「う〜お札、お札」  
 今札を求めて全力疾走している少女は風見学園に通うごく一般的な女の子。  
 強いて違うところをあげるとすれば、ロボットであるってとこかな。  
 名前は天枷美夏。  
 そんなわけで中庭への通り道である渡り廊下にやってきたのである。  
 ふと見るとベンチに沢井麻耶が座っていた。  
「うほっ、委員長!」  
 そう思ってると突然委員長は美夏の見ている目の前で胸元から大量の札が括りつけられた  
ネックレスを見せ始めたのだ・・・!  
「戦らないか」  
「札の欲しかった天枷は誘われるまま、ホイホイとついて行っちゃったのだぁぁぁ!」  
「テンション高すぎだぞ、渉・・・・・・」  
 
「まさか・・・めぐみも弟くんを!?」  
「いや。彼には興味はない・・・興味はあるのは高坂まゆきだけだ!!」  
「おおっ、堂々カミングアウト!!」  
「違うって・・・・・・」  
「まゆき、私はここでも勝つ!!」  
「ぬかせっ!!」  
 同時にジャンプしたまゆきとめぐみはほぼ同時に2階の窓の高さまで到達する。  
「言ったはずだ、まゆき!私は貴女に勝つ!!」  
「くっ!!」  
 まゆきは頂点でモーションに入る。  
「高坂まゆき、大きく振りかぶって!投げたぁぁぁ!!」  
 上空で投球したまゆきが着地すると同じタイミングで着地しためぐみはそのままバットを  
振るモーションに移る。  
「これまでも!これからも!!」  
 めぐみはバットを強振、まゆきの投球を振りぬく。  
「めぐみ選手打ったぁぁぁ!これは大きい!グングン伸びる!  
 飛距離は十分!しっ・・・しかし、切れた、ファウル!!」  
「ちょっと待て・・・・・・」  
「なんだ、桜内」  
「・・・これは一体、何の勝負だ」  
「見て分からんのか」  
「勝負種目は分かる。だから、どういう展開でこうなったのかが・・・・・・」  
「無粋だぞ、桜内。美少女が二人、貴様のために闘っているのだ。  
 それでいいではないか」  
「そうだぞ、義之!細かいこと言ってると女の子にモテないぞ!!」  
「でも、義之くんはモテるよ」  
 
 モニターでは苦々しげにめぐみをにらみ付けるまゆきの姿があった。  
「言ったはずだ、まゆきは私に勝てないと」  
 まゆきは再度ハイジャンプを行う。  
「高坂まゆき、またもハイジャンプ!しかし、今度は海老反ったぁ!  
 胸は揺れなくて有難みに欠けるが、確かに海老投げハイジャンプ!!」  
「・・・・・・ぬっころされるぞ、渉」  
 まゆきの投げた高高度から角度と重力を利用した球は、しかし今度もめぐみに  
振りぬかれてしまう。  
「めぐみ選手これも打ったぁぁぁ!大きい!しかし、これもファウル!!」  
「恐るべきは今井めぐみ!我が宿敵をここまで追い詰めるとは・・・・・・」  
「いや、お前も大概だとは思うが・・・」  
 まゆきは三球目を構える。しかし、今度はハイジャンプをしなかった。  
「高坂まゆき、今度はマウンドで大回転!まるでトルネードだぁ!!」  
「みっ、見事だ!高坂まゆき・・・・・・」  
「ちょっ、ちょっと待て・・・・・・」  
「なんだ、桜内」  
「・・・さっきまでのはまぁ・・・いいとしてだな」  
「何が不服なんだ、桜内」  
「全然ジャンプが関係していない。というか、何故回る!?」  
「無粋の極みだぞ、桜内」  
「そうだぞ、義之!細かいこと言ってると女の子にモテないぞ!!」  
「でも、義之くんはモテるよ」  
 遠心力を利用して威力を増したまゆきの投球は、しかし今度もまためぐみに打たれ、  
あわやホームランというあたりのファールになる。  
「まゆきちゃん、もう投げる球がないんじゃないかな・・・」  
「ここで敗れるということはこの大会から事実上脱落するに等しい」  
 めぐみの挑発に、しかし何を思ったのか、まゆきはいきなり笑い始めた。  
「ふふふふふ・・・」  
「どうした・・・万策尽きて壊れたか」  
「笑止!まだまだ甘いよ。あたしがなぜ、風見学園で副会長に甘んじているか・・・  
 その理由を今教えてあげるよ」  
「なんでだ?」  
「さぁ・・・?」  
「あの事件のことか」  
「知っているのか、雷電!いや、杉並!!」  
「渉・・・・・・」  
「そう、あの戦慄の・・・そう、朝倉音姫が生徒会長に立候補する直前のことだ・・・」  
 
{回想シーン始まり}  
「予算がこれだけとはどういうわけ!?」  
「しっ、しかし・・・・・・」  
「これだけじゃ、備品も買えないじゃないの!!」  
「そっ・・・それは予算会議で・・・・・・」  
「ふふふ、何かと思えば」  
「!」  
「朝倉さん!」  
「あんたが決めたのかい、この予算配分」  
「陸上部員高坂まゆき、またの名を"空飛ぶまな板"。  
 そのジャンプ能力は超高校級、日本屈指のハイジャンパー。  
 だが、初音島じゃぁ〜2番だ」  
「なにっ!じゃあ1番は誰なのよ!!」  
「チッチッチッ」  
 音姫はテンガロン・ハットのつばを持ち上げ不敵な笑みを浮かべると、親指で自分を  
指さした。  
「ふっ、面白い!ならば勝負だ!!」  
「あの〜予算の件は・・・・・・?」  
{回想シーン終わり}  
 
「この勝負に敗れた高坂まゆきは以後、朝倉音姫の右腕として行動するようになった」  
「しっ・・・知らなかった」  
「音姫ちゃんは義之くんのいるとこといないとこじゃ全然違うからね〜」  
「いや、違いすぎかと・・・・・・」  
「あたしは、そこで初球をホームランされて敗れた・・・・・・  
 めぐみは3球チャンスがあったのに全て潰した、これがあんたの敗因よ」  
「くっ!」  
「これからあたしの見せる奥義・・・これは本来音姫に使うはずのものだった!!」  
「御託はいいから投げなさい!」  
 そして、まゆきは投球フォームに入る。  
「ぬぬぬぬぬ・・・・・・」  
「なんという握力!硬球が形を変えてひしゃげているぞぉ!!  
 ・・・・・・まゆき先輩に逆らうことは絶対にやめておこう」  
「・・・・・・そうだな」  
 まゆきが右手の握力で硬球をひねり潰しているのを、めぐみは冷ややかに眺めていた。  
「(失望させてくれる・・・それしかないなら・・・・・・それを打ってゲームセットだ)」  
 しかし、まゆきはそのまま投げることはしなかった。  
 
「なんだぁ!?高坂まゆき、握りつぶした硬球を持ってハイジャンプだぁ!!」  
 まゆきはその握りつぶした硬球を手にハイジャンプ、そして身体を海老反らせた。  
「なっ、何をする気だぁ!えっ?かっ、回転しているぞ!!」  
 まゆきはそのまま上空で大回転をする。これには義之や渉どころか地下闘技場内にいる  
全ての観客が度肝を抜かれていた。そして、もっとも困惑しているのはバッターボックスに  
いるめぐみその人であった。  
「(何をするつもりだ、まゆき・・・・・・)」  
「高坂まゆき、投げたぁ!!」  
 空中のまゆきから投球が放たれた。  
「ボッ、ボールが分身している!しかも1個や2個じゃない!数え切れない!!」  
「しかも、ボールの軌跡が全部異なっている!これでは打てないよ!!」  
「今井めぐみ、この球を打てるのかぁ!!」  
「・・・コンマ何秒の世界でよくそれだけしゃべれな、あんたらは・・・・・・」  
 狙い球を絞りきれないめぐみは動揺しながらバットを2度3度空を切らせる。そして、開き直った  
のか手ごろな球を選び、それ目掛けて強振し、バットが宙を切る。  
「ストライク、バッターアウト!!」  
「今井めぐみ、空振り!試合終了!高坂まゆき、堂々の大勝利ィィィ!!」  
 瞬間、地下闘技場が歓声で包まれる。モニターには右手を突き上げ、勝利を誇るまゆきの姿と  
対象的にバットを突いてうな垂れるめぐみの姿があった。  
「今まで勝利を収めてきたのは、今井めぐみの方。しかし、今回勝ったのは高坂まゆき」  
「この差はほんの僅かなもの・・・しかし、それは勝利を得るための決定的な差になった」  
「何かを得るためか、そうでないか・・・想いの違い・・・・・・その差が出たということか」  
「まゆきちゃんの想い、その想いの価値は如何に"重い"ものであったか・・・・・・」  
「う〜ん、と・・・・・・取り合えず、男がかかっている方のが強かったということで・・・・・・  
 高坂まゆき、枚数がトップクラスに前進!義之ゲットに大躍進!!」  
「きれいにまとめようとしてるんだから・・・渉・・・・・・」  
 
<続く>  
 

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