私は弟くんを愛している。
姉としては勿論、朝倉音姫としても、弟くんを誰より愛している。
いつからかはわからない。ただ気がつけば私の心には常に弟くんの存在があった。
「ちょっと兄さん!ちゃんと聞いてるんですか!?」
「あぁもう……わかってるって」
「いいえ!兄さんは全っ然わかってません!!
兄さんは……お姉ちゃんと付き合ってるんでしょう?だったらもっとお姉ちゃんを大事にしてあげて下さい……」
彼が笑ってくれると私も嬉しいし、彼が落ち込んでいると私も悲しくなる。
だから、彼が喜ぶことは同時に私の幸せにも繋がっているのだ。
自分の幸せの為に努力するのは当たり前のことでしょう?
だからーーー
「いいのよ由夢ちゃん。これは私が好きでやってることなんだから」
「でも……」
「それに弟くんはいつも私を大事にしてくれてるよ?」
「まぁ昨日もあんなに愛し合った仲だもんな」
「……っ!!」
ギリッ……
弟くんの意地悪な台詞は初な由夢ちゃんには刺激が強過ぎたのか、真っ赤になって俯いてしまう。
「……る……い」
と、次の瞬間には物凄い勢いで自分の部屋へ走り去ってしまった。
ただ……気のせいかしら?
ほんの一瞬のことだけど、あの時、まるで私を射殺すかのような眼で睨み付けていた由夢ちゃんの姿は……
「どうしたの音姉?」
ぼうっとしていた私を弟くんの訝しげな声が呼び起こす。
「えっ……あ、ううん。何でもないの」
「ふうん。まぁ何でもいいけどさ。あぁ、そういや昨日のバイトの給料出たんじゃなかったっけ?」
「あっ!!そうだった、ご、ごめんね弟くん」
慌てて財布からお札を数枚取り出して差し出す。
「んっ……ありがとう。愛してるよ音姉」
「わっ、お、弟くん……はぅ……」
きゅっと抱き締められ、耳元で「愛してる」と囁かれる。
それだけで体中の筋肉が硬直して、頭がぼうっとしてくる。
「あぁ、そろそろ音姉バイトの時間じゃない?」
「え、あっ……もうこんな時間なんだ」
弟くんの少し冷ややかな声で我にかえる。
気がつけばとっくに弟くんは離れていた。
時計を見ると、いつもの時間はとっくに過ぎていた。
もっと話していたいという気持ちを抑え、玄関へと駆け出す私に、
「じゃあ音姉、頑張って」
「っ!う、うん!それじゃ行ってくるね、弟くん」
弟くんの声援に背中を押されて駆け出す。
……うん。やっぱり弟くんはすごい。声を聞くだけで疲れもすっかりとれてしまった。
それじゃ、バイト頑張ってこようっと!
続