「ただいま、弟くん・・・」
コンクリートをこつこつとブーツが叩く音とともに、薄暗い倉庫に入ってきた音姉が俺にそう挨拶し、明かりを灯す。
やってきた音姉がぶら下げているのはおそらく食べ物と、幾つかの雑貨だろう。何しろこんなところにはキッチンも風呂も無いのだから当然だろう。
俺はと言うと、倉庫の中央に置かれているベッドに左腕を括りつけられて横たわっている。
もうずっと、一週間以上にわたって俺はこうしてこの倉庫に監禁されていた。
だが、例えベッドに拘束されていなくとも、どのみち俺はここから脱出することなど出来ないだろう。
なぜなら、今はびっしり包帯が巻かれている俺の両足の足首から下は、もう自分で動かすことさえ出来ないのだから。
ベッドに横たわる俺の隣に買ってきた荷物を置くと、音姉はそのまま自分も横になり、ギュッと俺を抱きしめた。
「由夢ちゃんは、少し用事があるから遅くなるんだって。帰ってきたら、3人で一緒に食事にしようね・・・・・・」
そうして俺に以前と同じように微笑みかける音姉の瞳は、暗く濁っていた。
そのまま暫く俺を抱きしめていた音姉だったが、やがて先程持っていた袋から新しい包帯を取り出すと、既に鈍い赤色に変色している包帯で覆われていた俺の足に手を伸ばした。
包帯に触れた瞬間、一瞬躊躇するように腕を引っ込めたが、その後は辛そうな表情をしながらも俺の右足の包帯をゆっくり、丁寧に丁寧に解いていく。
「ごめんね、弟くん。まだ少し痛いかもしれないけど・・・ほんの少しだけ我慢してね・・・・・・」
包帯が解かれ、完全に足首から下が露になる。
既に出欠はないようだったが、それでも俺の右足の腱の部分にはまだ新しい傷がいくつも見て取れた。
一週間ほど前、俺は音姉と由夢にこの廃倉庫に連れて来られた。
彼女らは薬で意識が朦朧としていた俺を設置されたベッドに寝かしつけると、四肢を完全に拘束し、俺の両足の腱を包丁で切断した。
麻酔のような物は使われていたのだろうが、それでもとても耐えうるものではなく、ナイフが繊維をぶちぶち切断する感触と、想像を絶する痛みに俺は絶叫した。
俺の叫び声が倉庫内に反響する中、音姉も由夢も、二人ともボロボロ涙を溢し「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・」と何度も何度も謝りながら、俺の両足に刃を突き刺し続ける。
そうして二人は俺があまりの痛みに耐えかね、失禁するとともに意識を失うまで、ひたすら謝り、同時に俺が二度と立ち上がれぬようにと執拗に切りつけた。
「ごめんね、痛かったよね・・・苦しかったよね・・・お姉ちゃんたちのこと、恨んでるよね・・・・・・」
俺の両足の包帯を取り替えた音姉が、ベッドに横たわる俺の胸に顔を押し付け、強く抱きしめる。
俺からは表情は見えなかったが、音姉の声と細い肩は震えていた。
「憎かったら憎んでくれてもいい、許せないなら仕返しに何をされたって構わない。弟くんになら殴られても、どれだけ痛めつけられても、同じように切りつけられてもいい。
私のことは単なる性欲処理の都合のいい女って思ってくれてもいい。私の体だったらいくらでも好きにさせてあげる。滅茶苦茶に犯されても、全部受け入れられるから・・・・・・
だから、何でもするから、お願いだから私たちを捨てないで・・・・・・他の女なんて見ないで、他の女の事なんて考えないで、他の女のところになんて行かないで・・・・・・
ずっとずっと、私の傍だけにずっといてよ・・・・・・」
先程よりも一層強く抱きしめられ、音姉と俺の体がますます密着する。
直ぐ間近に感じられる女の体と匂い、そして音姉の太股が俺のペニスにぐいぐい押し付けられる刺激に、意図せずとも俺の体が男としての反応を起こす。
当然抱きついていた音姉がそれに気付かないはずはなく、一瞬驚いた表情を浮かべると、直ぐにそれを嬉しそうな微笑に変え、
「うん・・・いいよ、弟くん。弟くんの気の済むまでいくらでもしてあげる。弟くんが求めてくれるなら、朝でも昼でも夜でも、一日中でも・・・ずっと、ずっと・・・・・・」
そう言うと、抱きついていた体を起こし、制服のリボンをそっと解いて上着を脱ぎ捨てる。
薄明かりだけが照らす倉庫の中、白い肌が露になった。
「はぁ・・・ん、あぁ・・・と、くん、私、の・・・気持ち、いい?」
音姉の体が俺の上で沈んでは跳ね、沈んでは跳ねを繰り返し、粗末なベッドがぎしぎし悲鳴を上げる。
結合部からぐちゃぐちゃと響く水音が、俺のペニスに向って恍惚の表情で腰を打ち付ける姉の興奮を物語っていた。
一方俺はまるでドラマを見ているような気分で現実味が全くなかった。いっその事、これが全部悪い夢だと言われた方が信じられた。
だが俺の体は意識とは別に音姉が与えてくれる快感をしっかりと受けとめていた。
音姉の膣の温かさやキツイ締め付け、突き刺さる度に肉襞がカリや胴の部分を嘗め回される刺激に快感を高められていく。
「あぁ・・・ん、弟くんが、あはっ、私の中で、びくびく震えて・・・はぁん」
俺の快感を見て取った音姉が、これまで異常に早く、大きく腰を動かして俺の精液を搾り取ろうとする。
俺の手をとり、控えめな胸に導き、頂点で堅くしこる乳首をぐにぐに押しつぶさせる。
その度に音姉の体は電流が走ったように震え、膣内も激しく収縮して俺の物を締め付け、射精感を高めていく。
そんな光景を眺めながら、俺の心にあったのは音姉への恨みでも、憎しみでもなく、監禁当初から広がり続ける二人への申し訳なさだった。
理由はどうあれ、最も近くにいながら俺は二人の想いに気付いてやれず、ここまで思いつめてしまうまで何も行動しなかったのだから。
言葉にされなかったから・・・では言い訳にもならない。一番多く二人の愛情を貰いながら、俺が二人を苦しめ続けていたのは事実なのだから。
俺のために、俺なんかのために・・・二人が心を壊してしまう必要なんて全く無かったっていうのに・・・・・・
「・・・ごめんな、音姉」
長い長い後悔の末吐き出した俺の言葉は、しかし、冷たいコンクリートの壁に反響した後誰に届くこともなく消えていった。