DCU凌辱  その4  ――世界のあり方――  
 
男が差し出したのは、肌色の棒きれだった。  
「わからないか? 意外に薄情な奴だな」  
薄暗い部屋の中、さくらは差し出された棒きれをよく見る。  
目を凝らす。  
それはマネキンの腕だった。  
しかもよく出来た。  
どちらかというと、マネキンというよりはμ型ロボットの腕のように思える。  
人間の腕と見紛うほど精巧に作られたそれは、現在普及・量産されているμ型のものよりも  
若干細くて、指も短くて。  
まるで子供の腕のようだった。  
「まだあるぜ」  
別の男が、これまた出来の良いマネキンのパーツを取り出す。  
今度は足だった。  
腕同様、メイドロボのような造形で  
しかも、今の腕と同じようにやや小さく子供っぽい。  
小さなロボットのパーツ。  
やや幼げな、少女のようなロボット。  
さくらはそんな相手に心当たりがあった。  
「―――――っ!? ・・・・・ま、まさ・・・か」  
口の中が乾く。  
とっくの昔に乾いていたが、さらに渇きを覚えた。  
唇から漏れ出た声はカラカラで。  
語尾が砂塵のように崩れて消える。  
「さすがは魔女・芳乃さくら、正解だ。 褒美にコレ、やるよ」  
持っていた腕と足。  
2本の肌色のパーツを、さくらの側に放ってよこした。  
「そんな・・・・・・・美夏ちゃん・・・美夏ちゃんまで・・・・・っ!」  
唇を噛みしめ、目尻に涙の玉を浮かべたまま  
男達を睨み据える。  
 
ロボットの少女、美夏。  
50年前、やんごとなき理由で眠りに就いた少女。  
そしてごく最近、偶然の事故で呼び起こされ  
風見学園の生徒として平和な日々を送っていた。  
おかしな行動をとることもあったが、いつも元気で。  
小さな身体で走り回って。  
見るモノ全てが目新しくて。  
バナナが嫌いで、人間が嫌いで。  
だけども義之や由夢のおかげで、人間嫌いもいつしかなくなり  
万人には受け入れられないけれども、それなりに周りの生徒達に溶け込んでいた  
人間となんら変わるところのない、ロボットの天枷美夏。  
彼女がいったい、何をしたというのだろうか。  
「――――関係ないこいつまで何で? って顔してるな」  
さくらの無言の訴えを受け、男の一人が  
じゃあ教えてやるよ、と言いながら。  
「元々な、世界の流れから行くとHM-Aシリーズは出来ないはずだったんだ」  
μ型は別だけどな、と付け加え。  
「ところがこの初音島の魔法の樹のせいか  
 天枷博士や沢井博士の思いが強かったからなのか、偶然にもできちまったんだよ」  
だからこいつもついでにブッ壊したってわけなのだと、男は言った。  
 
「でもまあ、こいつを壊すには結構骨が折れる。  
 何せ、人間の力じゃあ太刀打ちできないからな」  
男は首をすくめながら、テーブルの上に置いてあったリモコンのスイッチを押した。  
すると壁の上の方に取り付けられた、随分と年季の入ったスピーカーが  
パッツン、と鳴き声を上げてから、音を垂れ流し始めた。  
『―――――イイイィィィィィィィィンン ギィィィィィィィィィンンン・・・』  
最初に聞こえてきた音は、電動の丸ノコが硬い何かを削る音だった。  
続いて耳に届いたのは。  
『ヤメロッ、ヤメロ〜〜〜〜ッ! 返せっ! 美夏の腕を返せっ! 足を戻せぇっっ!!』  
スピーカーから聞こえる、割れんばかりの叫び。  
ロボットの少女、天枷美夏のものだった。  
「相手がロボットじゃあ、俺達じゃ壊そうと思っても歯が立たない。  
 だから目には目を、歯には歯を」  
隣にいた男が言葉を引き継ぐ。  
「ロボットにはロボットをってわけでさ、成原研究所ってところに依頼して  
 対ロボット用のロボットを開発してもらったのさ」  
そいつの名前は"メカ成原MkU"だと言った。  
MkUといっても、別段ティターンズとエウーゴのカラーリングが2色あったり  
支援用のモビルアーマーと合体することはないが。  
『わははははっ、もう逃げられんぞ小娘!』  
『やめてくれっ! 美夏をこれ以上壊さないでくれぇっ!!』  
『ほれ行くぞ、ギガドリルブレイクゥゥ――――――――ッッッ!!!』  
―――ブツッ  
男がスイッチを押すと、スピーカーから雑音混じりの音が止んだ。  
 
 
「―――――どうして」  
俯き、怒りと悲しみに肩を振るわせながら。  
「どうしてキミたちにそんなことがわかるの!?」  
おそらくは、彼らの世界の流れ云々、のことを言っているのだろう。  
さくらは兼ねてよりの疑問を彼らにぶつけた。  
まあそのように不思議に思うのは当然ではあろうが。  
「なんだ、そのことか」  
男の一人が彼女の質問に答える。  
「何故か、って言われてもなぁ」  
「ああ・・・」  
男達は顔を見合わせる。  
「なんか知らねえけど・・・」  
「解っちまうんだよなぁ」  
男達は口々に、そして互いに話し合う。  
いたって真面目な顔で。  
 
その内容をまとめると、以下のようなものだった。  
ある日突然、初音島の枯れない桜の秘密と  
それが世界へと及ぼす影響についてを知ってしまった。  
勿論それは自分一人ではなく、他にも同じように突然理解してしまった同士がいるという事も  
このまま桜のシステムを放っておくと、とんでもないことになるということも  
なぜだか解ってしまったのだ。  
そんな彼らは互いに連絡を取り合い、世界に元の流れを取り戻すための組織を結成。  
歪みの原因となった者達を断罪するために活動を開始したということだった。  
「―――たぶん、だけどな」  
男の一人が自分の見解を述べる。  
質問したさくらと、他の仲間たち。  
この場にいる全ての者に語りだした。  
「世界ってのはな、俺達と同じなんだと思う」  
人間や他の生物の身体とな、と付け加え。  
「身体ってのは、病気やケガをすると治そうとするよな」  
病原菌などの異物が侵入すれば免疫細胞でこれを排除し  
どこかの部位が傷つけば、周囲の細胞たちが通常よりも早い速度で傷を塞ごうとする。  
「ここにいる俺達は、世界にとっての『薬』なんだと思う」  
身体(世界)へと干渉して、免疫力を高めて外敵を撃退したり  
傷ついた部分が元通りになるのをサポートしたり。  
つまりは桜の樹やさくらたち魔法を使う者がバイ菌であり  
"世界"は願いの力で生み出された歪みを治癒しようとしているのだろうと男は言った。  
「ようはな、世界がお前等を異物と見なしてるってことだよ」  
この世のどこにも彼女たちの居場所は無い、ということなのだ。  
「だけどな、可哀相とは思わないぜ」  
さくらの前髪を掴んで自分の方を向かせ。  
「お前らは50年前からそれだけのことをしてきたんだからな!」  
言って、さくらを三角の木馬から乱暴に引きずり下ろした。  
「―――――きゃっ!?」  
下ろしたというよりは、落としたと言った方が正確かもしれない。  
板張りの床の上に頭から叩き付けられた。  
 
「魔女さくら、これで納得できたかい?」  
「じゃあ今度はテメェが罰を受ける番だ」  
「知ってるぜ。 オマエたち魔女はSEXすると年を取るんだってなw」  
「年相応の外見にしてやるぜ、もちろん俺達全員でなぁ」  
十数人の男達が、打ちつけられた頭の痛みに顔を顰めるさくらの周りを取り囲む。  
「ぁ・・・・・ぁ・・・・ぃ、ぃゃ・・・」  
実齢に似合わぬ幼い顔を引き吊らせながら、男達を見上げる。  
その脳裏を掠めるのは、たった今見せられたばかりの朝倉姉妹の映像。  
さくらの左側で、顔に傷のある男がバットで手をパシパシと叩いていた。  
取り囲む男達のズボンの前は、皆一様に膨らんでいて。  
これから自分が何をされるのか。  
想像力の欠片でも持ち合わせていれば、容易に解ることだった。  
 
つづく  
 
 

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