「お姉ちゃ〜ん、どこなの〜兄さんの申し込みに行くんでしょ〜・・・  
 ったく、昨日早く行こうって言ってたのは姉さんなのに・・・・・・」  
 由夢が音姫を捜す。全校集会の日の夜、音姫が朝一番で申し込みに行くよう妹の由夢に  
話していた。一番に行ったからといっても何の利点があるわけではないので、申し込みの  
締め切りまでに行けば十分ではないかと思ったが、姉の強固な意志によって引き摺られる  
ように早起きする羽目になっていた。とはいえ、由夢自身も少し早く起きて行こうというくらい  
には考えてはいた。しかし、朝になると音姫の姿は既になかった。由夢が寝過ごしたわけ  
ではない。むしろ、家を出ても学校の門が開いているかどうか分からないくらいの時間で  
ある。にもかかわらず、音姫の姿は家にはなかった。音姫の部屋、風呂、洗面所、トイレに  
いたるまで捜したもののその姿はなく、諦めた由夢が台所に来るとテーブルの上に一枚の  
紙があった。  
「んっ・・・?」  
『由夢ちゃんへ。ごめんなさい、先に出ます。ご飯はこれで食べてね。音姫』  
 由夢は音姫が先に出たのではないかという予想が確信に至った。  
「お姉ちゃん・・・・・・」  
 そして、紙の重石として用いられた百円硬貨5枚が由夢の朝食であることも気づいた。  
 
 その頃、学校では生徒会室に向かう二人の少女がいた。  
「かっ、勘違いしないでください!従者を救うのは主人の務めですから!!」  
「ふう〜ん」  
 怒りに滾らせる金髪の少女とそれを軽く流すスレンダー(主に胸が)な少女。  
「まったく、主人の手を焼かせるとは・・・従者失格ですわ!!」  
「じゃあ〜その失格従者、クビにしたらどう。役に立たないんだったら、引き取るけど」  
「そっ、それとこれとは・・・その目は止めて下さい!!」  
 昂ぶるエリカとからかうまゆきの二人は生徒会室の前に辿り着く。いつものはこの部屋の  
主である二人も大会が終わるまでは外部の人間、この申し込み以外に入場することを  
禁じられていた。  
「失礼します」  
 エリカは生徒会室のドアをノックして中に入り、おもむろに申し込みの机に向かって歩を  
進める。途中でエリカは気づいたかのように足を止める、年長で生徒会でも序列が上の  
まゆきに先を譲るべきであったことに思い至ったのである。気まずそうにまゆきの方に振り  
返り、先を譲ろうとするが当のまゆきはにこやかに先に手続きを行うように笑顔で促した。  
一方、申し込み担当者の方もエリカに書類を渡そうと準備をしていたため、手遅れである  
ことを悟り、素直にまゆきの指示に従った。  
 
「はい、確かに申し込みを受け付けました。ルールと術法をよく読んでお臨みください」  
「わかりました・・・・・・あら?」  
 エリカがふと疑問をもらす。  
「どうしたの?」  
「いえ・・・一番じゃなかったので・・・・・・」  
 日の出と共に目を覚まし、気合を入れて登校してきたエリカはまゆきとこそ出会いはした  
ものに通学途上で誰にも会わず、自分が一番ではないかと思っていた。  
「あぁ〜音姫が先に来たんだろう。あの子のことだから開門前に着ていそうだけどね」  
 笑いながら言うまゆきになおもエリカは怪訝そうな顔を変えない。  
「でも・・・」  
 エリカはまゆきに自分の受付番号を見せる。そこに振られた番号は"3"であった。  
「あれっ?妹くんも一緒にきたのかな・・・」  
 いの一番に来そうな音姫と違い、由夢は期日内に申し込めばよしと考えそうなイメージを  
持っていただけにまゆきは首をかしげる。  
「いえ、妹さんはまだ来てはおられません。会長は2番目にこられました」  
 受付を担当していた生徒会役員は生徒会の主軸メンバーの二人に本来口外してはいけない  
ことを思わず話しかけていた。  
「えっ?音姫じゃない?誰が一番に来たの?」  
 本来は規約違反の生徒会役員を注意すべき立場のまゆきもまた予想外のことに思わず  
聞き返す。  
「え〜と・・・小鳥遊まひるという方です」  
「たかなし・・・まひるさん?」  
 転入生であるエリカは本校・附属共に見知った顔はさして多くないため、誰?という顔を  
まゆきに向ける。しかし、そのまゆきも在校生にそのような名の少女の存在を思い浮かべる  
ことができなかった。  
 
 生徒たちが登校するにつれ、徐々に申し込み申請をしに来る生徒たちも増え始めていた。  
そんな最中、一つのトラブルが生じていた。  
「どうして、事前に分からなかったんだ!!」  
「・・・流されることはあっても、こういうイベントには積極的に参加するタイプとは  
 思えなかったもので・・・・・・」  
「確認は取ってなかったのか!」  
「忙しくて・・・つい・・・・・・」  
 生徒会室の隣では実行委員に名を連ねている生徒会委員たちが難渋していた。彼らの間で  
渦中になっている人物は沢井麻耶である。  
 様々な問題を起こしてはいるものの問題人物の巣窟と化しているクラスの委員長として、  
それなりに把握している彼女の手腕は本人が思っている以上に生徒会に評価されていた。  
今回のイベントにおいて、会長の音姫と副会長のまゆき、そしてエリカの主力メンバーが参戦を  
表明し、他にも少なからぬ生徒会の女子も参加し、人数だけでなく執行能力も大幅に低下  
させている生徒会としては麻耶を臨時に加入させて少しでも穴を埋めようと考えていた。しかし、  
その沢井麻耶が登校するや否や生徒会室に訪れ、武闘大会の参加を申請してしまっていた。  
目算の外れた生徒会は大慌てであったが、動揺を加速しているのが非公式新聞部の面前で  
起こしてしまったことにある。非公式新聞部は今回でこそ共同しているものの学校行事で騒動を  
起こす敵対的存在、その眼前で起こした醜態だけに事態は深刻であった。只でさえ「生徒会は  
朝倉音姫と高坂まゆきとそれ以外」という扱いをされているだけに、それを裏打ちされるような  
出来事が生徒会に大きな衝撃を与えていた。  
「会長と副会長がいないと組しやすいですね」  
「それでは興がなさ過ぎる」  
 嬉しげに語る非公式新聞部員に対して、杉並がこう返したと後世の歴史家が語る。別の歴史家は  
沢井麻耶参戦については非公式新聞部が既に把握していた事項であり、内部で連携が取れて  
いないことにイベント運営の困難さを予想した杉並が頭を抱えたと語っているが、あまりにらしくない  
として疑問視されている。いずれにせよ、この件で杉並が語ったことは記録に残されておらず、  
沢井麻耶が争奪戦に参加したことは記されている。  
 
「えぇ・・・でも・・・やっぱりぃ・・・・・・」  
「そんなこと言ってると義之くん取られるわよ」  
「そうよ、小恋。恋する女に仁義なしよ」  
「で、でも・・・・・・」  
 昼休みになると参加を決めた少女たちが大挙して生徒会室に押し寄せていた。運営面では  
ミソをつけてはいたものの事務能力は精鋭レベルの生徒会メンバーはテキパキと申し込み  
受付を捌き、長蛇の列は瞬く間に短くなっていく。その周りでは参加する少女たちを一目見ようと  
男子生徒が取り巻きにしていた。  
「もてるとは聞いていたが、ここまでとはな」  
「う〜このラブルジョワ野郎め!」  
「一人こっちに回せよ・・・」  
 幾分やっかみの入った声が聞こえる中、参加する風見学園の美少女たちを眺めていた。  
「雪月花だ!」  
「雪月花だ!」  
 美少女3人組の雪月花は学園でも指折りの存在である。  
「ちゃお」  
「は〜い」  
「ど・・・どうも」  
 既に列は捌けて、すんなりと入れるようになった生徒会室に三人は向かう。  
「あっ、小恋」  
「ななか・・・」  
 入り口で小恋は出てくるななかと鉢合わせになる。  
「小恋も参加?」  
「うっ・・・うん・・・・・・」  
「じゃあ、当日がんばろうね」  
 そういうとななかは生徒会室から立ち去っていった。そして改めて入ろうとした小恋たちの  
背後でどよめきが起こる。振り返ると、そこには立ち止まったななかの姿とその正面に別の  
少女の姿があった。申し込みを終えたななかと申し込みにいく由夢、二人はお互いを確認  
した瞬間、その場に立ち尽くしていた。  
「新旧アイドルのニアミスだぜ!」  
「白河は旧アイドルじゃねぇだろ・・・」  
「おいおい、白河の向かいにいる子って誰だよ」  
「あの子は朝倉由夢ちゃん、生徒会長の妹だよ」  
「えっ、会長の妹!?」  
「朝倉先輩卒業後の新世代アイドルか」  
「こりゃ、白河もうかうかしてられねぇな」  
 周りのかすまびしい声が耳に入ったのか、二人は挨拶をかわし互いに目的地に向かう。  
「こりゃ、大変だ〜」  
 茜は自分の横を通る由夢に声を掛けなかった。由夢の方も気づいていたのかどうかは不明  
だが、茜に声を掛けることをしなかった。  
「ライバルいっぱいだよ〜小恋ちゃん。あれっ、小恋ちゃん?」  
 自分の横にいたはずの月島小恋の姿がない。周りを見回す茜に杏が指をさす。そこには  
既に申し込みを行っている小恋の姿が。  
「あらあら」  
「フフフ、面白くなってきた」  
 小恋の変わり身の早さに呆れ顔の茜に小悪魔的に笑う杏。  
「でも、恋する女に仁義はないわよ、小恋」  
 杏のその呟きは隣にいる茜にも聞こえていなかった。  
 
「調子はどうだ〜」  
「あっ、先生。おかげさまで大盛況です!」  
「今日でうちの生徒で参加者はほとんど申し込んだと思います。  
 多分、150人のラインは超えるでしょうね」  
 予想を超える参加申し込みに嬉しい悲鳴を上げるイベントスタッフたちの水越舞佳への  
応答も自然と喜びに溢れるものとなる。  
「そうか。じゃあ、これもだ」  
「先生、これは?」  
「参加申し込みだ」  
 イベントスタッフの顔が引きつる。戦力減少を補う切り札だった麻耶の参戦に加え、ここで  
運営サイドのはずの水越舞佳まで参加となると事は不手際というレベルでは収まらない。  
後に、生徒会のスタッフは脳裏に嘲笑う杉並の顔と失望する音姫の顔が交互によぎったと  
述懐する。  
「せ、先生・・・まさか、参加するおつもりでは・・・・・・」  
 蒼白な生徒会役員の言葉に舞佳は開いた口が塞がらないという様子であった。  
「そんなフラグは存在しない。」  
 そして、舞佳は呆れたように参加申請用紙を翳しながら応える。  
「代理申請を受け取ったから、それを渡しにきただけだ」  
 スタッフはその紙を受け取る。  
「だいたい運営サイドに所属する人間が参加できるはずがないだろう」  
 落ち着いて考えてみれば舞佳は既に運営スタッフの人間であり、大会に参加するつもりなら  
ハナッからそんなところにいるはずはなかった。  
「だ・・・代理申請ですか?」  
 本来は生徒会室に足を運んで申し込むのが決まりなのだけ、申込期間中に欠席とか様々な  
理由で来れない学園の者に運営スタッフの誰かに申し込みを申請することができる制度である。  
もっとも後に確認とか正式な申請書類の提出とか煩雑な手続きがあるためにほとんど全ての  
参加者は生徒会室での申請という方法で行っていた。  
「私のほうでも確認はしたが、念のために見ておいてくれ」  
 書類を受け取ったスタッフはおずおずと書類を一字一句見るとやがて重く口を開いた。  
「先生・・・これ、先生の代筆ですか?」  
「あっ・・・ああ、そうだが。ちょっと今、字を書くことができない状態なのでな」  
「すいませんが、学園の生徒でしたら登録されている名前でお願いできませんか・・・・・・」  
「ん?何か間違えていたか?」  
 スタッフはその箇所を指さして見せ、舞佳は仕方ないかと思いながら"天枷美夏・改"の"・改"の  
部分に二重線を書いて訂正印を押した。  
 初音島のバスターミナルにちょっとした人だかりができていた。その原因はこのイベントの告知の  
張り紙であった。  
「桜内義之争奪武闘大会・・・なんだ、こりゃ?」  
「風見学園か・・・また愉快なことをしているな・・・・・・」  
「おおっ!あのイベントか!!」  
「じいさん、何か知っているのか?」  
「ああ、わしが学園の生徒だった頃にも似たようなものが開催されていたが・・・・・・」  
「うんうん、どうだった?」  
「あれは・・・エロい」  
 様々なことをしゃべる大人の中で一人、異彩を放つ少女がいた。  
「・・・あいかわらずだな〜」  
 そう呟く亜麻色の髪の少女の視線の先には"外部の参加者も歓迎します"の文字があった。  
 
その日、風見学園は萌えていた・・・・・・  
 
「ななか〜!」  
「会長〜!!」  
 風見学園が誇る美少女たちの参戦に地下闘技場で観戦する生徒たちの熱気は今まさに  
沸点に達しようとしていた。  
 
「これより桜内義之争奪武闘大会の開会式を始めます。  
 まず、学園長より開会の挨拶です」  
「学園長〜!」  
「さくらさ〜ん」  
 大歓呼に迎えられ、さくらが地下闘技場に現れる。開会の挨拶はここ地下闘技場だけでなく、  
試合会場となる風見学園地上部においても各教室にあるモニターを通じて流されている。  
 
「諸君 私は恋愛が好きだ  
 諸君 私は恋愛が好きだ  
 諸君 私は恋愛が大好きだ」  
 
「幼馴染が好きだ 委員長が好きだ ツンデレが好きだ ヤンデレが好きだ  
 ブルマが好きだ ニーソが好きだ スク水が好きだ 制服が好きだ  
 NTRが好きだ 修羅場が好きだ アナルが好きだ 触手が好きだ  
 教室で 屋上で プールで 風呂場で 公園で 神社で  
 砂浜で 倉庫で 階段で 図書館で トイレで 自分の部屋で  
 この地上で行われるありとあらゆる恋愛行動が大好きだ」  
 
「ステージで並んだ同じプロダクションのアイドルの彼氏を  
 職場で共にしたときにNTRのが好きだ  
 興信所に頼んだ写真を手にしたアイドルが午前3時に現れた時など心がおどる」  
 
「秘かに想い続けた男を紹介した親友が交通事故にあって  
 昏睡状態の時に慰めると称してNTRのが好きだ  
 昏睡から覚めた親友に取り返されそうになった彼氏をつなぐため  
 アナルを奉仕し、イヌに堕ちる時など胸がすくような気持ちだった」  
 
「紹介した女からNTRった男を逆転されNTRれ返されるのが好きだ  
 狂乱状態の○○が 既に息絶えた●を何度も何度も包丁で  
 刺突している様など感動すら覚える」  
 
「幼い頃から思っていた男をポッと出の先輩に  
 取り上げられていく様などはもうたまらない  
 慰める友人に奉仕することが幸せと応えた幼馴染の手がもつお玉が  
 カラカラと音を立てて空鍋の中で回っている様に驚愕するのは最高だ」  
 
「ギャルゲーの原作者たちが 幾多のヒロインのオムニバスと提案してきたのを  
 アニメの監督が青春群像劇でDVDの売り上げごと木っ端微塵に粉砕した時など  
 絶頂すら覚える」  
 
「少年犯罪のスケープゴートでバッシングされるのが好きだ  
 楽しみにしていた最終回が中止になり  
 タイマー録画が河を進む汽船になり nice boat と賞賛されるのは  
 とてもとても悲しいものだ」  
 
「断腸の思いつきに流されてgdgdにされるのが好きだ  
 第一話で告白し、そのまま空気扱いされ最終回で他人のEDになっているのは  
 屈辱の極みだ」  
 
「諸君 私は恋愛を地獄の様な恋愛を望んでいる  
 諸君 風見学園に集う参加者諸君  
 君達は一体何を望んでいる?  
 更なる恋愛を望むか?  
 情け容赦のない修羅場の様な恋愛を望むか?  
 鋸鉈包丁の暴威を振るい三千世界のヤンデレを殺す嵐のような恋愛を望むか?」  
 
「「ほわぁっちゃぁ!ほわぁっちゃぁ!ほわぁっちゃぁ!!」」  
 
「よろしい ならば恋愛だ」  
 
「諸君は満身にエロスをこめて 今まさに萌えんとする美少女たちだ  
 だが この初音島の小島で半世紀もの間 堪え続けて来たボクに  
 ただの恋愛ではもはや足りない!!」  
 
「大恋愛を!!  
 一心不乱の大恋愛を!!」  
 
「諸君らはわずか一校千人に満たぬ女子校生にすぎない  
 だが諸君は一騎当千の美少女だと私は信仰している  
 ならば我らは諸君と私で総戦力100万と1人の美少女集団となる」  
 
「二百人の美少女の軍団で  
 世界を萌やし尽くしてやろう」  
 
「「学園長!学園長殿!さくらさん!!学園長!学園長殿!さくらさん!!」」  
 
「第一回桜内義之争奪武闘大会  
 状況を開始せよ」  
 
 桜内義之争奪武闘大会 試合開始  
 
<続く>  
 

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