心臓の鼓動の音がやけにうるさいです。  
ですけど、簡単に抑えられる類のものではないので我慢します。  
そう、これが私の人生の最初で最後の告白。  
「私は、アナタを、兄としてではなく一人の男性として愛しています。どうか、…どうか私と付き合って下さい。」  
ちゃんと言えただろうか?恥ずかしさに耐えきられなくなって思わず下を向いてしまう。兄さんは今、どんな表情をしているだろうか?呆れていないだろうか?困惑していないだろうか?それとも、私と同じように顔を赤くしているのだろうか?  
一瞬とも永遠ともつかない時間。おそらく一分とも経っていないのだろう。しかし、私には今の一時が永遠とも感じられた。  
「……すまない、音夢。俺はお前の気持ちに応えることはできない」  
「えっ……?」  
顔面の温度が下がるのが、明らかにわかった。  
今、兄さんは何て言ったんだろうか?  
「兄さん……?」  
今の言葉を否定して欲しくて思わずついた言葉。  
「……ゴメン、俺はやっぱりお前のことを妹としてしか見ることができない。」  
否定された?今、兄さんに否定されたの?否定されたということはこれから先の関係を拒絶されたということと同義だ。  
 
私以外の女が兄さんの隣にいて、私以外の女と兄さんが結婚して、私以外の女と兄さんが家庭を持って、私以外の……………  
そんなの嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ  
そんなこと絶対にあってはならない。兄さんのいない生活なんて考えられない。兄さんがいなければ何の意味もない。  
兄さんは携帯電話を取り出すと気まずそうに  
「俺、今日は杉並の家にでも泊まらせてもらうから」  
ニイサンガコノイエカラデテイク?私は自分の顔から血の気が引くのを聴き、頭の中が真っ白になった。  
 
気がつくと何故か床に倒れている兄さんと亀裂の入った兄さんの携帯電話。  
私は倒れている兄さんを助け起こそうとして、兄さんに近づくと亀裂の入った携帯電話のディスプレイが目に入った。アドレス帳にある数多の女の名前。その瞬間、私の脳裏に名案が浮かんだ。  
兄さんに、私以外の女の子との接触を断たせればいいんだ。  
 
選択問題みたいにいくつかの候補があれば兄さんの気持ちがどこに向くのか解らないけれど、他の女の子との関係を深められないような状況に追い込めば兄さんは私を唯一の候補として選んでくれるはず。  
誰だって選択肢が一つしかなければそれを選ぶしかないのだから。だから潰そう、私以外の選択肢を。  
工藤君は男の子だけど、兄さんを見る目が怪しい。だから、男も女も関係ない。私以外の選択肢を全て潰さなければならない。だから、私以外に兄さんに接触させる必要なんてない。  
さくらも美春も眞子も萌先輩もことりも杉並君も工藤君も皆全部、兄さんと私の世界には入らない。兄さんと私だけの世界。なんて素敵な世界なんだろう。  
一番厄介なさくらはアメリカにいる。今なら、兄さんの部屋に誰も入れない。  
だから兄さん、早く私を受け入れて下さいね。  
 

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