学園各所で展開されていた戦いは強者潰しの戦略を取るものが多数いたが、  
それでも実力差は覆うことはできずに弱者は淘汰され、実力者たちが各々札を集める  
壮絶なサバイバル戦に突入し始めていた。既に参加者の半数以上は札を失っており、  
その半分はリタイアもしくはドクターストップで脱落していた。  
「あっ!何でしょうか!?仁王像が突然振動を始めました!!」  
 渉の実況に呼応して、分割されたモニターの一つが大きく拡大される。そこには校庭の  
真ん中に置かれた仁王像が小刻みに振動される様が映し出されていた。  
「ちょっと待て!なんでうちの学校に仁王像があるんだぁ!!」  
「いったいどうしたことでしょう!仁王像の揺れが更に大きくなって参りました!!」  
「何か・・・恐ろしいことが起きる前触れに違いない・・・・・・」  
「スルーするなぁ!!」  
 義之の疑問が実況の渉と解説の杉並によって華麗にスルーされている間でも校庭に  
立っている仁王像の振動は更に激しくなっていた。その振動はやがて仁王像にヒビを  
生じさせ、そのヒビは徐々に大きく連なり始めていた。真縦に走ったヒビは振動に呼応し  
全身に回り、そして仁王像はパラパラと崩れ始めた。その頃には異変は校庭にいる  
参加者たちの知るところとなり、そこでも注目の的になっていた。  
「さあ、一体!何が起こるのでしょうか!?」  
 観客と参加者が見守る中、仁王像の振動は極限に達し、崩れ落ちる。その崩れ落ちた  
仁王像の中で何かが動き出していた。  
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」  
「あっ、あれは!天枷美夏だぁぁぁぁぁ!!  
 仁王像の中から天枷美夏が飛び出してきたぁぁぁ!!」  
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!なんで美夏が仁王像から出てくるんだ!!」  
「そうだ、杉並!この場合は問題ないのか!?」  
「ルールでは試合開始時に風見学園の敷地内にいなければならないとなっている。  
 確認したところ、あの仁王像は昨晩の時点に搬入されていたとのことだ。  
 すなわち開始時には敷地内にいたと判断することができる。よって問題はない!!」  
「いや、仁王像を持ち込んでる自体で問題だろう!!」  
 天枷研究所の所員らによって、風見学園に取り巻くエネルギーが増大した時に眠りから  
覚めるようにセットされた美夏は仁王像に封印されて深夜風見学園に搬入された。そして  
10時間もの間、眠り続けた美夏は武闘大会のエネルギーに反応して今、活動を開始する。  
その様子を大会委員席で見ていた水越舞佳は一人呟く。  
「(私がいないからどうするのか、興味があったが・・・やってくれたな。  
 さて、天枷の娘よ。どのような力を魅せつけるのか!!)」  
「天枷美夏、参戦に問題なし!いかなる力が見せるか、今から楽しみだぁぁぁ!!」  
「違うだろ、渉ぅぅぅ!!」  
 
 校庭ではグラウンドにいる選手たちに対する美夏の攻撃が始まっていた。  
「バロンミサイル!」  
「アームミサイル!」  
「くそっ!このままでは狙い撃ちじゃない!!」  
「にっ、逃げよう・・・」  
「逃げたら後ろから撃たれるわよっ!!」  
「一斉攻撃しかない!!」  
 着弾したミサイルの爆風が渦巻き、土煙が立ち上る校庭で美夏への一斉突撃が開始  
されようとしていた。  
「何をしているぅ!天枷美夏、手をグルグル回しているぞ、ラジオ体操かぁ!?」  
「武装変換だな。あの手順で出されるのは・・・」  
「マッハコレダァァァァァァァ!!!」  
 射線上にいる全ての参加者は電撃の攻撃を受け、ドクターストップ状態に陥る。美夏は  
悠々と彼女たちの札を回収していくが・・・・・・  
「残念だが大物クラスはいなかったようだ。小物クラスで回収できた枚数は多くない」  
「時間が大分経っているからね、やはり大物を狙っていかないとダメだろうね」  
「・・・論点はそこですか」  
「(立場上表立って応援はできんが、1時間程度ならフルスロットルで活動できる。  
 ならば存分に暴れて見せよ、天枷の娘よ!!)」  
 舞佳は闘う美夏の姿をポーカーフェイスで、しかし口元を緩むのを隠すことができないまま  
喜び観戦していた。  
 
「あれ?先輩一人ですか。エリカちゃんは?」  
「野暮用があってね。それより、そっちも一人・・・のようね」  
「あら〜やっぱり、そうきちゃいます〜」  
「どうも・・・私は何か、あなたとの因縁が多そうな予感がするの。"魂"的に・・・・・・」  
「う〜ん。でも宿敵っぽいのもあったけど姉妹とかもあったし、スールというのも」  
「でも、この組み合わせの時はいつも・・・・・・」  
「大概、私のほうが胸大きかったよね」  
 ななかの言葉でまゆきの空気が一気に歪む。  
「わっ、なんか身体分割されそうな空気、17個くらいに・・・・・・」  
「大丈夫、八つ裂きくらいで止めてあげるから」  
「それ、あんまり大丈夫じゃない」  
 しかし、まゆきの空気に水が差される。まゆきの背後に一つの影が迫ってきていた。  
「あんたは・・・」  
「"魂"じゃなくて、やっぱり現世での因縁じゃないかな?」  
 ななかはそういうとその場からそそくさと立ち去っていった。その場に残る二人の少女、  
彼女たちはライバルであった。  
「めぐみ・・・・・・」  
「久しぶりね、まゆき」  
 
 
「このあたりはもういないかな・・・・・・」  
 由夢は奪取した札をチャリチャリ鳴らしながら歩いていた。由夢がいるのは本校の校舎、  
附属の生徒である由夢が本校を歩いている様は本校に迷い込んだ生徒か姉か兄に会いに  
来た妹のように見える。だが、由夢はそのいずれでもなかった。朝倉由夢がここにいる  
理由はここを狩場にするためであった。  
 優勝候補の3強として名の挙がっている白河ななか、そして姉の朝倉音姫の二人は  
学園のアイドルとして本校・附属を問わず、その姿は学園中に知れ渡っていた。それに  
比べると由夢は次期アイドルとして見られているものの、その存在はまだ知る人ぞ知ると  
いうレベルであった。もっともその"知る人"は附属では少なからず存在し、由夢は音姫同様に  
戦闘を敬遠される存在であった。そのため、由夢は自分の存在がさほど知られていない  
本校に出向いて、討ち取ろうと考えていたのだが・・・  
「主戦場はやっぱり附属の校庭か・・・・・・」  
 札の争奪という性質ゆえに戦場は参加者が大勢いる場所が中心になる。そのため、  
自然と参加者はそこに群がるように集まっていく。モニターに映る光点の分布は概ね  
附属・本校を問わず各校舎の一階部分と校庭や中庭など地上部分に多く存在していた。  
由夢のいる本校の階には赤く輝く由夢の光点がポツンと一個あるだけで、その下の階を  
含めてもその1個しかなかった。しかし、その由夢の赤い光点に誘われるかのように黄色の  
光点が3つ階段を駆け上ってきた。  
「朝倉由夢くんだね・・・」  
 由夢の目の前に現れた3つの光点、その主は本校の女子生徒ではなく、由夢の父親と  
同年代の中年の男性であった。  
「おおっと!女子校生の前に現れる中年男性3名!何か危険な雰囲気だぁ!!」  
「彼らは参加者だ」  
「参加者って・・・いいのか?」  
「父兄の参戦は特に禁止してないよ。参加者の1/5から1/6程度は父兄だよ。  
 自分の札を自分の娘にあげるも良し、一緒に他の生徒を相手に戦うも良し。  
 その手の戦術は認めているから・・・でもね・・・・・・」  
「でも、何ですか?」  
「でも、この大会で最も力になるのは義之くんへの想いの強さと  
 それを基にした戦術・戦略の組み立て・・・  
 よほどの力がない限り、出場した恋する乙女たちに勝つことはできない。  
 いや、むしろ狩られる餌でしかない」  
 前回に戦ったことのあるさくらの言葉は重い。事実、参戦している父兄の大半が少女たちに  
狩られて討ち取られていた。そして、その光景がまた一つ展開されようとしていた。 三人の  
父兄が由夢を取り囲んでいる。  
「君に恨みはないが、娘のため・・・・・・おぼぅっ!」  
 由夢は父兄の言葉を最後まで待たなかった。話しかける父兄に真空飛び膝蹴り、返す刀で  
動揺する他の父兄に攻撃を加え倒していく。この間、僅か10秒!  
「これで9個っと・・・・・・」  
「流石は優勝候補の一角、朝倉由夢選手!目にも留まらぬ早業で三人を倒したぁぁ!!」  
 あっという間に3人の父兄を倒し、札を回収する由夢に渉や驚嘆の声をあげ、観客も度肝を  
抜かれていた。  
 
<続く>  
 

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