静寂で支配された夜の道。
大通りには面しておらず、脇道と脇道の間を繋ぐように設けられたこの細い通路を利用する者は多くない。商店もなにもなく、どこかへ行くための近道になるわけでもない。
人々の喧騒は遠く離れており、闇を祓う街灯の数も少ない。
見回せば、月灯りに照らされた電柱だけが寂しげに己の存在を主張する。
そこはそんな風に静かで、忘れられた道だった。
しかし、そんないつもは寂寞とした空間も今日だけは様子が違った。
「それにしても本当に綺麗だったねー」
声が響く。
声の主は浴衣姿の少女だった。
「ああ。わざわざ見に行ったかいがあったな」
その言葉に応える少年の声。
「でも……天の川はよく見えなかったね。それがちょっと残念」
「んーむ、たしかに。月が出ていなければなぁ」
桜内義之とアイシア。
二人は7月7日に行われる七夕祭りを一緒に楽しみその帰路にこの道を通りかかった。
祭りの会場である神社から彼らの住居である芳乃家に帰ろうと思えばこのような道を通る必要はない。ただ遠回りになるだけだ。
それでも何故、この道にいるかというとそれは単純なこと。
遠回りして帰りたかったから、少しでも長い間、二人だけでいたかったからである。
「しっかし、ああもバンバン花火あげちゃあちょっと織姫と彦星にとっては迷惑だったかもな」
「迷惑?」
「そ、せっかく一年に一度の再会だってのに空気読まずにうるさくしちゃってさ」
「そうかな?きっと織姫様と彦星様も喜んでると思うけどな〜。 私たちの再会を祝福してくれてるんだ、って二人で手を繋いで眺めていたんだよ」
言い終わってからあたしたちみたいに、と無垢な笑顔を浮かべながら義之の手を握る右手を示す。
義之は一瞬、答えに詰まるもすぐに「それもそうかもな」と頷いた。
アイシアにそんな顔で言われてしまっては頷くしかない。そんな自分に少し呆れ、苦笑いした。
なんともいえない笑みを浮かべている義之を見て、アイシアは何かを言おうとしたが、喉から出かかった言葉を飲み込み、
「いこっ、義之くん」
義之の腕に自分の腕をからめる。
「……ああ、行くか」
その幸せそうな顔を見て今度は苦笑いではなく心からの笑顔を浮かべるのだった。
二人して月灯りの下を歩く。
静かな夜、静かな場所だった。
未だ続く祭りの喧騒も、道路を走る車の騒音も、ここまでは届かない。
まるで二人のために用意されたかのような空間を亀のような遅い足取りで進む。どちらも歩調を早めるようなことはしない。
互いにこの時間をもっと味わっていたかった。
「………………」
義之はふとアイシアを見た。
―――可愛い。
心の中で呟く。
雪のような白い肌を薄い浴衣で包み、流れるようなアッシュブロンドの髪を簪で止めたその姿は一種の芸術品のような可憐さを秘めていた。
「?」
「あっ……」
あまりに熱っぽく見ていたせいでアイシアが義之の視線に気づく。アイシアは一瞬だけ目をぱちくりとさせるも、
「あれ〜、ひょっとして義之くん。あたしに見とれていた?」
すぐに悪戯っぽい笑顔に変わる。
照れくささから義之は慌てて誤魔化そうとするが、これまでの経験がそれとは異なる選択をさせた。
この顔は自分のことをからかおうとしているときの顔だ。中途半端な答えでは肯定しても否定しても何を言われるかわからない。
なら―――いっそ、思ったままのことを言ってやれ。
「あ、ああ……見とれていたよ」
「ふーん…」
ルビー色の瞳が小悪魔のように光る。どう返そうかな、と口を開こうとした時、
「だってアイシア、可愛すぎるんだから。見とれて当然だろ?」
予想外のカウンターに封殺された。
「……あぅ、はっきり言われちゃうと照れちゃうな……」
もじもじと体を震わせ、一瞬、伏せ目がちになるもすぐに義之の方に瞳を向ける。
しかし、義之の方も真っ赤になっており、会話の主導権を握るどころではない。
「………………」
「………………」
自然とお互いに無言で見つめ合う形になる。目をそらすこともできず、視線と視線が交わる。
沈黙は果たしてどれほどの間だったか。
「…………」
アイシアがまぶたを閉じ、身を乗り出す。
「んっ」
その行動に応え、義之も体を動かし、彼女のつぶらな唇に自らの唇をあてがう。
「いや、本当にその姿。よく似合っている」
「うんっ、ありがと」
溢れる笑顔。
腕をからめたまま、体重を預けてくる。
軽い体。小さな体。綺麗な体。
それは可憐さの具現といっても過言でなく、義之の色情を煽るのに十分過ぎた。
(あ―――まずい)
熱に浮かされたような気分の中に沸き出してくる冷静な危機感。
このままでは自分を抑えられなくなる、と理性が叫ぶ。
「あ……あのさ、アイシア……」
小さな肩に手をかけ、距離を離そうとしながらそう切り出すも、
「……?」
上目づかいで義之を見るその瞳はとろんとしていて、ほのかに頬は赤く、息も荒く義之をさらに煽る。
「――――ッ!」
ぴしり、と理性に亀裂が入るのを感じ、慌てて顔をそらす。
そのまま離れようとするが、アイシアの小さな体は義之にぴったりくっつき離れてくれない。力尽くで振り払うわけにも行かず、結局顔をそらした状態で静止する。
「……アイシア」
努めて平静を装い話しかける。その声も力を込めすぎて普段より幾分か低い声になってしまう。
「…………なに、義之くん?」
どう言おうか、と一瞬迷うが。
「その、なんだ。このままじゃ、色々と抑えられなくなりそう」
途切れ途切れになりながらもストレートに伝えた。
「え? ……えーと、それって……」
アイシアは一瞬、義之の言葉が何を意味するのか理解できていないようだったが、少しずつその顔が赤く染まっていく。うー、とうめき声のようにつぶやきながら体を震わせる。
その表情も仕草も可愛いな。義之は妙に冷静にそんなことを思った。
「……義之くん。…………したいの?」
始め、義之にはその気があったわけではない。人気が少ないとはいえ、今義之たちがいるのは密閉された空間でも出入りが制限された場所でもなく、誰もが通ることができる往来の上。
このような場所で情事に及ぶということ。その非常識さと誰かに目撃されるかもしれないという危惧、羞恥心。全ての感情が理性となり、義之の心にブレーキをかけていた。
そのため自分の状態を素直に伝え、「だから少し離れて歩こう」と提案するつもりでいた。
少なくとも家に帰るまではその気にならないように。全ては自分の感情を抑えるための措置だった。
しかし、義之にとって想定外だったのは。
「ああ……我慢できなくなりそう。だからちょっと」
「もう、しかたがないなぁ……うん、ちょっと恥ずかしいけど、どうせ誰も見てないよね……」
「離れてくれ……って、え」
日本語という言語の難しさ。そして、理性の枷を色欲が上回りそうになっていたのは義之だけではなかったということ。
義之の言葉はアイシアには誘う言葉として受け止められ、彼女を抑えていた理性の枷を壊してしまった。
◆
「ア……アイシア? なにか誤解して……」
「こういうのもたまには悪くないかな…」
「あの、アイシア……?」
アイシアは何かをうんうん、とうなずいており、俺の言葉はまるで耳に入っていない。
ちゃんと、伝わったんだろうか…、というか何かを勘違いしているような……と、そんな不安が頭をよぎった時、絡めていた腕を解きアイシアが俺から離れる。
どうやら、俺の言いたいことをわかってくれたみたいだ。
「ふーっ」
思いっきり息を吐く。
夏の割には涼しい夜。心地のよい風が通路を吹き抜け熱くなった体と心を冷やしてくれる。無論、この高ぶった感情も。
すぐには落ち着くのは無理だろうけど、なんとか感情を理性で押さえ込めそうだ。俺は目を閉じ一人で安堵していた。
「…………よーし、頑張るぞっ」
――だから、アイシアの取った行動にすぐに気づけなくて。
「え、アイシア。なにか言っ……」
まぶたを開いた俺の瞳に映ったのは綺麗なアッシュブロンドの髪とそれを止める簪だけだった。
だって、ただでさえ背の低いアイシアがしゃがみ込んでさらに小さくなっていたんだから。正面を向いている俺にはその姿を捉えることができるはずもなく。
そのことが何を意味するのかも熱でゆであがった俺の脳はすぐに理解できず。
「アイシア? ――――ッ!!」
状況を飲み込めたのは、妙な快感に体が震えた時だった。
「んー、すごい……義之くん。ビンビンだよ」
アイシアの細い指が俺の股間をつんつんと突く。
ビクリ。ズボンの下のソレが反応する。
へたり、と腰が抜け、だらしなく尻餅をつく。
「ア、アイシア…! やめ……」
距離が開いた。そのまま逃れようとするも。
「ふふふ、遠慮しないでいいよ。義之くん」
楽しそうな声。無邪気な笑顔。
四つん這いになって俺を追ってくる。俺に迫ってくる。
身悶える俺にかまわず、アイシアは俺の股間を弄ぶことをやめない。
「はい、ご開帳〜」
ファスナーを下げ、雪のように真っ白な手に導かれ赤く脈打つソレが顔を出す。
「く……馬鹿。なんてことを」
こうなったら、もう抑える抑えないどころの話じゃない。
ソレはアイシアの手の中で呼吸するように蠢き、天を仰ぐ。そいつは紛れもなく俺の欲望の権化だった。
アイシアの小さな唇がソレに触れる。
「えー、義之くんがあたしを誘ったんだよ。ご奉仕を強要したんじゃない」
「誘ったおぼえも、強要したおぼえもな……ぐっ」
小さな舌がのびてきて亀頭をやさしく撫でる。
思わず漏れる透明な液体。その液はアイシアの唾液と絡まり透明の虹と化す。
どうやら俺の分身を簡単に解放してくれる気はないらしく、ぺろり、と丁寧になめまわされる。
幼い顔に似合わない艶やかな仕草に興奮し俺の分身はさらに天に向かって伸びる。
全てを吐きだしてしまいたい衝動に体が震える。
「ぐっ……ううっ」
「んーー、この程度で出しちゃあダメだよ。義之くん」
「ッ!?」
「だって……これからが、本番だからね」
いただきます、そう小さく呟き俺の分身を咥え込む。
「はむ、んぐ、んぐ……」
まるでお菓子か何かのように美味しそうに頬張る。
舌の勢いは止まらす。さらに丁寧に撫でまわす。俺の分身からは透明な汁だけではなく、白く濁った液も漏れだし、アイシアはそれを自分の唾液と練り合わせる。
アッシュブロントの髪にルビーの瞳。一流の職人が作り上げたお人形のようであり、一流の画家が描いた絵画のヒロインのようであり。
そんな可憐な少女が俺の肉棒を咥えている。舌を使って俺を快絶に染め上げようとしている。自分も染まろうとしている。
俺に奉仕している。
その実感が沸いた瞬間、押さえ込んでいた欲望が爆発した。
「……ッ! アイシア!!」
「んぐんぐ…………んーーっ!?」
アイシアの口内に放たれる欲望の白色液。
さすがにこれで解放してくれるだろう、と思った俺は直後に自分の考えの甘さに気づく。
アイシアは瞳に苦悶の色を浮かべつつも、そのまま喉を鳴らし、少しずつ口内の物体を嚥下していく。
「ごくん……ごくん……はぁっ、はぁっ」
白色の液体を垂らしながら肉棒から口を離し、俺を見上げる。
「出すなら出すって、先に言ってくれないと。あやうくこぼしかけちゃったよ」
責めるような言葉、の割に声は楽しそうで。意外と早漏れなんだねー、などと朗笑する。
雪のような肌を赤く染めて、口から白く濁った汁を垂らすその姿は幼い顔たちに釣り合わぬ妖艶な色気を放っていた。
「……ごめん。気持ちよくって、つい」
「ふーん…気持ちよかったんだ……」
「うん、……すごく」
「ま、あたしは義之くんよりお姉さんだから、ね」
「……さすがに長く生きてるだけある」
というか、こういう時くらいなんだよな。アイシアが俺より年上だって実感するのって。
「よいしょ、っと」
四つん這いになっていたアイシアが立ち上がる。
自然と地べたにに座り込んでいる俺を見下ろす形になる。ルビー色の瞳が出しっぱなしの俺の分身を観察するように眺める。
「もう一回、舐める?」
「うーん、それもいいんだけどね……」
そう言いながら指先を唇に当てるアイシア。
「今度は君がお姉さんを満足させてくれるかな、義之くん?」
ぞくり、と胸の中の何かが蠢いた。
その言葉は、オフェンスの交代を意味していて。
もう虐めてくれるのは終わりなのか、と残念に思う俺。これからアイシアを好きなようにできると歓喜する俺。相反する二人の自分が騒ぎ出す。
一度の射精を得て、落ち着いていた感情が再び高鳴る。熱くたぎる思いが溢れる。
ゆらり、と幽霊のような動作でゆっくりと立ち上がる。
「何から、やる?」
「……んー、上の口は今は少し遠慮するとして……やっぱ下の方をお願い」
「はいはい、了解しました〜」
アイシアが浴衣を止めている帯に手をかける。
そのアイシアの弾むような動作に頬を綻ばせながらも俺はそれを制止する。
「あー、待った。アイシア」
「へ?」
「自分で脱いじゃだめ。俺が脱がせるから」
「…………」
沈黙。
やっぱ、だめかな。
「……もー、わがままなんだから」
しかし、アイシアは真っ赤になった顔を拗ねるようにしかめ、俺の胸に背中を預けてきた。
その小さな体を思いっきり抱きしめてやる。
「むぐ……ちょっと、痛いよ…義之くん」
アイシアが俺の腕の中でもがく。でも、そんな程度で俺の腕はびくともしない。
俺より一回り以上は小さい、そのちっちゃな体に征服欲が刺激される。
「お姉さんだなんて言っても、俺に手も足も出ないんだな」
「そりゃ、力じゃ義之くんにかなうわけがないないよ……あうっ」
浴衣の胸元に両手を突っ込み、双丘を目指してまさぐるが。
「……? んー。下着、か」
主の乳肌を守ろうする布きれに邪魔をされた。
けど、この程度で阻めやしない。下着を無理やりにずらし、開いた隙間に指を侵入させる。
きゃ、と可愛らしい悲鳴が上がる。
平らな双丘。その中央に鎮座した小さな突起を掴む。
指の間で転がしてみるとそれは始めっから十分に勃起していた。
「よ、義之くんっ……」
「……なんだ、余裕ぶっているようでアイシアも結構、興奮してるんだな」
さっきまで俺を好き勝手に弄んでいたのに、今では逆に俺に弄ばれ、なすがままにされている。それが無性に可笑しくて可愛くて。
つい、からかってみるとアイシアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
大人しくなったようなので、そのまま小振りな胸を存分に堪能させてもらう。
幼さが残るつぶらな双丘は俺の掌で十分覆うことができて、そのわりに力を込めた時に返ってくる柔らかな感触がアイシアの中の母性を感じさせてくれてたまらなかった。
「だ、…だって……」
胸をいじり飽きた俺は手を浴衣から抜く。
共襟に手をかけ、一気に脱がせてやろうとするが、帯にしっかりと止められてなかなかうまくいかない。
「大好きな人とこんなことやってるんだから、興奮して当たり前じゃない……」
ぼそぼそとアイシアが何かを呟いている。
しかし、他人の服を脱がすなんて慣れない動作。しかも、普段着ではなくどういう着方をしているのかもよくわからない浴衣相手に四苦八苦している俺にはそれどころじゃなかった。
んーむ、思ったよりきつく止められてるんだな…これ。あ、そうだ。まずは帯を解かないと。
帯に手をかけて思いっきり引っ張ってやるが、……外れない。
「……義之くん、痛いよ……」
「っと、ご、ごめん。んーと、アイシア」
「? ……なに?」
「この帯、どうやって外すの?」
「俺が脱がせる……とか言ったのはどこの誰だったっけー?」
「く、うるさい……なんでそんなに難しく結んでいるんだ…」
「エッチな誰かさんに簡単に脱がされないため」
「………………」
どこまで本気で言ってるのやら。
なんともいえない恥ずかしさに歯噛みする。
「ふぅ…やっとほどけた」
アイシアの言う通りにすることで、ようやく帯を解くことができた。
しまったな。俺が好きに蹂躙できていたってのに、アイシアにペースを取り戻されちまった。
そんな俺の残念そうな顔を見て、何を思ったかアイシアははにかむように笑うと。
「安心して、義之くん。今日は義之くんの好き勝手にさせてあげるから」
熱に浮かされたルビー色の瞳が俺を見る。
帯と腰紐を失い胸元から開け放たれる浴衣。無防備にも下着をさらけ出したその姿に思わず息を呑む。
俺がまさぐり回したせいで色っぽく崩れたブラ。アイシアの一番大事なところを覆うショーツは遠目にもぐっしょりと濡れているのが見てとれた。
アイシアの言葉に喜ぶよりも先に、脳内が真っ白になる。興奮を飛び越えて頭を白く染めていく。
「……ふうん」
結局、後に残ったのは状況に不釣り合いなまでの冷静さ。
右手の中指と人差し指でショーツごしに秘所を突く。
あぅ、とアイシアは小さな声で鳴く。
「こっちもなかなか」
突いて、抜いて、また突く。
静寂の通路に卑猥な音が響く。
「よ、義之くんの方だって……あ」
何かさえずりながら手を伸ばしてきたので、それを左手で掴む。
彼女の綺麗な手が目指した先には直角に近いほどに起立した俺の息子。
「…………」
「今回は俺が好きにしていいんだろ?」
いじってもらうのも嫌いじゃないんだけど。
抵抗しようとするアイシアを力尽くで押さえ込み、地面に押し倒した。
驚愕・唖然・悦喜。
コマ送りの映像のようにアイシアがその表情を変えていったさまを俺は見逃しはしなかった。
邪魔なショーツを破るように奪う。
露わになった秘唇。その間からはすでに大量の淫液が漏れていたがさらに攻める。
銀色の茂みから指を這わせ、恥丘・大陰唇と撫でていく。
淫液のおかげか妙に指の滑りがいいように感じる――単に俺が興奮のあまり指を速めているだけか。
「あっ……はっ、はぁん…」
可愛い声で鳴いてくれる。アイシアの声が俺をさらに高ぶらせる。
秘唇全体を舐めるようになぞり、二本の指を唇の中に挿入する。
(―――ん?)
指先に感じる違和感。
なんだ、と思い思いっきり摘んでみる。
「ひゃぅッ…よ、義之くん……そこは…だ……め!」
ああ、そうか。これはアイシアの陰核――クリトリス。
はじめて掴んだというのに、真っ赤に充血し、勃起しているそれを指の間で何度か転がしてみる。そのたびにいちいち可愛らしい淫声があがった。
「あっ……あっ……」
体を仰け反らせ、快絶に身を悶えるアイシア。夜空を見る焦点のあわないその瞳には恍惚の色しかない。
「まだだ、アイシア。まだイっちゃだめだ」
「あぅ、え……?」
淫液に塗れた手を秘唇から抜く。代わりに亀頭を当ててやる。
「……イクのはいっしょがいい」
そのまま肉の槍を秘唇に突き刺した。
「あああああああ……ッ!」
一際、高い鳴き声があがった。
膣を一息で姦通した肉槍は子宮口まで到達する。
「ん…ぐ……ぐううっ!」
膣肉が一気に纏わりついてくる。その快楽はこの世の何もかもを忘れてしまいそうなくらいに激しくて、伝播したその快感に体を震わせた。
脳の神経が焼き切れそうだ……。
「よ……し、ゆきくん…。あたし……もう…」
アイシアが絞り出すような声で俺に懇願する。その目はもう何も見えていないだろう。ただ全身を支配する快楽の波に必死に抗っている。
ああ、そうだな俺も限界だ。フィナーレだ、いっしょにいこう。アイシア。
ゆっくりと腰を律動させ、刺激を与える。
それが最後の決め手。
「あはぁ……い、くぅ……」
「う……ぐっ」
アイシアの中で俺の分身は全てを爆発させた。
静寂。
それまでの獣のような行動が嘘のように木像になったかのごとく、二人して静止する。
「…………ぐぅぅ」
そのまま意識を飛ばしたかった。けど、最後の力を振り絞り肉槍を引き抜く。抜いた勢いのまま後ろに倒れ込んだ。
「うぅ……お腹の中、あったかいよ……義之、くん」
「はっ、はっ……はっ……」
二人して並んで天を仰ぐ格好になる。お互いに脳内の全ての回路が契れたように、身動き一つ、考え事一つできない。
天を仰いでいたはずの俺の分身はすっかり萎びれてしまい、今では大人しく地べたを向いている。
「アイシア」
「……?」
「愛してる」
「うん…………あたし、も」
ただ全身で幸せを感じつつ、俺の意識は夢の世界へと墜ちていった。
◆
「うん! これで大丈夫」
アイシアはそう言い共襟の位置を確かめる。
「急ごう。早く家に帰らないと……」
彼女の後ろで帯を結んでいた義之は携帯電話を開きディスプレイを確認する。
現在の時刻はとうに0時を過ぎていた。
「お母さんにこっぴどく怒られちゃうねー」
「……他人事みたいに。多分、その時はアイシアもいっしょだぞ?」
「あははは、姑さんの嫌味はニッポンの伝統! 謹んでお受けしますっ」
「この場合、嫌味でもなんでもないような……。てか、そんな伝統はイヤだ」
苦い顔をしながら携帯をポケットにしまう。
「走る……ってもその格好じゃ無理か」
アイシアの今の服装は浴衣にゲタ。この格好ではたしかに全力疾走は難しいだろう。
仕方がない、歩くか。と義之が足を踏み出した時、アイシアが急に声をあげた。
「そうだ、義之くん。いいこと思いついたよ!」
「……どんな?」
義之は本能的に不安を感じつつ振り返る。
そこにいたのはルビーの瞳を子供のように輝かせた小さな少女。
「義之くんがあたしをおんぶすればいいんだよっ」
「はい……?」
「そうすれば走れるよ!」
アイシアはいいアイデアでしょ? …とでも言いたげに小さな胸を張る。
対照的に義之は眉間に軽くしわを寄せがっくりと俯いた。
「……アイシア、それをするくらいならどう考えても普通に歩いた方が速いから」
「えー、なんで〜」
「俺は陸上の選手でもなんでもない一般人。アイシアがいくら軽いからって、人一人背負って、ここから家まで走るだけの体力なんてないって」
「カッコ悪〜〜い。そこは嘘でも、任せとけ! …くらいは言ってよ!」
不機嫌そうに頬を膨らませるアイシア。
義之はそんな年上の彼女を見て嘆息するも、
「……ほら、さっさと乗れ」
彼女に背を向け、膝を突く。
「え? でも…」
「走るのは無理。…けど、歩いて帰るくらいは余裕だ」
「……けど、普通に歩くより遅くなっちゃうよ」
「…………この時間になったらもうたいしてかわらないさ。行くぞ」
ぶっきらぼうに顔を逸らした義之を見てアイシアの顔が輝く。
「うん!」
結局、急いでるはずの二人はこの後も遠回りを続けてしまい、芳乃家に着いたのはさらに1時間以上が経過してからだったという……。