夢を見ていた。  
もう何度も繰り返し見ている夢の中、私はいつもあの魔法の桜の前に立っていた。  
後ほんの数センチ腕を突き出せば桜の幹に指が触れる。そうすれば、魔法は解けて全てが元に戻る。  
だけど、私の腕は微動だにしない。  
魔法が解けた後に起こることも、全部私は知っていたから。  
この島の人全ての人と、この世で一番大切な人。  
どちらか一方しか救えなくて、それが私の行動一つで決まってしまうなんて。  
恐くて、恐くて、体中がガタガタ震えて・・・その場から逃げ出して何も聞かなかったことにしたかった。  
それでも、私は凍りついた腕を無理矢理突き出して―――  
次の瞬間、まるで最初からそんなものはなかったかのように、あっさり桜は枯れた。  
「―――だって、私は正義の魔法使いだから」  
何度も何度も、まるでそう言えば弟くんに許されるかのように、繰り返していた。  
 
 
目の前が一瞬暗くなったかと思うと、場面が変わり、私は弟くんと向き合っていた。  
桜を枯らした翌日だった。  
私は弟くんに自分が桜を枯らしたこと、弟くんの秘密、そしてこれから起きることを話していた。  
自分のしたことに対する罪悪感を、どんな形でもいいから少しでも軽くしたかったからかもしれない。  
全部話し終えた後、私は弟くんに嫌われる―――その時までは考えたくも無かったようなことまで覚悟した。  
だけど、弟くんははっきり「諦めない」と、由夢ちゃんと約束したから最後まで頑張ると、そして、  
「音姉に辛い思いをさせてごめん」  
そう言ってくれた。  
自分は巻き込まれただけなのに、勝手に自分の未来を私に決められたのに、それでも弟くんがしたのは私への気遣いだった。  
いっそのこと罵詈雑言を浴びせかけられた方がマシだった。  
「お前のせいだ」と、「絶対に許さない」と、そう言われればどれほど楽だっただろうか。  
あの時の私は、あのまま弟くんに殺されても構わないとまで思っていたのだから。  
折角自分自身の心を凍らせて、決して口にはしなかった想いを見ないようにしていたのに、  
最後の最後になって自分がどれほど弟くんのことが好きなのかがわかった。  
本当に馬鹿だと思う。  
私は好きな人にその好意を伝える資格さえなくなってしまってから、その人を失う辛さを本当の意味で理解したのだから。  
・・・私はただ、泣き崩れることしかできなかった。  
 
 
再び場面が変わる。  
次の風景は一面の桜の花びらで埋め尽くされていた。  
その中心で弟くんと由夢ちゃんが抱き合って喜んで、私は遠くからそれを眺めている。  
辺りの風景がどれだけ変わっても・・・  
桜が散って、季節が夏になり秋になり冬になっても、私はそこから動くことは出来ない。  
弟くんが最初に帰ってきてくれた日は本当に嬉しくて、もしも神様がいるのなら心からの感謝を捧げたかった。  
―――それが、私に対する罰であることに気付くのにそう時間は必要なかった。  
自分の一番好きな人が恋人として他の誰かと愛を交し合うのを、一番近くで見続けなければならないのだから。  
私だって、弟くんのことは一日たりとも忘れたことはなかった。  
私だって、弟くんのことが世界中で誰よりも、一番大切に思っている。  
あの晩、由夢ちゃんを弟くんが選んで、それで諦めかけていた想いは、より強く強固になっていた。  
だけど、私が今更そんな科白を言えるはずもなく、私はいつでもただ二人を見つめるだけ。  
 
 
あのとき私は正義の魔法使いになることを選んだ。  
正義の魔法使いは周りの人や大切な人を幸せにするのが仕事だ。  
・・・・・・だけど、果たしてそこには自分を幸せにすることは含まれていたのだろうか?  
 
 
「音姫・・・大分具合悪いみたいだけど本当に大丈夫なん?」  
「あはは・・・まゆきってばもう何回も同じこと訊いてるよ。私は大丈夫。生徒会の仕事は私一人でやっておくから早く行きなよ。  
今日はどうしても外せない用事があるんじゃないの?」  
「う〜ん、まぁそうなんだけどさ・・・音姫最近ちゃんと寝てる? どう見ても大丈夫って感じじゃないよ、アンタのその顔」  
即答は出来なかった。  
 
以前は由夢ちゃんが夜遅くに家をよく出て行った。  
そうして2時間ほど経ってまたこっそり帰ってきて部屋に戻ってくる。時にはそのまま戻ってこないときもある。  
由夢ちゃんが帰ってこなかった次の日には、私は少し遅めに隣に向う。  
そうすれば、今日由夢ちゃんが家にいなかったのは弟くんの家で朝ごはんを作っていたから  
(由夢ちゃんの料理の腕前は大分上達し、今では朝ご飯と弟くんのお弁当を担当している)だと言い聞かせられるから。  
最近では弟くんが遊びに来た日の夜遅くになると、きまって由夢ちゃんの部屋から物音が聞こえてくる。  
 
それはまるでベッドの軋む音のようだったり、  
ぐちゃぐちゃ鳴る水音だったりのようだったり、  
由夢ちゃんの叫び声のようだったり、  
二人が壊れたテープみたいにお互いの名前をひたすら呼び合う声のようだったり―――――  
わざと聞かせてるんじゃ? って思ってしまうくらいにそんな幻聴が聞こえてくるものだから、  
私はついついおかしな想像をしてしまい、明け方近くになるまで一睡も出来ない。  
それがもう何日も続いていた。  
「音姫何か悩み事でもあんの? だったら、力になれるかはわかんないけど相談に乗るよ?」  
結局、まゆきには曖昧に笑って誤魔化すしかなかった。  
 
 
「結構時間取っちゃったなぁ・・・」  
廊下を歩きながら思わず呟く。  
既に窓からは西日が射し、視界はすっかり赤く染められている。  
校内に残っている人影は既になく、先程までグラウンドで威勢の良い声を響かせていた運動部の人たちも、どうやら帰る準備を始めているようだ。  
どうやら生徒会の仕事を片付けている間に、予想以上の時間が経過していたらしい。  
別に仕事自体は特別大変なものではなかったが、内容的には大したことはなくとも、  
その分量は新年度という今の時期もあり、大分多かったのだ。  
「せめてもう1,2人いれば楽だったんだけどなぁ」  
・・・まゆきはともかく、集合直前になっての原因不明の頭痛や腹痛、無断欠席で皆休みなんて・・・  
あんまり考えたくは無いけど、多分ズル休み、だよね。また注意しておかないとなぁ・・・・・・  
とりあえず一人でできることは全部やっておいた。  
 
階段を下りて、早く帰ろうとして―――使用されていないはずの空教室から妙な声が聞こえた。  
注意しないと聞き取れないような微かな大きさで、押し殺したような声が聞こえる。  
ドクンッ、と心臓が撥ねた。何故だろう? その声には聞き覚えがある気がする。  
一歩進む度、理由もないのに心臓の鼓動がどんどん早くなり、勝手に息が荒くなっていく。  
その癖カチカチカチカチと、まるで猛吹雪の中に裸でいるみたいに歯の根が合わない。  
わからない。どうして私はこんなに怯えてるのだろう。  
わからないから確かめてみようと、全力で抵抗する体を無視して、そっとドアの隙間から覗き込んだ。  
 
 
―――――そこには、制服とブラをはだけた妹が、くちゃくちゃ音を立て、美味そうに兄の肉棒を頬張る姿があった。  
 
 
「ん・・・あむ、ちゅっ、ん、ふん、ん、兄さん、気持ちいい? あんぅ・・・」  
「くぁ・・・由夢、お前、何でこんなに上手く・・・あ、うぁ・・・」  
「ほえは、ひいはんあおひへはんひゃなひ」  
「おあ!! く、咥えたまま喋るな・・・! 舌が絡まって、直ぐに・・・っくぅ」  
「ん、むぐぅ、ぢゅぽ・・・はぁ、はぁ、兄さん、私のお口、そんなにいいんだ?」  
「あ、ああ。何ていうか、舌が先のほうを撫でたり、奥に吸い込まれながら胴の部分に絡み付いて・・・」  
「も、もう! 恥ずかしいから言わなくていいって!」  
由夢ちゃんが弟くんのおちんちんをお口で咥えながら顔を上下にさせていた。  
ここからは横顔しか見えないけど、それでも弟くんの表情や呻き声が凄く気持ちいいって言っている。  
「ぁ、ぁぁ・・・お、とうと・・・く・・・」  
 
見てはいけない、ここから離れないと・・・そう頭では思っている。  
でも心と体の回線が切断されたかのように、その場から私の両足は一歩も動かず、  
視線は二人に固定されたまま瞬きさえ忘れて見つめ続ける。  
「だって、兄さんにいっぱい気持ちよくなって欲しかったから頑張って練習したんだよ。  
こんな風に・・・・・・ん、れろ、れろ、んろ」  
由夢ちゃんが一瞬悪戯っぽい目で弟くんを見上げたかと思うと、徐に小さな舌で弟くんの大きく反り返ったおちんちんを舐めあげる。  
亀頭の窪んだ部分をくりくり刺激したかと思うと、つっと下に下がって雁の辺りをなぞり、  
肉棒にハーモニカを吹くように口づけ、付け根の部分に向いぺろぺろ舐めていく。  
「ん、れろ、れろ・・・ちゅ、ちゅぱっ」  
そのまま睾丸まで達すると、袋を数度愛撫するように舐めると、  
片方ずつ弾にキスすると痛みを与えないように慎重に口に含み、下でころころ転がしてやる。  
その間も右手は休まず動き、亀頭に弟くんのおちんちんの先から出た液体を塗りつけるように擦り付け、そのまま上下にしごきあげる。  
「あ、っうう・・・由夢、すまん、もう限界だ。で、出る」  
「ん、チュッ・・・ふふ・・・兄さん、もうイッちゃいそうなんだ? だったら・・・」  
私のお口に出して、  
と言うと由夢ちゃんは再びその小さな口に、びくんびくんと震えるおちんちんを咥え込むと、  
「んっ、んぐ、んん・・・じゅっ、じゅる、むじゅっ・・・・・・」  
そのまま一気に上下に顔を勢いよく動かす。唾液が纏わりつき、てらてら光る弟くんのモノが出たり入ったりを繰り返す。  
 
私は、その光景を見ながらいつしか自分のスカートをまくり上げ、声を押し殺し、下着の中を弄っていた。  
自分の指を、目の前の他の女の子のお口に咥えられてるおちんちんに見たてると、クリトリスを弾かれるたびに目の前が点滅するほどの快感が襲う。  
何度も由夢、由夢と呟く声を、耳元で私の名前を読んでくれているものと想像するだけで、さらに指の動きが激しくなっていく。  
私は自分の一番気持ちいい部分を指先で弄くるだけという、おそらく二人から見れば子供の遊びのように拙く不器用な手先で、自ら慰めていた。  
 
「んジュ、ジュ、ん、出して、私の口に、いっぱい・・・ジュ、ジュルルルルルルル・・・・・・」  
「くっ・・・うううううう・・・!」  
「むぐぅ!? ん、ん、んぐ、んぐ、ごく・・・・・・」  
弟くんが一瞬体を震わせたかと思うと、由夢ちゃんの頭をしっかり固定して、  
どくどく、何て擬音が聞こえるくらい大量に射精してる。  
 
私も弟くんが絶頂に達したとき偶然中指が愛液で滑って、壁に擦り付けるように勢いよく入り込み、軽く達してしまった。  
(私・・・弟くんと一緒にイッちゃったんだ)  
そんなことで昏い歓びに浸る。  
絶頂後の軽い浮遊感に身を包まれ、異様な状況に蕩けきった頭は、  
本当はドアの向こうで私は弟くんと一緒にHをしているんじゃないか、などという錯覚さえ覚えてそうだった。  
弟くんの精液を残らず受け止めた由夢ちゃんは、口いっぱいに出された精液を溢さぬように注意して残らず飲み干し、  
「美味しかったよ、兄さん」と幸せそうに笑うと、  
 
―――――嘲りを込めた視線を向けると、私に微笑みかけた。  
 
「っっ!!!」  
一瞬で硬直が解けた私は、そのまま脇目も振らずに廊下を疾走する。背後からは、  
「何だ!? 今何か物音がしなかったか?」  
「や、私には何も聞こえませんでしたよ。それより、兄さんだけ気持ちよくなるのはずるい。次は私の・・・・・・」  
走って、走って、走って、走った。  
心肺が悲鳴を上げても、久々の全力疾走に足が休みたがっても無視した。  
だって止まったらきっとあの二人の声が聞こえてくるもの。  
 
私は馬鹿だ。  
勝手に覗き見して、いつの間にか自分が弟くんの彼女になった気にさえなって・・・それでこの様だ。  
夢から醒めた私は、その後に続く現実を直視したくなくて、  
何より由夢ちゃんのあの瞳にこれ以上晒されるのが居たたまれなくなって、こうして惨めに逃げている。  
「ッ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」  
そのまま隠れるように教室に駆け込む。  
同時に、とっくの昔に体力の限界だったようで、これ以上動く体力も気力も無く、そのまま床にへたり込んでしまう  
 
由夢ちゃんはいつから気付いていたのか・・・おそらく最初から気付いていたのだろう。  
全部知っていながら、諦め切れないこの想いが届かないことを私に思い知らせ、無様に一人で慰める私の姿を見て嘲う、そのために黙っていたのだろうか。  
「う・・・うぇぇぇ・・・・・・えええ・・・」  
涙が後から後から溢れてくる。  
どうしてなんだろう。  
正義の魔法使いとして島の人たちを守れた。  
二度と会えないと思っていた弟くんとは再会できた。  
私が守りたかったものはどちらも今幸せなのだから、私が悲しむべきことなど一つもないはずだ。  
なのに、どうして今私はこんなにも悲しいんだろう。  
「うう・・・くん、弟くん・・・!! う・・・うぇ・・・ぐず、あ、ああ・・・うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」  
 
 
 
結局私の涙が止まったのは、夕日の代わりに月明かりが教室に差し込むようになってからだった。  
既に学校帰りには遅すぎる時間帯なのだが、動こうという意志は湧いてこなかった。  
帰りたくない。  
弟くんには会いたかったけど、それでも由夢ちゃんにはどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。  
由夢ちゃんがいなければ何も悩む必要などなかったのに・・・  
もし由夢ちゃんがいなかったら・・・・・・そうすれば弟くんに昔みたいにいつでも会える、以前のように一緒に寝たり、一緒にお風呂に入ったり。  
それに、由夢ちゃんと同じ位置に立つ事だって―――  
 
「っ・・・わ、私、今何考えてたの・・・!?」  
ふと我に返り、自分の考えていた事に愕然とした。  
妹に・・・ずっと大切に思ってきた妹にこんな感情を抱くなんて・・・  
私は、自分がこんな最低の人間だなんて思いもしなかった。  
「ダメ・・・このまま二人の傍にいたら、私はいつかきっと取り返しのつかないことをしてしまう。  
どこか遠い所・・・弟くんのことも由夢ちゃんのことも忘れられる、遠い国にでも行かないと」  
でないと、私はきっと今の狂った夢を現実にしてしまうだろう。  
だってほら、その光景を思い浮かべるだけで、私の唇は勝手に歪な弧を描き、  
まるで麻薬を打たれたかのように、理性がどろどろ解けて、どんなことをしてでもその光景が欲しいと思ってる。  
だから、早く・・・・・・私がまだ私であるうちに、二人の傍を離れないと。  
 

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