「――遅い!!何分待たせる気よ!」
「は?」
気温は三十度を超え、蝉達がその生を謳歌する真夏日に、
「いいもの拾ったから、来て」
なんて呼び出したくせに、いい気なものである。
そんな彼女の態度に、隣に座っていた少女は苦笑した。
その少女の名は、中里愛理。色白で大和撫子といった趣がある。
「――で、何?急がされるくらいだから、さぞかしいいものなんでしょうね?」
じろり、と抗議の視線を送ってやる。
だが彼女、川崎愛は私の視線を気にもせず、うひひと嬉しそうにポケットから何かを取り出した。
「何?それ?」
愛が取り出したのは、シンプルなデザインのペンダントだった。
透明な硝子の中には桜の花びらが入っていた。
「知らないの?愛子。
それなりに有名よ?コレ」
――そんなこと言われても、知らないものは知らない。
横を見ると、愛理も知らないのか、キョトンとしている。
ハッ、その仕草が可愛過ぎて、危うく襲ってしまう所だった。
「で、なんなのソレ」
涎を拭きながら私は愛に尋ねた。
「よくぞ聞いてくれた!!
これはね―――」
それから愛は三十分程そのペンダントについて熱く語っていた。
愛の話は脱線して良く伝わらなかったが、掻い摘むと こういうことらしい。
半年前、初音島の枯れない桜が枯れたとき、殆どの桜の花びらは散ってしまったが、一つだけいつまでたっても散らない花びらがあったらしい。
それを心無い者が摘んで、ペンダントの形にしたものが今愛が持っているペンダントらしい。
それから、その人が戯にペンダントに願掛けをしたらしい。冗談半分だったらしいのだが、枯れない桜の御利益にでもあやかろうとしたらしい。
だが、その人の願いが叶ったらしい。
願いが叶うと同時にペンダントを紛失してしまったらしい。
その後、次々とペンダントを拾い、願いをかなえた者達が現れた。
そういった訳で、願いを叶えるペンダントは初音島で真しやかにに囁かれる都市伝説となった。
「――で、それが件のペンダントっていうこと?」
「そうそう!!でね、願いが定まらないから、相談したいわけよ」
――つまり、
「そんなことの為に私を呼んだっていうこと?」
「さっすが愛子ちゃん!
でどんな願いがいいかな?男?お金?」
私は呆れ果ててなにも言えなくなった。
それまで、一言も発していなかった愛理が、
「――ねぇ、白河さんを消してもらうのはどうかな?」
――とんでもないことを言ってくれた。
「ええええ―――――――――――――――――――――――――!!!!!!!」
愛が大声で叫んだ。
周囲の視線が私たちに集中する。
愛は口をパクパクさせるだけで役に立たないので、代わりに私が愛理に問い詰めることにした。
「――愛理……正気?
どうして、白河さんなの?」
そう言うと愛理は言いにくそうに俯いてしまった。
――思い出した。去年愛理には好きな男子生徒がいた。
愛理が勇気を振り絞り告白すると、相手の男子生徒は、
『ごめん。俺、好きな人がいるから……、君の気持ちには応えられない』
『………白河ななかさん………ですか?…』
震える声で愛理が問うと、男子生徒は申し訳なさそうに、
『……うん、ごめん。………だから――』
――でも、そんな男子生徒の気持ちを、愛理は知っていたのだ。
それでも――
『それでもあなたが好きです。
わたしを、……わたしのことをみてください!!』
それでも、男子生徒は白河ななかを諦めることが出来なかった。
その後、男子生徒は白河ななかに告白するも、玉砕。
その翌日命を絶った。
だから愛理にとって、白河ななかは敵そのものなんだ。
だから――
「うん、そうだね。
ななか、消そっか」
愛が唐突に話しだした。
「え?――」
息を飲んだ。
愛の瞳に、暗い灯が灯っているように見えた。
愛は私の困惑をよそに、一気にまくし立てた。
「だってそうじゃない!
白河って頭も大して良くないクセに、少し顔がよくて、男子にちやほやされていい気になってるじゃない!
あんな女、消えればいいのよ!!」
愛の言葉は殆ど激昂だった。
愛の言葉に愛理は強くうなづいていた。
もうここまできたならば、もはや私にはどうしようも出来ない。
行くとこまで行くだけだと腹を括って、
「――で、そのおまじない。…どうやるの?」
私は白河ななかを消すことにした。
◆ ◆
帰りのHRが終わり、放課後の予定を考えてみる。
小恋と一緒に帰ろうかな?
わたしは小恋を誘うために、小恋のクラスへと向かった。
小恋は……あ!いたいた!
…でも小恋は、雪村さんと花………えっと、ムネの大きな人と一緒に帰るらしい。
視界の隅で、板橋くんが杉並くんに引きずられていた。
きっと杉並くんの不思議探しに付き合わされるのだろう。
杉並くんは本校に進学してから、非公式新聞部を『S●S団』と改め、付属の頃以上の活動をしているらしい。
あ、板橋くんが小恋たちを羨ましそうにみてる。
――結局、放課後はゆずちゃんに会いに行くことにした。
昇降口で靴をはきかえていると、声をかけられた。
視線を上げてみると、三人の女子生徒が立っていた。
「ねぇ、白河さん。
時間ある?少し付き合って貰いたいんだけど」
「うん、いいよ」
わたしは、その人たちについて行くことにした。
◆ ◆
わたしたち四人は、河川敷へとやってきた。
「それで、どうしたの?」
わたしが声をかけても返事が無い。
不審に思い、女子生徒の内の一人に近寄ろうとした瞬間、異変が起こった。
「――え?」
パニックになってしまい、そんな間の抜けた声しか出せなかった。
女子生徒はわたしの目の前で、化け物へと変貌した。
カブトムシなどに代表される甲虫らを、二足歩行させたならばそのようなフォルムになるかもしれない。
わたしが一歩退くと、化け物も一歩近づいてきた。
――そこで、緊張の糸が切れた。
「きゃああああああああああああああああああ―――――――――――――――――――――っ!!!!!!」
叫んで、わたしは逃げ出した。
しかし化け物の方が何倍も早く、あっという間に追いつかれてしまった。
異形の腕がわたしに伸びる。
その腕を、小型のナニかが防いだ。
「ななか!逃げて!!」
「え?小恋?」
自転車に乗った小恋が叫んでいた。
「でも……」
それじゃ小恋は?と尋ねようとして、
「早く――!!!」
小恋のかつてない剣幕に押されてしまった。
――ななかは無事に逃げてくれた。
後は……、
「あなたたちを倒すだけ!!来て!」
私の呼びかけに反応し、先程ななかを救ったものが、私の手に収まった。
それは鈴虫を模した機械だった。
「変身!!」
「――ヘンシン」
電子音が流れる。
次の瞬間。
私の体に、鈴虫を模した無骨な鎧が纏われていた。
「、、、、、、!!」
聞き取る事の出来ない奇声を上げて、化け物が襲いかかってきた。
それに対し、私は冷静に鈴虫の羽根を開いた。
「――キャスト・オフ」
瞬間。
化け物もろとも、私が纏っていた鎧が爆散した。
あとには、鈴虫の羽根の色の水着を纏った、えっちな女子高生が立っていた。
「――きゃああああ―――――――!!!
す、透けてる―――――――!?」
まあ、鈴虫の羽根だしな(神の声)
「こうなったら!」
私は短期決戦に徹することにした。
「――クロック・アップ」
瞬間、周りの時間は停滞し、時間は私だけのものになった。
鈴虫を反転させると、私の手にベースが現れた。
「はあああ―――!!」
「――ダイバー・ビート」
『青春グラフィティ(月島小恋ソロver)』
私がベースを掻き鳴らすと、脳みそがとろけそうになるメロディーに、
「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、!!」
体をとろけさせ、化け物は爆散した。
「――ふう」
良かった、間に合って。
この姿は私の体に負担をかけるので長時間変身することは出来ない。
勝利に気が緩んでいた私は、迫り来る多数の化け物に気付くことが出来なかった。
背中に衝撃を感じると同時に私は吹き飛ばされた。
化け物が私にのしかかり水着に手をかけた。
「やめて―――――!!!」
私の願い空しく、水着はあっさりとちぎられてしまった。
「きゃああああああああああああああああああああああ――――――――――――――――――――――――――――!!!!!」
化け物たちが下卑た笑みを浮かべ、私の体に群がってきた。
化け物たちは私の四肢を拘束し、歓喜の叫びを上げている。
そのうちの一体が人型に戻り、私に語りかけてきた。
「なあ、今からアンタのヴァージンぶち抜く訳だが、…選ばせてやる!」
「…い、……イヤ……」
私はもはや怯えることしかできない。
「化け物に犯されるのと、知らない人間にヴァージン破られるの。
……どちらかを選べ」
――イヤだ。犯されたくなどない。
けれど――、どの道犯されるのならば、
「………でお願いします………」
「あ!?聴こえねぇよ」
苛立った声。このままでは、化け物に犯されてしまう。
「お願いします。人間の姿で…犯してください……」
自ら処女を散らしてくれと頼む恥辱に、涙が溢れた。
けれど、
「違うだろ。
『この雌豚のヴァージンオメコに、あなたがたのぶっといペニス突き刺してください』
だろ?」
男は私を更なる絶望に叩き落とした。
「あ……、やぁ……」
「早くしろよ」
化け物の男根が迫る。
「この雌豚のヴァージンオメコにあなたがたのぶっといペニス突き刺して、精液たくさんだしてください!!」
「合格」
男は化け物を押しのけて私に覆い被さった。
「いっとくが、俺は前戯なんて前振りはしねえ!!最初っから本番だ。」
そう言うと男は、まだ少しも潤っていない私の秘所にいきなり男根を突き入れた。
――ぶちぶちぶち
「があああああ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
余りの痛みに、普段からでは考えられない、叫びを上げてしまった。
辺りに鮮血が飛び散る。
「痛てえ、少しは濡れてろ」
男は血を潤滑油として、腰を振り出した。
「ぎゃっ……、がっ……、やめてぇ―――!!!」
「うるせえ、少しは男を悦ばせる鳴き方でもしやがれ」
男は腰の回転を上げていく。
「たすけて――!!■■―――!!」
――今、私は誰に助けを求めたのだろう?
渉くんでは無い。
では今私が助けを求めた相手は――?
「そろそろイクぜ」
「…なっ何?」
思考はそこで中断された。
「ザー汁出すに決まってんだろ」
「やめて―――!!」
「出すぞ!!」
男の腰の回転は頂点に達した。
――次の瞬間。
とぷっ。
本当に少量の精液が、私の膣に注ぎ込まれた。
「ぎゃっはっはっ、すっくね――」
「うっせー」
「雀の涙の方が多いぜ」
化け物たちが騒いでいる。
私は膣出しのショックから意識を手放してしまった。
「それじゃ、次俺な」
失神した小恋の体に化け物が群がる。
「――クロック・アップ」
しかしそれよりも早く、
「ダイバーローリング」
高速回転する何かが、化け物たちを粉砕した。
それは、ウエットスーツにだんご虫を模したプロテクターをつけた、
「大丈夫かっ?月島っ!!」
板橋渉だった。
渉は小恋を抱きかかえた。
勿論、全裸である小恋の体は見ないようにして。
小恋の体を目撃されないためと、自らの理性を保たせるため、渉は小恋を小恋の自室へ運んだ。
「――クロック・アップ」
無論大急ぎで。
先程の化け物は、すべてペンダントによって願いを叶えられ、その代償としてその存在を化け物に明け渡した人間だ。
そして、俺と月島は元凶であるペンダントを破壊するまで戦い続けなければいけない。
だから、小恋はこれからも今日のような目にあうかもしれない。
……それに、俺は耐えられない。
だから、これからは俺一人で戦い続ける。
月島を着替えさせて、ベッドに寝かせた。
月島が目覚めた時、月島を支え続けてやろう。
そう決意して、俺は鈴虫型の機械をバックへ隠した。
走り続けて、水越病院までたどり着いた。
「はあ、はあ、はあ――」
呼吸を整える。
落ち着くにつれて、小恋のことが心配になってきた。
――大丈夫。小恋は無事だ。
自分にそう言い聞かせて、わたしはゆずちゃんの病室へと向かった。
「お―!ななか!きたか!ゆっくりしていけよな!」
ゆずちゃんの元気な声に迎えられた。
ベッドの横にあるパイプイスに座ろうとして、
ゆずちゃんの手に、何か光るものが見えた。
「ゆずちゃん、それなにかな―」
「いまそこでひろったんだ―。
きれいだろ!ななか」
ゆずちゃんの手にはペンダントが握られていた。
硝子の中に桜の花びらが入っている、可愛らしいデザインだ。
…そういえば、桜のペンダントに関わる噂を聞いたことがあったような…。
よし、ゆずちゃんに教えてあげよう。
「ゆずちゃん、あのね――」
暗転
END