何で俺が…と思う。俺は恋に負けて、恋敵の後押しをして、殴られて、それでもまだアイツを、義之を手伝ってる。
もう一つだけ、俺にはやらねーといけない事があった。
「板橋…くん?」
「よう…義之は?」
「うん…行っちゃった。私の所から」
「そうか…」
俺はベッド横の椅子に座って、口を閉じた。まだ血の匂いがする。消毒液と血の匂いが俺の鼻の中で混ざって、俺の気持ちはもっと憂鬱な物になっていった。
「板橋くんも…か」
「ああ。でも俺は男だからな。さっぱりしたさ」
嘘だ。心の中じゃやりきれない。靄は晴れていない。
「そっか…」
「白河はどうなんだ?」
「私?私はね…」
いつものように、俺達の友情の輪の中で見せてた、笑顔を見せる。
「えへへ…」
…今のその笑顔が、すぐに崩れる事は解っていた。もう、崩れてる。
「え…えっく…ひっく…」
「我慢すんなよ…俺もホントは止め切れてないんだ…」
「ひっ…ぐすっ…うぇぇん…」
「…ちっ…くしょお…友達と思ってたら…諦めつくと思ってたのに…」
「無理…だよ。私だって…小恋から奪うくらいの気持ちで…」
「わかってんだよ…ちくしょぉ…ちくしょう…」
白河の被っている布団と、無表情な病室の床に、水滴はいつまでも数を増やしていった。
俺の気持ちは波立ったまま、いつまでも収まらない。慰めに来たつもりで、傷を見せ合って、少しだけ心を許す。そんなもんだ。
「なぁ…白河」
「え?」
「俺と…」
「…何言いたいかわかるよ。お互い二番目同士だから…」
「…」
最低だ。今の俺は誰でも良い。月島一筋とかほざいて決着着いた瞬間、乗り換える。それでも俺は良かった。
「ねぇ、おかしな事かもしれないけど、返事より先に…」
「なんだ?」
「私を…抱いてくれないかな?今誰かがいないと私…壊れちゃう…」
「いいぜ」
「…ただ、ギュッとするだけじゃないんだよ…」
「…え?」
「返事より先に…板橋くんが欲しい」
白河も、俺も、今は壊れてて、俺達は壊れたモノを繋げ合いたくて、仕方がなかった。