「行っちゃったなぁ……」  
 義之くんは小恋のもとへと行ってしまった。  
 親友の為とはいえ、自分が選ばれないというのは、ひどく悲しい。  
 
「……うう、……っく……………」  
 涙が溢れる。  
 嗚咽は病室に響いて、ひとりを余計に感じさせる。  
 
――コンコン♪  
 
 ノックの音。  
 涙を人に見せないように、急いで涙を拭う。  
 
「白河〜〜、元気か〜?  
って、どうしたっ!?」  
 
 病室に入ってきたのは、渉くんだった。  
 渉くんは私の顔を見て、駆け寄ってきた。  
 
「どうしたんだ?」  
「渉くん、お見舞いに来てくれたんだ」  
「はぐらかすな!!」  
 
 強い口調に押され、はぐらかすことが出来なくなる。  
 
「とりあえず、話してみろ」  
 渉くんに促されて、私は話始めた。  
 
 わたしが話終えると、渉くんはただ、  
「そうか」  
 と漏らしただけだった。  
 
 考えてみれば、渉くんも小恋に振られたばかりなんだ…。  
 もしかしたら、その時の事を思い出したのかもしれない。  
 
 
「わたしたち、振られちゃったね……」  
「そうだな………」  
 
 病室を沈黙が支配する。  
 
「……ねえ、渉くん」  
「なんだ?白河……」  
 
 渉くんがこちらを向く。  
 
「付き合おうよ?わたしたち」  
「何言ってんだよ!!」  
 渉くんが激高して立ち上がる。  
 でも、わたしは告白を止めない。  
 
「傷の舐め合いだっていうのは分かってるよ」  
 
 それでもひとりで、ひとりぼっちでこの胸に開いた穴に向き合うことはできない………。  
 
 
 
 
 時間が流れた。  
 渉くんはまだ何も話さない。  
 
 また時間が流れた。  
 それでも渉くんは何も話さない。  
 
 
 病院の面会時間が終わる頃、ようやく渉くんが口を開いた。  
 
 
 
「わかった。  
 今から俺は白河の恋人になる」  
 
 それが、渉くんの出した答え。  
 
「ありがとう……」  
 渉くんの手が肩に回される。  
 
「キスして……」  
「ああ」  
 
 渉くんの唇が私の唇に触れ、渉くんの温かさがわたしに伝わる。  
 少しだけ、胸の穴がふさがったような気がした………。  
 

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