ターゲット3号 白河ななか  
 
「白河さんっ!僕と付き合ってください!」  
(はぁ・・・・・・)  
 これで何人目からの告白なんだろう。私、白河ななかは目の前にいる人―確か平川くんだっけ?―にばれないようにため息をついた。  
 ため息を1つつくと幸せが1つ逃げていく、なんて昔の偉い人はよく言ったと思うけど、こう毎日告白されていれば、ため息も自然に出てくる。  
 彼が真剣だって言うのは私にだって分かる。顔も凄く赤くなって、俯いて、それでも頑張って想いを伝えた平川くん。それは彼だけじゃなくて、今まで私に告白してきた人たちにも言えること。  
 でも、  
「・・・・・・ごめんなさい。私、誰かと付き合うとか、そう言うの・・・考えられなくて」  
 私はその想いに応えることはできない。  
「・・・・・・そう、ですか。ありがとうございました」  
 答えを聞いて、力なく私から遠ざかる平川くん。同時に周りの教室や廊下から聞こえてくる女子たちのひそひそ声。  
「・・・・・・・・・っ」  
 私はいたたまれなくなって、音楽室に走り出した。  
   
 私には心の声を聞く力がある。  
 それは私が人と付き合うのに大きな貢献をしてくれたけど、でもそれは嬉しいことだけじゃなかったんだ。  
 『心の声を聞く前提条件として、その人物に触れること』。  
 この制約が成立して、初めて私はその人の心の声を聞くことができる。  
 でも、そのせいで男子のみんなに勘違いをさせちゃってる。  
 そんな積もりは全然ないし、それに今は本当に好きな人もいる。   
綺麗な心で私をまっすぐ見てくれる人。色々悪い噂がある私をまっすぐに見てくれる人。  
「桜内・・・義之くん」  
 ポツリと知らずに名前が出た。  
「え?呼んだか?」  
「え?」  
 気が付いたら、音楽室はとっくの昔に通り過ぎていて、私の教室の隣、つまり義之くんの教室に来てた。あはは、1周しちゃったみたい。  
「ななか?」  
「わっ!な、なんでもないの!それよりも、義之くん、これから暇?よかったら一緒に遊びに行かない?」  
 義之くんが私の顔を覗き込む。その動揺を見せないためと、気分転換も兼ねて思い切って誘ってみた。小恋には悪いけど私も義之くんは好きだから、少しでもリードしておきたいんだ。  
「あ。悪い。今日は先約があって」  
「あ・・・・・・そうなんだ。それじゃあ仕方がないよね」  
 さっきとは逆に、今度は私がうなだれた。  
「桜内、すまない。待たせた」  
 後ろから聞こえた声に振り向く。そこにいたのは、  
「天枷さん?」  
「お、着たか。じゃあななか。今日は悪いけど」  
「それでは白河。また明日だ」  
 そう言って、天枷さんは義之くんと一緒に学校から出てった。天枷さん、少し顔が赤かったけど、大丈夫かな?でも、義之くんと一緒に遊びに行きたかったな。先約があったんだから仕方ないけど。でも、女の子と一緒って言うのが、  
「何だか面白くないなぁ」  
「えぇ、本当に面白くありません」  
「わっ!ゆ、由夢ちゃん!?」  
 いつの間にいたんだろう。私のすぐ隣に由夢ちゃんが憮然とした表情で立っていた。  
「天枷さんと一緒に帰ろうと思ったんですけど、天枷さん、HRが終わるなりすぐに教室を出て行って。追いかけてみたら兄さんと一緒に帰るところを目撃しまして」  
 どうやら由夢ちゃんも私と同じ気持ちみたい。やっぱり好きな人が自分以外の女の子と一緒に帰るのを見るのは嫌みたい。  
「ねっ、由夢ちゃん。よかったらこれから遊ばない?ゲームセンターのプリクラで新しいフレームが出たんだよ」  
 どうせだから、今日は由夢ちゃんと遊んで、嫌なことを忘れちゃおう。私も由夢ちゃんも少し気分が落ちてるし、ここでパーっと盛り上げていこう。  
「そうですね。私も白河さんにお付き合いします」  
「じゃあ行こう!ほらほら早く!」  
 由夢ちゃんの同意を得て、私たちも街へと繰り出した。  
 
 
「次あたりに義之くんの本命のななかちゃんを堕としてみようか」  
『・・・・・・・・・』  
美夏と一緒に芳乃家に帰ってきて、玄関まで走ってきたさくらさんの第一声はそんな一言だった。いきなりそんなことを言われれば誰だって言葉を無くすって。  
「あ、ついでにおかえり♪」  
 そっちはついでらしい。  
「ま、細かいことは地下で。舞佳ちゃんも呼んでるんだよ」  
 鼻歌なんぞ歌いながらさくらさんは地下に入っていった。よく分からないが、今日は特に機嫌がいいらしい。  
『・・・・・・・・・?』  
 状況が飲み込めないまま、俺と天枷も地下に入っていった。  
 
 
「つまりそう言うこと。分かった?」  
「まだ何も聞いてません!」  
 舞佳に自分の秘部を舐めさせているさくらさんの確認を一言で切り捨てる。俺が聞いたのは、玄関で聞いた、次あたりでななかを堕とそうということだけだ。  
「うにゃ?さっき言ったでしょ?ななかちゃんを堕とそうって」  
「・・・・・・もしかして、細かい話ってあれですか?」  
 だとしたら、全然細かくない!むしろ大雑把過ぎる!  
「とまぁ、心温まるギャグは終わりにして」  
 温まったのか?この場の空気ごと冷え切った気がするんだが・・・・・・。  
「実は白河には個人的な恨みがあって。やるなら徹底的にやっちゃおう!そう、身も心も雌奴隷化しちゃって、舞佳ちゃんや美夏ちゃんなんてまだやさしいって思えるくらいに」  
(うおっ!)  
 さくらさんの背中から炎のようなものが見える。昔何があったかは知らないけど、相当恨みがあるらしい。  
 朝倉家を恨んでるのは理由も聞いてるから理解してるけど、白河家は何をやったんだ?  
「よく分かりませんが、さくらさんも協力してくれるんですよね?」  
「もちろん!道具も全部揃えてあるよ」  
 それを聞いて安心した。学園のアイドルの白河ななかを自分だけの物にできると思うとゾクゾクする。早く犯してやりたい。  
「ま、細かいことはまた今度。今は・・・」  
 さくらさんは話を強制的に打ち切り、  
「第1回、乱交パーティー開催!」  
「たった4人しかいませんが」  
 しかも男は俺だけ。  
「大丈夫。ボクも責めに回るから。でも義之くんも、本当に鬼畜になったよね♪」  
 女の人が笑顔で鬼畜とか言わないでください。  
「美夏ちゃんのオマ○コにこんなに太いバイブを入れちゃって。美夏ちゃん、気持ちよかった?」  
「・・・・・・あぁ。誰かに見られているかと思ったら、凄く気持ちよくなって」  
 息も荒げに答える美夏。そしてこっちに熱っぽい視線を送り、  
「た・・・頼む。早く。早く犯してくれ・・・。美夏のマ○コがめくれてもいいから!いつもみたいにぐちゃぐちゃに犯して!」  
 スカートを捲って懇願してきた。さくらさんの言う通り、マ○コには少し太めのバイブが刺さっていて、今も美夏に振動を与えているが、もうそれじゃ物足りないらしいな。  
「あはは♪もう待ちきれないみたいだね。さ、義之くん。ななかちゃんを堕とす前祝だよ」  
 本当に嬉しそうに言う、さくらさんのその言葉が、俺たちの淫らなパーティーの幕開けとなった。  
 
 
 ななかを堕とすための準備は整った。  
 これで間違いなくななかを堕とすことができる。そう断言してもいいくらい、今回の調教メニューには念を入れた。  
 問題は、どうやってななかをそこまで誘い込むかだ。  
 もちろん、ただ単に家に招き入れればいいのだが、さくらさんの話によると、彼女は人の心を読む力があるというのが最大の問題だった。  
 彼女がやたらと過激とも取れるスキンシップをするのは、能力の発動条件としてその人物に触れる必要があるかららしい。当然それは相手が俺でも変わらない。  
 少し―いや、かなり危険な思考をしている今の俺の心が読まれたら、この計画はその瞬簡に失敗を意味する。  
(先に小恋を堕として、ななかを誘導させるか?)  
 いやいや、それじゃ何も変わらない。やっぱり俺ができるだけ本心を探られないようにななかを家に招き入れる必要がある。  
 だが、どうやって?  
 結局問題はそこに行き着く。その方法さえ浮かべば全てが解決するのに・・・・・・。  
「おーい、義之くーん!」  
 不意に、遠くから聞こえた声が俺の思考を遮った。その声が誰かと思う前に、その主が俺めがけて走ってきた。  
「さくらさん、廊下は走ったらダメですよ」  
「まぁまぁ、そんなことはいいから。ちょっと学園長室まで来てくれる?」  
 俺の嗜めを軽く受け流し、さくらさんは答えも聞かずに歩き出す。でも、もうすぐ授業なんだけど。  
「ななかちゃんのことで、吉報があるんだけどなー」  
 迷っている俺の背中を押したのはさくらさんのその一言だった。  
思わず顔を上げると、そこには、獲物を狙っている狩人のような目つきをしたさくらさんの顔があった。  
「先生にはボクから言っておくから、ね」  
 その甘い言葉に誘われて、俺はさくらさんの後ろに着いて学園長室に歩き出した。  
 
「ななかちゃんだけどね、今日家に来るから」  
 少し渋めの緑茶を差し出しながら開口一番、さくらさんはそんなことを言った。  
「義之くんは考えてることが顔に出やすいからね。代わりに声を掛けといたよ。これでたっぷり調教できるね」  
 嬉しそうに、本当に嬉しそうにさくらさんは微笑む。でも、その目はちっとも笑っていない。  
「それはいいんですけど・・・今日は月曜日ですよ。さすがに1日で堕とすのは難しいんじゃ」  
「あぁ、そっちは大丈夫。ボクがなんとかするから♪みんなのななかちゃんへの認識を変えちゃえばいいだけだし。ななかちゃんはずっと家にいるようにするよ」  
 あっけらかんと言うけど、そんなことどうやってやるんだろうか?  
「ふふふ・・・まずは白河を。次は朝倉だね」  
「あ・・・あの。さくらさん?」  
 まただ。またさくらさんのバックに炎が見えた。  
「まぁ、とにかくななかちゃんが家にくるから、義之くんは舞佳ちゃんのときと同じように食後に睡眠薬で眠らせて地下室に監禁してね」  
 ななかには、地下室のバンド練習場のことで話があるということで呼び出したからと付け足して話してくれたさくらさんに礼を言って、俺は教室に戻った。  
 
「あ〜!義之、大丈夫なの?さっき先生から頭を打って保健室に運ばれたって聞いたけど」  
 教室に戻ると、心配したような顔で小恋が駆け寄ってきた。  
 そうか。さくらさんは担当教師にそう言ったらしい。  
「あぁ、もう大丈夫。心配掛けたな」  
 気楽にそう言って、俺は小恋に気付かれないように彼女の胸にチラリと視線を走らせる。  
 茜ほどではないが、小恋も実は結構な巨乳の持ち主だ。ななかを堕としたら次は小恋でも堕としてその巨乳を堪能しよう。  
「小恋ちゃん、すっごく心配してたんだよ」  
「そうね。先生から話を聞いたときなんて、保健室まで走っていきそうだったし。小恋がその胸を使ってどんな看病をするつもりだったのか、個人的には興味があったけどね」  
「だよね〜。残念だったね義之くん。先生が止めなかったら今頃は小恋ちゃんのいやらし〜い看病が受けれたのにね」  
 俺のそんな思惑に気付いていない茜と杏はいつも通りのセクハラ紛いのことを言い、その話の中心となっている小恋の顔が赤く染まるのはいつものことだ。ついでに言えば、話を横から聞いていた渉がその光景を妄想して机に突っ伏しているのもいつのことだ。  
(でもな、ななかを堕としたらそれをもっといやらしい形で実現してやるよ)  
心の中でそうほくそ笑んで、俺は自分の席に戻った。  
 
 
そして待ちに待った夜。  
ななかにとってはこれでしばらく見納めならぬ、食べ納めになる夕ご飯は本人からの要望もあって、シチューになった。  
なったのはいいんだけど・・・。  
「さくらさん。シチューの灰汁取り、代わってくれませんかぁ?」  
 調教室の準備も終えて、今頃は居間でななかを待ちながら時代劇を見ているはずであるさくらさんに声を掛ける。煮込んでかき混ぜて灰汁を取り、またかき混ぜて灰汁を取り・・・。  
さっきからずっとこれをやってるんだけど、実はこれがかなり根気がいる作業だったりする。  
味を多少損ねることを覚悟してもいいのならもう完成なんだけけど、せっかくの調教前の夕飯なんだから美味しく作りたい。  
「え〜。今いいところなんだよ。黄門様が悪奉行のところに入り込んでいくシーンで」  
 どうやら話はラストの方まで来てるらしい。確かに1番の見せ場だなそりゃ。  
 
 
ピンポーン!  
「ななかちゃんが着たみたいだね」  
家の中で鳴り響くチャイムに、さくらさんは嬉しそうに―そう、本当に嬉しそうに呟いて応対に出た。それからしばらくして、  
「義之くん、こんばんは〜」  
 何も知らない哀れな犠牲者がやって来た。  
 
 

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