした。  
委員長が、泣きそうな顔で顔を真っ赤にしている。  
「す…杉並…?あんた、なに言って──」  
それが可愛くて、愛しくて──桜内から委員長を奪いたくなった。  
委員長の手首をぎゅっと握りしめ、早足で歩きだす。  
「や…っ!…杉並っ、やめて…!離してよ…っ!」  
その間に抵抗する委員長。だが、もう抑えきれなかった。  
「金の持ち前はある。あとは委員長の心の準備だけだ」  
「な…に…?どこに…いくのよ…?心の…準備って…?」  
その問いに答えるため、足を止める。  
「ここだ」  
俺たちの目の前にあるのは、ラブホテル。  
「…っ、なに…何考えてんのよ…杉並っ!」  
先程よりも強い抵抗。しかし、その体力は取ってわかるくらいに消耗されていた。  
「…疲れているだろう。とりあえず、休もう」  
とっさに出た、すぐバレる嘘。  
キッ、と俺を強く睨み、委員長は抵抗をやめた。  
「…休ませる気なんて…無いくせに…」  
もう諦めたのか、俺の胸に顔を埋める。  
ホテルへ入ることを強要したようで、少し後悔する。  
「…いいわよ…痛くしないなら…」  
しかし、上を向いて俺の顔をじっと見つめる顔は、嫌がっているようには見えなかった。  
「あぁ…優しくしてやろう。…姫の仰せのままに」  
 
ホテルの中に入り、鍵を取って部屋に入る。  
そこは異世界のようで、見たことの無いものばかりが置いてあった。  
「あ、すぎな…あんっ…!」  
部屋に鍵をして、そのまま委員長を抱き抱え、そこに置いてあったピンクローターを腟内へ滑り込ませたあと、ベッドへ押し倒す。  
「ん、なんだ、委員長?」  
びっくりしたような顔でこっちを見ながら、委員長はスカートを押さえている。  
「ん…あ…っ、何か…入れたぁ…っ?…んぅ…っ、ふるえ…てる…?」  
委員長は、反応が可愛い。しかし桜内はこの姿を見たと言う事実が、胸に突き刺さった。  
委員長は桜内のものであるがゆえに、それは仕方のないことだというのに。  
「ほぉ…まだ喋れる、か。さすがは委員長」  
そう言って委員長のクリトリスを弄ると、それに応えるように強い反応が返ってきた。  
 
「ひぁっ…!?やあぁっ!やっ、杉並ぃっ…こ…れ、やっ…!やめてぇ…っ!」  
しかしここでイかせるのは、俺の性分に合わない。  
最後まで焦らして、あとで思いっきりイかせるのが、俺には合っている。  
だから要望に応えてそれを止め、ニヤリと笑ってみせる。  
「うっ…、杉並…ひどいわよ…」  
涙目でこちらを見る委員長。その行為が、俺をそそらせるのを知らずに。  
「これからもっとすごいことをするのに、か?」  
「…え?」  
びくっ、と固まる委員長。  
嫌がっているのは分かっている。だが…  
「…委員長。貴様とはもう二度とヤれないかもしれないから…今日は、納得行くまで…するんだ」  
委員長が好きだ。桜内から奪いたくなるほど、好きなんだ。  
「なんで…私なのよ?あの時近くに…いたから?」  
優しく、気を使いながらも俺に聞く。  
ベッドの上で、委員長を抱きしめた。  
「ずっと…好き…だったから、だ」  
 
ここで逃げられても構わない。  
そんな気持ちを込め、首筋へキスをする。  
「…っ…そんなの、嘘…でしょ…っ」  
ところが委員長は抵抗せず、それを受け止めた。  
だからそのまま、首筋にキスマークを付けた。  
委員長の、んっ、という感じている声を聞いて、満足する。  
「嘘じゃない…これが、俺の本当の気持ちだ」  
「なんで…っ…なんで…今ごろ…っ」  
本音を吐くと、自然と気分が楽になった。  
好き合っている訳じゃない。それは分かっている。  
だが、委員長は意外な言葉を発した。  
「…私だって、好きだった…!ずっと好きだったのに、あんたは…あんたはそんなのには興味ないって…そう、思ってたから諦めたのに…!…ひどいよ、私が義之と付き合いだした途端に本音を明かすなんて…っ!」  
泣きながら、何かが切れたかのように話しだす委員長。  
声から必死さが伝わってきてた。  
「委員長…すまなかった」  
「…え?」  
「これからは…大切にしよう…」  
だが、分かっている。もう委員長は桜内のものなんだ。  
だから、俺が大切にすると言ったって、なにも事態は変わらない。  
むしろ俺と委員長の仲は悪化するかもしれない。  
しかし、それでもいいと思った。それでもいいと、思えた。  
好きだからこそ、負わなければならない傷もあるのだ。  
 
靴下を脱ぎ、上着を脱ぎ…そうして、委員長は下着だけの姿になった。  
制服越しには見えない胸の膨らみが露になる。  
その胸の中心には大きな谷間が出来ている。  
「…い、委員長…」  
委員長のその行動に驚きを隠せず、体をまじまじと見てしまう。  
「杉並も…脱ぎなさいよ…」  
それに恥ずかしさを感じたのか、委員長は後ろを向く。  
その首筋には、先程つけたキスマークが付いていた。  
──桜内に見つかったら、どうなるのだろうか。  
そんな遊び心を胸中にしまい、上着を脱いだ。  
そしてそのまま委員長の体をこちらへ向かせ、ブラジャーを外して胸を愛撫する。  
「…麻耶」  
…それは、委員長の名前。  
桜内がそう呼んでいるのは十分に推理できた。だからこそ、俺は委員長の名前を呼んだ。  
今、俺は麻耶を独り占めしている。そう考えると、気分がよかった。  
「あ…んぅ…っ…すぎ、なみ…」  
「なんだ、どうした?」  
「そ、それ…くわえて…欲しいの?」  
麻耶が指差しているものを見る。  
それはズボンと一緒に盛り上がっていた。そう、アレが立っていたのだ。  
愛撫に夢中で、立ったのさえ気付いていなかったらしい。  
ズボンのジッパーを開け、モノを解放して、恥ずかしながらもこう言った。  
「…ああ、頼む」  
 
麻耶は起き上がってすぐにかがんで、俺のモノをくわえた。  
「うっ…」  
その瞬間、何とも言えない感覚が体を包み込んだ。  
一応俺は初体験であり、マスターベーションをしたこともない。  
一時そういう感情になるときはあるが、処置が分からなく、放置している。  
だから、絶頂したときの感覚は分からない。  
ただ、麻耶は見るからに上手い。おそらく、こういう事をするのは、初めてではない。  
「…麻耶は、桜内のモノをくわえたことがあるのか?」  
その質問に答えるため、麻耶は俺のモノから口を離す。  
「…っん、一回だけ…でも、杉並の方が大きくって…ちょっと、難しいわ…」  
確かにちょっと辛そうにくわえているように見えていた。  
口に入る大きさというものにも、限度があるからな…  
「そうなのか…麻耶は…桜内のモノと俺のモノ、どっちが好きなんだ?」  
麻耶の頭を撫でながらそう聞くと、その頬は真っ赤に染まっていた。  
「………なっ…なにバカなこと聞いてるのよっ!」  
バッ、と下を向いて、すぐに俺のモノをくわえる。  
それが、桜内より俺の方が好きなのだという意志主張ならどんなにいいことか──あり得ないならがらも、そう思った。  
「…ね、でも…これ、くわえられるだけで気持ちいいものなの?」  
知らずにやっていたのかと思うと、笑いが込み上げてくる。  
「あぁ…口の中で圧迫されるからな…腟内に入れていて気持ちいいのと同じ原理だな…っ」  
苦しく、なってきた。これが絶頂と言うものか。  
「…杉並、そろそろ出る?」  
「…まだ出さん…麻耶、右にある自動販売機に売っているもの、何でもいいから俺の金で買ってくれ…っ」  
もちろんコンドームだ。妊娠なんてことになったら、洒落にすらならない。  
「…はい、杉並」  
麻耶に渡されたコンドームを、記憶してある手順で着けていく。  
落ち着いたところで、麻耶と向き合う。  
「杉並…まだ、入れなくても大丈夫なの?」  
麻耶は、コンドームを被ったモノをじっとみつめている。  
「まだ大丈夫だ。それに、優しくすると言ったからには、麻耶にも気持ちよくなって欲しいからな」  
そう言って下着を脱がせて、左手の人差し指と中指を麻耶の大事な部分にあてる。  
愛撫で感じたのか、フェラチオをしながらドキドキしていたのか、そこは濡れていた。  
「濡れているな」  
「…っ!」  
そしてそのまま指を上下に動かすと、そこはいやらしい音を立てた。  
クチュ…ピチャ…と、触る必要などまったく無かったかのように、大きな音を立てる。  
これなら入れても大丈夫だろうと、まずは中指をゆっくり入れた。  
「杉並ぃ…うっ…ゆび…入れてる…?…っ!」  
そのままゆっくりピストンさせる。  
「入れている。…あぁ、痛いか?」  
「…い、や…っい、い…よ…杉並ぃ…っ!」  
すると、その言葉を合図に、愛液がどんどん溢れてきた。  
 
「麻耶…入れて…いいか?」  
愛液で濡れている中指を引き抜いて、麻耶に話しかける。  
「…ええ…いいわよ…」  
「…麻耶…!」  
ゆっくりモノを入れていく。ついにいっしょになる時が来たのだ。  
麻耶の中へ、ずっ…と、入っていく。  
「ひぁ…ああぁあぁ…っ!」  
処女ではなくとも、反応は新鮮味がある。  
桜内と俺では、入れるまでの手順が異なっているからなのだろう。  
「…入ったぞ」  
「うん…やっぱり…杉並のほうが大き…いわ…、お腹の…中に、当たってるみた…い…」  
トロンとした目でこっちを見ながら、荒い息で一生懸命話す麻耶。  
正直可愛くて、焦らすのも乙なものだとまで考える。  
…しかし、俺とて男だ。このままでいるのは我慢ならない。  
「そうか…それは良かった」  
ニヤリと笑ってみせてから、鎖骨の近くににキスマークを付ける。  
「ん…っ、あ、これ、好きなの?」  
「…ああ、麻耶は俺のものだ、と見せつけるものだからな…しばらく桜内とはヤらん方がいいぞ」  
「見せつけたいのか見せつけたくないのか分からないわね」  
そう言って笑う麻耶は、もういつもの麻耶だった。  
さっき商店街で悩んでいたような顔は、もうなかった。  
「まぁ、麻耶が見せてもいいのなら、俺は全く構わんのだがなぁ」  
俺がそう言うと、こっちを上目遣いで見た。  
「…そうね。私…やっぱり、まだ杉並のことが好きかも知れないわ…」  
「…そうか」  
俺はその言葉に嬉しさを隠せず、今真っ赤になっているだろう顔を見られぬよう、うつむきながらそう言った。  
「…だ、だからね…私を…杉並の、ものにして…」  
 
麻耶はそう言って、少し震えている手で俺の頬を撫でた。  
「…承知した」  
俺がそう言って笑うと、麻耶も小さく微笑んだ。  
「じゃ…そろそろ動くぞ」  
「…っ…ええ…」  
呟きのような返事を聞いて、俺は動き出す。  
コンドームを付けているという実感が無い位に薄いそれは、薄いおかげで麻耶を近くに感じられた。  
「ぁ、あぁっ!あぁ、んっ!…っ!」  
「…っ、い、いいぞ…締め付けが、程よく、て…!」  
気が付くと、いつの間にか俺は激しく動いてしまっていた。  
「…ん、あぁ、うっ、すぎな…み、はげし…ひゃうっ!」  
だが、その動きを遅くする事など、出来なかった。  
…そろそろ限界、だったからだ。  
「ふぁ…ん…す、杉並…!いっ、い…イクぅっ…!」  
「…くっ!」  
二人同時にイッた瞬間。  
何か──…俺の中の全てと言っても過言ではない程のものが、満たされた気がした。  
 
「杉並…私、天枷さんを起こしに行かなきゃ…」  
ハッと気づいたようにベッドから起き上がって、麻耶はそう言った。  
「まぁ、待て待て。とりあえず体を綺麗にしてからだ」  
「…う…、そうね…」  
汗や愛液、精液でベタベタな体を見てから、うなずく。  
「ほら、一緒に風呂へ入ろうではないか」  
麻耶の肩に手を掛けて耳元でそう言うと、ビクッ、と震えた。  
「っへ!?あ、あぁ、あんた、何言って…!」  
「まぁまぁ、今日はお堅いことは無し、だ!そら、早く入った入った!」  
一糸まとわぬ姿で風呂へ出向く男女二人。  
これで期待するな、と言うのが無理な話だ。  
まぁ、何もせずに帰す気は、さらさら無いが。  
 
「う…、そ、そんなにジロジロ見ないでよ」  
ヘアピンやメガネを取った状態の麻耶が言う。  
 
「メガネを取っているのに、俺の視線に気付くとは…!まさか、ダテ眼鏡か?」  
「あんたがどこを見てるかなんて、お見通しよ…まったく!」  
髪を洗いながら、麻耶はこっちを睨んだ。  
「体は俺が洗ってやろう!ほら、後ろを向け」  
「…!?やっ…、こ、こら!胸、揉まないでよ!」  
そう怒って肘落としをしようとするが、視界が悪いらしくて、空振りする。  
「…ダメなのか?」  
「いっ、今はダメよ!」  
今は──という言葉を聞いた途端、急に嬉しくなる。  
──我ながら、現金だな。  
「いつなら…いいのだ?」  
「え?」  
「いつまで…麻耶は一緒にいてくれる?」  
麻耶が黙り込む。  
これは見るに、驚愕の瞳だ。  
「あ…いや、無理に引き留めようとしている訳ではない…」  
麻耶の手が、胸に止めたままの俺の腕に触れた。  
「あのね…私、考えたのよ。杉並と…一緒に、いたいの。」  
麻耶は息を整えて、深呼吸をする。  
「ずっと…、いつまでも、一緒に、いたいのよ…!」  
「麻耶…」  
「義之のことも、好き…でも杉並のことはもっと…大好きなの…!」  
肩を震わせながら、言う。  
「…私、天枷さんを起こしたら、義之と別れるわ」  
「…え?いい…のか…?」  
「私が一番好きなのは杉並だから…」  
そう言って麻耶はこっちを向いて、俺だけに微笑んだ。  
「ずっと、一緒に…いましょう」  
 
「もう…っ、気付いたらもうこんな時間じゃない!」  
「麻耶が風呂の中でも激しかったからな…仕方ないな」  
「…う〜…」  
 
ホテルの近くにあったバイクを拝借して、夜道を走る。  
麻耶が俺の背中をぎゅっと抱きしめて、顔を埋めている。  
…なぁ、我慢できるわけがなかろう?  
このまま…どこかに麻耶を連れ去りたい。  
ずっと二人きりで、いたい。  
桜内のところに戻って行って欲しくない。  
いや、別れるとは言っていたが───  
信じていないわけではない。ただ…  
あの桜内だから───心配なんだ。  
『それなら仕方ないな、幸せになれよ』  
そう言える奴で…バカみたいに優しいから…  
そんな桜内の優しさに心を取り戻されないか、と…  
「杉並?どうしたの?」  
「いや…研究所に着いたぞ」  
そう言うと、麻耶がはっ、とした。  
「…あ…、天枷…さん!」  
研究所の電気が着いていたのは、一部屋だけだった。  
「い…いる…かな?天枷さん…あそこにいるよね…?ねぇ?杉並…」  
「…行け」  
背中を押す。麻耶の目が、俺を捕らえていたから。  
「え?」  
天枷を起こすのは俺ではなく、麻耶だから。  
「…行って、確かめてくればいい」  
俺は行けない───そう、教えるために。  
「…うん、私…行ってくる!」  
そう言って麻耶は研究所へと駆けていって、俺からどんどん離れていく。  
「行くな…」  
そう、どこかからポツリ、と聞こえた。  
───あぁ、俺の口からか。  
「…あ」  
雨が降ってきたようで、気付くと顔が濡れていた。  
 
──雨?  
いや──…  
その時俺の顔に落ちてきていた水滴は、  
「…うっ、ま…や…!麻耶っ、麻耶ぁ……!」  
紛れもなく、俺の涙だった。  
 
 
- - - - - - - - - -   
 
 
「麻耶は、また桜内と同じクラスなのか…」  
「えぇ、でも杉並と隣のクラスってだけでも…十分、嬉しいわよ」  
そう言って、麻耶は何の億劫も無く、俺の腕に抱きつく。  
そう、あのあと──  
麻耶は宣言通り、天枷を起こしてすぐに桜内と別れた。  
好き、と言う気持ちはまやかしだったのかも知れないから、と。  
焦りすぎて、大切なことが見えていなかったから、と。  
「…そうだ、本校に入って制服も新しくなったことだし、そういうプレイも悪くないとは思わないか、なぁ麻耶?」  
「何を言い出すかと思えば…まったく、あんたはもう!」  
そう言いつつ俺の腕を掴む力が強くなったのは気のせいか。  
「では、非公式新聞部のアジトにでも行くか」  
そこで…というのも、悪く無いだろう。  
「え?アジト?そんなものがあるの?」  
「当たり前だ。アジト無しでは生き抜けないのだぞ」  
俺がそう言うと、案の定麻耶は呆れ顔でこっちを見た。  
「…それにしてはずいぶん用途が違う気がするけど?」  
「気のせいだ」  
「…そうかしら?」  
「ああ、そうだ」  
麻耶の首に付いているキスマークの部分を撫でながら言う。  
 
「そう言えば私たち…キスしたことないわね」  
そうすると麻耶は、麻耶が俺に付けたキスマークの部分を見つめた。  
まさか麻耶にキスマークを付けられるとは思ってもみなかったな───と、ほんの二日前を懐かしむ。  
杉並は自分のものだ、という証が欲しかったのだろうか。  
「初めてヤった日、キスしたいとは思っていても出来なかったんだ…麻耶はまだ、桜内のものだったから」  
好き合っていたのに、何故ダメだと思っていたのだろうか…と、今になっては不思議だ。  
「…今は、違うわよ?」  
「あぁ…あとで、思う存分愛そう。キスも、ディープキスも、愛撫も…色んな事をしようではないか」  
「う…こんなところでそんなこと言わないでよ…」  
学校の帰り道。アジトへの道。周りに人など居ないのに、な。  
「その愚行は、俺の愛でカバーしてくれ」  
「もう、仕方ないわね…」  
にこっ、と困った風に笑う麻耶。  
「あ…私、杉並の家に行ってみたいな」  
こんなちっぽけで可愛いワガママ、聞かずにはいられないだろう。  
───俺の家でヤろう、というお誘いか。  
「ああ、いいだろう。その代わり、家に泊まることになるが、いいか?」  
「え?なんで?」  
とても不思議そうに、首をかしげる。  
その理由は明確なのに。  
「ずっと留まることができるところでヤれるからだ」  
「…要は夜通しでしよう、ってこと?」  
「そうとも言う」  
「そうとしか言わないわよ…」  
呆れたように、麻耶が呟く。  
 
「好きな娘とはずっと一緒にいたいものだからな、仕方ない」  
「…そ、そうなの…?そういうことなら…いい、わよ」  
嬉しそうに───でもそれを隠そうとしながら、了承する。  
そんなこと、俺にはお見通しだと言うのに。  
「よし、ではまず麻耶の家へ行くとするか!」  
「あ…ちょっと待って杉並…少し、屈んで…」  
上目遣いでこっちを見ながら、麻耶が言う。  
「ん?あぁ、こうか?」  
麻耶と平行に向かい合うように、15cmほど屈む。  
────ちゅ…と、一瞬唇に何かが触れた。  
「…お?」  
「い、今私が…キス…したかったから!」  
真っ赤な顔で、そっぽを向く。…可愛い。  
「分かった分かった、そう急かすな…後で何回も抱いてやるから」  
そう、数え切れないほど───。  
数え切れないほどずっと、麻耶と一緒にいたかった。  
それが今、叶えられて…俺は幸せだ。  
この神秘的な気持ちを、ずっと大切にしたいと思った俺だった。  
 
END  
 

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