この日、風見学園は全校的に身体測定だった。
島の人口自体が多くないとはいえ、本校・付属を合わせての生徒総数は数百人。
保険医の昭島は優秀ではあるものの、しかしたったの一人で全員を測っていたのでは
日が暮れるどころか真夜中になっても終わりはしい。
だが今回は研修生として助手の朝倉音夢もいるし、外部からの臨時の助っ人として
元保険医の白河(旧姓)暦や水越病院の関係者で今は家事手伝いの萌がいる。
検診日を分けることなく、教室さえ分散すれば
単純計算でゆくと4倍速で測定を行えるので、一日あればなんとか終えることも可能だろう。
場所は保健室と準備室を昭島と暦が使い、空き教室を萌と音夢が使えばいい。
比較的スムーズに、短時間で終わらせられるはずだった。
だけども今にして思えば、これが失敗だったのかもしれない。
少なくとも場所の割り当てがまずかったのだろう。
このような事件が起こってしまったのは・・・
「えーと・・・・あ〜〜っ、動かないで下さい」
風見学園本校校舎の最上階にある開き教室。
今ここでは、朝倉音夢が男子生徒の身体測定を行っていた。
朝から流れ作業で測定をこなすこと数時間。
音夢は最後の一人を測っていた。
計り終わったしりから生徒は自分の教室へと戻っている。
つまりは、4階隅にある誰も寄りつくことのない教室で、二人きり。
測定中の男子生徒は上半身裸で、下は体育の夏用短パン一枚。
こんな状況が悪かったのかもしれない。
胸は小さいがかなりの美少女である朝倉音夢。
そんな彼女に、測定のためとはいえ直にペタペタと触れられる。
ときには吐息や髪などが腹や胸板をくすぐり、鼻孔にはシャンプーのものだろうか
とても良い香りが漂ってきて、理性を失い本能を暴走させられそうになる。
というか、ついにはこの男子生徒、理性が全壊し本能が全開になった。
「ハァ・・ハァ・・・・・・・・我慢できない・・・!」
「・・・え?」
胸囲を測っている最中だったので、両手を大の字に広げた状態の男子生徒。
目の前には、抱きつくような格好で
かつて白河ことりと人気を二分したと言われる極上の美少女がいる。
自分は最後の一人で、この後に他のクラスの生徒が続くこともない。
教室には、隅っこの方に使われなくなった机や椅子が乱雑に積み上げられているだけ。
他には誰もいない。
二人っきりだ。
性欲溢れる十代半ばの青少年には、これで我慢しろという方が無理な相談というものだろう。
「音夢すわぁ〜〜〜〜ん!!」
頭の中で何かがブチリと音を立てて切れたかと思うと
鼻息をピスピス鳴らしながら、性的興奮した面もちで
あろうことか音夢へと抱きついた。
「―――きゃっ!?」
ガタガタガタタンッ
倒れる椅子と机。
散らばる測定用紙。
縺れて倒れる音夢と男子生徒。
巻き尺が宙を舞い、ボールペンが床へと転がり落ちた。
「うう・・・・痛ぇ・・・」
先に起きあがったのは男子生徒の方だった。
ペタリと尻餅を付いた状態で、倒れた拍子に打ち付けた肩をさすり
痛みに顔を歪めながら辺りを見回す。
「ぅ・・・・俺、いったい何を・・? ・・・・! そ、そうか」
自分は音夢に抱きつかれるようにして測られているうちに興奮し
訳がわからなくなって、それで・・・
男子生徒はようやく事の起こりを思い出す。
「だ、大丈夫ですか・・・・・・・あ・・」
襲いかかり、結果的に押し倒してしまった音夢。
その彼女は今、彼の目の前で板張りの床の上へと仰向きで倒れていた。
「うわ・・・・やべぇ。 だ、大丈夫ですか・・・?」
床の上に転がる音夢。
近づき、声を掛ける。
軽く揺すってみる。
「・・・・・・・・・・」
しかし返事はない。
ただの屍のようではないものの、倒れた拍子に後頭部でも打ちつけたのだろう。
気を失っていた。
命に別状はなさそうではあるが。
「ど、どうしたら・・・・っ」
とたんに焦る男子生徒。
教室を見回す。
他には誰もいない。
それなら教室の外へと助けを呼びに行けばいいだけだ。
自分一人ではどうしようもないのだから。
男子生徒はさらに考える。
他の人を呼びに行ったとして、じゃあこの状況をどう説明しようか。
倒れた音夢。
それを見て、助けに来た人物即座に彼女を助け起こすだろう。
しかしその後、きっと彼女がこうなった原因を
自分へと聞いて来るに違いない。
たとえ自分に聞いてこなかったとしても、意識を取り戻した音夢に
事のいきさつを尋ねられたりすれば身の破滅だ。
―――誰かにこの場を見られればおしまいなのだ。
そんな考えが頭の後ろから背筋へとすべり降り
尾てい骨を撫でて足の裏から床へと通り抜けた。
ガチャリ
気が付くと、男子生徒は教室の扉に鍵を掛けていた。、
後ろの扉も施錠しようとしたが、最初から閉まっていた。
外界へと続く二つの扉が閉じられたことを確認し、男子生徒は音夢の元へと戻ってくる。
気絶したままだった。
さて、これからどうしたものか。
彼は考える。
落ち尽きなく、当てもなく辺りをキョロキョロ。
壁を見て、天井を見回し。
視線が床へと倒れた音夢へと注がれた。
よくよく見ると、音夢は凄い格好で倒れていた。
白衣姿のまま仰向きに。
スカートの裾は、下着が見えるか見えないかのギリギリのラインまで捲れていて
倒れた拍子なのか、巻き尺が何故か彼女を蛇のように絡め取っている。
乱れた着衣と相まって、妙にエロチックだった。
そんな音夢の姿を目の当たりにし、彼の脳裏に良からぬ考えがよぎる。
ソロソロと近づく。
側へとしゃがみ込む。
音夢が起きる気配は、ない。
その時、彼の頭に一つの名案が思い浮かんだ。
音夢を押し倒したことがバレると困る。
良くて停学。
悪けりゃ退学。
噂が噂を呼び、少なくとも学園に自分の居場所はなくなるだろう。
そうなれば非常に困る。
しかし今、この教室には他には誰もいない。
このことを知っているのは二人だけ。
だったら後は音夢の口さえ塞いでしまえば問題は解決するのではないか。
女の口を塞ぐには、どうすればいいだろう。
その方法を、彼は一つしか思いつかなかった。
寸止め