私は兄さんを愛していました  
けれど兄さんは私…朝倉由夢ではなく朝倉音姫を選んだのです  
 
 
 
ぐちゃぐちゃという水音と甘く絡み付くような嬌声が部屋に響く  
以前と比べて随分と成長した形の良い乳房を揺らし、俺の動きに合わせて音姉がその身を震わせる  
男を誘うようにピンとたった乳首に吸い付くと悲鳴とともに彼女の体がビクンと跳ねた  
「…っ!?」  
と、同時に音姉の中が一気に収縮し、お返しだと言わんばかりに俺のモノを締め上げる  
俺も音姉以上に目の前の姉から与えられる快感に病付きになっていた  
音姉の中は温かく俺を包み込み、幾つもの襞々が射精を促そうとざわめく  
その度に俺は抽送を止め、暴発させまいと堅く歯を食いしばった  
音姉はそんな俺を見て心底嬉しそうに目を細める  
ーーー弟くん、もっと、もっと私を愛して  
そしてうわ言のように、いつもと同じ台詞を呟く  
ーーー私を愛して  
この言葉を口にするとき、音姉の目は怖いくらいに真剣なものになる  
たとえそれまで、どれだけ快感に溺れていたとしてもだ  
じっと俺を見つめる瞳の色は夜の海のよう  
そして音姉のこんな一面を見る度、俺は何故か一人の少女を思い出すのだった  
 
私は兄さんに言いました  
「お姉ちゃんのどこが好きなの?私の何がいけないの?」  
兄さんはお姉ちゃんそのものが好きなんだと答えました  
更に私は言いました  
「兄さんは私がお姉ちゃんみたいになったら好きになってくれるの?」  
兄さんは私とお姉ちゃんは違う、だからいいんだと答えました  
私は最後に聞きました  
「仮に私とお姉ちゃんが双子のように同じだったとしても、それでもダメなの?」  
兄さんは何も答えませんでした  
 
 
 
由夢が家出してからもう数ヶ月以上経つ  
俺や音姉、純一さんやさくらさんも必死に探した  
警察にも捜索届は出した  
だがそんなものに意味はない  
今この家にあいつはいない、俺にとってはそれが全てだった  
隣で寝ている音姉に気付かれないよう、そっと溜息を吐く  
あの時俺は由夢を抱き締めてやるべきだったのだろうか、と  
こうして音姉を抱いた後は必ず、そんな「If」を何度も何度も自分に問うことになる  
バカなやつ…今更そんなこと考えても何の意味もないってのに……  
今更そんな卑怯ことを考える自分に本気で殺意がわいた  
部屋に残された短い文章を、あいつは今でも俺の中で呟き続けていた  
 
 
兄さん愛しています、私にはあなたが全てです  
兄さんに愛してもらえるなら、私は何でも…たとえ自分でさえも喜んで捨てましょう  
兄さん…生まれ変わった私をあなたは愛してくれますか?  
 
 
俺が由夢の求めを拒絶してから由夢は変わった  
まず団子にしていた髪は全て降ろし、リボンをつけた  
本校に上がるとすぐに、三年を押し退けて生徒会会長を努めた  
また外見だけでなく、話し方や口調、仕草なんかもすっかり…いや、よく見慣れたものへと変えた  
そうして変わった由夢を見た者は決ってこう漏らすのだ  
「まるで姉の生き写しだ」と  
もともと姉妹である二人の顔はそっくりだった  
事実、俺も音姉と由夢が並んでいたとき、どちらがどちらなのか瞬時にわからなかったくらいなのだから  
そんな由夢を見る度、音姉はひどく不快気に文句を言っていた  
そして由夢は……ただ笑っていた  
たとえ由夢の火に油を注ぐような態度に、音姉が眉を釣り上げて怒鳴っても  
由夢はただじっと、その深い色を秘めた瞳で見つめて微笑むのだ  
「弟くん…どうしたのかな?」  
そう、それはたとえば、こんな風に  
 
 
 
苦しかったんですよ?悲しかったんですよ?  
いくらお姉ちゃんに近付いても、結局私は由夢でしかなかったから  
だけど…なんだ、こんなに簡単な解決策があったんじゃないですか  
兄さんは由夢より音姫を選んだ…なら私もそうすればよかっただけなんだから  
 
 
 
「眠れないの?困った弟くん」  
くすりと音姉は音姉のように笑う  
その微笑みを見ると、理由もなく俺の胸がざわめいた  
と、俺の心を見透かしたように、音姉がぎゅっと抱きついてくる  
素肌に直接感じられる音姉の温もり、鼻孔をくすぐる音姉の甘い香り  
密着した体で乳房が押し潰され、すべすべした太股で俺のモノが包み込まれる  
音姉から与えられる刺激に、俺の中の男が否応なしに反応してしまう  
「あは…あれだけしたのに、まだ私を求めてくれるんだ……」  
音姉はそんな俺の反応を見て、蕩けるように歓喜の声を上げる  
「いいよ、弟くん…ふふ、じゃあ今度は口でやってあげるね」  
突然ペニスに伝わる温かな肉ですっぽり包み込まれる感触  
そのままぬめぬめした舌で亀頭を舐め回される  
そして、俺は再び捕食された  
 
 
 
兄さん、兄さんは今幸せですか?  
私はとても幸せです  
私が望むのはいつもただ一つ  
そしてそのためなら私は何でもします…そう、何でもね  
ふふふ…もっと私を愛して、兄さん  
 
 
 
由夢がいなくなってどれだけ経ったのだろう  
暴力的な快楽は俺の思考力をあっという間に奪っていき、代りにその隙間を埋めるように音姉が入り込んでくる  
その日もいつものように俺は音姉を抱く…  
その直前だった  
まるで理性が最後の抵抗をするように、それまで感じていた違和感が一瞬だけ明らかになる  
「お前は…一体誰なんだ?」  
突然発せられた言葉に、音姉が奉仕を止めて顔を上げる  
そのまま何を言うわけでもなく、ただいつものように俺をじっと見つめて笑うだけだったが  
驚いているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか…その真意はわからない  
そもそもその数瞬後には、音姉の体を求めることしか頭になくなってしまうのだから  
そうして俺は今日も音姉を好きなだけ抱き、求められるままに愛を囁く  
 
音姉の瞳は相変わらず、吸い込まれてしまいそうなほどに深かった  
 
 
 
 

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