最近、音姉の様子がおかしい。ここ二、三ヶ月は一度も一緒に帰れなかったし、帰りも遅い。
生徒会かと思って、まゆき先輩に聞いてみたがそうでも無いらしい。一番変わって来た事と言えば…
香水や化粧品の匂い。音姉自身が嫌っていたものを音姉は、最近頻繁に使っていた。
疑問が膨らんでいったある日。俺は、さくらさんに呼び出された。
その呼び出し場所は…
「こんな時間に…ここ?」
学校。時計は十時を過ぎた所だ。理事長のさくらさんなら夜の学校も管理してておかしくないが…なぜ?
校門の前に立つ俺に、さくらさんはどこからともなく声をかけた。
「こんばんは。義之くん?」
「あれ…さくらさん」
「にゃは!」
いつものような無邪気な笑顔を見せた後、さくらさんは校舎の中へ向かっていく。ついてこいと目で合図された俺は、さくらさんの後に続いた。
行き先は理事長室だった。ただいつもと様子が違う。部屋に入ってからさくらさんは無言で、手元の機械を操作していた。
小さな音がして、壁に通路らしいものが表れた。
「こっちだよ」
さくらさんはまだ進んでいく。
着いたのは…いくつものディスプレイが壁一面にあった部屋。でも画面は一つとして付いていなかった。
さくらさんは椅子に腰掛けて、何かの機械を操作していた。俺は薄暗い部屋を見渡しながら、さくらさんに声をかける。
「あ…あの…さくらさん?」
「義之くん?」
「はい?」
「最近音姫ちゃんが何してるか、気にならない?」
さくらさんの顔は心底楽しそうで、それでいていつもと違っていたように思った。
「え…音姉?」
「そう、音姫ちゃん」
さくらさんがキーを叩いた音と同時に、部屋の中はディスプレイの明かりで照らされた。
映し出されたのは、初音島の光景。それも美しいとか、観光目的じゃなく、盗撮に近いような、そんな映像ばかり。
朝倉家や、俺の部屋まで映されていた。さくらさんは部屋を見渡して、一つの画面を見つめる。
「えーと…これだ!」
一際大きなディスプレイに光が灯ると、他のものより大きな画面でその光景は映し出された。
俺は促されるまま、画面を見つめる。
「ほら、音姫ちゃんだよ?義之くん」
画面の中央、どこかの裏路地らしい所に…音姉はいた。
「さて、マイクも入ったし…義之くん?」
「はい?」
「逃げないでね?」
入って来た通路は消え、俺は今、さくらさんの手の内に居る事を悟った。
「ただ見ていればいいんだよ」
スピーカーの入った雑音が聞こえて、俺は画面に目を向けた。
音姉の服装は、今までと違っていた。膝より上のミニスカート、ノースリーブのタンクトップ。胸元は開いていて谷間さえ見えていた。他にもイヤリングや、ブーツ。
デート。
その単語が閃くと同時に、俺は急に目を背けたくなった。何故か悲しい気分になったからだ。
「…」
俯いた音姉は、汚れた壁にもたれ掛かったまま黙っていた。
しばらくして、画面の端に男が見えた。茶髪、ピアス。ラフな服。音姉と正反対のタイプに見えた男は、確実に音姉を目指していた。
音姉はその男の方をチラッと見て、また俯く。
「よぉ!」
男が手を挙げて挨拶しても、音姉は動かない。
スピーカーから声の種類が増えてきた。新しく三人の男がやって来る。
こいつらが向かっているのは…
「音姫ちゃーん?」
こいつらも…音姉だ。結局四人の男が、音姉に群がるようにして近付く。
「言いつけは守ってるかい?」
音姉は頷いた。本当にこんな奴らと知り合いなのかと疑いながら、俺は画面を見つめている。
一人の男が、音姉の胸に触ったよう見えた。
こいつらの目は明らかに、音姉を獲物として見ていた。こんな所に一秒たりとも居させたくないと思った。
「自分でして見せてよ?」
スピーカーから聞こえた声。間違いない。こいつらが音姉の恋人な訳が無い。こんな奴らの言うことなんか…
そう思っていたのに、音姉は。
スカートを持ち上げて口にくわえると、
手を自分の秘部へと向かわせていった。
「ん…ふぅ」
「手伝ってあげるよ」
音姉に触るな。
そんな俺の思いが通じる訳も無く、男は音姉を弄んでいた。音姉の女の部分に触れ、胸を触り、下品な笑みをこぼす。
「もう虜だな」
「そうだな。最初の頃からは想像出来ねぇよ」
やがて、男達の手は音姉の性器に集中した。何本もの手が、そこをまさぐっていた。
「ふぅ…うっ」
「グチャグチャだな」
「そろそろだ」
音姉がもたれていた壁から崩れ落ちる。小さなうめき声が聞こえた後、音姉は沈黙した。
「そんな…音姉?」
「さーてとっ!」
画面には男達に運び出されている音姉が見えて、消えた。
さくらさんがディスプレイを切ったみたいだ。
「どう?義之くん」
「どうって…音姉が!」
「今は舞台を変えてる所だよ」
「舞台…?」
「なんで音姫ちゃんがあんな風になっちゃったのか、知りたいんじゃないのかな?」
まるでさくらさんは全てを知ってるようだった。それに舞台と言う言葉…
「どういう事です?」
「見たいの?見たくないの?」
急に目つきが変わった。その時を見せなければならないような、強い目だ。
「…」
「次まで、時間が無いんだ。今見るのがベストだよ?」
「…わかりました」
さくらさんは背を向けると、キーを叩いた。
ディスプレイに光が灯る。
「…日だよ?義之くん、覚えてる?」
画面には、俺の知ってる音姉が居た。
あの日は、特別音姉の帰りが遅かった日だ。夜遅くに由夢から、音姉の事について何か知らないかと尋ねられた日だった。
結局音姉は帰って来なかった。翌朝登校すると、生徒会室に一人で居た事を覚えている。
その日から、音姉は口数が少なくなっていった。帰って来なかった日の事は、一言も語らなかった。
その…境目の日だ。
「早く帰らないと…」
桜並木を小走りに通り抜けている。右手には鞄。しきりに時計を見ては焦っていた。
音姉を追って何回か画面が切り変わると、妙な物が映っていた。音姉がその辺りに来たとき、それは。
人影は、動いた。
「え?」
「逃げて音姉!」
画面に向かって俺は言った。過去とはわかっていて、声を掛けた。さくらさんは俺をチラリと見ると、手元の機械に目を戻す。
音姉はあっという間に、数人に囲まれていた。一人が音姉を羽交い締めにして、口を塞ぐ。
そのまま音姉は、画面の端に連れ去られていった。
桜並木の外れ、街灯も殆ど照らさない所に音姉は連れて来られていた。少し開けた、芝生の上に音姉は転がされた。
周りを取り囲んで見下ろしている数人の連中…さっきの映像で、音姉にイタズラしてた連中と同じ奴らだとなんとなく解った。
「ひ…」
音姉は声も出ない。コイツらはじりじりと、取り囲んでいる輪を小さくしていく。
「い…いや…」
後退りしようとする音姉を、後ろ側の男が捕まえた。
「逃げられないぞ?」
「は…はなしてぇ…」
前についていた男が、音姉の両脚を押さえつける。捕まえている男以外の二人が音姉の服に手を掛けた。
「全部脱がすか?」
「ああ。制服の趣味はねぇしな」
「いやぁ!」
衣の裂ける音と共に、音姉の肌が露出していく。
「綺麗な体だな、お嬢ちゃん」
「肌も綺麗だし…」
俺も見た事が無い音姉の体を、コイツらは見ていた。カメラに映りにくい、音姉の乙女の部分を、男の一人が触れていく。
「ひっ…」
「なにされるかくらい、解ってるだろ?」
「そ、それだけはやめて…私…」
「俺たちはそれが目的でな」
「ひう…」
音声に、水音が混じった。音姉の表情にも変化が見える。
「知ってるんだよ。アンタがどこで感じるか…」
「な…なんで…」
男の手つきが、細かく変わる。
「風呂場…だったかな?こんな所ばっかりいじってんだろ?」
「ひゃぁ…」
「弟くんって…誰だ?」
「…!」
「いつも…そいつの名前だったよな?」
音姉について、コイツらは始めから知ってるみたいだった。じゃないと…俺の事は出ないだろう。
俺は今、後悔している。この時の音姉の気持ちが間違い無く、俺に向けられていたから。
「アニキ?」
「ん?」
「さっさとやらねぇと…」
「ああ」
どうやら音姉に話している男がリーダー格らしい。音姉を拘束してる奴らは微動だにしなかった。
「ひ…」
音姉の顔がみるみる青ざめていく。
男は立ち上がると、自分の性器を取り出した。
「悪く思うな」
「い…いやぁぁっ!」
音姉が脚をバタつかせてもがくと、耐えきれなかったのか一人の男が手を離した。
「二人がかりで押さえろ」
今度は脚に二人。一人一人が片足を押さえつけて音姉を開脚させた。
音姉の乙女を守る事は、もう出来ない。
体を割り入れるようにして、男のモノがあてがわれる。
「いや!弟くん!弟くん!」
「音…姉」
もう過去の事だ。俺には絞り出すような声しか出ない。
「む…」
男が少しずつ、音姉の中に進んでいくと音姉の乙女はそれを飲み込んでいく。
「やっぱりマクがあったか。彼氏は惜しいことしたな」
「痛い!痛いよぉっ!」
少し手こずったように見えた男は、それでも躊躇い無く音姉に侵入していく。
「い…たい…」
「キツいな」
苦痛に顔を歪める音姉を気にすることなく、男は音姉を楽しみ始めた。
音姉の愛液と、純潔を失った血が絡まったモノが、音姉を汚していく。
「出すぞ…」
「そ、それだけは止めてください!お願いします!」
そして。
音姉の中から、やっとモノが引き抜かれた。
音姉のソコからは淫らな液と、失った血と、他の男の液体が流れ出ていた。
後悔してもしたり無かった。もっと早く俺が…とも思った。芝生の上の音姉は、そのままの姿で泣きじゃくっていた。
「私、弟くん以外の人に汚されちゃったよ…ひくっ…私…弟くんにあげられなかった…」
「音姉…」
俺は壁にもたれるようにして崩れ落ちた。
ディスプレイ全体に映されていた音姉は確かに音姉で。俺は今やっと、失った事を知った。
「朝倉音姫ちゃんだろ?」
画面の端が光る。フラッシュだ。
「こんな写真、見られたく無いんじゃないか?」
汚されたままの姿を、まだショックの抜けきっていない音姉をカメラに収めていく。
「特にお隣さんとかな?」
「…!」
音姉はにわかに反応して、男に楯突いた。
「それだけはやめて!」
「だろ?だったら…」
「ひうっ!」
「俺たちの玩具になってくれるか?」
片方の手が、音姉の胸を掴んだ。音姉はそれを払いのけようとせず、ただ受け入れている。
「この可愛いおっぱいも、彼氏にあげられなかった所も、全部俺たちの玩具だ」
「…」
沈黙している音姉の後ろで、わざとらしく他の一人が呟く。
「俺もやりてーな?どっかに相手してくれる娘、いないかなぁ?」
「…」
「…」
男達も沈黙した。多分、音姉に考える時間を与えている。音姉の答えは…一つしかないのに。
「…どうぞ」
「ん?」
砂と草が絡まった体を起こし、男の方を向く。
「お好きに…して構いません」
「言葉だけじゃねー?」
体を少し震わせると、音姉は桜の木に近づいた。
「これで…良いですか」
幹に手を着き、男達に後ろを向ける。言うまでもなく、奴らからは丸見えだ。
「…よく分かってるな」
男達は音姉に群がっていく。
「一つだけ約束して下さい」
「あ?」
「…だけは」
突然、ディスプレイが消えた。
「これ以上は見せらんないよ?」
さくらさんが椅子を回してこっちを向く。表情に陰りは見られない。
「気付いてるよね?なんで彼らが音姫ちゃんの事を知ってたか」
「も、もしかしてアイツらは…」
「そ!ボクの手引き。情報も全部ボクが流したんだよ?」
何を言っているんだこの人は。
俺の頭が上手く回らない。
「義之くん。優しすぎるんだよ。だから音姫ちゃんもああなっちゃうし…ボクの思い通りになってくれない」
「さ…くらさん?」
「義之くんには…鬼になって欲しいんだよ」
新たにキーの叩く音がした。
ディスプレイに映っているのは…
「ここ、わかるよね?」
朝倉家。
「次の舞台はここだよ?」
…由夢がいる筈だ。
「彼らをこんなトコに連れてって、由夢ちゃんは無事なのかな?」
「さくらさん!あなた一体!」
「早くしないと…着いちゃうよ?」
「くっ…」
俺の思考もおかしくなっていた。なぜ。どうして。その疑問を解く暇もなく時間が迫っている。
そして俺の中にある選択肢は…衝動は。
音姉はもう、手が届かない存在だ。俺が遅すぎて、音姉を失った。でも全てを手遅れにした原因は…そのきっかけは、この人にある。
「さくらさんが…音姉を汚させた」
「そうだよ?」
この人に、こんな感情を抱いた事は無い。小さな頃から俺を一人にしないように、心を砕いて来た人。母親みたいな人。
その人に俺は初めて、憎悪を感じた。
いや違う。野獣のような衝動だ。この人を、音姉と同じ目に合わせてやりたい。
だから俺は。
「ねぇ…さくらさん」
「…!」
組み敷いた華奢な体が揺れる。ショックのあまり声の出ないような表情。
さくらさんは目を逸らす。
「さくらさんが音姉をあんな目に…」
「そう。ボクのせい…」
「…っ!」
体を包んでいる布に、手を掛けた。
ボクはあの時が忘れられない。音夢ちゃんが居なくなって、壊れたお兄ちゃんの…玩具にされた事。お兄ちゃんがはっきり音夢ちゃんの代わりと言ってた事。
屈辱で、悔しかった。
でも最後に思ったのは、好きな人なら壊されても良い…って事。
ボクはあの時が、忘れられない。
「さくら」
「い、いやだよ…ボクまだ心の準備が…」
「そんなものは要らない」
「どうして!?ボク、お兄ちゃんの愛が欲しいよ!」
「俺の相手は音夢だけだからな。代わりでも良いって言ったのはさくらだろ?」
「そ、そんな…んっ!」
まだ男の人を知らない痛み。もっと優しくして欲しかったのに、もっと抱き締めて欲しかったのに、お兄ちゃんはあっさりボクの乙女を奪っていった。
その日から始まったボクとお兄ちゃんの生活。家の中じゃ服を着る事は許されなくって、お兄ちゃんはどんな所でも…ボクを犯した。
寝室だけじゃない。リビング。台所。学校に行く前の玄関。トイレ。お風呂場。どこにいてもお兄ちゃんと交わった記憶が残ってた。
「さくら…」
「も、もう妊娠しちゃうよ…」
「俺の言うことが聞けないのか?」
「…い、いいよ。出して…」
ボクはお兄ちゃんの液を、太ももからこぼしながら、地面に落ちた液体を掃除した。
「む、無理だよ!」
日差しの強い日に、ボクは外に放り出されていた。下着なんか無くて、貰えたのは白いシャツ一枚。被ってみても、太ももが半分以上は見えてた。目の前にはあまり多くは無いけど、人通りのあった道路。
「やらないと家には帰れないぞ」
「…」
汗で服に張り付かないように、ボクは歩き出した。
お兄ちゃんの所に帰って来た時、もしかしたらボクは全裸同然だったかも知れない。
「ふぅ…う」
学校でもお兄ちゃんはお構いなしだった。授業中玩具を入れっぱなしなのはしょっちゅうで、ボクは昼休みに、放課後にお兄ちゃんと交わる事で頭がいっぱいだった。
お兄ちゃんの行為がエスカレートしてきても、ボクはそれを全部受け止めた。
もうその頃、ボクはお兄ちゃんとする事しか考えられなくなってたから。