3月が終わったばかりの、まだ寒い日の放課後。  
私―朝倉由夢は夢を見ていた。  
その夢の中では、私の隣には最愛の人―桜井義之がいる。  
 
けれど幸せな夢はすぐに覚めてしまう。  
誰も居ない教室で目を覚ました私はどうしようもない現実に打ちのめされる。  
どんなに願った所で兄さんはもう居ない、この世界から煙のように消えてしまった。  
折角長い間心に秘めていた思いを現実にしたのに、もう夢でしかあえないなんて……。  
 
……夢?  
そうだ……私が見る夢は……。  
ハッとして窓の外を見ると私がよく兄さんを待っていた場所、学園の門柱に懐かしい人影があった。  
 
「――――――っ」  
私は何かを言う前に、何かを考える前に走り出していた。  
(兄さんが……帰ってきた)  
自然と涙が溢れてきた、視界がぼんやりと霞が掛かった様になっても私の足は止まらなかった。  
 
夕焼けの朱に染められた風見学園の校門、そこへ息を切らせた少女が走ってきた。  
しかしそこには少女以外誰も居ない、あたりを見回しても朱色に染められた町並みが広がるだけ。  
 
「うそ……どうして?」  
私が見る夢は現実になる、  
私は夢で兄さんと確かに会っていたのに……。  
「そんな……」  
先程までの歓喜の涙は絶望に変わり、ガックリと膝をついた少女の嗚咽が辺りに響いた。  
 
その時何処からとも無く声が聞こえた様な気がした。  
「エイプリルフール!!」  
 

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