思えばボク、芳乃さくらが幸せな時間でいられた時間は限りなく少なかったと思う。  
「悪い、さくら。俺は・・・音夢が好きなんだ」  
 50年以上前、ボクが子供の頃からずっと愛していたお兄ちゃん―朝倉純一は、ボクじゃなくて、義妹である朝倉音夢ちゃんを恋人に選んだ。  
 それが原因でボクは音夢ちゃんを憎んで、彼女を桜の魔法で消してしまおうとさえした。  
 でも、結局それはボクが桜の魔法を解いたために未遂に終わった。理由は、今でも分からない。  
 とにかく2人は結婚し、皆から祝福された。  
 ただ1人、ボクを除いては。  
 もちろん、ボクだっても心からではないにしろ、2人の結婚を祝福したよ。好きあう者同士が結婚するのは最高に幸せなことだと思う。でも、それでは選ばれなかった者の幸せはどうなってしまうのか。  
 そういう意味ではボクは2人を素直に祝福することが出来なかった。幸せな音夢の顔を見るたびに“大好きなお兄ちゃんを取られた”ことを思い知らされたから。  
 1人は孤独であり、そして傷ついた心を誰かに癒して欲しかった。  
 だからなんだろうね。初音島に枯れない桜を復活させて、桜内義之という家族を生み出したのは。  
 本音を言えば彼を生み出したその日から一緒に住みたかった。ボクの願いから生まれた、ボクだけの彼。ボクの大切な息子。義之くんさえいれば、この傷ついた心もきっと癒される。ボクはそう信じていた。  
 しかし、その期待は彼が風見学園に入学して不安に、そして怒りに転じることになった。  
 音姫ちゃんや由夢ちゃんを始めとする、様々な女の子が義之くんの周りに集まってきてから、ボクの心は癒えるどころかむしろは激しい嫉妬に包まれることが多くなった。  
(また・・・取られる)  
 お兄ちゃんだけでなく、今度は義之くんまで、どこの馬の骨とも知れない小娘に取られる。そう思うだけでボクの心は痛んだ。  
 (滅茶苦茶にしてやりたい。ボクの義之くんに近づく女の子は・・・みんな滅茶苦茶にしてやりたい)  
 傷ついていた心がいつ壊れたのか、それは誰にも、恐らくボク本人にも分からない。でも、気付いたときにはボクの心には既に狂気が満ちていたんだ。  
 
 そして、そのきっかけは意外とすぐにやってきた。  
「よしゆーきくん!入るよ」  
 珍しくドアをノックせずに開けてみる。そのあとに見るであろう、義之くんの驚く姿を予想して、思わず笑みがこぼれる。  
「わぁ!さくらさん!?ちゃんとノックしてくださいよ!」  
 案の定、ボクの愛しの息子は驚き、目を丸くしている。同時に手に持っていた“何か”をすばやく隠すように背中に回すのを、ボクは見逃さなかった。  
「あれー?今何を隠したのかな?素直に見せてよ」  
「だ、ダメですよ!」  
 顔を真っ赤にして義之くんは必死に抵抗する。う〜ん・・・これは見られたらまずいものなのかな?そう思うとますます見たくなってくる。  
「いいじゃん、誰にも言わないからさ」  
「そういう問題じゃないんです」  
「いいから見せなさーい!どれどれ・・・」  
 一瞬の隙をついて、ボクは義之くんから“何か”を奪い取ることに成功した。見た感じ本みたいだけど・・・。え・・・。  
「よ・・・義之くん、これって・・・」  
 義之くんが読んでたのはその・・・いわゆるエロ本だった。それも女の子を監禁、調教して快楽と肉欲に溺れるだけの奴隷にするという非常に鬼畜な内容の。  
「・・・・・・・・・」  
 読んでた本がそういう類の物だったからなんだろうね、義之くんは顔を真っ赤にして、俯いてる。きっとボクが音姫ちゃんに言って、怒られると思ってるんだろう。  
 でも、そんなことはしないよ。むしろ義之くんにお礼を言いたいくらいだよ。だって・・・これで分かったんだから。義之くんに近寄る女の子たちをボクは具体的にどう滅茶苦茶にしたいのかが。  
「義之くんも・・・こういうの興味あるの」  
 頭の中に浮かんだ考えに興奮しながら聞く。  
「そ・・・そりゃ、俺も健全な男ですから」  
 消え入りそうな声で、それでも義之くんの声はしっかりボクに届いた。だったら、ボクの取る行動はただ1つだ。  
「じゃあ・・・手伝ってあげようか。義之くんだけの肉奴隷を作るのを・・・」  
 そう、皆肉奴隷になっちゃえばいい。ただ快楽と肉欲に溺れるだけの奴隷に。  
 そうすれば義之くんが取られる心配はないし、ボクだって安心できる。まさに一石二鳥だ。  
「はっ!?で、でも!」  
 突然の言葉だからしょうがないよね。当然ながら義之くんは思い切り驚いた。でも、ボクに止める気はない。  
「欲しいんでしょ。性欲処理のための奴隷が。いいよ、義之くんが望むことはなんでもしてあげる。義之くんに近寄る女の子は皆肉奴隷にしてあげる。場所も道具も全部ボクが揃えてあげる。義之くんは何も気にしなくていいの。さ、言ってみて。最初は誰を堕としたいの?」  
義之くんの耳元で囁いた悪魔の言葉に興奮したのかな、それとももっと他の理由からなのかは分からない。でも、  
「じ、じゃあ・・・」  
 義之くんは記念すべき肉奴隷第1号にしたい女の子の名前をボクに告げた。  
 
 
 
義之くんの望みを叶えるため、そしてボクの望みを叶えるための日々が始まった。  
まずは女の子を調教する場所を作らなくちゃ。せっかく捕まえても調教する場所がなかったら意味がないもんね。と言うことで、  
「あれ?さくらさん、家、リフォームするんですか?」  
「あ、音姫ちゃん。うん。義之くん、小恋ちゃんたちとバンドを始めたでしょ。  
でも義之くんは他のみんなと違って独学で練習してたから家でも練習がいると思って。だから家の下に新しく防音室を作ろうかなって」  
(同時にキミたちの調教部屋にもなるんだけどね)  
 もちろん、新しく地下室を作って、しかもそれを防音室にするんだからそのお金もバカにならない。今まで貯めてたお金もこれでぱぁになっちゃった。でも、これも義之くんとボクの望みのためだと思えば安いものだ。  
もう調教に必要な道具は一通り揃えてある。この工事が終わればいよいよ本格的な調教が出来るようになる。義之くんに近寄る女の子を卑しい肉奴隷に調教出来るんだ。ふふふ・・・楽しみだなぁ。  
「あ・・・あの、さくらさん?怖い顔してますけど、どうしたんですか?」  
「うにゃ?」  
 おっと、いけないいけない。つい顔に出ちゃったみたい。気をつけなくちゃね。今はまだ優しいボクでいなくちゃいけないんだから。  
「にゃはは、なんでもないよ。大丈夫大丈夫♪」  
「そうですか?だったらいいんですけど」  
 ふぅ、よかった。なんとか誤魔化せたみたい。  
音姫ちゃん、待っててね。もうすぐキミを義之くんの卑しい肉奴隷にしてあげるからね。そのときに聞ける悲鳴と嬌声が今から楽しみだよ。  
 
 それから1週間かかって、やっと地下室は完成した。無機質な石作りで覆われただけの部屋に照明が6つほど。  
表向きはバンド練習場だけど、実際は調教部屋だからね、色々と邪魔なものを付けられると困る。  
「これで準備は全部整ったね」  
 防音効果はさっき確かめて問題ないことを確認してある。調教してる女の子の悲鳴や嬌声が外に漏れたら大変だもん。でも、その心配も杞憂だったみたい。  
「じゃあ、これで―」  
「ちょっと待って。早くあの子を調教したい気持ちは分かるけど、その前に違う子で練習、しない?」  
 義之くんの言葉を遮って、ボクはそんな提案を出した。これには2つの理由があった。  
 1つ目は義之くんの心が揺らがないようにするため。  
調教を中途半端で止められたら困るんだよね。だから、義之くんには肉奴隷を作る喜びを覚えてもらう必要があるんだ。  
 そして、2つ目は肉奴隷を作る悦びを覚えた義之くんに身近な女の子全てを調教したいと思わせるため。  
 音姫ちゃん、由夢ちゃん、小恋ちゃん、ななかちゃん、美夏ちゃん、杏ちゃんなどなど、 義之くんに近寄る女の子はみんな卑しい肉奴隷になってもらわないとね。  
 だから、悪いけど“あの子”には練習台になってもらおう。音姫ちゃんたちを調教するのはそのあとからでも遅くない。  
うぅん、むしろ音姫ちゃんたちの調教のときに呼び出して一緒に手伝ってもらおう。うん、それがいい。  
 そして堕ちた子は別の女の子の調教を手伝うんだ。顔見知りの友達に調教される気持ち。あぁ、考えただけでもわくわくするよ。  
(キミたちが悪いんだからね。ボクの義之くんに近寄るから)  
でも、ボクだって鬼じゃない。ちゃんと彼女たちにも幸せはあげるつもりだ。肉奴隷として義之くんとボクのために尽くす幸せをね。  
「大丈夫、楽しみに待っててよ。明日連れてくるから」  
 あぁ・・・明日が待ち遠しいなぁ。  
 

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