窓から夕日が差し込み、その全てが朱く染められている校舎。  
 その廊下に朝倉音姫は信じられないという驚愕の表情で立ち尽くしていた。よほど驚いたのか、い  
つも穏やかな笑みを形どっているその瞳は大きく見開かれている  
 常に冷静沈着で、とても少女とは思えないほどの落ち着きを見せる彼女をそうさせたのは、その手  
に握られたちっぽけな携帯電話だった。  
 彼女の耳に押し当てた携帯からは、ツーツーとその電話が繋がっていないことを表す無機質な音が  
流れている。  
 彼女は気を静めるかのように一度大きく息を吐き、祈るような瞳で握り締めた携帯を見詰めると、  
その細い指先で再度ボタンを押した。  
 だが暫く呼び出し音が続いた後に、その電話が吐き出したのは音姫の心待ちにしていた人物の声で  
はない。  
 
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 
 ちっ、と苛立たしげな、彼女らしくもない舌打ちとともに、些か乱暴に電話を切り、再び電話をか  
けなおす。  
 しかし無情にも、耳に届いたのは先程と一言一句同じ女性の事務的な応答だった。  
 耳から電話を話し、同じ番号にかけなおし、そして苛立たしげに電話を切る。  
 その一連の動作が幾度も繰り返された後、ようやく音姫は諦めたように深く溜息を吐き、鞄に電話  
をしまう。  
 暫く思案するようにその瞳を窓の外へと向けていた音姫だったが、ふいにその視線を廊下に長く伸  
びた自身の影に―――その先に立ち、様子を伺うような眼で見詰める由夢へと移した。  
 
「お、お姉ちゃん・・・・・・ど、どうだった・・・・・・?」  
「繋がらなかった」  
 緊張した様子で訊ねる由夢に音姫は簡潔に答えた。  
 その声に由夢がたじろいだように数歩下がる。  
 他の者が聞けば彼女の声は普段と何ら変わりのないものに聞こえたかもしれない。  
 だが、長年姉妹として―――ある意味では義之よりも密接で近しい人間として―――過ごしてきた  
中で育った感覚は、由夢に姉の言葉に含まれる怒りを正確に捉えていた。  
「多分携帯の電池が切れてるんだよ。あはは・・・・・・弟くんってば、まめに充電してなさそうだしね」  
 由夢に―――というよりはまるで自身に言い聞かせるように呟く。  
 だが笑みの形に整えられたその表情は、誰の目から見てもはっきりと強張っていた。  
 
 この二人の間ではある約束事が交わされていた。それは『登下校の際は原則として三人で一緒に歩  
く』というものだった。その約束は姉妹の間で抜け駆けを禁止する為のルールであり、同時に余計な  
泥棒猫を寄せ付けないためのものでもあった。  
 今日は音姫が生徒会の集まりがあったため、由夢が義之と一緒に帰る・・・・・・筈だった。  
 だが、会議が終わり、生徒会室から出てきた音姫の元にその由夢が駆け寄ってきたかと思うと、息  
を切らせながら謝ってきたのだ。  
 早口にまくし立てる由夢の話は聞き取りにくかったが、要約すると、『掃除を押し付けられ困って  
いた美夏を助けてやり、そこからも色々とあって、気付いたときにはこんな時間になっていた』とい  
うものだった。  
 最初にそれを聞いたとき、音姫はどうしてそんなに由夢が焦っているのかがわからなかった。  
 また、人助けをしていて義之と帰れなかったというのだから、妹に怒る道理もなかった。  
 が、それも次の「でも、天枷さんが・・・その・・・・・・桜内が白河ななかと歩いているのが見えたって・・・  
それも、て、手を繋いで・・・・・・」という科白を聞くまでだった。  
「白河・・・・・・さん? あの女が・・・・・弟くんと一緒に・・・・・・?」  
 
 その瞬間に音姫の思考はガチリと音を立てて切り替わった。  
 すっと目を細めると、即座に鞄から携帯電話を取り出し、迷うことなく弟の番号にかける。  
 既に帰宅しているのならよし。まだ下校途中なら、適当な用事を作って一緒に(当然ななかは外し  
て)買い物に行くのもいい。  
 そして、万が一白河ななかとまだ二人でいるにしても、とにかくその状況や場所を詳しく知る必要  
があった。  
 ―――勿論、全力で邪魔をしにかかるためであるが。  
 
 こと白河ななかに対して、音姫は誰よりも彼女の危険性を認識していた。  
 初めて彼女が弟と一緒にいるのを目にしたときから、そしてそれ以降二人が一緒にいるのを見る度  
に、その認識は更に深まっていった。  
 最初は自分や由夢だけが気付くぐらいだった熱っぽい―――彼女に言わせて見れば娼婦のように  
卑しい―――視線は、その後日を追うごとにますます強く、露骨になっていき、スキンシップの仕方  
も過剰になっていった。  
 その都度音姫や由夢は何気ない風を装って割って入るのだが、義之の目の前でなければ張り倒して  
やろうと思ったことは一度や二度ではなかった。  
 そんな女と愛する弟がたとえ一秒でも二人きりでおり、そしてそれを自分たちが許してしまったな  
ど、考えただけでも気が狂いそうだった。  
 
「由夢ちゃん・・・・・・」  
 静かに音姫が呟く。そして無表情のまま、もう殆ど沈みかけた夕陽に照らされた廊下を、こつこつ  
と足音を響かせて由夢に近づいていく。  
 ひっ、と由夢の脅えたような悲鳴が小さく漏れる。  
 音姫は由夢の正面まで行くと、立ち止まり、小さく溜息を吐いた。  
 由夢は目の前で自分を見据える姉の顔を恐る恐るといった様子で見上げ、すっと姉の右手が上げら  
れるのを見て硬く身を強張らせた。  
 そしてギュッと目を瞑り、頬に走る鋭い痛みを覚悟した時だった。  
 
「・・・・・・え?」  
 由夢の耳に聞こえたのは、肉を打つ音ではなく、自身の漏らした不思議そうな声であった。  
「お、お姉・・・ちゃん?」  
「どうしたの、由夢ちゃん?」  
 頬を打たれると思っていた由夢だったが、まさかその振り上げられた手で頭を撫でられるとは予想  
もできず、困惑した顔付きで音姫を見詰めている。  
 一方、戸惑いを隠せない由夢に対して音姫はいつもの表情で自然に答えた。  
「ただ電話が繋がらなかっただけだよ。家に帰ったらきっと弟くんも待ってるから、大丈夫よ」  
 音姫は温かな掌で妹の頭をよしよしと撫で、由夢を脅えさせないように細心の注意を払ってそう言  
い聞かせる。  
 勿論、(この事態を招いた)由夢の過失を全く気にしていないわけではないが、音姫にとっては由  
夢もまた、義之と同じくらいに大切な妹なのだ。それ故、怒りに任せて手を上げるような真似はした  
くなかった。  
 
 
 さて、ここで一つだけ音姫は由夢に嘘を吐いた。  
 正確に言うと、電話が繋がらなかっただけ、ではない。『繋がったけど途中で切れた』のだ。  
 後者の場合は二通りのパターンが考えられる。  
 音姫の言うように、呼び出しの途中で携帯の電源が切れてしまったパターン。こちらは連絡が取れ  
ないにしても、それほど深刻ではない。  
 音姫が危惧しているのはもう一つの、何者かが電話を切り、その後電源を落としたというパターン  
だった。この場合は電話をしたくない状況に今現在いる、そして更に、高い確率で白河ななかとそう  
した状況下にいると考えられる。  
 最悪の状況が一瞬浮かび、音姫は頭を何度も振り、無理矢理思考を止めた。  
 連絡手段がない以上、この場で考えることは無意味であり、それならば家に戻って確かめてみる方  
が先決だった。  
(信じてるから・・・・・・大丈夫よね? だって、弟くんと私たちは・・・・・・愛し合ってるもの、ね?)  
 由夢を落ち着かせるため、その頭を撫で続けながら、音姫は何度も、何度もそう言い聞かせていた。  
 
 
                     ◆◆  
 
 
「はぁ、あん・・・・・・はっ、く、ぅうん・・・・・・いい、よぅ。義之くん、きもちい、はああん!!」  
「く、あっ、な、ななか。そんなに締められたら、くぅっ、き、気持ちよすぎてまた・・・・・・!」  
「あっ、あぁ・・・・・・ほ、本当!? 私、私きもちいい? 義之くんのこと、気持ちよくして、んんっ、  
はぁ、してあげられてる?」  
 義之の上に跨り、少しでも感じさせられるようにと懸命に腰を振っていたななかは、義之の快楽に  
歪む表情を見、歓喜の声を上げた。  
 薄暗い部屋にはむせ返るような強い男女の匂いが立ち込め、その中でぼんやりと、微かな月明かり  
がななかの白い裸体を浮かび上がらせている。  
 大きすぎも小さすぎもしない二つの乳房が、彼女の動きに合わせて義之を誘惑するようにふるふる  
揺れる。誘われるままに義之が手を伸ばし、形の良い胸を揉みしだき、先端を指先で摘み上げれば、  
その度にななかの甲高い嬌声が部屋に何度も響いた。  
 義之のペニスが突き刺さった膣口からは処女であった証の鮮血、彼女自身の愛液、膣内に収まりき  
らずに流れ出た精液とが混じりあい、たらたらと零れている。  
「はぁん・・・・・・ねぇ、義之くん。聞こえる?こんなに、エッチな音、たくさんしてる。ンン・・・・・・  
はずかし、すぎて、変になっちゃいそうだよぅ・・・・・・」  
 興奮に顔を真っ赤に染め上げながらも、それでもななかの瞳は熱っぽく潤んでいた。しかも、彼女  
が言ったように、部屋中にぐちょぐちょと響き渡っている情事の音さえも快感に変えているかのよう  
に、ますます激しく腰を振り義之を責め立てる。  
 
 数時間前まで処女であったにもかかわらず、その動きに躊躇いは見られない。それどころか、はじ  
めは単調でぎこちなかったそれも、今では腰に力を入れて堪えなければ、すぐさま暴発してしまいそ  
うなほどになっていた。  
 勿論彼女に痛みがなかったわけではない。  
 事実、義之に乙女の証を突き破られたときは想像以上の苦痛に身を強張らせ、思わず漏れそうにな  
る声を必死で堪えたほどである。  
 その激痛に耐える様子は、初めて味わう快感に夢中になっていた義之に、思わず腰を引かせようと  
するほどのものだった。  
 そんな義之に対して、ななかは額にじっとりと汗を浮かべながらも微笑み、続けるように促した。  
 義之くんになら何をされても大丈夫だから、私に構わないで続けて欲しいと。  
 そしてその言葉通り、彼女は少しすると自分から腰を動かしだしていたのだった。  
 痛みが消えたわけではないが、それ以上に、自分が義之に抱かれているという幸福感が麻酔のよう  
に感覚を麻痺させ、更に与えられる快感をより一層強めていたのだ。  
 
「んっ、あんっ、ね、ねぇ、義之くん、私のこと好き?」  
 それまで動かしていた腰を止め、ふいにななかが義之に訊ねた。先程までとは違い、快楽の色を浮  
かべながらもその眼は真剣だ。  
 その問いは半ば以上確認のようなものだったが、それでも改めて、義之の口からはっきりとした言  
葉で言って欲しかった。  
 いきなりの質問に驚いた様子の義之だったが、直ぐに微笑み、確信と期待そして僅かな不安を滲ま  
せる瞳を真っ直ぐに見詰めながら答えた。  
「ああ、好きだよ。当たり前じゃないか」  
 自身の嘘偽りのない、正直な気持ちを伝える。それを聞いたななかは幸せそうにその表情を緩め、  
彼の『好き』という言葉を聞いた瞬間にぞくりと体に走った快感に身を震わせた。  
「それって―――よりも?」  
「・・・・・・え、な、何?」  
「それは・・・・・・音姫先輩や、由夢ちゃんよりも?」  
 ほんの少しの沈黙。  
 けれどななかの幸福感に蕩けた瞳が翳る前に、義之は口を開く。  
「・・・・・・俺の恋人は、ななか一人だよ。音姉や由夢も確かに好きだ。だけど―――――俺の一番は、  
ななかだけだよ」  
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」  
 義之の言葉を聞いてから数瞬の間、微動だにせず呆けたような眼で義之を見詰めているななか。  
 だが、先程からふるふる震えている唇からしゃくりあげるような声が漏れ出したかと思うと、瞬く  
間にその瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちていく。  
「・・・ずっ、よ、義之くんっ!!」  
「ぐっ・・・・・・くわぁっっ!!」  
 彼女のその様子に義之が戸惑う間もなく、いきなりななかが義之に抱きついた。  
 急に抱きついたために力が入ったのか、ななかの膣内が激しく波打ち、何の心構えもできていなか  
った義之のペニスをギュッと締め上げる。  
 その刺激に思わず情けない悲鳴を上げる義之だったが、嬉しさのあまりに我を忘れたななかは一向  
に構わず、更に力を込めて抱きついていく。  
 
「私も、私も義之くんが大好きっ! 世界中で一番好き・・・・・・好き、好き好き好き好き好き好き好き  
好き好き好き好きなの。他の誰よりも愛してる!!  
義之くんのためなら何でもしてあげる。義之くんが喜ぶことなら何でも。あの女が義之くんにやって  
あげないこともいっぱいしてあげるよ? エッチだって、これから二人でいっぱい、何十回でも、何  
百回でもしようよ!  
だって、私義之くんの恋人だもん。義之くんのこと誰よりも愛してるんだから・・・・・・あの女なんかよ  
りもずっと、ずうっと義之くんのこと愛してるよ!?  
ねぇ、義之くんもそうだよね? あんな人たちなんかより、私のほうがずっと好きなんだよね!?  
だって、私が好きだって、私が一番だって、誰よりも愛してるって言ってくれたもん!  
ああっ、嬉しいなぁ・・・・・・! 義之くん、私死んじゃってもいいくらい幸せだよ。だって、ずっと願  
ってた、義之くんだけの特別になれたんだから!  
私ずっと不安だったの。告白したときからずっと・・・・・・ううん、義之くんと出会ったときからずっと。  
義之くんの回りには義之くんのことを狙ってる娘がいっぱいで、しかも義之くんも私の彼氏さんなの  
にその娘たちとすっごく仲よくしてるんだもん。  
その内に誰かが義之くんのことを盗っちゃうんじゃないかって、義之くんが他の女にその笑顔を見せ  
る度に考えて、胸の奥が、黒いもやもやした感情でいっぱいになるんだよ?  
あはっ、あはははは・・・・・・でもそんなの余計な心配だったんだよね!? だって義之くんは私を恋人  
に選んでくれたし、義之くんは私のことを一番に考えてくれてる・・・・・・!!  
あの女じゃない。妹さんでも、小恋でもない―――――ななかが・・・ななかだけが、義之くんの一番  
大切な人なんだからぁ!!!!」  
 
 これまで堪えてきた不安、周囲の恋敵への嫉妬心、義之にとっての一番になれたという幸福感、そ  
して度を越えた・・・・・・ある意味狂気とも呼べるほどの深い愛情が一気に溢れ出す。  
 それらの内容は義之を驚愕させるには十分すぎるものだったが、しかし、今の義之にはその言葉を  
聞いている余裕など全く無かった。  
 感極まった彼女が義之に口付け、割り入った舌が強引に義之の舌を絡めとり、わざとはしたない音  
をたて義之の唾液を舐め取る。更に膣襞が意思を持っているかのように、ざわざわと義之のモノをし  
ごきあげていく。  
 まるで彼女の精神が肉体にも作用しているかのように、先程とは比べものにならないほどにペニス  
を締め上げ、うねうねと蠢く肉壺が亀頭を擦り、カリに絡みつく。そうして叩きつけられた強すぎる  
快感が、一気に義之に襲い掛かる。  
 何とか堪えきろうとする彼の抵抗を嘲笑うかのように、温かい膣襞の与える刺激は急速に彼の射精  
感をまたも高めていった。  
 
「ちょっ・・・・・・!! な、ななかっ、そんなにされたら、直ぐに、あっ、で、出る・・・・・・!!」  
「ちゅ、くちゃ、んむ・・・しゆきくん・・・・・・いいよ、いっぱい出して。私の中にもっと。義之くんの  
精液、私にちょうだい!」  
 堪えきれず、思わず押し返そうとする義之の手を掴み、そして彼の体に抱きついたままペニスを最  
奥まで突き入れるようにぐいっと腰を押し付ける。  
「く・・・・・・こんな、も、もうで、う、あああああああああ!!!」  
「んっ!! あっ・・・・・・んはぁぁぁっ。よ、しゆきくんの、また私の中にたくさん出てるよ。お腹の  
中に、温かいのがいっぱい・・・・・・」  
 彼女の膣でびくびくペニスが震えたかと思うと、次の瞬間数度目とは思えないほどの大量の精液を  
吐き出した。びちゃびちゃと新鮮な精液が子宮の奥底に向って再び注ぎ込まれ、その熱さにななかが  
身悶えする。  
 義之に抱きついたままななかが身を震わせる度、その膣内が少しでも多く彼の子種を搾り取ろうと  
蠢き、義之に掠れた悲鳴を上げさせる。  
「っ、はぁ・・・・・・はぁっ、ななか・・・・・・」  
 あまりの快感に言葉もなく、大きく深呼吸を繰り返し、絶頂後の余韻に浸る義之。いくら十代の少  
年とはいえ、初体験で連続射精など体験しては、体力を消耗するのも無理はない。  
 
 やがて義之は緩慢な動作で彼女の腰に手を伸ばし、しっかりくわえ込まれたペニスを引き抜いてい  
く。そして、それが完全に抜けようとした時だった。  
「好き・・・・・義之くん好きぃ・・・・・・ねぇ、もっと、もっと私で気持ちよくなって。義之くんの熱いの、  
もっと私の中に・・・・・・」  
「え・・・・・・な、なにをあっ、くわあああああああ!!」  
 義之の疑問の声は途中で自身の悲鳴に掻き消された。  
 不意にななかが熱っぽい、艶やかな口調でそう呟いたかと思うと、ギリギリまで上げられていた腰  
を一気に沈めたのだった。彼女自身の大量の愛液と、溢れるほどに注がれた精液で十分過ぎるほどの  
潤いをもっていた彼女の秘唇は、ずるりと何の抵抗もなく彼のペニスを再び飲み込んだ。  
 
 射精直後の敏感なペニスにいきなり襲い掛かった凄まじい快感に義之は絶叫する。そんな彼の様子  
を見て、ななかは目を細めて喜んだ。  
「あはっ、嬉しい・・・・・・私も気持ちいい・・・んんっ、はぁん、よしゆきくぅん・・・・・・」  
「あくっ、っああ・・・・・・ちょ、今は待って、まだ俺―――ううううううっ!!」  
「んっ、あっ・・・はぁ・・・よしゆき、くんっ・・・・・・あい、愛してるよ・・・ふうんっ!! あ、よ、義  
之くんの、また大きく・・・・・・」  
 ななかを押し留めようとするものの、疲労と痛みさえ感じられるペニスからの快感によって満足に  
力の入らない義之。  
 
 一方ななかはあまりの興奮―――自分が義之と肉体的にも精神的にも結ばれ、更に彼の口からはっ  
きりと自分が特別な存在だと聞かされた喜び、そして他の女への優越感―――によって完全に我を忘  
れており、義之の言葉も耳に入った様子はない。  
 ただうわ言のように何度も義之への想いを口にしながら、一心不乱に腰をくねらせる。  
 義之が許容量を超えようとする快感に襲われているのに対し、ななかはその理性が完全に粉砕され  
るほどの悦楽に心を奪われていた。  
 たっぷりと濡れそぼり、解れた襞が再び突き入れられたペニスに無数に絡みついた。再び感じられ  
た膣内の温かさに、萎えかけたペニスは強制的に勃たされていく。  
 ななかは自身の中で義之のモノがその硬度を取り戻していく様子を嬉しそうに口にすると、ますま  
すその笑みを深いものに変えていく。  
「はぁ・・・・・・あんっ、んんっ、やっ、義之くんの、す、すごく大きい・・・・・・」  
 自分の体で愛する男を感じさせられる。女なら誰でも本能的に持つその悦びに促され、ななかの動  
きがより一層激しくなる。  
 
「ううっ、なな、か・・・も、もうお願いだからやめて・・・・・・」  
 とても脳の処理速度が追いつかないほどの激しい刺激に涙さえ浮かべ、まるで少女のように義之が  
懇願する。  
 満足に動かない体を動かし、逃げようとするものの、その度に咥えた肉棒を逃がすまいと温かな肉  
襞が蠢き、掠れた悲鳴とともにその動きが制される。  
 彼女の膣内がギュッと収縮し、ビクビクと震えるペニスをきつく締め付けて、そうかと思えば柔ら  
かく包み込むように彼のモノに絡みつき、亀頭を嘗め回すように襞を蠕動させて歓迎する。  
「愛してる・・・・・・愛してるよっ、義之くん・・・・・・だれ、よりも、くふぅ・・・ななかはよしゆきくんの  
ことあいしてるの!!」  
 今までに学んだ彼の弱点や感じる箇所、人に聞いたり本で読んだりした知識。それら全てを総動員  
してななかは彼を悦ばせようと、そして精液を注ぎ込んでもらおうと責め立てていった。  
 
 
 ―――結局義之はその狂ったように叩きつけられる快楽に成す術もなく、ななかの膣内に幾度とな  
く射精させられ、その後意識を失うようにして眠りについた。  
 
 
 
                      ◆◆  
 
 
 真っ暗な室内。  
 すうすうと規則正しい寝息が響く中、一つの影が一心不乱に携帯電話を操作している。  
 時折室内に携帯の僅かな光が灯り、机にのせられたまますっかり冷めてしまった料理を、そして床  
で上着をかけられたまま眠っている少女の姿を照らし出す。  
 一方、ただ決まったボタンを押し、決まった音声を聞く。この動作だけをもうずっと、ただ機械的  
にその影は繰り返し続けていた。  
 そうしてまた、先程から数えて何十回目かの無機質な音声が電話から流れ出した。  
 
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 静寂。暫く後、再び灯りが室内を照らす。  
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 静寂。暫く後、再び灯りが室内を照らす。  
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 静寂。暫く後、再び灯りが室内を照らす。  
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 静寂。暫く後、再び灯りが室内を照らす。  
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 静寂。暫く後、再び灯りが室内を照らす。  
「おかけになった電話は、ただ今電波の届かないところにあるか、または電源が入っておりません」  
 静寂。暫く後、再び灯りが室内を照らす。  
「おかけになった電話は、ただ今電――――――」  
 破砕音。灯りはもう室内に灯ることはなかった。  
 
 初めて小さな変化がおきた。  
 唐突に人影の腕が一度大きく振られると、その刹那、壁に何かがぶつかる音と共に、バキリと嫌な  
音が響き渡ったのだった。  
 ただ、一度だけそれまでの静寂を吹き飛ばすように立てられた騒音だったが、それが直ぐ傍で眠る  
少女の安眠を妨げることはなく、それからも穏やかな寝息は続いていた。  
 
「遅いな、弟くん。帰ったら・・・・・・少し叱らないとね・・・・・・・・・・・・」  
 どれ程時間が経過したのか。ふいに思い出したかのように、ぼそりと―――まるで、先程まで流れ  
ていた女の声のように―――無感情で、乾いた声が部屋に浮かび・・・そのまま消えた。  
 そしてそれ以上その人影は動くことも語ることもなく、ただじっと自らの膝に顔を埋めていた。  
 
 

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