「・・・・・・え〜と、音姉、由夢? その・・・ナニヲサレテルンデスカ?」
「あっ、もう起きたんだね。おはよう、弟くん」
「おはよう、兄さん。兄さんの寝顔、可愛かったよ♪」
「うんうん。ご馳走様、弟くん。いっぱい二人で堪能しちゃったよ♪」
俺の質問には答えずに嬉しそうに顔を見合わせて微笑む二人。
驚いたなんてものじゃない。目が覚めてみれば、俺の部屋に二人がいて、俺の体に引っ付きながら一緒に寝ていたんだから。
しかもご丁寧にタオルで腕まで縛られている。痛くないようにという配慮からか、別段痛みはない。が、冗談にしてはいささか度が過ぎると思う。
「え・・・とさ、その、言いたいことは色々あるんだけど、とりあえずこのタオル解いてくれないかな?」
と、相変わらず俺の左右に抱きつくようにしてゴロゴロしている二人に駄目もとでお願いしてみる。
尤も、例え腕が拘束されてなかったにしても、起きてからずっと意識がハッキリしない上、体も思うように動かない現状でどうにかなるとは思わないが。
「だ、駄目だよ! だって弟くん動けるようになったら絶対逃げちゃうもの!! そんなの駄目!! 弟くんは、弟くんはずっと私たちと一緒にいるんだからっ!!」
「だってさ。薬使ってるからどうせ動けないとは思うけど、暫く我慢してね、兄さん?」
慌てて飛び起き、ぶんぶん首を振りながら俺の願いを凄い勢いで却下する音姉。
そんな音姉を軽く呆れた目で見ながらも、由夢も俺を解放してくれるつもりはないらしく、諭すような声で俺に呼びかける。
「逃げるって・・・・・・いや、そりゃ逃げるよ。二人ともどうしてこんなことをするんだよ? 俺二人を怒らせるようなことしたか?」
因みに俺自身には全く心当たりがない。
二人を怒らせたことなんて今まで数えるくらいしかないし、俺のことは好いてくれていると思ってたんだが・・・・・・
「もしかしてさ、二人とも俺のこと実は嫌いで、それで仕返しか何かでこんな―――」
「そんなことない!! 弟くんのことが嫌いだなんて・・・・・・そんなこと一度だって思ったことないよ!
私は好きだよっ、好き、好き好き好き好き・・・・・・ずっとずっと昔から、誰よりも大好きだから、弟くんとずっと一緒にいたいからこうするんだよ」
「馬鹿なこと言わないで下さい、兄さん! 私とお姉ちゃんが兄さんのこと嫌うなんてあるわけ無いじゃない。
私たちが兄さんをこうするのは、誰にも兄さんを渡したくないからです」
全く同時に、もの凄い剣幕で否定される。
「え、えと・・・その、ありがとう。いや、俺も二人のことは好きだけど―――」
「「本当に!!!???」
その勢いにたじろぎながらも返した俺の言葉に、これまた同時に二人の表情が歓喜のそれに変わった。
だが・・・そんなに驚くことだろうか? そもそも二人が嫌いだというそぶりなんて見せたことは無いはずだが・・・・・・
「いや、ウソじゃないけど・・・その、俺が好きだってのがこれと一体何の関係が・・・?」
「だって・・・弟くんの一番近くにいたかったから・・・・・・」
「近くって・・・二人とも俺の一番近くにいつもいるだろ?」
「ああ、もう!! だから、私たちが兄さんを好きっていうのはこういうことなの!!」
何度目かの問答の末、困惑する俺に癇癪を起こしたように由夢が叫ぶと、いきなりその顔を近づけ、そのまま唇を重ねた。
「ん・・・ちゅ、んっ・・・・・・どう? これで流石に鈍感な兄さんでもわかったでしょ?」
恥ずかしげに顔を赤く染めながら挑戦的に微笑む由夢。一方俺は何かいおうとするものの、あまりの驚きに金魚みたいにただ口をパクパクさせていた。
「そ、その、要するに、二人は俺のこと家族としてじゃなくて・・・」
「うん。私、朝倉由夢は兄さんのことが兄じゃなくて、桜内義之として大好きなの♪」
ようやく遅まきながら二人の言葉と行動の意味を理解した。
そんな俺を見て由夢が嬉しそうに「好きだよ、兄さん・・・」と呟きもう一度キスしようと顔を近づけようとして―――
「だ、駄目だよ! 由夢ちゃんばっかりはずるいよ!!
大体由夢ちゃん自分で抜け駆けは禁止だからね、何て言っておいて・・・私だって、私だって弟くんのことが好きなんだから〜〜!!」
と、半泣きの音姉に妨害され、俺の唇は今度は音姉に奪われた。
そうしてキスを終えると、俺の体を抱き寄せながらう〜っと抗議する音姉。
そんな音姉を慣れた様子であしらいつつ宥める。
「まあまあお姉ちゃん。時間もそんなにないことだし、喧嘩するよりも先にやることやっちゃわないと?」
「やること?」
「まぁ千載一遇のチャンスですから、とりあえず既成事実だけは」
「あ・・・・・・うん、私も今日は危ない日だから・・・・・・もし、弟くんの赤ちゃん出来ちゃったら・・・嬉しいなぁ♪」
途端に顔を輝かせ、心底嬉しそうに呟く音姉。対照的に物凄い勢いで青ざめる俺。
「お、おいおいちょっと待て、ゆ、由夢、流石にそれは冗談だよな!?」
動かない体で必死にもがきながら、一縷の望みをかけて問いかけた俺に向かって、由夢は年相応無邪気な笑顔を浮かべながら、
「じゃ、兄さん。子供の名前、また今度決めましょうね♪」
と、俺のズボンに手をかけながら答えた。
とりあえず、拘束が解かれた後も逃れられない監禁もあるということだけは学べた・・・が、それを活かせる日はどうやら俺には来なさそうだった。