二人の少女がグラウンドの片隅で対峙していた。  
「ななか・・・」  
「小恋・・・」  
 本来親友同士の二人だが、その間の空気は和やかにはほど遠く、不穏に歪みゆく  
様にはお祭り騒ぎ大好きな風見学園の生徒とはいえ、背筋が粟立っていくのを止める  
ことはできなかった。  
「ここで戦うのはあんまり良くないんじゃないかな?お互い・・・」  
 効率は酷く悪かったもののななかの持っている札は残り時間と所有人数を考えると  
二次予選進出をほぼ確実な枚数を確保しており、それは対峙する小恋にとっても同じで  
あった。ここでリスクを冒してまで潰し合う必然性はお互いにとってないはずであり、  
むしろ手の内を二次予選より先に温存するという意味では互いにスルーというのが  
正しい戦略であったろう。だが、ななかにとってはそうでも小恋にとってはそうではない  
ようである。  
「1対1なら・・・でも・・・・・・」  
 小恋の後ろから二つの影が現れ、左右に分かれて同時にななかを襲撃する。  
「白河選手、危ないっ!!」  
 ななかはこの二つの攻撃を間一髪よける。しかし、その二つの影は素早く展開し、  
小恋と合わせてななかを逃げ道を塞ぐ。  
「雪村杏!」  
「花咲茜!」  
「そして、月島小恋の三人が白河ななかに襲い掛かるぅぅぅ!!」  
 右に杏、左に茜、そして真ん中に小恋と並び、ななかを押し包むかのようにジリジリと  
前進していく。  
「3対1ならば・・・」  
「三人で一人を攻撃できるのはこの機会しかない」  
「だから、ごめんね〜ななかちゃん」  
「それ・・・ずるいっす・・・・・・」  
 
 美夏は麻耶に公衆便所ならぬ裏庭に導かれていた。  
「よかったのかな、ホイホイついてきて。  
 私は美夏でもかまわないで食っちゃうんだから」  
「構わない、美夏が欲しいのはその札だけだからな」  
「じゃあ、始めようか」  
「バロンミサイル!アームミサイル!!」  
 麻耶の返答を待たずに美夏は機先を制する。  
「バスターシールド!」  
 しかし麻耶の翻したマントにより、全てのミサイルは弾かれる。  
「ドリルアロー!!」  
「二指真空把!」  
 美夏の放ったドリルミサイルを麻耶は二本の指で受け止め投げ返す。  
 
「くそ〜ならばこれはどうだ!!」  
 美夏はローラーダッシュで一気に麻耶との距離を縮め、アームパンチで連打を仕掛ける。  
二人の足元に美夏の腕から射出されたカートリッジが撒き散らされる、しかし美夏の連打は  
全て麻耶に弾かれてしまう。そして、カートリッジを使い尽くした一瞬の隙を麻耶が突く。  
「ぐっ!」  
「委員長、リバーブローだぁ!」  
 肝臓の位置に強い衝撃と受け吹き飛ばされた美夏は後方に引き下がる。  
「凄い威力だ・・・・・・」  
「本当・・・あそこは肝臓の位置だから、人間だったらKOされてるね」  
「先生、先生」  
「なんだ、桜内」  
「こう言っては何ですが、美夏叩いて大丈夫なんですか?」  
「どういう意味だ」  
「いえ、美夏も一応は精密機械系なんで大丈夫かと」  
「大丈夫だ、そんなことはない。ただ燃料系が少し心配かもしれんが」  
「燃料って・・・一体、何を使っているんですか?」  
「原子力」  
「えぇぇぇえぇぇぇっぇ!!」  
「冗談だ」  
「本当のところは何ですか?」  
「それは企業秘密だ。まぁ爆発とか有毒物質ばら撒くとかは無いから心配するな」  
「そうですか・・・・・・」  
「(太陽炉と言っても分からないだろうし)」  
 一方、人間ではないため肝臓が打たれずダメージは軽減しているとはいえ、その威力は  
未だ美夏に残っており、その好機を麻耶が見逃すはずなどなかった。  
「くっ!」  
「委員長の猛攻撃!天枷美夏、校舎の壁に追い詰められたぞぉぉ!!」  
「あの怒涛の猛ラッシュ!あれこそまさに舞々 ((チョムチョム ))!!」  
「倒れることを許さない!天枷美夏、防戦一方!!」  
「肉のカーテンで防戦してる。これは我慢比べかも」  
 校舎に追い詰められ、一方的に打ち込まれる美夏。しかし肉のカーテンで致命的箇所を  
防御しており、麻耶の連打も致命傷を与えることができなかった。美夏の防御が崩れるのが  
早いか、麻耶の連打が途切れるのが早いかの我慢比べも変化が訪れる。  
「エレクトリッガー!!」  
 麻耶の連打の一瞬の狭間を美夏が突く。1億ボルトの放電光線が麻耶に直撃する。  
「委員長直撃!これは決まったかぁ!!」  
 麻耶の制服は放電光線によりボロボロに焼け崩れた。しかし、麻耶自身は・・・・・・  
「無傷!委員長、まったくの無傷だぁぁぁぁ!!?」  
 麻耶は焼け崩れた制服の下にはスクール水着が着用していた。  
「な、な、なんとぉ!スクール水着だぁ!!  
 委員長はエロの代名詞、その名に恥じぬスク水委員長だぁ!!」  
「癖になったのかなぁ・・・・・・」  
「猛っている!猛っているぞ、委員長!!」  
「いや・・・違う」  
 舞佳の思わぬ言葉に実況席の四人は一斉にそちらに顔を向ける。  
 
「まさか完成させていたとはなぁ・・・・・・」  
「なんですか?」  
「戦闘用強化服、特殊繊維シルベールだ」  
「そんなものを・・・ところで、もう一つ聞きたいのですが」  
「何だ」  
「あのスク水もどきは仕様ですか・・・って、目逸らさないでください!」  
 美夏の攻撃に引き離された二人は改めて対峙する。  
「貴女に通用するということは会長や雪月花の三人にも通用するということね」  
「勝負はこれからだ」  
「いえ、勝負はここまで」  
「何!?」  
「私には貴女を倒す手段がある」  
 そういうと麻耶は何かを取り出した。  
「委員長の勝利宣言!その根拠に何を使・・・笛!?」  
 麻耶は笛を取り出すと、それを吹き始めた。  
「委員長、笛を吹き始めた。一体、何を・・・いや、美夏苦しんでいます!  
 天枷美夏が苦しんでいます!これは一旦何故なんでしょうか!?」  
 麻耶の吹く横笛の音に美夏は頭を抑えて苦しみ始めた。  
「くっ・・・や、やめろ・・・・・・」  
「どうしたことでしょう。天枷美夏、突然苦しみ始めました!!」  
「まずい!あの笛の音は!!」  
 解説者の席にいつの間にかいる舞佳が叫ぶ。  
「あの笛の音は美夏の唯一の弱点!!」  
「水越先生!」  
「あの笛の音は美夏の不完全な良心回路を苦しめる!」  
「なんと!」  
「そんな弱点が美夏ちゃんにあったのか・・・・・・」  
「先生、先生・・・」  
「なんだ、桜内」  
「良心回路って何ですか?」  
「文字通り、良心に関する回路だ。美夏はそれが不完全なんだ」  
「でも、先生。美夏はそんな悪いやつじゃないと思うんですが・・・」  
「いや、性的に」  
「さいですか・・・・・・」  
「親心回路と言ってだな・・・」  
「いえ、聞いていませんから」  
 対戦の場では美夏に大きな変化が現れ始めていた。  
 
「くっ・・・くふっ・・・はぁっ!!」  
 突然、美夏が喘ぎ始めた。  
「どういうことだ!これは一体!?何が起ころうとしているのかぁ!?」  
「先生、これは一体?」  
「親心回路の影響だ」  
「だからなぜです?」  
「だから、不完全な良心回路に影響していると。性的に」  
「性的に・・・ですか」  
「性的に」  
 画面での美夏の変化は更に激しくなっていた。顔は紅潮し、足が震え、じっと立って  
いられなくなりつつあった。  
「くっ・・・くふっ・・・こんな、こんなことで・・・・・・」  
「ふふふ、口はそう言っても身体はどうかしら」  
「負けない、美夏は・・・負・・・負け・・・・・・」  
「あらあら、無理しなくていいわよ。委ねてしまえば楽になれるから」  
「あん・・・らめっ・・・ふうわぅっ・・・くそっ、くそぉっ・・・・・・まだだぁ!!」  
「上の口はまだまだ元気ね。でも下の口はどうかしら?  
 それとも涎が一杯でしゃべれないのかな〜」  
「さくらさん・・・」  
「なあに、義之くん?」  
「妙なナレーション入れないでください」  
「だって、麻耶ちゃん笛吹いているから喋れないし。だったら気分だけでも」  
「余計なことしないでください。というか、さくらさん教育者でしょ〜が!」  
「うにゃ〜つまんないな〜」  
「それと、渉!じっと見てないで何か喋れ!!」  
「すまん、つい。ところで委員長、知ってるのかな〜」  
「これをか。というか一心不乱に笛吹いているから気付いてないんじゃないかと」  
「だろうな」  
 美夏はついに両の足の膝を地面に着く。美夏の限界が迫ってきているようであった。  
 
「カーテン早くね!」  
 野戦病院と化している体育館は相変わらず慌しい状況である。どんどん運ばれてくる  
父兄の数に仕切りを作るべく体育館は大童であった。  
「あらっ」  
 ミキはモニターに映った一人の老人の姿に目を留めた。  
 
<続く>  
 

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