「……兄さん」
由夢が潤んだ瞳で俺に顔を近づける。
嗚呼、これはいつもの夢だ。幼い頃から繰り返し見てきた夢。
初めてこの夢を見た時は、知らない人達が何かをしているという感想しか持たなかった。
だけど、成長するにつれてこの行為が何を意味しているか理解するようになった。そこに性的な興奮はなく、むしろ何度も同じ夢を見るという薄気味悪さを感じていた。
そのことに気付いたのはいつだっただろうか?
成長するにつれて俺と由夢が夢の中の男女に似てきたことを……
それまで気付かなかったのはあまりにも幼かったというのもあるが、その頃の俺は『兄さん』ではなく『おにいちゃん』だったから。
それに気付いて動揺していた俺をたたみかけるように、由夢は俺を『お兄ちゃん』から『兄さん』と呼ぶようになった。
夢の中の俺も由夢も多くは語らない。だけど時折漏れる声は確かに俺と由夢の声だ。
俺はこの夢を予知夢かもしれないと思っている。
「んっ……」
由夢は必ずキスから始める。触れあうだけの子どものキスとは違う、深い繋がりがある大人のキスから。
「んんっ……、兄さ…ん…」
キスに慣れているのか由夢のキスは上手だ。由夢の舌が俺の口内を蹂躙する。俺にのしかかる形になるため、両腕で自らを支えて腰を俺の足に擦りつけている。
対する俺は由夢に対して愛撫することなく、ただ由夢を受け入れているだけ。
由夢が唇を離すと二人の間に銀の橋が架かる。やがて重力によって銀の橋が崩れ、俺の口元にかかる。
俺はよだれを拭う気がないのか、両腕を頭上に伸ばしたまま。手にかかっている由夢の衣服が一向に揺れないのを見る限り、よほど動かす気がないらしい。
「ふあっ、んっ…あっ、んぁっ……!」
キスの余韻に俺に体を預けると、由夢は両手を太股の間に潜り込ませ、自慰行為に没頭する。
俺の足を伝ってシーツに広がる染みの量が、由夢の愛液の量を示していた。
「ふぁっ、あっ、ん……んっ、んぁああっ!!」
由夢が達したのか体を一際体を震わせると、力が抜けたのか俺に全身を預ける。
やがて短い休息を終え、由夢は俺の膝に跨ると騎乗位の形で自らの秘所に俺のモノにあてがった。
由夢の瞳には不安と恐怖の色がはっきりと表れている。しばらくして由夢は意を決したのかゆったりと腰を下ろし始めた。
「痛い……、痛いよ!」
半ば入った所で大粒の涙を流す由夢。それはそうだろう。自慰によって一回濡らした程度では相当痛いだろう。処女の証が先程のシーツの染みの上から更に染まる。
本来ならば男の俺がリードするべきなのに、先程から俺は何もしていない。
「大丈夫か?由夢」
それなのに由夢はそれだけのたった一言の俺の気遣うような言葉に驚愕の表情を作り、次いで痛みすらひいたかのように本当に嬉しそうに笑った。
「大丈夫だよ、兄さん!」
俺はこの世界の傍観者でしかない、だからこの二人に干渉することも出来ないし、目を背けることも出来ない。
だけど、もしも干渉出来たのなら破瓜の痛みに耐えながらも俺が達するまで頑張り続けた由夢に対して何もしなかった俺をぶん殴りたいと思う。
最後に見た幸せそうな由夢と現実の由夢は違いを見つけるのが困難なぐらい同じになってきた。まるで鏡を見ているかのように……
夢が現実になるかもしれない日はもう近いのかもしれない。
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「兄さん、朝だよ。起きて下さい」
体を揺さぶられて目が覚める。数時間前に夢の中で見た妹の顔。
いつものダサジャージではなく、シャキッとした服装。
「あれ、お前どっか行くのか?」
「兄さん、誕生日に何でも言うこと聞いてくれるというのをお忘れですか?」
そういえばそんな約束をしていたような、していなかったような。
「……………いや、覚えてるよ」
「今の間は何ですか?まぁ、ともかく早く準備して下さいね。下で待ってますから」
由夢はそれだけ言い残して下に降りていった。
「それじゃあ、可愛い妹のために急いで支度するとしますか」
誰に聞かせるまでもなく声を上げると、俺はよだれでべとべとになった口元を拭い着替えるのであった。