俺は音姉が大好きだ
小さな頃からいつも一緒にいた、優しくて綺麗で頼りになって・・俺の自慢の姉
いつからか、俺はそんな音姉のことを一人の女の子として意識していた
そして音姉も俺のことを好きでいてくれた
勿論、この「好き」は姉弟の、という意味だろう
まあそんなことは瑣末事
大切なことは、音姉が俺の傍で笑ってくれる、俺にだけの特別な笑顔を見せてくれるということだけだ
セックスも望まない、結婚も望まない・・俺はただそれだけで十分なんだから
だから俺はずっとその幸せが続いてくれるように祈っていた
だけど、そんな俺のささやかな願いすらも神様って奴は叶えてくれないらしい
今更だが、音姉は人気者だ
生徒会長を務めている音姉は全校生徒から慕われ、その交友関係も男女を問わず多い
実際、廊下で見知らぬ男子生徒たちと楽しそうに談笑しているのを何度か目にしたことがある
その度に俺は目の前の男たちに殴りかかろうとする自分を自制することに苦労した
同時に俺は音姉への怒りも強く感じていた
どうしてそんなやつらと会話をして、あまつさえ微笑んでみせてやるのかと・・!
どいつもこいつも、音姉の体を目当てに集まってくる下衆ばかり
唇、首筋、胸、足・・あいつらは俺の音姉を嘗め回すようにじろじろと視姦している
音姉だって内心は嫌がっているんだろう・・?
音姉のそんな優しいところは俺も好きだけど、迷惑ならはっきりそう言ってやるのも必要なことだと思う
音姉には何度もそう言った
それでも、音姉は真面目に聞いてはくれなかった
弟くんは心配しすぎだよ、あの人たちはただのお仕事上での仲間なんだ・・って
当然俺はそれは違う、音姉は騙されてると反論した
そうしてムキになって言い返してくる音姉と口論になり、喧嘩になりかけて・・結局いつもうやむやになってしまった
それでも、俺もどこかで楽観視していたのかもしれない
音姉の言うとおり、そいつらと学校以外で出会うことはなかったし、音姉もちゃんと一線は引いているようだったから
その見通しがいかに甘かったのかを知ったのはつい数日前のことだった
その日、俺は街で見てしまった・・俺の知らない男と手を繋いで歩く音姉の姿を・・!
それは、どう見ても生徒会の仕事とかそういう雰囲気じゃなかった・・
可哀想に、きっと音姉は悪い男の甘い言葉に惑わされているんだよ
俺がその場で出て行ってその男を してしまうのは簡単だったけど・・そんなことをしたら音姉が悲しむ
その日の夜、音姉とちゃんと話し合うことにした
今度は音姉がわかってくれるまで一歩も譲らないと決意を込めて
その結果・・ついに音姉はわかってくれた!
それからは他の誰と会うことなく、ずっと俺の傍で笑ってくれている
ただ、その日から由夢やさくらさんの様子がおかしくなってしまった
ずっと「お姉ちゃんがどこにもいない!」と半狂乱で探し回っているのだ
俺がいくら音姉は俺の部屋にいると説明しても聞こうとしないし、そこには誰もいないなんて言い出す始末だ
まったく意味がわからない
ああ、それともう一つ
これは大したことではないけれど・・あの日以来、ずっと手から血の匂いが消えないのが不思議といえば不思議だった
いくら手を洗っても洗っても洗っても洗っても・・こびり付いた匂いがどうしても取れない
まあいい、音姉が俺の傍にいてくれるなら、他の何にも俺は興味はない
音姉はそう言った俺に対して何も答えず、ただ微笑んでいた