「やだ……やだよ。義之くん、悲しいお話聞しようとしてるんでしょ? こ  
んな時にそんな……そんなの酷すぎるよ!」  
 恐怖と悲哀と混乱で今にも壊れてしまいそうな、ななか。  
 「でも、今じゃないと駄目なんだ。だから聞いて……」  
 「やだやだ! やだぁっ!!」  
 目をつむり唯一動かせる左腕で片耳を塞ぎ、義之の声を打ち消すように大き  
な声を上げ子供のように頭を振って、目の前の現実を必死に拒絶する少女の姿  
は胸が締め付けられるほどに痛々しい。もう、そこには自信と余裕に満ち溢れ  
る学園のアイドルの面影は欠片も残っていなかった。  
 「やだやだやだぁっ! 義之くんは私の彼氏なんだもん! もう私には義之  
くんしか残ってないのに、義之くんまで奪おうとしないでよぉ!!」  
 「お、おい! なな……」  
 「真っ暗なの。何も見えないの何も分からないのっ!」細い両肩を掴むよう  
にして無理矢理動きを制した恋人すら認識出来ていないのか、開かれた両目か  
らは止めどもなく涙が溢れ続け、大きくて丸い瞳は焦点すら定まらないまま暗  
く淀んでしまっている「……私、分からないよ。義之くんの気持ちも、義之く  
んの望む言葉も、誰の心も見えない。怖いの。ひとりぼっちなの。みんなが私  
を責めるの。誰も助けてくれないの……」  
 「……ななか……?」  
 「義之くん、どこ? 私、なんでも言うこと聞くから義之くんだけは側にい  
て。もう我が儘言わないから良い子にするから捨てないで。こんな真っ暗な場  
所に置いて行かないで……」  
 「どうしたんだよ、ななか!!」  
 「あ……」震える頬を両手で包み自分の方へと向かせると、ななかの瞳に微  
かな輝きが蘇る「……よしゆき……くん?」  
 すっかり血の気が引いてしまった小さな手が、頬を撫でる義之の手に恐る恐  
る添えられる。  
 「ああ。ここにいるだろ?」  
 
 「……やっぱり、見えないよ……」だが、ななかの顔は再び悲しみの形に歪  
む「……義之くんの心が見えないよ! 義之くんの声が聞こえないよ! どう  
したらいいの? ねぇ、どうしたら義之くんは私のこと許してくれるの? 何  
をしたら、私を好きでいてくれるの? だって義之くんは私と付き合ってくれ  
てるんだもん。私がいけない子だから、義之くんが望む通りに義之くんを満た  
してあげられないから 、義之くんは寂しくなって小恋のところに行こうって  
思ったんだよね? もう義之くんを悲しませないって約束したのに、私が守れ  
ないから、私がいらなくなったんでしょ? だったら私、義之くんの言うこと  
なんでも聞くよ? どんなことだって出来るから……」  
 「だ、だから、そういうことじゃ……」  
 予想だにしていなかった、ななかの異常な狼狽ぶりに、義之は戸惑いを越え  
た戦慄を覚え始めていた。まるで全身の血液が足下から床へと吸い取られてい  
くような恐怖感と、伸ばした腕にしがみついた少女の柔らかい体に奈落の底へ  
と引きずり込まれそうな絶望感。  
 「うぅぅ、義之くん! 義之くぅん!」  
 「……なな……か?」  
 認めたくない事実がじわじわと全身の皮膚を通し義之の体内に染み込んでく  
る。白河ななかという少女の精神は、義之の想像なぞを遙かに超えて脆弱だっ  
たのだ。故に失恋という現実を受け入れることが出来ず、恋の自重によって崩  
壊を始めてしまっている。ななかの想いの強さを、義之への精神的な依存度を、  
こんな形で知ることになってしまうとは……  
 「ななか?」だが、義之には時間がない。「落ち着いて、よく聞いて欲しい  
んだ。俺は、ななかのことを嫌いになったんじゃなくて……」  
 「そうだ……そうだよっ!」  
 「って、うわっ!?」  
 正気を失った泣き笑いを浮かべ、それでも闇の中から見出した一条の光に光  
る瞳で、ななかが義之の言葉を遮って飛びついてくる。  
 「なにをあげていいのかわからなかったら、全部あげれば良いんだよ! 義  
之くんは私の彼氏になってくれたんだから、私を全部あげなきゃ駄目だったん  
だね? ね。義之くん、いままで気がつかなくてゴメンね? これからは、な  
なかのコト好きにして良いからね?」  
 そう囁きながら頬を胸板に、腕を背中に回し、飼い主の不興を買った子犬の  
ように四肢を擦り付けてくる少女が話しかけている相手は、しかし目の前の恋  
人ではなかった。彼女が抱き締めている義之は、心の中で作り上げた「桜内義  
之」の身代わりでしかなく、それ以外は何も見ていないのだ。  
 
 「だ、だめだって! ななかっ!」  
 義之が見舞いに来る時間を見越して身だしなみを整えてあったのか、密着し  
たななかの体から不快な臭いなどはせず、温かくて甘酸っぱい少女特有の香り  
が蜃気楼のように立ち上り義之の視界をぼやかしてしまう。そして寝間着とい  
う薄皮一枚越しの若々しい乳房が押し付けられ形を変えながら揺れる感触が恐  
ろしいほどリアルに感じられてしまう。或いは姉や妹が寝るときには下着を着  
けない、という知識が最も皮肉な形で作用しているのかも知れない。  
 「くっ……!」  
 「…………あ!」  
 そんな義之の異変の先に気付いたのは、ななかの方だった。  
 「ねぇ義之くん、これって……」やっと見つけた、と得意げな声色になった  
ななかが女体に反応した義之の急所の形を固さを、義之自身に自分のバストの  
谷間で教え込むように体を揺らす「……私が欲しいってこと、だよね?」  
 「そ、そんなんじゃないって! これは……」  
 「もお、しょうがないなぁ義之くんは?」慌てて否定したところで、もはや  
少女の耳は自身に心地良い音しか受け入れない「でも、義之くんが性欲を全部  
受け止めてあげるのが、私の役目だもんね。義之くんがセックスしたいって言  
うなら喜んでバージンをあげたいんだけど……いまはケガで上手に出来ないし、  
代わりにお口の処女で我慢してくれる?」  
 「な……!?」  
 小さな唇から次々と紡ぎ出される卑猥な言葉の奔流で愕然となってしまった  
義之に、ななかは子供のように無邪気な笑顔を向けながら更に続ける。  
 「って言ってもフェラチオ……だったっけ? も初めてだから下手くそだと  
思うから、我慢できなくなったら義之くんも動いて、ななかのお口の中を好き  
に使って沢山気持ちよくなってね? 義之くんの精液の味、いまから楽しみだ  
なぁ♪」  
 その幸せそうな表情からは考えられないほどに強い力を腕にこめて恋人の体  
を縛り付け、ななかはズボンの上から義之の勃起を何度も何度も愛おしそうに  
舐めあげる。  
 「全部あげるよ。だから、ずっと私のことを好きでいてね?」  
 その一言と既成事実で止めを刺し、逃れる術を失ってしまった義之の体から  
力が抜けたことを確認してから、ななかは恋人の下半身の覆いを残らず剥ぎ取  
り、すっかり萎えて柔らかくなってしまった男性器を………  
 

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